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それでは本編
第一種目 50m走
レーンがふたつあるため、どうやら二人ずつ計測するらしい。私の出席番号は5番なので、始まれば割とすぐに順番がまわってくる。
私は他の生徒たちがどんな個性でテストに臨むのかが気になり、見やすい位置から観察をしてみることにした。
まず最初に走り出したのは、このクラスで唯一話したことのある飯田君と、若干猫背で長い舌が特徴の女の子。飯田君は軽く屈伸をすると、スターティングブロックに片方ずつ足を乗せていく。その姿がとても様になっているのだけど、私の目は彼の足に向いていた。彼のふくらはぎには片方で六つ、両足を合わせると十二個の穴が開いていて、それが個性に関係するものだということが一目でわかる。
パンと音が鳴ると同時に彼の足からは『DRRRRR』とエンジン音が響き、物凄い速さで50mを駆け抜けていく。記録はなんと3秒04。おそらく彼の個性がスピードに特化したものだからというのもあるだろうけど、常人では決して手の届かない領域も、個性を利用することでこうも簡単に届いてしまうとは……。
ちなみに一緒に走った女の子も飯田君には及ばないものの、5秒58というプロのアスリートレベルの記録をあっさりと出していた。
それに続いて、なんだかキラキラと変なポーズをとる男の子と、額から二本の触覚が生えた紫肌の女の子も5秒台を出すなど、さすがと言うべきか、日本最高峰のヒーロー科に合格するだけあって超人ばかりだ。
「ねぇねぇ、次だよね!私、麗日お茶子。よろしくね!」
さて、どうしようか。そんなことを考えていると、次一緒に走るであろう彼女から声を掛けられた。茶髪のショートボブをしていて、笑顔がとても明るくて眩しい女の子。……いや、これは単純に彼女を見上げた先にある太陽が眩しいだけだった。
「私は、伊吹萃香です。よろしくお願いします、麗日さん」
麗日さんにスッと頭を下げて、私も笑顔で自己紹介をする。
「や、やだな。そんなに畏まらないで!」
頭を下げられ慣れていないのか、麗日さんは照れた様子で体の前でブンブンと両手を振る。くぅ、(太陽が)眩しい!
私たちはそれだけ言葉を交わすと、スタートラインについて計測に集中することにする。
パンと音と同時にスタートした私は、入試での実技試験のときのように足元に密を集中させてスタートダッシュで一気に加速した。巨大化したり、分身したり、空間を爆発させた衝撃でとんだり、いろいろ考えたけどやっぱりこれが一番シンプルでやりやすい。マックススピードのままゴールラインを抜けたところで、一回転して両足から飛行機の逆噴射のように地面に勢いを逃がす。するとキュッと制動がかかり、ブオンと土煙が舞った。
結果は2秒78。
「やった!」
私はあまりの嬉しさにグッと拳を握って万歳してから、息を整えて麗日さんはどうなったか確認してみた。普通に走ってきた彼女の記録は7秒15。どうやら麗日さんの個性はスピードに関係するものではないようだ。私が「お疲れさま」と話しかけると、麗日さんは若干興奮した様子で近づいてきた。
「さっきのすごかった~!伊吹さん、あれってどうやったの?!」
「あぁあれ?あれはね――」
「ボ……俺にも是非聞かせてもらってもいいかな?」
麗日さんに説明を始めたところ、私の元へと飯田君や他の走り終わった人たちも近づいてくる。
「私、芦戸三奈!ちっちゃいのに超速いね!よろしく!」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「僕は青山優雅。僕ほどではないにしても、スマートな走りだったよ」
「えぇっと、伊吹萃香です。芦戸さんに梅雨ちゃんに青山君ですね。よろしくお願いします」
なんか"ちっちゃい"って聞こえた気がしたけれど、気のせいだと思ってそこは聞き流すことにする。私はさっきの質問に対して細かい部分を省きつつ、"密と疎"の個性を使ったものだと大雑把に説明をした。入学してまだ初日なので自分の能力をひけらかすような真似はしない。飯田君はそこを察してくれてそれ以上聞かれることはなかったし、麗日さんたちはよくわからなさそうだったけど単純に納得してくれた。
その後も、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ソフトボール投げ、長座体前屈、上体起こし、持久走、と順番に測定が行われた。途中、緑谷君が自分の個性の反動で指の骨が粉々になったり、それを見たツンツン頭の男の子が激昂して緑谷君に詰め寄ったり、それを止めた相澤先生がイレイザーヘッドというヒーローだと判明したり、先生がドライアイだとカミングアウトしたり、一悶着あったものの大きな問題もなくテストは進んでいった。
「――それじゃ、ぱぱっと結果発表するぞ」
私たちは全ての測定を終えたところで、相澤先生に一か所に集められてすぐに結果を発表すると告げられる。
「トータルは単純に各種目の評価を合計した数だ。結果は表示するから自分で確認しろ」
緊張して体に力が入る者、自信満々で結果を待つ者、大半は前者ばかりなため重たい空気が少しずつ漂い始める。最下位ならば除籍処分。せっかく掴んだ夢への第一歩が、たった一日で泡沫の如く消えてしまう。そんなことは許容できないが、それも結果次第。緊張感が漂う中、相澤先生が徐に口を開く。
「ちなみに除籍はウソな」
「……?!」
「君らの全力を引き出す為の、合理的虚偽」
相澤先生はハッと笑うと結果を表示だけして沈黙する。
「はあああああああああああ?!」
対して生徒側は驚愕に包まれていた。除籍と言ったな……あれは嘘だ。以前見た映画のフレーズが頭を過ったけれど、被害者の悲鳴は比べるまでもなく大きい。一部の生徒はこれを予期していたようで、そんなはずがないと言って呆れかえっていた。それに引き換え、麗日さんは驚いて前のめりになり、飯田君は驚愕のあまり眼鏡が割れ、最下位で絶望的な顔をしていた緑谷君は心霊写真の霊のように輪郭が曖昧になるほど叫んでいる。緊張から解放されたせいか、冗談で良かったと皆が胸を撫で下ろす。
……あれは本当にウソだったのだろうか。テスト前の相澤先生の態度は真に迫っていたように私は思う。下手をすれば……除籍などありえないと手を抜いたり、相澤先生の琴線に触れるような態度をとっていた場合、先生は本当に除籍処分に踏み切るつもりだったんじゃないだろうか。
私がじっと見ていると、それに気づいた相澤先生とほんの一瞬だけ目が合った。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから、目ぇ通しとけ」
先生はそれだけ言うと、個性の反動で負傷した緑谷君に保健室利用許可書だけ渡して校舎へと去っていった。私たちはしばらく相澤先生が消えていった方向を呆然と眺めていたけれど、チャイムが鳴ったところで皆思い思いに教室へと帰っていった。
個性把握テスト 結果
一位 八百万 百
二位 伊吹 萃香
三位 轟 焦凍
四位 爆豪 勝己
五位 飯田 天哉
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最下位 緑谷 出久
放課後
初日から入学式をすっぽかして強行されたテストも終わり、制服へと私たちが着替えた頃には下校時間となっていた。私は緑谷君、飯田君、麗日さんと校門で偶然会うと、途中まで一緒に帰ることにする。
「ねぇ、伊吹さんの個性ってすごいんだね!私、伊吹さんの記録に全然届かなかった!」
「ううん私なんてまだまだだよ。それに麗日さんだって、ソフトボール投げで∞出してたからびっくりしちゃった」
キラキラと明るい笑顔で謙遜をする麗日さんだけど、彼女の個性はとても強力だと私は思う。
個性『
軽くすることに特化した能力だけど、災害救助やヴィランの無力化をするという点ではとても重宝される。無重力できる重量には限度があるらしいけど、極めれば素晴らしいヒーローになれるだろう。
「まだまだとは、個性把握テストで二位をとったにも関わらず更なる上を目指す。素晴らしいな!」
眼鏡を指でクイッとさせて何故か声を張り上げる飯田君。悪い人ではないんだけど少々変人だ。
個性『エンジン』足が速く、MT車のようにギアを上げて加速できる。スピードに特化した能力だけに今日のテストではその持ち味を存分に活かしていた。50m走ではギリギリで私の方が速かったけど、持久走では最高速度に達した彼についていくことが出来なかった。
私の能力は師匠曰く、『万能』らしい。ただ悔しいことに今の私では飯田君や麗日さんのような尖った個性に負けてしまうこともある。
「伊吹さんの個性は、たしか『密と疎を操る個性』だっけ?テストで使用してる感じを見る限りでは増強系の発動型個性に見えたけど、最初のデモンストレーションでは腕周りの空間が熱で歪んでるようにも見えた。一度熱に関係した個性だと思ったんだけど違うよね。それにボールを殴ったときのあの重い衝突音、もしかしたら『密と疎』というだけあって物体の密度をあげたり下げたり出来る個性なんじゃないかな?だとすればそのあとの……ブツブツ……」
あの、怖いんですけども……。私が見上げる形だから余計にね。話しかけられたと思ったら、分析を交えた独り言だった。飯田君も変な人だけど、どうやら緑谷君は彼よりもう少し変人のようだ。ただし、着眼点がとても鋭い人のようで、物質や物体の密度を操作できることは飯田君にも麗日さんにも誰にも言っていない。それなのに緑谷君は私がテスト中に使ったのを見ただけでここまで予想してみせた。……恐ろしい子!!
それなのに自分自身の個性は使いこなせていないのか、一度は相澤先生に個性を使おうとしたところを消され、二度目は発動して大記録を出したものの指が腫れ上がっていた。個性についても単純に増強系の発動型ということしか二人も知らないらしい。
「デクくん怖いよ!!」
「え、あ、ごめん麗日さん伊吹さん。僕って何かに集中するとどうにも周りが見えなくって」
そう言って照れたように頭を掻く緑谷君。ただ私はそれよりも、さっき麗日さんが言ったことに違和感を覚えた。
「デクくん?」
「そう、デクくん!頑張れって感じで良いと思わない?!」
私の問いに本人ではなく、麗日さんが麗かな笑顔で答える。緑谷君の方を見るとさっきよりもさらに照れていてトマトのように真っ赤になっていた。どこか嬉しそうにしてるのが微笑ましい……気がする。彼はドMなのだろうか?それとも……いや、本人がそれでいいと思っているなら私が口を挟むことでもないか。
「いいと思いますよ。それじゃこれからはデク君と呼びますね?」
「デクです」
「緑谷君!!!二回目!!!」
私が笑顔で返すと、緑谷君はデク君と呼ぶことを即答で許してくれた。飯田君がツッコミを入れているけれど、緑谷君……いや、デク君は終始恥ずかしそうに両手に顔を埋めるだけだった。
しばらくデク君たちと談笑してから、私は彼らとは逆方向の電車に乗るために別れた。
「あれ、萃香!もしかして今帰り?」
「あ、友子!もしかして友子も?」
「うん、そう!」
聞き慣れた声に振り返ると卒業式を最後に会っていなかった友子だった。彼女は確か都内の有名な進学校に合格してそこに通っているんだったか。お互い会う機会が減るから寂しいねなんて話をしていたものだけど、まさかこうして駅でばったり会えるとは思わなかった。
「今日、雄英も入学式だったんだよね?どうだった?私は校長先生の話が長くて全然つまらなかったよ」
「入学式?ああ、そういえばそんなことがあったはずだけど、どうだったのかな?」
「どうだったのかな?って、私にわかるわけないじゃない」
私の疑問を投げかけるような回答に、はてなを浮かべた表情で返す友子。私は今日あった出来事を掻い摘んで彼女に話した。それを聞いた友子は信じられないといった表情で、自分の学校の入学式はこうだったと話してくれた。
「――ふーん、その相澤先生って人なんだか嫌なかんじ」
「まぁ、たしかに怖い人だなって思ったけど、きっと先生なりの考えがあったんじゃないかな」
「まーた始まった。そうやってなんでも良い方向にばっかり考えてたら、そのうち変態な紳士に手籠めにされちゃうよ?」
「うんうん、なんだかバカにしてるのはわかったよ。そこに直れ!」
「あ、私この電車!じゃあね萃香!」
いつもの如く調子に乗る友子を捕まえようとすると、彼女はドアが閉まりそうな電車に飛び乗ってバイバイと笑顔で手を振ってくる。
「ん~もう!」
電車が動き出して遠ざかっていく友子を睨みながら、私は次は必ず痛い目にあわせてやると心に誓ったのだった。
これが今年最後の投稿となります(=゚ω゚)ノ
少々投稿間隔が落ち目ですが、来年も頑張りますので応援のほどをよろしくお願い致しますm(__)m
皆さま良いお年をお迎えくださいm(__)m
んではでは(=゚ω゚)ノ