魔法少女リリカルなのは 魔法を使えない高校生   作:キングver.252

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8話 〜子供が大人を頼る時、そこに理由はいらないんだよ〜

朦朧としながらも、灯りの眩しい光に当てられ千海の意識は覚醒した。

目を開ければ、そこは外以外のどこか。灯りが真上に見えて、尚且つ天井すら見えるということは、ここはきっと誰かの家の中だと結論づけて、左手をついて立ち上がろうとする。

 

―――瞬間、左手を中心に激痛がはしった。

 

「ッつぅ……!?」

 

その痛みで、微睡んでいた意識が急速にはっきりし始めた。それにつれて、先程までのことが鮮明に頭に思い出される。

 

「そう、だ――っ。八神を、助けなきゃ……ッ」

 

立てる。両足で床を踏める。痛いのは今のところ頭と左手だけだ。流石に左手はもう酷使することは出来な

いが、まだ右手が残っている。頭だってぶん殴られた

だけだ。

致命傷という程の怪我でもない。

 

「待ってろよ、八神」

 

―――――海の見えるコンテナだ。忘れてくれるなよ?

 

そんな声が、頭には残っていた。

その声に導かれるように、千海は部屋の扉を開けようとする。

しかし、それは反対側から扉を開けた何者かによって阻まれた。

 

「―――千海、くん?」

 

「お前は……」

 

見覚えのある顔だった。

月村すずかやアリサ・バニングス、それに八神はやての友達である、高町なのはである。

 

「目覚めたんだね!?良かったぁ!今お父さん呼んでくるから」

 

そう言い、一階に降りていこうとする高町なのはの肩を思わず千海は掴んでしまう。

 

「聞いてくれ、高町。八神が、危ないんだ――ッ」

 

その顔は、今にも駆け出していってしまいそうなほど悔しそうで。

なのはは、その先を喋ることが出来なかった。

 

「目が覚めたのかい?怪我の具合はどうだい、一応僕が手当しておいたんだが、この後ちゃんと病院に行くんだよ?」

 

そこで、高町士郎が階段を登ってにこやかに声をかけてきた。

それで―――――。と、高町士郎はそこで言葉を区切る。

 

「そんな身体でどこに行こうとしてるのか、それとあそこで血まみれで倒れていたわけ、もし良かった

ら聞かせてくれないかな」

 

そこには、数瞬前の穏やかな顔は存在していなかった。

 

「……ここじゃ何ですから、下にでも行きません

か?」

 

「そうだね」

 

記憶を再び蘇らせる。今日、完敗させられた記憶を。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。まとめると、暴走族にやられてはやてちゃんも連れていかれた、と」

 

高町士郎は千海の説明を一通り聞いて、深く考え込む。

一階は、とても静かな静寂が訪れていた。高町なのは他、高町家総動員プラス何故かフェイトテスタロッサ・ハラオウンまで居合わせている。

 

「それじゃあはやてちゃんは今どこにいるの?」

 

そう問いかけてきたのは高町桃子。

『老い』という言葉を知らないのか、未だに高校生行けるんじゃないか、なんて考えてしまう程に若々しい高町家のお母さんだ。

 

「海の見えるコンテナ、と聞いています」

 

「海の見えるコンテナか。……この辺じゃひとつしかないぞ、親父」

 

高町恭也はそう告げる。

 

「ああ。そうすると千海くん、だったかな?君をこんなことにした暴走族の人も、そこにいることになるの

かな?」

 

「はい。……あの」

 

千海は言いよどむ。それを見逃す程に士郎は甘くない。こと家族に置いてはまだ未熟かもしれないが、戦闘や、厄介事に関して言えば一流である。

 

「なんだい?」

 

本当はここで、思いっ切り助けを呼びたかった。

どう考えても、千海一人で解決できる問題じゃない。最後にアイツも味方連れて来いって言っていた。

八神はやてから聞いているとおりなら、強さ的には全然ついてきて欲しいのだ。

――――でも、同時に巻き込みたくないという思いも

働いた。

これは、千海が勝手に敗北し、勝手に八神を連れ去られた、言わば自業自得の責任であった。

本来ならば、一人で背負わなければ行けない責任。それを、人様まで巻き込んで傷を負わせたくはないのだ。

 

「…………いや、何でもな」

 

やはり断ろうと、何でもないです。と言い切ろうとしたのだが、その前に士郎さんのデコピンが炸裂した。

 

「いたっ!?」

 

「何を言いよどんでいるんだ?君が言いたいことは簡単なことだろ?」

 

高町士郎は、どこまでも見抜いていたのだ。

千海の思考の中、そしてどう切り出すかすら、予想は済んでいた。

 

「……でも、これは俺が蒔いた種だから。俺が決着をつけなきゃ」

 

「――――――バカやろう」

 

今度はデコピンなんかじゃない。本当の叱咤が飛んできた。

 

「千海の責任?千海の自業自得?そんなもの最初からこの話しの土俵には上がっていないんだ」

 

高町士郎他、ここにいるメンバーの皆の顔は、同じだった。『いつでも助けにいけるぞ』と。そう言っているのが分かった。

 

「自分で決着をつける?甘ったれたこと言ってんじゃない。それは自分の強さを把握して、勝てる自信があるやつが初めて吐くセリフだ。現にさっき助けを乞おうとしたやつが言うセリフじゃないんだよ」

 

「でも……っ、でもっ!!」

 

もう、千海は泣きそうになっていた。

助けて欲しいんだか、助けて欲しくないんだか分からなくなっていたのだ。それはさながら泣きじゃくる無垢な子供。

だとしたら、それを助けてあげるのは大人の役割だ。

 

「過去を書き換えるな。厳しいことをいうようだが、お前はその暴走族に負けたんだ。手負いのその状態で、また負けにでもいくつもりかい?」

 

ボロボロになって、左手まで貫かれて。

本当は泣き叫びたくって、それでもまだ泣くことは許されていなくて。

 

「いい加減素直になったらどうだ?君は、千海は僕達にどうして欲しいんだ。本当に守りたいものがあるのなら、そんないらないプライドは捨てろ」

 

悔しさに身を委ね、飛び出しそうになって。

それでも、それでもこんなおれにも、こんなに弱い俺にも力を貸してくれるのであれば。

 

「……助けて、ください……ッ!」

 

泣きながら、千海は助けを乞う。

 

「八神を、俺と一緒に助けてください……ッ!」

 

ポタポタと、涙が千海の太ももに落ちる。下をむいて、涙を必死に堪えているからだ。

そんな千海を見て、その場の全員は告げる。

最早答えは決まっていた。

 

「――――当たり前よ」

 

「――――当たり前だな」

 

「お姉さんに任せておきなさい!」

 

「――――何が出来るかなんて分からないけど、私も協力するよ!」

 

「――――私も、はやてとは友人だから、絶対助け出す。もちろん、千海もね」

 

最後に士郎は告げる。

 

「子供が大人に頼み事をする時に、理由なんて大それたものはいらないんだ。必要なのは助けて欲しいという気持ちだけ」

 

全員が立ち上がる。決意はもうとっくに決まっている。

 

「―――さあ、はやてちゃんを奪還するぞ」

 

枯れたと思っていた希望が、また華を開いた。絶望的な状況で、希望的なものがいくつも転がり込んで来た。

そんな『優しさ』に、千海は涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「ううん……?」

 

八神はやては、そんな呻き声のようなものをあげて目を覚ました。

 

「ここは?」

 

見る限り、どこかの倉庫だ。それも中々広い。

 

「私何してたんやっけ」

 

記憶を呼び覚ます。

確か今日は、初めての高校生で、初っ端から草むしりをやらされたはずだ。

そのあと、千海という少年と2人で帰って――――。

 

「そうや!千海は!?」

 

思い出した。たしか、千海が逃がしてくれて、私も頑

張って逃げてたんだ。

でもそれでも捕まってしまって。

結局、千海がしてくれたことはムダになってしまった。

 

「……私、バカみたいやな」

 

たった一人の少年を見捨ててまで逃げて、それでも捕まって。

本当にもう、何がしたいのか分からなくなってきた。

 

「―――そんなことねえよ」

 

ふと、声がした。

正面を見てみると、そこには見知った顔がいた。

 

「アンタ……」

 

「あの男はあの場で出来る精一杯のことをやった。お前もな。だけど俺たちにはおよぼなかった。だからお前らに足りなかったのは単純に力だ。バカってわけじゃねえだろ」

 

「敵にそんなん言われても嬉しくないわ!千海をどうしたん!?」

 

「安心しろよ、一応無事なはずだ」

 

良かった、と。思わず安堵の息が漏れる。が、すぐに気持ちを切り替える。今この場で、絶対的弱者は八神はやてだ。気を引き締めないとすぐにやられかねない。

 

「一体何が目的でこんなことしたん!?」

 

「奇跡だよ」

 

「はぁ!?」

 

間髪入れずに答えられた内容が、あまりにも奇想天外だったので、思わず聞き返してしまった。

 

「お前が七年前に起こした奇跡だ。俺は見ちまったん

だよ。幸せそうなツラして消えてく姉ちゃんを」

 

――――ヤバイ。と、本能的に八神はやては悟った。間違いなくコイツは、今この場で、『魔法』の話しをしている。

誤魔化す誤魔化さないの問題ではなく、『見られた』のだ。きっと七年前ということは、リインフォースを見送る時のことであろう。

本来ならば秘匿しなければならない存在を、知られてしまった。

 

「そ、それがどうかしたん!?それと今のこと、何か関係あるん!?」

 

「――俺の妹が、そろそろ逝っちまいそうなんだ」

 

果たして言われた内容は、八神はやてが想像し得ない問題であった。

 

「俺の勝手な判断だが、素人目に見てもあれは完全に死ぬ。だからもう命を引き延ばそうとはしないさ」

 

ただ、と。暴走族の頭である、金堂悠雅は八神はやてをまっすぐ見据える。

 

「死ぬときぐらいは、幸せなツラァさせてやりたいんだ。ずっと昔に笑ったっきり、アイツはもう、笑顔を見せてくれないんだ……ッ」

 

八神はやては何も言わない。何も言えない。それは、語られている内容があまりに重いからなのか、それともただ単純に言葉が出ないのかは分からないけど、言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

「だから、……だからよっ!教えてくれねえ

だろうか!?アイツが笑って逝ける方法を、教えちゃくれねえだろうか!!魔法だろうが奇跡だろうが、何

だっていいんだ!!俺はもう一度、アイツの笑った顔を最後に見たいんだ……ッ」

 

知らず知らずのうちに、金堂悠雅からは涙がこぼれていた。それほど大切で、掛け替えのない存在だった。

 

「……そうか。アンタが七年前に見たのは、それは多分すべてが完了した時やったんやろなぁ」

 

そう言って、八神はやては切り出した。

 

「私が七年前したことはほとんどない。もう二人が頑張ってくれたんや。だから、私は最後に抱きしめてあげることしか出来ひんかった」

 

思い出すのは、ただ泣きじゃくるだけだったあの頃の『自分』。

 

少しは変われただろうか、なんて自分に問い掛けてみるが、それはきっと自分では分からないことだ。

 

「私は奇跡なんか起こしとらんよ。ただ最後にギュッと抱きしめて、一言言葉を言っただけで、幸せそうな顔してくれたんや」

 

「……そんな、方法で、本当に良いのか?俺ァ暴走族の頭ァ張るぐらいバカだからよう……っ!全然分かんねえんだ!!幸せの仕方なんて、全然知らなかったけどよ………っ!やっぱり、お前の話しを聞けて良かったよ」

 

なんや、良い奴じゃないかい。

なんて、八神はやては不覚にも思ってしまった。

今回の騒動だって、たった一人の妹のためにここまでの騒動を起こしたのだ。それこそ暴走族まで引き連れて。

――――ここまでされて、もう幸せじゃない妹さんなんておるんかい。

八神はやては苦笑しつつ、心の中でそう呟いた。

 

 

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