魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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15話 〜人には人の事情がある〜

「お、のれェッ!!おのれ宗司ィ!キサマこの私を裏切ったのか!?」

 

叫ぶ。カリエットはそう宗司に向かって怒鳴りつけた。

全てがもう少しで上手く行くはずだった。あの忌々しい管理局である八神はやても抹殺でき、持田千海も金堂悠雅もその後にゆっくりと殺してやるはずだった。

完璧だった。カリエットも自分で自負出来るほど、この作戦は完璧だった。

―――――宗司というイレギュラーさえ混じらなければ。

 

「何故だ!?何故だ何故だ何故だァァアアアア!!」

 

裏切られなければ。裏切られなければ、こんなことにはならなったはずだ。今のこの状況も―――――あの時でさえも。

 

ふと、そこまで考えて。

 

急激にカリエットの脳内は昔の出来事を思い出し始め

た。と言っても、それは八神はやて等管理局と対峙した時の記憶。言うほど昔では無いが。

カリエットにとっては忌々しい記憶の欠片。その全てが繋ぎ合わさっていく。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

今も昔も、カリエット・オーシャンという人間は復讐に燃える男であった。

元は管理局でさえもあまり近寄らない、辺境の星の辺境の村で生まれ育ったカリエット。

貧しいながらも、村の規模そのものが小さいせいか村の衆皆で協力しあって、それでも楽しげに生きていた。

 

『ねぇお母さん。なんで俺にはお父さんがいないの?』

 

歳は確か10歳過ぎたか過ぎてないかくらいの時に、カリエットは自分の母親にそう聞いた。

生まれたときから、自分の隣には母親一人がいつも居て、『本来もう一人いるべき存在』が居ない。

他の村の子供には、ちゃんと父親母親が二人揃って、楽しげに会話をしているのに。

 

『あなたのお父さんはね?遠い遠い、もう会えないくらい遠い星に旅立ってしまったのよ』

 

告げられた言葉の真理は、若干10歳のカリエットには良く理解は出来なかった。ただ、『会えない』という事だけは幼いながら分かってしまい、その時は酷く泣きじゃくったものだった。何せ自分には他の人が当たり前のように持っている存在がいないのだ。その頃のカリエットには、耐えられないほどの苦痛でさえあったのだ。

そんなカリエットを見て、胸を苦しめたのは母親である。目の前で父親がいないと泣きじゃくる子供に、母親はどう声を掛けたら良いか途方に暮れてしまっていた。

 

『遠いところに行っちゃったなら、俺が連れ戻してやる!』

 

会えないという事実さえも無視して、泣きながらカリエットは家を飛び出した。その時のカリエットの幼さからすれば、遠いところと言ってもそもそもその星から外に出るなんて考えた事もなかったし、絶対にどこかこの星にいるのだろうと決め込んで闇雲に走り回っていた。

ただ、カリエットは子供ながらにして、自分の行動範囲はきちんと把握出来ていた。

辺りが暗くなるのが気付かないほど父親を探すということに夢中になってしまっていたが、それでも無意識に自分の行動範囲外には出ないように走り回っていたのだ。

そこでふと立ち止まり、吹き出る汗を拭って顔を上げてみる。やはり辺りは真っ暗になってしまっていた。

 

『帰らないと』

 

そうカリエットは考えた。そこで、最も近道で帰れる方角に身体を向け、一歩踏み出したところで、異変に気が付いた。

カリエットは子供である。それ故に、行動範囲と言っても狭まってくるのは当然である。

――――――だから、その時の村の様子が、カリエットの目にはハッキリと映ってしまっていたのだ。

 

何故、村がこんなに明るい?

 

何故、村から煙が溢れるばかりに天に昇っている?

 

何故、こんな夜なのに肌寒くない?

 

―――――どうしてこんなに、胸騒ぎがしてしまう。

 

気が付けば、カリエットは走っていた。村の方へ、速く、疾く。

あんなにかけ巡っていたのに、村へはすぐにたどり着いた。如何に自分が村の周りをグルグル駆け巡っていたかを痛感し、…………また、幼いながら目の前の現実も痛感出来た。

 

村が、燃えている。

 

この恐ろしささえ感じる熱気も、眩しいまでの炎による灯りも。

全てがカリエットにとっては目の当たりにしたくない現実であった。

 

『なん、だよ……これ』

 

立ち上がる煙で涙目になりながら、とりあえず自分の家を目指そうと歩みを進める。

ガラガラと崩れ去る、友達の家。崩れた瓦礫の下からちょっとだけ見える、『人を為していたモノの一部』。

 

『誰が……こんなことを……』

 

そんな現実を築一見せつけられ、ようやくカリエットは目的地へ辿りついた。

村を出るまでは、立派にたっていた我が家。それが見る陰もなく、無残に瓦礫の山へと化してしまっていた

 

『母さんっ!?母さん!!そこにいるの!?』

 

それを見たカリエットは、無我夢中で瓦礫の山を退けていく。掻き分け、掻き分け、掻き分ける。

手がぼろぼろになっても、そのことにさえ気付かずにカリエットは瓦礫をかき分けた。

 

『母さんっ!!』

 

そこで、掻き分けていたところが崩れ落ちると、そこにはカリエットの母親がいた。

と言っても、村を出るまでの母親の風貌では到底無かったが。

 

『かあ、さん……?』

 

頭からは血が止めどなく垂れ、右腕なんかは完全に下敷きにされてしまったらしく、あらぬ方向に折れてしまっていた。それ以外にも服の所々から見える肌は傷だらけだった。

垂れた血が目に入り痛いのか、右目を瞑ったまま、母親は手を伸ばす。

 

『なん、で……、戻って……きたの。……早く、逃げなさい……』

 

血だらけの手で、母親はカリエットの頬に手を伸ばす。それは弱々しく、痛々しく。

まるで普段通りなら頬をビンタされるように、それは優しく触れられた。

 

『母さんも……』

 

『……バぁカ私は大、丈夫よ。アンタと違って、強いん、だから』

 

すでにカリエットはボロボロに泣いていた。それは煙なんかのせいではなく。

 

『やだよ……やだよお母さん!お母さんも一緒に!』

 

『お母さん、はね……?ここを、離れるわけには、いかないの……』

 

『なんで!?逃げなきゃ!死んじゃうよ!!』

 

そんな必死なカリエットに、母親は尚も笑顔で、告げる。

 

『だって……。ここは、あの人が……帰って、くる、……大切な家だから。私が、ここを守ってな、いと……あの人に怒られちゃう』

 

知っていた。カリエットは知っていた。そんな言葉が嘘であることを。母親の瓦礫で壊された足を見てしまえば、そんな嘘が見え透いてしまう。

 

『ごめ、んね。カリエット。……あなたに、一目でも……お父さんを見せてあげたかった。私の、……カリエットの、自慢の父、さん……を』

 

『そんなの、そんなのもういいよ!!母さんが動けないなら、俺が背負ってでも――――』

 

 

『おいっ!まだあっちから声が聞こえるぞ!!』

 

『生き残りは全て殺せ!』

 

カリエットがそこまで言ったとき、そんな声が聞こえてきた。声質から、とっくに大人の歳であろう声だった。

 

『もう、お別れ、みたいね』

 

トンッ、と。

驚くほど軽く、優しく、背中を押された。

 

『やだよ……やだよぉ!』

 

『ワガママを言うんじゃ、ありません。最後ぐらい、お母さんの言うこと、聞けないの……?』

 

笑いながらも、母親は涙した。まるで本当の別れのように、そう言ってカリエットの背中を押したのだ。

 

『最後なんかじゃない!俺はまだ―――』

 

『―――カリエット!さっさと行きなさい!!』

 

もう虫の息で、弱々しく顔を然ませて、母親はカリエットにそう叫ぶ。

 

『……うっ、あぁぁああああああああぁぁああ!!』

 

カリエットはそんな母親を見て、逃げる決意を固めた。母親が背中を押し出してくれた方向へ、速く。駆けていく。

 

『ぁぁあぁぁああああああああぁぁああ!!』

 

すべての悔しさを、叫びに変えて。

燃え盛る村を、全速力で駆けていく。

 

『ごめ、んね……。お母さん、最後に1つ、嘘、ついちゃったね』

 

そんなカリエットを後ろから見て、母親はポツリとそう告げる。

 

『おい!あそこにガキが!』

 

『殺せ!このことが漏れれば面倒なことになる!!』

 

そんな声を聞いて、母親はゆらりと立ち上がる。もう立てないほどボロボロになった足で。きっと骨なんかボロボロになって。それでも、道を塞ぐために立ち上がる。

この先には絶対に行かせないと。

 

『なっ!?誰だキサマ!!』

 

『あの子の、母親よ―――――ッ』

 

ここを通りたくば、私を倒してから行きなさい。

そう告げて、ボロボロの母親と男二人のバトルが始まった。

もちろん、結果は母親のボロ負けであった。もう立てない足で無理やり立っていたほどだ。

負けるにきまっている。もとより、母親は時間稼ぎが出来ればそれで満足であった。

 

(ごめんね、カリエット。私は先にお父さんの元へ行ってるね)

 

ずっと見守ってる。いつだって空の上からあなたのことを支えてあげる。

―――――だから、先に逝っちゃう私を、許してください。

そうカリエットに笑いながら思いを馳せ、目を閉じる。――――――――次の瞬間にはもう、母親は死んでいた。

 

強く、生きなさい。貴方はお父さんと、お母さんの子供なんだから。強く、幸せになって。―――――寿命で死んだその時、私達に報告しに来なさい。

 

その思いが、カリエットに届いたかは分からない。ただ、確かにあの時母親が身を呈して庇ってくれたお陰で助かったし、生きながらえた。

その後カリエットは、大人と呼ぶには歳をとりすぎた年齢になるまでその星で暮らし、あらゆる情報網を使ってどこの組織があの村を襲ったのか調べあげた。

その結果出て来たのが管理局。上層部にバレない人体実験を行える施設を配置するためだけに、カリエットの村を燃やし尽くしたという。

―――――ふざけるな、と。

その事実を目の当たりにした瞬間、身体の芯からふつふつと怒りが沸き上がってきた。

『潰してやる』と。本気でそう思った。

仲間を集い、あちらこちらの管理局が行っている施設を壊滅しまくった。元々非人道的な施設だったものも数多く、その怒りからか罪悪感はこれっぽっちも感じなかった。

 

『―――――数々の施設破壊の容疑で、アンタらを逮捕します!』

 

そんな頃だった。潰しまくって、管理局から『次元犯罪者』と呼ばれるまでには悪役になってしまったカリ

エットの元へ、八神はやてが現れた。

 

『やれるもんならやってみるがいい』

 

カリエットは、真正面から八神はやてに挑んでいった。

間違っているのは管理局だ。全て自分は正しいのだと。そう決め込んで。

 

『おい!あんなの勝てっこねえよ!逃げろ!!』

 

『やってられるかクソじじい!一人でくたばってろ!!』

 

その結果、八神はやて達の圧倒的な強さにカリエット達は惨敗した。と言っても、仲間たちが見限らなければ、カリエット達にもまだ勝機はあったはずだった。

 

『何故、じゃ……。一体どこで私は間違えた』

 

それでも、カリエットは結果論として裏切られた。それで長い間管理局に捕まってしまっていたのだ。

 

『仲間じゃ。絶対に裏切らない、仲間がいれば……………ッ』

 

そう結論づけ、まだ見ぬ復讐の舞台をカリエットは管理局の中でずっと考えていたのであった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「――――――これだからご老体はいけねえや」

 

ヒステリックに叫びを上げるカリエットを見て、宗司は笑いながらそう告げる。

 

「最初っから、俺はアンタに忠誠なんか誓っちゃいない。俺が従うのは頭ァただ1人だけでさぁ」

 

そう言って、宗司は胸元にかけてあったアクセサリーを手に持ち、小さく小声で『セットアップ』と告げる。その瞬間に、なんと宗司の暴走族共通の服は跡形もなく消え去り、バリアジャケットが現れた。黒を基点に、赤のラインがはいっているバリアジャケットであった。

 

「魔導師でも、管理局でもそうそう手に入れられない強さってもんを頭は持ってる。俺は頭のそんなところ

に惚れてんのさ。間違ってもアンタみたいな、復讐しか目に入ってない野郎には従わねえよ!」

 

「ちっくしょぉおおおがぁぁぁぁぁぁあぁぁああああああああぁぁああ!!」

 

また『アレを繰り返すのか』。と、カリエットはカリエット自身にそう問いかける。

裏切られ、死地に追い込まれ、また絶望するのか。

 

「ふざけるな!私は!私は……!!」

 

いや、違う。と、カリエットはもうそんなミスはしない。何故なら、もう決して裏切られないために、『隷属魔法』を手に入れたからだ。この魔法さえあれば、もう決して裏切られることなどない。

 

「そんな魔法で仲間欲しがって、復讐のために関係ないもん傷付けて。――――――私が憎いなら私に直接ぶつかってこんかい!!」

 

そう言って、宗司と八神はデバイスを構える。

 

「全員殺す……。跡形もなく、チリも残さず焼き払ってやる!」

 

「八神はやて二等陸佐と」

 

「嘱託魔導師宗司が」

 

「責任持ってアンタを助けちゃる」

 

「覚悟しとけよ、『クソじじい』」

 

魔導師対魔導師。

決して地球では相容れないはずの存在が、ぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい金堂悠雅。テメェ気付いているか?」

 

50人弱の暴走族と斬り合いをしている最中、千海は金堂悠雅に背中合わせになってそう告げる。

 

「……とっくにな。もうアイツらは俺の仲間じゃねえ」

 

不思議と、そう言う金堂悠雅の声からは、悲観が漂っているようには見えなかった。

『隷属魔法』をかける際には、1つ条件があった。それは、相手を自分に『全てを許している状況』にさせていること。つまり、少しでも反抗心があれば、この能力は使えない。

ただし。この能力には裏技があった。

『少しでも反抗心があれば能力が使えない?』ならば反抗心など持てなくさせてやればいいのだ。

つまり、『殺すこと』。殺しさえしてしまえば、反抗心なんて持てなくなるのだから。

 

「一体いつ皆はやられたんだろうな」

 

「さぁな。ずっと前からすでに殺されてたのかもしれねえし、たった今何らかの方法によって殺されたのかもしれねぇ」

 

だったら。と、金堂悠雅はそこまで言って顔を上げる。

 

「奴らァ冥土に送ってやんのは俺の仕事だろ。何つったって俺は―――――――奴らの頭だったんだからさ」

 

その言葉を皮切りに、金堂悠雅と千海は互いに逆方向の敵を斬りつけた。

斬っては切り上げ、切り下げては切り裂く。

さながら、それは二人で踊る剣舞だ。二人の動きに合わせて、血もそこら中に舞う。

最早返り血なのか自分の血なのか分からないほどに、千海と金堂悠雅は真っ赤に染まってしまっていた。

そんな甲斐あってか、暴走族の数は50人から30人弱までに数を減らしていた。

―――――ただし、そこまで来ると逆に二人が疲れてくるのも自然の摂理であった。

 

「グッ!?」

 

敵を1人切り伏せ、後ろを振り向こうとした瞬間に千海は後ろから背中を斬られた。

 

「引っ込んでろよ左手大重傷が!!」

 

千海を切り伏せた敵を今度は金堂悠雅が真後ろから切り伏せた。

 

「ガッ!?」

 

その瞬間、金堂悠雅は背中に猛烈な痛みを感じた。

なんのことはない。千海と同じように背中を切られたのだ。

 

「テ、メェもだろ万年ロリコン野郎!!」

 

そう言って、千海は立ち上がり金堂悠雅の後ろの敵を切り伏せる。

二人とも、すでに息は荒かった。その上、さっきまでの死闘で身体全体は既にボロボロだ。

 

「おい千海!テメェもう本当に無理すんじゃねえよ!」

 

流石にもう限界だと思った金堂悠雅は、千海にそう告げる。

 

「テメェに心配されるようじゃおしまいだな!」

 

ただ、千海はきかない。

一人を上から下に切り伏せ、真横から突進してくる敵を蹴り飛ばし、四方から飛び掛られればそれを全て引き剥がしてふっとばす。

 

「本当にヤベェんだ!!けが人は引っ込んで」

 

「それにィィ!!」

 

金堂悠雅の声を叫ぶように遮り、尚も千海は告げる。

 

「―――まだ、お前との決着がついてねぇ」

 

敵5人ぐらい固まっているとこに千海はは知って突進する。

その数歩手前で、千海は薙ぎ払うように刀を薙ぐ。

それだけで目の前にいた敵は全て吹っ飛び、おもちゃのように動かなくなった。

 

「……どうなっても知らねえからな!!」

 

「上等ォ!!」

 

互いに、後ろの敵を根こそぎ吹き飛ばす。

もともと死人だ。どんだけ斬ったって罪悪感など沸かない。

 

「ぉぉおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおお

おおおおお!!!!!」

 

「ぁぁああぁぁあああああああああぁあああああああああああああ!!!!!」

 

斬っては切り伏せ、斬っては斬られ。

――――――その数、最後の二人にまでなっていた。

 

「ハァッ、ハァッ」

 

「ゼッ、ハァッ」

 

荒い息を整えつつ、金堂悠雅と千海は目を合わせ、ニヤリと笑う。

その瞬間に、敵は二人とも斬りかかってきたが、千海と金堂悠雅はそちらを見向きもしない。

無言で飛びかかってきた亡者は、そのまま千海と金堂悠雅にそれぞれ飛び掛り――――――――――――あっという間に真横に一閃された。

 

「……全員終わったな」

 

「……ああ。そうだな」

 

二人は間を取る。その手には、ボロボロに朽ち果て、刀身など最早斬れるかわからない程刃こぼれしている刀を持って。

 

「―――――決着、つけるか」

 

「あぁ」

 

血だらけになって、たくさんの涙も流して、そして2人は剣を持つ。真剣を腰に差し、両者は居合の型をとる。

辺りを取り巻くのは圧倒的な静寂。すぐそばで八神はやてやカリエットがやりあっているというのに、二人の世界にはそれすらも『入ってこない』。

モノクロームに見える世界の中で、千海は一つだけ分かったことがある。

コイツが、コイツこそが、俺の求めてきた敵なのだと。絶大の強さを持ち合わせ、それに驕ることなく千海との勝負も真面目にサシで戦ってくれた。

こういう『ライバル』が、千海はずっと欲しかった。

―――――――だったら。いや、だからこそ、負けたくない。

 

「ォォオオオオオオオオォォオオオオオオオオォォオオオオオオオオ!!!!!!」

 

「ァァアアアアァァアアアアァァアアアアァァアアアアァァアアアアァァ!!!!!!」

 

気合の咆哮。最早おたがいの、互いの認識は『ライバル』以外の何者でもなかった。

互いに全力で走り、――――――そして剣を振るった。

ボロボロな千海の刀身はそれだけで真っ二つに折れてしまった。

キィン……。と、間の抜けた音がその場に響いた。

 

「―――――ようやく、勝てた」

 

刀身が折れてなお、千海は勝利を確信した。

 

「―――――強えなぁ。俺にお前は眩し、すぎ……た……」

 

その瞬間、刀身は折れないまでも、金堂悠雅の足が折れた。

意識もきっと朦朧としているのだろう。

そんな意識の中で、倒れながら金堂悠雅は思う。

これは負けて当然だと。一度負けて、それでも魂が折れないでここまで来れたんだから。その時点で俺との勝負はお前の方が勝ってた。

本当に折れない芯のあるやつってのは強えなぁ……。

 

そんなこと思いながら、倒れゆく金堂悠雅の口元は緩まった。

 

――――――次は俺が勝つと。

そう決意しながら。

 

 


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