最近作者は暇を持て余してヤンデレ作品にどっぷり浸かっております。
決行の日が来た。
ヘイジの説得は何とか成功し、金(魔界銀行にあるすべてのお金以上の額だった)の取り寄せ、馬車、武器、稽古…全てが揃った朝だ。
「むにゃむにゃ…ユーリ…♡」
「ユーリ君…大好き♪」
俺の隣ですうすう寝息をたてている死神と魔王。
起こしたら迷わずむしゃぶりついて来るだろうから起こさずにそろりそろりとベッドから出て服を着る。
部屋から出て広間に行くと、既に食卓について俺たちを待っている風なヘルガがいた。
「あ、おはようございます」
「おはよう、わざわざ待っててくれたのか、ごめんな」
「いえそんな…エメラルさんは?」
「アイツは放っておいたら起きてくるさ、さっさと食べよう」
「は、はあ…いただきます」
ウルスラが気を利かせてくれたのか、朝食はいつもの豪華なものよりも少なめで栄養のあるものだった。
黙々と食べているとヘルガが口を開いた。
「…ユーリィさん、僕は…王になれるのでしょうか」
「手はずは整えた、後は決行するだけだ」
「地位は手に入るかもしれません、けれど政は摂政に任せきりだった僕に急に王座なんて…」
「誰だってそんなもんじゃないか?俺も魔物を始めて倒した時は足がガクガクだったしさ」
あんまり参考にならなかったのかヘルガは首を揺らして少し下を見て答えた。
「…そうですか、そうかもしれませんね…」
「それではお三方ともご武運をお祈りしております、危険だと踏んだらすぐに帰って来てください」
「ユーリ君…私も行きたかったよ」
ウルスラとアシンさん(寝癖付き)に見送られて、鎧や具足を付けた戦闘態勢の俺たちは魔王城を出発した。
アシンさんは戦いには参加しないものの、万一今回の作戦の隙に魔王城が落とされるのを防ぐための留守番だ。
もっとも王国騎士団やら下級魔物の軍程度ではウルスラ一人にも及ばないだろうが。
「まずはスラムの人々への報酬の先払いだ、ヘルガに直接手渡してもらうからそれの護衛を俺がやる」
「私はどうすればいいのですか?」
「エメは馬車の守りについてくれ、スラムの連中はああは言ってもやはり信用ならないし…俺たちへの協力が総意とは限らないから」
「ラジャーです!」
「了解しました」
黒馬の引く馬車に乗ること数十分、ハザラの街へ到着。
物珍しさからかヘルガは目を輝かせて外を見ていた。
検問は魔王の顔パス+ウルスラの偽造証明書で難なく通り抜け、人間界へと向かう。
人間界のある山へ差し掛かった辺りで魔王は馬を止めた。
「エメ、どうしたんだ?」
「ユーリ…これから向かう城はアレですか?」
「ん?ああ、あの城だよ」
「どうかしたんですか?」
魔王は目に青白い魔力を光らせている。
遠視の魔法で望遠鏡レベルまで遠くを見ることのできる魔王には、城下町や城の様子を窺うのは容易いことだろう。
「ユーリも見てください…なにか様子がおかしいです」
俺の頭にエメが手を添えると、目の中で何かが流れ出すような感触がした後に急に目が景色をズームした。
スラムの中に騎士団が闊歩している。
さらに見てみれば、スラムの人々は決して攻撃されているようには見えない。
むしろ騎士に馬車の中に招き入れられたり、にこやかに会話したりしている。
「なんなんだ…騎士とスラムの連中が手を組んだのか?」
「もしくはマザクとか言う摂政がこちらの思惑に勘付いて、スラムを先に潰しておくべきだと考えたか、ですね」
「…!」
ヘルガはただただ驚いたように目を見開いている。
「どちらにせよ、今からあそこを攻め落とすのは困難です、退却するか…或いは近くに行って様子をよく見てみるか…」
「…今日を逃せば、きっと次に攻める時にはもっと守りが硬くなってしまう、攻めるなら今しかないんだ」
馬に戻ろうと振り向くと、ヘルガがこちらに泣きそうな顔で頭を下げた。
「ごめんなさい…!僕が、僕がこの日に決行なんてお願いしなければ上手くいっていたのに…!」
「あ、謝らなくてもいいんだ、誰だってこんなこと予想できなかったんだから…」
「ユーリ、しかし今はこの子を慰めるよりも引くか攻めるかを見定めることが重要です、城下町まで急ぎましょう」
「エメ…けど」
「あなたも、こうして悪い状況を作り出してしまって、それを悔やんでいるのなら泣いて謝るよりも、もっとやることがあるでしょう?剣の一振りでもしてからメソメソしてください」
魔王はあくまで冷たい物言いで馬車に乗り込んだ。
まだ幼い彼には重すぎることだろう。
しかし、魔王の言っていることもまた正しい。
「…」
誰も何も言わないままに、馬車は揺れていた。
ヴァール国城下町近郊
街の様子を変装して見に行った魔王が帰ってきた。
「お帰り、どうだった?」
「こちらの作戦が漏れたわけではなさそうですね…『スラムの民衆に住居と仕事を与える』という御触れが出たようです、騎士団は武装していません」
「…」
「そんな御触れが…」
「ただし、今なら城の警備は手薄ですし、攻め込む好機でもあるのは事実ですね、しかし…」
「しかし?」
「今の状況で城を攻め落としたとしても、やっとマシな住居や職を提供する姿勢を見せた国を潰したとあれば…」
ヘルガがぽつりと答えた。
「恨まれるのは僕たち、という訳ですね」
「そういうことです…決断はユーリと王のお二人で相談して決めてください、私は魔王です…立場としてその選択に関わりません」
魔王は馬車に乗り込み馬に水をやり始めた。
「ユーリィさん…すみません」
「エメも言っていただろ?謝る前に、目の前の選択をしないと道は開かないんだ」
「…僕は」
「戦略として見るのなら、これはいいタイミングだ、スラムの連中の手を借りるまでもなく城を落とすチャンスなんだから」
ヘルガはこくりと頷いた。
「ただし、その後の王政はうまくやらないとクーデターを引き起こしかねない、そうなれば玉座から次に引き下ろされるのはヘルガ、君になるんだ」
「…はい」
「俺に言えるのはこれだけだ…決めてくれ」
ヘルガは下を向いたまま考え込んでいる。
そして。
「やりましょう…本当に命を賭けてのお願いです、僕に協力してください」
覚悟は決まった。
次回こそ城に攻め入るドンパチを書きます!
約束です!
2000文字が自分ノルマなんですが、もうちょい増やした方がいいのでしょうか…。