魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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1話 〜普段優しい先生を怒らせると怖い〜

「ったく、容赦って言葉を知らねえのかアイツは」

 

アリサお得意のロケットパンチを披露され、土手の坂を転がり落ちて行った俺はそう悪態をつく。きっとあの世界ギネスを狙えるほどの威力を兼ね備えているロケットパンチは、俺でなければモロに食らって無理やり地球を一周させられる程度には脅威的であろう。

それを土手を転げ落ちるだけで留めるとはやっぱ俺天才かもしれない。

 

「おーおー、自転車もこんなになって……」

 

そして立ち上がった俺の横には無残にも塵と化した自転車が転がっている。ハンドルは曲がっちゃいけない方向に曲がり、サドルなんてどこかに行ってしまっていた。

 

「こりゃ近くのバス停から行くしかねえか」

 

遅刻確定の決断だった。

いや、遅刻自体は別にどうってことはない。人に褒められるような学校生活送ってるわけではないし、むしろ出来うる限り遅刻はしたいと思っている程だ。

今現在に至ってはそんな問題すら生易しい。

 

「この自転車どうしよう……ステッカー貼ってあるし捨てて行くのもマズイよな……」

 

そう。今の問題は、『このボロ雑巾と化したチャリどうすんの?』議題である。

脳内にいる全俺の8割が見捨てろと叫び、全俺の2割は背負ってでも担いででも運びきれと叫んでいる。

普通に考えれば多数決で簡単に決まるかもしれないが、ここでこの自転車を見捨てるという選択肢を取ると、近所の人に見つけられて学校に伝達されてしまうかもしれないのだ。

そうなればきっと学校の先生に呼び出され不法投棄でこっぴどく叱られてしまうこと山の如しだ。

 

だが、だからと言って担いで行こうものならきっと俺の肩やら腰やらの大事な部分がいらぬ欠損を起こしてしまうし、ただ単純に恥ずかしいからやりたくない。

 

(くそ、どうすればいい。打開策が出なければ俺はここを動けんぞ。考えろ集中しろお前はやればできる男のはずだッッッ)

 

取り敢えず何か活用出来るものはないか確認しようと、バッグを漁る。入っているのはスマホやら筆箱、後は教科書の類だけであり、何か使えるようなものは特になかった。スマホで誰かに助けを呼ぶのも考えたが、そもそも知り合いがそんなに居ないので全俺に満場一致で却下されてしまった。

 

次にポケットだ。きっと何かあると信じ、自分のポケットを手当たり次第まさぐるが、モンスターボールはおろか役に立ちそうなものすら入ってはいなかった。

 

「……詰んだ。これ完璧に詰んでるわ」

 

次第に俺の心はどんよりとしていくのに、空は至って快晴である。もうこっちは雨を降らせたい気分なのに空は我感せずの如く青空真っ盛りである。

 

「あははー何かもうどうでもよくなってき」

 

土手に寝転がりながら、青い空からふと前を見て、現実全てから逃避しようとしたその時、その景色は目に飛び込んできた。

 

「……いや、いやいやいや!流石にそれは人としてやっちゃいけないことだとお兄さんは思うなー!」

 

お兄さんが見た景色。それは土手の先に広がる、雄大な川であった。

全俺が満場一致で告げる。

 

『その川に捨てちまえよ』

 

悪魔の囁きが脳内に響きわたる。それはまるで抗えない快楽に導かれるが如く、俺の心と身体を引っ張っていく。

 

「待て、嫌だやめてくれ!まだ俺はそこまで外道に成り下がったつもりはないんだ!!」

 

口では強がっていても身体は正直である。きっと侵食されつつある心でさえ、後少ししたらこういうのだろう。『別にいいか』と。

 

(いやいやいや、さすがにやっぱりダメじゃねー!?確かに優等生ではないけど不良のつもりはないぞ俺!落ち着けー、落ち着けー。心をクールに保とう。千里の道も一歩からだ。焦らず落ち着いて深呼吸でもしながら)

 

「――――そこで何をしているのです?」

 

ビクゥッッッ!!!!!!

と、一瞬にして俺の身体は跳ね上がった。

聞いたことのある声だった。いや、むしろ『数学の時間』に毎回嫌というほど聞かされている声だった。

 

剣城一誠(つるぎいっせい)。

数学の授業担当の先生で、柔らかい雰囲気と生徒に対しても敬語で喋るその姿勢から、生徒には慕われている先生だ。………オマケに顔もそこそこイケメンだし、教えるのも上手いし、剣道部の顧問をやっているらしく、生徒(女子)には人気を誇る先生である。

 

「いい、いや、なんか自転車が壊れてしまったみたいでどうしようかなーなんて……あはははは」

 

「ほう。私には『自転車を川に捨てようとしている生徒』にしか見えなかったのですが、気のせいでしたか」

 

(うおおぉぉ野郎やっぱり見てやがったなァァアアアアアアアア!!どうする!?どうすればいい!?)

 

先生は車から降りて、こちらに近づいてくる。勿論理系イケメン特有の『メガネの位置治し』も完璧に行って、である。

 

(やっべぇどうするよ俺にはもう死刑宣告にしか見えないんだけど!?)

 

きっと今なら『謝って本当のことを言うのであればまだ見逃してあげます』タイムだ。

だがここで謝ったが最後、『俺がさっき嘘をついた事実』は見抜かれてしまう。

それはみすみす『捕まえてください』と言っているようなものだ。

やつだってまだ俺が捨てようとしていたことに『確証』は完璧には抱いていないはずだ。

言い逃れ出来る可能性もあるが、それは極めて低い。ただ、ゼロというわけでもない。

一生懸命開き直っていれば、『もしかしたら』が起こるかもしれないのだ。

 

――――どっちを取るか。可能性が高い方をとって安全に怒られに行くか、可能性の低い方をとって完全勝利を収めるか。

 

いつものごとく、ここで全俺が2つに別れる…………なんてことは起こりえなかった。そりゃそうだ。こんなの悩む前から答えは決まっている。

男とは、生まれたその日からスリルを求めてしまう生き物なのだ。刺激的なことをしたくてしたくてたまらない。きっと男なら誰しもがそんな感情を持っていることであろう。

ならば俺も従うのみだ。男としての本能に忠実に、危険な方をとる。

それがきっと、男の生き様なのだろう。

 

「――――まさか。善良な聖祥生にそんな輩いると思いますか?実は今自転車を上から地面に叩きつけたら直るかなーと思って持ち上げてたんですよ。そんで川付近に叩きやすそうな地面があったから近付こうとしてたんですよ」

 

「ほう。仮にも入るのにそれなりの頭がいる聖祥学校の生徒にそこまで大破している自転車に更に衝撃を与えて直すなんてこと考えるおバカさんがいるとは思えなかったのですがね。いやはや、私も見る目が衰えた

ということですかね」

 

くっ、強い。流石数多の生徒からの苦情申し立てを全て断ってきた先生は強い。

だがここで諦めるわけにはいかないんだ。

そう奮い立たせて、尚もワンサイドゲームに挑戦していく。

 

「衰えたというか目が悪いんでしょう?あんな遠くからこんなとこ見えるわけないですよ」

 

「おや、これは目が悪いからメガネを掛けているというわけではなく、『元々見え過ぎてしまう』からメガネをかけてぼやかしているのですよ?」

 

「バカなんですかね!?」

 

目が見えすぎるからメガネ掛けるなんて聞いたことない。

 

「まあ取り敢えず学校に行きましょうか。車乗せてきますからついてきてください(学校でいろいろ聞いてやるから覚悟しとけうんこ野郎)」

 

どうしよう副声音が聞こえまくってむしろもう副声音でしか聞き取れなくなってしまった。怖いよアンタ学校で俺に何する気だ。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

きっとこれは喜ぶべきことなのだろう。幸運にも先生に拾われて学校に行けるなんてとてもラッキーである。

 

「さて、それでは出発しますよ。シートベルト締めてくださいね」

 

(不幸だ……)

 

この人じゃ無ければ、この人でさえ無ければ、俺だって泣いて喜んでいたはずだ。もう学校に行くのが怖くて怖くてたまらなくなってしまっている自分がいる。

 

「あ、そうだそうだ。そうだった。そういえば私、実は困っていることがありましてねえ」

 

走る車内で、先生は徐に口を開けた。

 

「学校の裏に草がすごい生えている場所があるでしょう?あそこの草むしりを今日任されてしまったのですが、私今日は急遽用事が出来てしまいましてねえ。あー誰か私の代わりにやってくれる人はいないでしょうか」

(おいこらクソ坊主。さっきやろうとしていたことは目ぇ瞑ってやるから俺の代わりに草刈りしろやボケ)

 

………あれぇ?一体どっちが副音声か分からなくなってきたぞぉ?

これはあれか。めんどくさいから俺に草刈りを任せようとしていると。そしてもし断るのならさっきやろうとしていたことは例え地獄だろうとゲロるまで逃がさないと。そしてゲロったが最後罰則として草刈りをさせられると。

 

(何ちゅう策士や……っ。そんなもん断っても断らなくても結果俺が草むしりをすることになっちまうじゃねえか)

 

未だ『あー誰かいないかなー?』アピール全開の先生を横に、何とか言い逃れする方法を考えたが、全然思い付かなかった。そりゃそうだ。そもそも逃げ道なんて用意されていなかったのだから。

 

「……くっ。せ、先生。仕方が無いので俺がやってあげましょうか?」

 

「おやぁ?別に無理やりやらせようとしているわけじゃないんですよ?『率先してやりたい』生徒を私は探しているわけですし、嫌々ならやらなくてもけっこうですよ?」

 

(サドか!?こいつ優しそうな顔してサドなの!?もう

やだ車おりたいぃぃぃいいいいいい!!!!)

 

口車に乗るのは癪だが、それでも乗らないと俺の今後の学校生活に関わることである。意を決して、俺は口を開いた。

 

「お、お願いします。俺に草むしりを、やらせてください」

 

「そこまでいうなら仕方がないですね。では草むしりは貴方に任せます。……あ、草一本でも残したらどうなるか、―――分かってますよね?」

 

こんなの絶対先生じゃない。

俺は泣きながら、何も言わず頷いた。

 

 

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