ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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王の苦難(その6)

 

ヴァール国城裏口前

「やっぱり施錠されてるな…こんな南京錠は音立てずに突破も中々難しそうだ」

ヴァール国城にはいくつか入れる所があるが、施錠済だった。

本当は中の家族や将校がスラムの連中のクーデターから逃れるために鍵を開け放った所を狙うつもりだったのだが…。

「仕方ありませんね、越えますよ」

魔王は人並みならざる跳躍で軽々と3m超の塀を飛び越えた。

「…エメ、俺たちできないんだけど」

「あのぅ…」

魔王に乱暴に放り投げられた二人の悲鳴が轟いた。

 

 

「さて、ここからが本番になるんだが…極力兵士は殺さないこと、それと狙うは摂政マザクの生け捕りだ」

「分かっています」

「はい」

「それとエメは退路の確保を頼む、追手はできるだけで構わないから追っ払ってくれ」

「分かりました」

魔王は手に青い魔力を纏わせている。

俺が持つのは剣と盾と鎧。

ヘルガは鎧だけで、武器とも言えないくらいの護身用の短剣を一本持っている。

「よし、ヘルガは俺たちの間にいるんだ、相手が銃を構えたりするのが見えたらすぐに身をかがめてくれ、いいな?」

「は、はい」

「行くぞ!」

 

 

隠密行動が鉄則なので、飛び込むようなことはしない。

 

裏口を回って水門の辺りへ出ると兵士が一人、水車の点検をしている様だった。

「俺が行く」

背後に駆け寄り、振り向く前に剣の柄で殴りつける。

「ごがっ…」

「ユーリ、さすがです♪」

緊張感も何もないかのようなムードだが、ヴァール国は最近銃の発明が著しいようだ。

少しの油断で命を落とす。

 

そのまま進むと今度は牢屋に。

 

不意に牢の見回りをしている兵士二人と鉢合わせた。

「貴様ら…手を挙げろ!何者だ!?」

まずい。

大きな声で威嚇されると辺りの騎士や兵士にまでも気づかれてしまうだろう。

「伏せて!」

兵士が銃をこちらに向けた。

が、弾が放たれる前に魔王が動く。

「この…な、何!?化け物!」

魔王は鉄格子を引きちぎって兵士に真正面から投げつけた。

逃げ場のない攻撃に相手が倒れる。

「ふッ!」

魔王はそのまま懐に飛び込んで二人の額に悪夢の印を刻み込んだ。

そのままうわ言を呟きつつ兵士二人は眠ってしまった。

「無理させてごめんな、エメ」

「いえ…それより、少しばかりまずくないですか?」

「…ああ、かなりな」

階段から聞こえる複数人の足音。

しかも二手から来るようだ。

「どうする?」

「ヘルガ、貴方は牢に入っていた方が安全です」

「は、はい」

「こうなった以上は全員を掃討するしかありませんね、ユーリは前から来る方を、私は後ろを守ります」

「了解」

ヘルガを銃の射線から離れた牢屋に入れる。

こつ、こつ、と近づいてくる足音。

 

「いたぞ!撃て!」

後ろに横たわる兵士と俺を同時に発見した騎士達はこちらに一斉に銃を向けてくる。

「食らえっ!」

引き金を引く時間を与えないままに、迷わず相手の群れの中に飛び込む。

「ま、待て!撃つな!」

全員俺に銃を向けてはいるものの、誤射を恐れて発砲できずにいる。

「それっ!」

アッパー気味に殴りつけると騎士はそのまま卒倒した。

「この…!」

脇腹に剣が飛んできた。

居合の抜き方で弾き返す。

 

相手は残り3人。

全員鉄砲はあるようだが、扱いに慣れてはいないのか剣で勝負する魂胆のようだ。

「どうした?騎士の得物はランスじゃないのか?そんなへっぴり腰で俺に勝てると思ってるのか?」

挑発気味に言った、すると。

「このっ…!私をバカにするなあ!」

プライドの高そうな騎士が一人、それに続いて二人が剣を振り回して駆け寄って来た。

「甘いっ!」

剣を弾いてよろめいた顔を蹴りつける。

残った二人は、それを見て驚いている隙にみぞおちを叩き、蹴りして全員を退けた。

 

「ふむ…24秒!ユーリも強くなってますね♡」

後ろを向くと土下座したまま不自然に震えている兵士十数人の上に立つ魔王がいた。

「エメ…その兵士たち、どうしたんだ?」

「魔法で精神攻撃をかけたら震えて動かなくなりました、その内元に戻りますし、大丈夫でしょう」

「…」

「さ、行きましょうか」

 

 

「げふぅ!」

王の間に向かうまでにかなりの兵士や騎士と戦った。

そして豪壮な扉の前、重装備の騎士も俺一人で簡単に倒すことができた。

「ユーリ、この先が王の間でしょうか?」

「そうだな」

「恐らくこの先にマザクがいます…気を引き締めていきましょう」

「言われるまでもありませんね」

 

そして扉に手をかけた時。

 

「ユーリ、先に行っておいてください」

「…え?」

魔王がくるりと後ろを振り向いた。

「私はここで追手が来ないか見張りをします、なにか…何とも言えない予感がしますから」

「…エメ?」

「行ってください、さあ」

「…ああ、任せた!」

「よろしくお願いします、行きましょうか」

そして俺たちは、ゆっくりと扉の中に入った。

 

 

 

がこん、と王の間の前に鎧を置いて扉が開かないようにする魔王が一人。

「…さて、貴方はいつまでそうしているのですか?」

鎧の上に腰かけたまま一人で呟く。

すると。

「…ほとほと貴女には参ったでござる…慣れない魔法道具まで使って気配を消したというのに」

階段の陰から現れ、真っ黒なマントを脱ぎ去る男。

 

ヘイジだ。

「ここで決着を付けませんか?あなたも雪姫とマザクの板挟みのままでいても、辛いだけでしょう」

「…いつから気がついていたのでござるか」

「ウルスラに全て聞きました…あなたが嗅ぎ回っていること、その行動は全てユーリの理想に反するようなものだと」

「…拙者に与えられた使命はユーリィ殿の監視、しかし雪姫様はそれだけでは満足なさらないと仰った…ユーリィ殿を挫折させ、自分に縋って来るまで妨害せよと」

「それで、こうしてマザクに言及してスラムの解体を目論んだというわけですか…しかし私たちに直接手を出さなかった、と」

「…やはりユーリィ殿を裏切ることはできないでござる、だからこうして中途半端な態度をしているのでござる」

 

魔王は剣を抜き、突きつけた。

 

「ここで決着を付けましょうか、ユーリに見られては優しさ故に止めに入られてしまいます」

剣に魔力が通り、青白く輝き始める。

「…拙者も命を賭けて戦うでござる、たとえ敵わないとしても…欺いたまま朽ち果てるくらいならば、ここでいっそ…」

騎士の得物、ランスを構える。

勇者と旅をしていた頃よりも、もっと鍛錬を重ねたその体は異様な威圧感を放っていた。

 

一歩も劣らぬ気迫を持つ二人の闘いが始まった。

 

 

 

「さて…ようこそ、ヴァール城…私の城へ」

「…」

「マザク、玉座は返してもらいます」

ゆったりと腰かけたマザクを睨みつけるヘルガ。

しかし、全く怯える風は見せていない。

「少し…昔の話をしましょうか」

「命乞いなら諦めろ、俺たちはこの城の王座をヘルガに返してもらうためにやってきたんだ」

「いえね、この話が終わったなら、ヘルガ様に私の身は委ねましょう、ちょっとした話です」

ヘルガと顔を見合わせると、ヘルガは小さく頷いて言い放った。

「いいだろう、話してもらおう、マザク」

 

「ありがたきお言葉…

…あなたの5代ほど先代の王は、機械学に精通していました。

彼は海を越えた国の技術も学び、さまざまな物を作ったと言われているのです。

そして世継ぎが14歳…あなたほどの年齢になった時には王座を譲り、どこかへ行方を眩ましました。

 

そして時は流れ…あなたの父が王座を手に入れて8年…私はそれを見つけた!

クライム・ヴァールが、その優れた知性と能力で遺した全ての秘密を私は手に入れた!

 

それを使えば王座の奪還や貴族のご機嫌取りなどする必要は無くなる!

この全てを使って、世界の王になるのだ!

これはもはや誰にも止めることはできないのです。

あの美しい機械群を見てしまった人間は、私のようにドロドロした感情に取り憑かれ、その連鎖は必ず起きる。

 

私を殺すのなら好きになさるといい。

ただし、私を殺せば次は貴方達が私のようになる番です。

 

…さ、どうしますか?」

 

「…ヘルガ、君はどうしたい?」

話をじっと聞いていたヘルガは、顔色ひとつも変えずにマザクに歩み寄る。

「一つ問いたい、父を殺したのは貴方か?」

「間接的に殺した、というのが正しいですな、王座から引き摺り下ろすのに協力は致しました」

「…そうか」

するとヘルガは短剣を抜き、そして。

 

「父を殺したのであらば、お前には死ぬなんてぬるいことは許さない、死ぬまでそれを悔いて生きるんだ!」

 

マザクの脇腹を突き刺した。

 

「ぐッ…!どうしました?殺さないのですか?」

「お前は極めて利己的な人間さ、死ねばそれはそれで楽になれるし、僕たちが狂人だと切り捨てたならクライムの遺産で世界へ攻撃を始める、そんなお前に残された罰は生きることだけだ!王として君に命じよう、禁錮470年だ」

「っ!」

マザクはようやく顔色を変えた。

ヘルガの指摘したことは本当だったらしい。

「くく…ならば、機械の力を見せるまで…!」

 

マザクは目にも留まらぬ速さで走り出し、虚を突かれて動けない俺たちを尻目に玉座の裏の階段へと逃げ込んで行った。

 

 

 

「げッ…がはっ…!」

ヘイジのランスは真っ二つにへし折られ、剣はねじ曲がり、鎧はヒビが入っていた。

魔王は、無傷。

「…気が済みましたか?」

「殺されるまで…拙者は止まれないのでござる」

それでもなお壁に寄りかかりながら立つヘイジ。

 

「貴方が死ぬことをユーリは望んでいません、その間は貴方が脅威となることが分かっていても、殺さないでおきましょう」

 

魔王が手を軽く振るとヘイジの腕に禍々しい呪印が浮かび上がる。

「こ…れは…!?」

 

どさり、と倒れたヘイジに、魔王は声をかける。

 

「騎士道…そんなものは、死にたがりの男の妄言に過ぎません、貴方がそうして踊らされている間は不死の呪いをかけておきましょう」

 

そう言い残し、扉の奥へと入って行った。




死なせてもらえない二人のお話です。
ヘイジは決して悪いヤツではないのですが…やはりしわ寄せは誰かが受けて然るべきなのですねー。
次回、新ヒロイン登場!?
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