前話からお読みくださいm(__)m
「――よいしょ!」
訓練ビル一階。私はここ一番奥にある広い部屋に「核」を配置することにした。全方位が壁なので窓からの奇襲を受けるこもない。障子君の個性を考慮すると、たぶんどこに隠れていても発見されてしまう。それであれば堂々とここで迎え打った方が無駄な手間もかからない。それに、轟君が一人で来るなら二対一、障子君も来たとしてもこっちは私自身が二人なので連携で後れを取ることもないはず。まさに一石二鳥だ。
「両チームともそろそろ訓練開始だが、準備はオーケーかな?」
耳にはめた小型無線を通してオールマイトが確認をしてくる。私たちは監視カメラの方へ向いて「はい」と言って頷き、訓練に集中するため両耳のピアスに触れる。
「スタート十秒前!――5、4、3、2、1、スタート!!」
パキパキパキパキ
オールマイトが開始を宣言した瞬間、ビル全体が一気に凍りついた。まぁ、やっぱりそうくるよね。
私たちはすかさず両手を地面に着いて個性を発動させる。
「「鬼火『超高密度燐禍術』密!」」
本来は巨大な溶岩弾を地面から射出して相手に放つ技だけど、今回は射出せず発生した熱を壁や天井に伝播させるだけに留める。その効果は劇的で、部屋全体を覆っていた氷は赤熱ですぐに融け始めてあっという間に蒸発してしまう。初見であれば対処に戸惑ったかもしれないけど、これは一度見ている戦法なので考える時間は十分にあった。融けきったのを確認した私たちは、残った熱をすぐに霧散させ、ある仕掛けを施して訓練開始前と変わらない状態へと戻す。これで証拠隠滅完了。
しばらくすると轟君がドアを無造作に開いて部屋へと入ってきた。何事も無かったように平然と「核」の前に佇む私たちを見て、轟君の目が見開かれる。でもすぐに無表情に戻ると、入り口から部屋全体を注意深く見渡し始める。私だけでなく部屋自体も凍り付いていないことを不審に思い警戒レベルを上げているのだろう。ふふふ、トリックを見破れまい!訓練を見越していたわけではないけど、昨日の個性テストで使用したのは身体強化がほとんど。大気の固定や物質の重量操作は目視で判断するのは難しいし、観察されていたとしても私の個性をそれだけで看破するのはほぼ不可能と言っていい。
轟君も理解したのか、状況の把握に向けていたであろう視線を私に戻す。さっきまでの余裕を持った表情は消え、相手を警戒対象として認識した油断のない空気を滲ませる。
「おい、ビル全体を凍らせたはずだが……どうやった?」
「さあ~?、ヒーローに個性をばらすヴィランなんていないと思うので」
「当ててみるというのはどうですか?」
私たちは意地悪な表情を作って、交互に喋ることで轟君を煽る。一瞬目元がぴくっと反応するものの、轟君は至って冷静という態度で私を見据えてくる。
「……ちっ、さすがに二番煎じは通用しなかったか。障子。……あぁ、どうやら一度目の映像を観て対策をとっていたらしい。……いや、一人でいい。あんまり手加減できないんでな、できれば巻き込みたくはない。……あぁ、まかせろ」
どうやら障子君は応援に来ない様子。轟君は通信を終えると警戒態勢のまま徐々に近づいてくる。
「今言ったように手加減は……まぁ、できないわけじゃないが得意でもねぇ。降参するなら今のうちだ」
足を止めて戦闘態勢に入る轟君。降伏勧告とはヒーローらしい良い判断だけど。
「私たちはヴィランだよ?」
「負けるつもりはないからさ」
「「さっさとかかっておいでよ」」
勧告を蹴ったところで私も戦闘態勢に入る。その瞬間。
「っっ」
轟君の足元が氷結して、パキパキと音をたてながら急速に接近してくる。私たちは左右に分かれて氷を回避。オリジナルの私が右側、分身の私が左側へと分断される。このままだと連携が取れなくなるだろうけど、問題なし!
分身の私が即座に轟君の放った氷に手を触れると、そこからも氷が侵食してきて凍っていく。
「?」
回避したのに自ら攻撃に当たりに行った私の行動を不審に思ったのか、轟君は怪訝な顔をしつつも分身を凍り漬けにしていく。本体の私は注意が逸れている隙に前へ突っ込むが、それに気づいた轟君が私に視線を向け、個性を私へとぶつけようとしてくる。
逸れたな?
「疎ぉ!!」
分身の私が吠えると肩口まで迫っていた氷が弾けるように砕け、私たちを分断した巨大な氷柱もバキバキと音を立てて割れ霧散していった。
「なに?!」
音に気付いて氷柱が割れる瞬間を見た轟君は、動揺した様子で一瞬固まってしまう。
「密!」
「?!くっ!」
本体の私から注意が逸れた隙を狙い、密による身体強化で一気に距離を詰める。加速しながら拳を握って殴り飛ばそうとしたけど、轟君もそう易々と殴られるほど甘くはないようで、一瞬の内に氷で防壁を作ってガードされてしまう。当たった瞬間氷が砕けて破片が散らばるものの、貫くには至らなかったようで八分程で止まってしまう。
「まだまだ!」
今度は本体である私が疎で氷壁を霧散させ、近くなった轟君との距離をさらに詰めて接近戦へと持ち込む。
「くっ!いっ…つ!」
再度お腹目掛けてパンチを繰り出す私の攻撃を、なんとか肘でガードする轟君。ただ、一撃目で強化状態の私の攻撃を正面から受けるのは危険と判断した轟君は、受けるのを止めて続くラッシュを全て間一髪で回避し始めた。右、左、右、下段蹴り、回し蹴り、上段蹴り、私のこれでもかという攻めを冷や汗を流しながら必死な様子で避け続ける轟君。私の隙を伺いつつ個性を使おうとするけど、そんな暇は与えない。
轟君が上体を後ろに反らして避けたところで、腕を掴んでその場に釘付けにする。
「捕まえた♪」
「う、おおお!!」
「っ?!おっと」
突然、コスチュームで覆われた轟君の半身から炎が噴き出し、驚いた私は反射的に掴んでいた手を離してしまう。噴き上がる炎を警戒して後ろへ下がり、どんな攻撃が来てもいいように身構える。まさかもう一つの個性が炎だったとは。『半冷半燃』という個性は氷と熱を操るものだと思っていたけど、実際は氷と炎、二つの強力な力を扱う個性だったようだ。併用されるとさすがに厄介だと思い対策を考えていると、轟君はなぜか炎を消し去り個性を解除してしまう。何かにムカついているようで、轟君は舌打ちをして再び氷で攻めてきた。私はその氷を回避しつつ疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「『半冷半燃』とは氷と炎を操る個性だったんですね」
「それがなんだ?」
「素朴な疑問なんですけど、炎は使わないんですか?」
私がそう聞くと、轟君は怒気を含んだ表情を表してあきらかにイラつき始めた。
「お前には関係ない。俺は戦闘じゃあこの個性しか使わねえ!」
轟君は声を荒げると部屋全体を埋め尽くす程の大氷塊を発生させ、それが波のように私へと攻めかかってきた。さすがにこれは避けきれないし、散らすにしても規模が大きい。分身の動向を共有した感覚で確認し、再び床に手を触れて個性を発動する。
「鬼火『超高密度燐禍術』!」
私の力は地を伝って即座に壁や天井にまで広がっていく。私は天井の温度を上げて赤熱させ、迫る氷塊に向けて溶岩弾を全力で射出する。ごうと音を立てて落下する溶岩弾。身構えた次の瞬間、私の溶岩弾と轟君の大氷塊が衝突してけたたましい爆音と衝撃が広がる。膨大な熱による水蒸気と煙で視界がゼロになってしまい何も見えないため、個性を使って仕方なく天井が無くなり吹き抜けとなった上階へとそれらを逃がす。
天井壊しちゃったけど、これは不可抗力ってやつだし、緑谷君みたいに全階ぶち抜いたわけじゃないからきっと大丈夫でしょ。うんうん、そうにちがいない。
そんな無駄な思考を働かせていると、轟君が背後から捕獲テープを持っていきなり現れる。
「俺の勝ちだ」
「しまった!な~んてね」
ペロっと舌を出して笑う私を見て轟君は何かを察して制動を掛けようとするけど、もう遅い。分身の私が轟君の側面から現れて一気に懐に入る。轟君は氷で再び防御しようとするが、その防壁もさっき見たから今度は貫ける。
床に罅が入るほどの踏み込みを入れて、右腕へと力を収束させる。
「妖鬼・密!」
インパクトの瞬間、爆発、氷壁はあっという間に砕け散り拳が腹部に命中する。
「ぐぅ!」
苦悶の声を漏らして膝から崩れ落ちる轟君。私はすかさず確保テープを取り出して彼の腕に巻き付ける。抵抗するほどの気力は無いようで、轟君はお腹を押さえたまま固まっている。
「轟君確保!」
「ヴィランチーム、ウィン!!」
確保を宣言したところで、オールマイトがヴィラン側の勝利を通達する。緊張を解いてホッと一息ついた私は、分身の私にお疲れさまと言って発動しっぱなしだった個性を解除した。そのまま轟君へと歩み寄り、確保テープを外して声をかける。
「大丈夫?」
「あぁ、……障子がまだいたはずなんだが、俺の確保と同時に決着が着いたのはなんでだ?」
「あーそれはね」
掻い摘んで説明すると、序盤に分断してきた氷を砕いた分身は、本体の私が轟君の注意を猛攻で引き付けている間に「核」部屋から離脱。ビルの入口付近で待機していた彼と戦闘に入り撃破。轟君よりも先に確保していたというわけだ。
「なんで障子はそれを通信で俺に言わなかった?」
「んふふ~、実はね~」
私は部屋の壁に駆け寄って表面のコンクリートを剥し、内側を轟君に見せる。
「金属の壁か?」
「その通り!轟君が最初にビル全体を凍り漬けにしたとき、私はそれを取り除くのと同時に通信を妨害するためにこの部屋を金属の壁で覆ったんだよ。鉄筋や鉄骨のある建物だから素材には事欠かなかったし、私の個性は大抵の物質は操れちゃうからね。最後に君が入ってきたドアを閉めれば完成。障子君との通信を遮断するシールドの役割を、見事に果たしてくれたってわけだね」
「……なるほどな。とんでもねー個性だ」
去り際、轟君は一言「次は負けねーぞ?」とだけ言い残して部屋を出て行った。
轟君を見送ってしばらくの間、私はやりきったという満足顔で突っ立っていたのだが、オールマイトが部屋に入ってくるなり「無線通じない!講評の時間だよ!!」と言われてしまい急いでモニタールームへ戻った。
モニタールームへ戻ると訓練を見ていたクラスメイト達から質問攻めにあいかけたけれど、オールマイトがそれを静めてすぐ講評へと移った。
今戦のベストは私で、個性で分身していたとはいえ実質単独でのヒーローチームの制圧。さらに部屋全体を金属の壁で覆い、通信妨害することでチームを完全に分断。大規模な技で天井が無くなったとはいえ、轟君の氷塊に対処するためだったことが功を奏して、減点とは見られなかった。
最後に地上でオールマイトによる今回の授業の総括と、労いの言葉を頂いて解散ということになった。オールマイトは緑谷君に講評結果を伝えるとかで、バヒュンと効果音を出しながら一目散に帰っていった。
残った生徒達は更衣室で制服に着替え、その後教室に戻ると私がクラスメイト達から質問攻めにあったのは言うまでもない。
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んではではm(__)m