ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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遅くなりました…。
クララ視点!

次回がクライマックスになると思います。


勇者の公務(その5)

私は奴隷だ。

スライム族に魔族としての権利は保証されない。

それは私の曽祖父が貴族の権力を振るいすぎたために、国民の反感を買ったからだ。

曽祖父は処刑された。

祖母は失踪した。

母は死んだ。

スライム族の王家に残る正当な血筋を持つのは、私しかいない。

今も生きて、苦しんでいる同胞のために私は立ち上がることを決めた。

 

絶対に屈辱を晴らす。

 

 

「あら?ごめんなさい、スライムは動きが鈍すぎてこんな程度の仕事もできないんでしたね」

「…ごめんなさい」

書類の山。

この会社の仕事のほぼ全ては私に回され、私がやる。

「まあ、それが終わるまでは休憩ナシですわ、分かっていますわね?」

「…はい」

もうミラ=ワイルの嫌味ったらしい口調や、汚らしい手口にも慣れた。

全てはスライム族の再興のため。

私はどんなに苦い汁を舐めることになっても、甘んじて受け入れてみせる。

書類の束を手に取る。

 

その覚悟を壊す男が言った。

「ミラ、こんなのよくないだろ?きちんと分担して終わらせよう」

人は男を勇者と呼び、魔族は彼を侵略者と呼んでいた。

「…ふん、何の想いがあって奴隷に付け入るのかしら?」

「奴隷にだって労働法があっただろ?ほら、俺が半分やるからその紙貸してくれ」

山をごっそり持って行こうとする。

私は彼のコントローラー、付着させたスライムを作動させる。

「ぐ…!」

彼が床にしゃがみ込む。

「…?具合が悪いんですの?」

「な、なんでも…ない…」

ミラ=ワイルがこちらを睨む。

「私は彼を介抱しますわ、あなたは仕事を」

「ミラ!」

「…なんですか?」

「俺がやるから、ランチでも行ってきたらどうだ?」

するとしばらくにらみ合った末、乱暴に扉を開けて言った。

「…お手洗いに行ってきますわ」

 

ミラ=ワイルが行った後。

「なんで俺の邪魔をしたんだ」

「私の邪魔をあなたがしたから」

「俺は手伝おうとしただけだ、そんなことが邪魔になるってのか?」

「私は来週のテロのために、できるだけ従順なイメージを付けておかないといけないんですよ?怪しまれるような行動は慎んでくださいねぇ?」

ついいつもの口調が出てしまう。

会社では極力抑えなくてはいけない。

「…分かった、けど、辛いならいつでも」

「ッ!」

まだすがってくる。

そんな彼に怒りを感じて、スライムを動かす。

「ぅ…!?」

「いいですかぁ?」

「…分かった」

 

 

館でも、私はやはり奴隷だ。

掃除、洗濯、調理、食器洗い、ほぼ全てを私が担当する。

「…結構、休んでも構いませんわ」

「ありがとうございます」

一礼して館を出る。

すると、私の住処から何かの匂いがした。

「…?」

扉を開ける。

そこには。

「おかえり、ご飯作っといたぞ」

男が立っていた。

 

 

「…再三言いましたよねぇ?目立つ行動は控えなさい、と」

私は男の首を絞めていた。

といっても、スライムでじわじわ圧力をかけるだけだが。

「ぐッ…け、けど、ろくなもの食べてないだろ…?」

「…きちんと館の余った具材は食べてますよ」

「そんな物ダメだ、栄養を考えて食べろ」

「命令できる立場なんですかぁ?あなたは」

すると、男は打って変わって真剣な目で言った。

「スライムに権利を取り戻すのに俺も協力すると言った、言ったからにはやりたいようにサポートさせてもらう」

イラつく。

その勝手な物言いに、私もつい反論してしまう。

「奴隷にそんな権利は…!」

「奴隷をやめさせるなら、まずお前から態度を改めろよ!」

意表を突いてスライムから抜け、私に詰め寄ってきた。

「食べてくれ、イヤだったならもうしないから、せめて今日くらいはきちんと…」

「…」

 

彼の目は、真剣だった。

 

「…」

一口、二口と食べる。

美味しい。

食事を美味しいと思ったことなんて、今までほとんど無かったというのに。

「なぜ私にここまでするんですか?」

できるだけ素っ気なく尋ねる。

「…俺もさ、身分制度には反対なんだ、みんな仲良くできるのがやっぱり一番だろ?」

「…」

あまりにも平和ボケした考え。

呆れて彼の顔を見る。

と、私の顔を何かが伝った。

「…?」

スライムよりも粘性の薄いそれは、数十年前から私の中に欠落していた何かだった。

「おい、どうした?なんで泣いて…」

「ッ!」

目元を隠す。

私にも分からなかった。

なぜ、こんなにも涙が出てくるのか。

なぜ、こんなにも料理が美味しいのか。

 

なぜ、こんなにも目の前の男を愛おしく思うのか。

 

「私は…?」

「調子悪いのか?なら、早く寝た方が…」

彼の手が肩に触れる。

「っ!」

「痛…!」

つい払いのけてしまう。

このまま彼を受け入れてしまったら、私の心は魔族社会への反発心を失ってしまいそうに思えた。

「今日は…帰っていいです」

「…え?」

「…帰ってください」

半ば強引に、冷たく言い放つ。

「…ごめん、何か、悪いことしたよな」

そう言い残して、出て行った。

 

 

私は奴隷だ。

奴隷は嫌いだ。大嫌いだ。

だから私はそれを壊してみせる。

その信念は揺るがない。

けれど、ある疑問が私の中に生まれてしまった。

もしも。

もしも、私に自由が与えられたなら、私はどうする?

 

一番に出てきたものは、お金でも服でも家でもない。

あの男の顔だった。

 

許されることであるならば、いや、許されなくとも。

この戦いが終われば、彼に脅迫なしで想いを伝える。

 

受け入れられたなら、彼と駆け落ち。

 

受け入れられなければ、あるいは。

 

 

 

 

「…ユーリィ・グレイ」

 

私は初めて恋をした。




久々に書くとキャラブレますね…。
サボってごめんなさい(´・ω・`)。
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