魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

3 / 16
2話 〜普段怖い先生は怒らせても怖い〜

――――放課後。と言っても今日は始業式と入学式を合わせたような式で終わりだったので午後の一時頃。

新たなクラスに心ときめかせ、また嫌な奴と同じだーとか、またあの子と同じクラスになれただのと浮かれ終わった放課後である。

もうまさかね、入学始業式で終わるとは思ってもなかった俺は意味もなく教科書を詰め込んだ重いバックを肩にかけ、学校裏に向けて一直線に歩いているのである。

――――――隣には何故か八神はやてが同行しているが。

 

………いやね、流石に存在自体は知ってるよ。バニングスやら月村やらとつるんでいる奴らで、清祥高では美人だと有名だからな。

ただ生憎と、俺がよく話すのはバニングスと月村だけであり、その他3人とは特に面識は無いのである。

つまりは、とても気まずい1on1である。

 

「……なあアンタ、良くすずかちゃんとかアリサちゃんと話してる

やつやろ?名前何て言うん?」

 

先手を仕掛けたのは八神はやてだ。

この気まずい空気に耐えられなくなって思わず声をかけてしまったのだろう。

分かる。その気持ち良く分かる。

 

「持田千海だ」

 

「千海?」

 

八神は聞き返す。

予め付け足しておけば、この聞き返しは別に聞き取れなかったわけではなく、予想外な答えに驚いた結果である。

 

「ぷっ、くく……っ。『せんかい』ってアンタ、私より変な名前とちゃうんか……っ!」

 

「初っ端から失礼なやつですね!」

 

自分でも気が付いている。千海なんて名前、時を遥昔に遡らなければそうそう見つけられはしないだろうと。だが、だからと言って初対面でそんなこと言う奴があるか。

 

「あっははは!いやぁ悪いなぁ。関西人に悪い人はおらんのや!」

 

「最初にアンタ悪いなぁって言ってるよね?言ったよね?あれ?おかしいな。どこをどう間違えたら一秒前どころか四文字前のことを忘れられるんだろう」

 

本来日本人とは譲り合いの精神、相手を尊重することが『美』とされてきた人間である。

間違っても、初対面の相手の名前を罵るような、そんな風には育てられないはずである。

 

「言うなぁアンタ。私にここまで口答えできた奴は初めて見たわ」

 

「まだ二言くらいしか言葉を交わしてないんですけどー!?」

 

何なのコイツ。一言目で何でもかんでも話しねじ曲げるとかそんな特殊的会話法身につけちゃってるわけ?怖すぎて話しかけられないんだけど。

 

「おいアンタ。ツッコミは私の専売特許やで!?何勝手にキャラすり替えとんねん!」

 

「知らねえよ何だキャラって!あれか!?キャラが無いと私の存在価値がーみたいなタイプかお前!?だったら安心しろキャラなんてなくてもお前はお前だ自信を持って生きていけぇ!」

 

「なんで私が励まされてんねん!!」

 

「うるっせぇんだよ廊下は黙って歩かんかいっ!!」

 

口喧嘩?みたいな応酬を繰り広げていたら、そんな怒鳴り声が前方から聞こえてきた。

見上げればゴリラ。隣には狸。ちょっとした動物園の完成だった。

 

「すいませーん。ちょっと隣の狸が動物園から抜け出しちゃったみたいでー、ちょーっと騒いじゃうかもしれませんが多めに見てやってください」

 

郷田剛(ごうだつよし)先生。名前の通りの期待を裏切らないマッチョ度を誇り、勿論担当は体育。部活は柔

道部の顧問をしている。身体を使う『武道』は一通り鍛え、その美しさ、カッコ良さを伝えるために学校の教師になったという噂もありけりだが、この先生はとにかく『筋肉』がすさまじく、『全ては筋肉で片付く』なんて考えを地で行く熱血ゴリラだ。

勿論のこと、顔も物凄くゴツイ。

 

「ちょっ!アンタ何言うてんの!?こんなゴリラみたいな顔の人にそんな『動物園』なんて言葉言っちゃアカンよ!!絶対中学校らへんで弄られて成長してきたタイプやから!」

 

「おいそこかよ!俺が言うのも何だけどそこかよ!?もっとこうつっこまなきゃいけないとこあったでしょ!?散りばめられてたでしょ!?」

 

「甘いんや千海!アンタ氷菓子のように甘いで!リア充のカップルの如く甘甘や!」

 

八神はやて理論では氷菓子とリア充のカップルの甘さは同等の甘さを誇っちゃうらしい。

それはあれか、駅のリア充を見て激しい苛立ちを覚えたら全て氷菓子にぶつけろと。そうすれば氷菓子=リア充の定理からリア充にも苦痛を与えられることになると、そういうことを言っているんですね、分かりません。

 

「アンタこんな二人だけでツッコミの応酬してで誰が楽しいんや?私と千海だけやろ?それじゃダメねん。今この場には3人いるんやで!?3人で盛り上がらんとダメやろうが!!」

 

「盛り上がるかァ!!そんな二対一でディスってて3人で盛り上がれると本気で思ってんのか!?いやーなんかもう本当すいませんね先生。このバカ狸すぐ連れていきますんで勘弁して」

 

「とりあえずそこ座れや」

 

殺気っ!?と思った瞬間には何故か座らされていた。

当然、何が起こったか等皆目見当もつかない俺と八神は、互いに顔を見合わせ首を傾げる。

 

「どォやらテメェらには軽ーい説教が必要みたいなんでなぁ…………。死に晒せオンドリャァァアアアアア!!!!!」

 

「やべぇどうすんだよアイツ本気で怒ってるぞ!?」

 

「逃げるんや!!それしか助かる方法はない!!」

 

2人で迫り来る猛威に立ち向かおうと決意を固め、すっくと立ち上がる。

――――――互いの生死をかけた、鬼ごっこが始まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

元々剛先生、基ゴリラ教師は頭が良くない。テストの問題ですら、『筋肉で何とかなる』と思い込んでいる程だ。教員試験ですら、選択問題は『筋肉』に答えを教えてもらったと言っている。それで受かっているのだから笑えないのだが、そんなゴリラ教師は当然の如く生徒指導担当枠に当てはまる人類だ。

つまり、規約にはとても厳しい。それは『年上に対する礼儀』についても然り。

清く正しい生徒にするためには、どんな憎まれ役すら惜しまない。この教師なら例え体罰ですら、『この生徒がいい子になるのなら退職すら惜しみません(涙)』

みたいな感じで行ってしまうのだろう。

そんな先生だからこそ、分かってしまう。

―――――――これ以上ナマ言ったら、半殺される。

 

「またんかいゴルァ!!」

 

「どーすんの!?アイツくっそ足速いけど!?」

 

「くそぅ!予想外や!あいつまさか『筋肉』で頭の悪さを補えるとは!!」

 

そう。俺と八神には勝算があった。

それは『知能』の差。

ヤツは筋肉を地で行くタイプのバカだ。

だとするのなら頭脳戦にはめっぽう弱いはず。

その計算は本来ならば大当たりであり、俺らの勝利は確実なものになっていた。

だが如何せん、ヤツは筋肉を地で行き過ぎた。

あの教師の目の届かないところに隠れてやり過ごそうとしても、そもそも目の届かない範囲まで到達出来ない。

このままじゃ追い付かれるのも時間の問題である。

 

「しゃーない!こうなったら二手に分かれるぞ!!」

 

「承知や!」

 

廊下もいよいよ突き当たり。そこはT字路の如く、道が二つに別れていた。

 

「私は右行くで!アンタは左行きや!!」

 

「了解だ!!」

 

互いに、ニヤリと笑う。

 

「絶対生き残ろうな」

 

「何言ってんのや。当たり前やろ」

 

―――――ならそのために。

 

二人は頭の中でそれを呟く。

 

「身代わりなってくれ!!」

 

「生き残るんは私や!!」

 

握手を交わそうとした刹那、二人は互いの手を後ろに引き合った。

両者片方を転ばせて、一人だけ助かる作戦であった。

だが悲しきかな、二人とも『同じこと』を考えていれば、『同じことを行ってしまう』。

結果、二人とも盛大に転けてしまうのであった。

 

「おいテメェ!なにサクッと裏切ってんだオイ!!」

 

「アンタがそれ言うなや!なんやか弱い女の子転ばせておいて謝罪のひとつも無いんかい!」

 

「テメェのどこにか弱い要素あんだよ!か弱いっつーかむしろ強靭だろうが!」

 

「ハァ!?アンタ本当に目ん玉ついてんの!?もっと美少女を敬わんかい!!」

 

「残念でしたぁ!美少女は自分のこと美少女とは言いませーん!よってあなたは美少女じゃありませーん!」

 

「じゃあアンタは『私別に美人じゃないよ〜』とか言って内心自分よりもランクの低い女どもを優越感に浸った目で見てる女が美少女なんか?」

 

「ごめんなさいあなた様はとんでもない美少女でした」

 

 

 

 

「――――ほほう?口喧嘩とは随分余裕じゃのう。鬼ごっこは終いか?」

 

 

 

 

 

そんな声が聴こえた。聞こえてしまった。

それによって、忘れ去られていた記憶が一瞬にして思い出された。

俺は、俺たちは今まで、―――――なにから逃げてい

たっけ?

 

「やが」

 

み、と呼ぼうとして、もう手遅れなことに気が付いた。

 

「遅刻しただけなのに……なんで、こうなる、んや……」

 

それが八神はやての最後の言葉だった。

八神の息の根を消したゴリラ教師は、振り返り俺を見る。まるで次はお前の番だ、とでも言わんばかりに。

 

「……あ、うあ……」

 

「教師に逆らった罪、万死に値する」

 

流石にそこまで重くないはずだ。教師に逆らっただけで死刑なんて聞いたこともないし体験するつもりもない嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない八神みたいには絶対になりたくない。

 

「……そこで少し寝て」

 

―――――ピピピピ。ピピピピ。と、この殺伐とした空気に似合わない音が空間を支配した。着信音である。もちろん、俺の登録人数が少ない携帯からなるはずもなく。

ゴリラ教師はなっていた携帯を耳に当て、そのまま通話を始めた。

 

(――――チャンス)

 

これは絶好のチャンスだ。ヤツは頭が悪いが故に、一つのことにしか集中出来ない。つまり、通話を始めたということは『通話にしか集中出来ない』ということになる。

 

(千載一遇のチャンスだ。今なら逃げ出せるが……)

 

チラッ、と。八神の方へ視線を向ける。そこには気絶しているのか、ピクリとも動かない八神がいた。

 

(コイツをここに置いていったら間違いなく俺は助かる。だがその場合きっと八神は生徒指導室に連れていかれて酷い目にあうだろう)

 

だが、もし俺がここで八神を背負ってでも逃げたら、逃げきれる可能性は低くなるが、八神が助かる可能性は高くなる。

 

(一度は見捨てようとしてたくせに、都合のいいことを言うなと言われるかもしれない。確かに俺はコイツを裏切ろうとした)

 

これはただ良心が痛むだけ。気絶して動けない少女をほっといて逃げ出す自分が許せないだけのはずだ。

 

(でもやっぱ、可哀想だよな)

 

一度は共に逃げた戦友である。例え裏切ろうとしてたとしても、その日々はかけがいのないものであるはずだ。だとしたら、裏切るなんて真似できるわけが―――――――。

 

 

 

「いやぁ悪いのう、待ってもらって。そんじゃまあ、一緒に署へ来てもらいましょうか?」

 

裏切れば良かった、なんて思ってない。通話が終わる前に裏切れば良かった、なんて毛ほども思ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。