一度パンの袋から外してコレクションしようと思ったら親にまとめて捨てられたアレです。
まず、前回ご感想を頂きました。本当にありがとうございます!ご意見でもご感想でも作者の励みになりますんでこれからもご講読よろしくお願いします!
今回は本編七話目なので百合子回です。「風」という単語にやたら縁のある二人です。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
修正ログ
2017/12/04 誤字脱字の修正。報告ありがとうございます!
「はぁ...」
俺が事務所につくなりため息が聞こえてきた。聞こえてきた方を向くと『乙女ストーム!』のメンバー、七尾百合子が分厚い本を読みながら想い耽っていた。
「おはよう、百合子。どうした?ため息なんかついて」
「...ああ、ダメですよそんな近づいたら...私たちは許されるような関係じゃないんですから...」
あいさつも返さず、いきなり近づくな宣言される。百合子からのまさかの発言でグサリと心に刺さる。朝から凹むなぁ。
「そ、それでも構わない?そんな、私一体どうしたら...」
違和感を感じる。俺はむしろ離れてるのに、百合子は言葉を止めない。まるでこの場にいない誰かに話しかけてるような...
「ま、まさか幽霊!?百合子、お前幽霊がみえるのか!?」
「ひゃあ!!プロデューサー!?いたのなら言ってくださいよぉ」
最初にあいさつしたんだがなぁ、と言っておく。とたんに百合子が顔を赤くさせ、
「もしかして私、また妄想の世界にとんでた?うわぁ!プロデューサー、さっきのは忘れて下さい!」
と俺に全力で忠告する。普段の百合子にはありえない声の大きさに俺は「お、おう」としか答えられなかった。
「あ、そういえはあいさつまだでした。おはようございます、プロデューサー!」
「おはよう百合子。お前にいい仕事とってきたぞ!」
と言って俺は百合子に資料を取り出す。中身はドラマ「ウィンドクラン」。風の戦士である少女が世界を救うために旅をするというファンタジー系のドラマだ。
最近はVFX(CGとか使ってエフェクトを付ける撮影方法)を使ってド派手にやるものが多いらしい。今回のドラマもエフェクト多用で行われる。
「っていう内容なんだが、やってみないか?」
「風の戦士...!やります、やらせてください!」
百合子は机に乗り上げかねない勢いで意気込みを示す。
彼女のやる気に応えるようにバッグから台本を用意する。
「もちろん百合子には主役をやってもらうから、頑張ってな!」
「はい!」
台本を受け取った百合子はのめり込むように読み込みを開始する。これなら台詞忘れとかは無さそうだ。
ただ、戦闘描写も多いからレッスンもそれを重視する感じかな。あのライブを終えてから初めての大きな仕事だ。ヘマは出来ない!
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所変わって今は郊外の山中。撮影が始まり、今は百合子演じる「リリーナイト」が妖精と会話するシーンを撮影している。
『それは本当?なら、すぐに戻らなくちゃ!村の危機よ!』
「はいカット!いいよいいよー、なら次のシーンいってみよっかー!」
「はい!ありがとうございます!」
シーンカットが入り、監督から褒められる。百合子はすごいな、本当にそこに妖精がいるかのような出来栄えだ。
だけど、次こそ心配だ。次のシーンは村へ戻ったリリーナイトが悪者と戦闘するシーン。アイドルの中では体力がない方である百合子がこのシーンをこなすには不安がある。
「それじゃ次のシーン、スタート!」
『そんな...村が...!』
『まだ生き残りがいたか!我が手下よ、女子供も関係ない!やってしまえ!』
『ぐるるるる...!』
百合子が敵の下っ端である『ネクロマンサー』と対峙する。対して相手は狼型の魔物を放つ。百合子は魔物と戦っていくが...
「きゃあ!」
「カーット!百合子ちゃーん、もう少しカッコ良く剣振ってくんないと困るよ!」
「す、すみません!」
どれだけ演技が良くても、剣の振り方が素人だから当然カットが入る。
「それじゃ、もう一度いくよ?よーい...」
それから日暮れ近くまで撮影は続いた。
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「お疲れ、百合子」
「あ、お疲れ様です...」
撮影は終了し、戦闘シーンは二日後に延長した。当の百合子は度重なる演技指導と演技で体も心も疲れていた。
「戦闘シーンの撮影はまた今度だってさ」
「そう、ですか...。どうしよう、また次の撮影でもダメだったら」
「二日あるんだ。それだけありゃなんとかなる。心配すんなって百合子!俺に任せとけ!」
「プロデューサー...はい!」
不安になる百合子を励ます。今回の件に関しては解決策に幾らか心当たりがあった。二日あれば最低限の剣術を叩き込める。
教える剣術はもちろん、親父に習った技さ。
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特訓については午前に入れていたレッスン時間を使い、百合子に剣術を教える。
アイドルとして練習したのもあり、体力と筋力は充分ついていけている。後はテクニックだ。
「はっ!やぁっ!」
「そう!そうやって動きを小さくしてなるべく力を集中させるんだ!」
木刀に金属の重りを付け、そこそこの重量を持ったモノを使い百合子に使わせる。女の子だからといって教えに容赦はしない。
それこそ百合子にも、親父にも失礼だからだ。
「違う!そこはしっかり構えろ!でなきゃ振りが甘くなって力が入らなくなっちまう!」
「はぁっ...はぁっ...は、はい!」
それからレッスンは二時間続いた。
「よし、んじゃ最後だ。今日の総まとめをするからな?」
「はい!でも、なにをするんですか?」
レッスンの総まとめとして、百合子がどれだけ剣術スキルが上がったかをテストする。内容は簡単。俺が出す一撃を返せれば合格だ。
「それじゃ、行くぞっ!」
俺はそう百合子に合図すると、百合子の周りを高速で周り始める。かつて俺が見た技、ケルガーの『ルパインアタック』を"ものまね"して繰り出す。
「は、速い...!?っでも!」
百合子は一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて目を閉じる。俺がレッスンをするのに大事なことを教えた。それはまず落ち着いて、それから相手を感じることだ。
「くらえっ!!」
「...!!そこ!」
俺が百合子の後ろから奇襲を掛けるが、百合子に見切られ、脇腹に一閃。俺はそのまま真後ろに吹き飛び、壁にぶち当たる。いってぇ...!
「プロデューサー!?大丈夫ですか!?」
「いったかったけど、いい一撃だったよ百合子。これならどんな剣士役のオファーが来ても大丈夫だな」
「プロデューサー...ありがとうございます!」
心配する百合子を安心させるため強がりを見せる。全くの無防備なところに撃ち込まれたからそのダメージは凄まじいが。
でも、百合子はこの短時間で他の剣士役やってる奴より遥かに超える剣劇が出来る自信がある。
なんてったって、俺に習った技だもんな!
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『ぐぅっ!おのれリリーナイト!よもやそこまでの力があろうとは...!』
『ここまでよ!この剣にかけて、お前を倒してみせる!』
リリーナイトは村を焼き尽くしたギルガンに向かって真っ直ぐ走る。ギルガンは彼女の剣を寸で受け流す。
しかし彼女は風の戦士。速度上昇の加護を得た彼女は人とは思えぬ速さで剣撃を繰り返す。その一撃一撃はギルガンの急所を的確に狙っていく。
『おのれ!おのれおのれおのれおのれおのレおノレオノレオノレェー!!』
『...っ!貰ったー!』
ギルガンが見せた隙を、リリーナイトは見逃さなかった。ギルガンの剣を強く弾き、無防備になったギルガンを袈裟斬りで大きく切り裂く。
『ぐ...がぁ!』
『これで終わりよ、ギルガン』
『ありえん...何故だ...何故...!』
『お前は私のことを侮っていたようね。その慢心こそ、お前が負けた理由よ』
虫の息同然のギルガンはそれでと納得がいかなかったのかうわ言のように繰り返す。
リリーナイトの一言を聞いた瞬間、ギルガンは『く...そ...』と、最後まで自身の敗北を認めないまま光に消えていった。
『すごいわリリーナイト!あのギルガンを簡単に倒してしまうなんて!』
『ウィンダス...私はこの世界を脅かす悪を絶対に倒すって決めたから、負けることは無いわ』
「それに...」
「それに?」
「大切な人から、習った技だから...」
瞬間、現場が凍りつく。風の戦士はどうやら冷気魔法も使えるみたいだ、とふざけている場合ではない。
清々しいまでのアドリブ。そのときの俺の心情としては、火力船が爆発するときのあの危機に匹敵する状況だったと言えた。
「...あ」
「カッート!いやー、いい演技だったよ百合子ちゃん!ここ二日だけでバッチシ剣劇上手くなったし、最後のアドリブも最高だね!」
「へ?あ、ありがとうございます」
「大切な人からの形見である剣技を使う、悲しみを背負った騎士。これは脚本に相談しなきゃだ!正直、おじさんもスパイスが欲しかったところだからね、百合子ちゃんのその設定、使わせてもらうよー!」
最後のアドリブが大いに気に入った監督が百合子をべた褒めし始める。こっちとしては冷や冷やしたから、この結果はオーライなんだが。
最初百合子はポカンとしていたが、すぐに喜びの表情を見せ、嬉々として監督に設定談義を繰り広げた。
そのあと出来たリリーナイトの兄弟子役を俺がやらされるハメになったのは、また別の話である。
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「全く、あのときは本当に怖かったんだぞ?あのアドリブが無けりゃ何事もなく帰れたのにさ」
「その節はホントすみませんでした...」
「あー、そのな?別に怒ってる訳じゃないぞ?そのお陰で監督から追加オファー貰ったんだし」
ドラマは大好評。瞬間視聴率は10%と、ドラマ史上なかなか類を見ない人気振りだった。
俺と百合子は今、百合子が行きたいって言っていた国立図書館にいる。リリーナイトの設定を作るため、もっと多くの本に触れたいとの話だ。
にしても暇だな。図書館だからって本を開いたら魔物がでる訳でも無いから、不安はないけど。こうなったら"アレ"を探すか。
「え〜っと、『あ』、『い』、『う』、『え』、『え』...やっぱり無いか」
「プロデューサー、『え』って何を探してるんですか?」
"アレ"を探してるのに夢中で百合子の気配に気が付かなかった。百合子は本を数冊抱えながら俺の横にいた。なぜか軽蔑の目線を向けて。
「あ、あれだよ。えーっと、ほら絵本!最近ハマっててさ...」
「ふーん、ま、いいですけど。」
どぎまぎしてしまったが、なんとか誤魔化せた。百合子は次の本を適当に見繕い、席に戻る。
俺も例の本探しを開始するときに「それから」と声が聞こえた。
「プロデューサーの探しているであろう『えほん』はここにはありませんので!」
強めの声で咎められる。どうして女の子ってそんなに勘が鋭いんだよ...
席についた百合子の髪が揺れる。室内だというのに、まるで透明な風が吹いているかのように、やわらかな香りが俺の鼻孔をくすぐるのだった。
いかがでしたでしょうか?
百合子にナイトのジョブが付きましたが、本編では一切戦いに使われないのであしからず。
描写したいものが増えるたびに一話ごとの文字数が増え、前半の話との文字数差をどうしようかと悩みますね。嬉しい悲鳴ではありますが。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!