「…っう…はぁ…」
TC06に監禁されて一週間ほどは経つだろうか。
俺は初日からよく分からない薬を、数時間ごとに体に投与され続けている。
初日は一日一回、少し気分が悪くなったが、しばらく後には体に力が満ちていた。
投与の頻度は日に日に増している。
今では3時間に一度。
それを投与されないと、体がムズムズとして頭が痛くなってくる。
「ー診断完了ー身体に特殊薬物の反応を確nー報告義務を削除しましたーダーリンの身体は健康ですー」
「…俺に、何をしたんだ…は、はやく、早くいつもの薬をくれないか…?」
「ー許可ー薬の投与を行いますーただし、薬を投与する前に私にきちんとお願いの態度を示してくださいー」
「…え?な、なんだよ、それ、この前までは無条件で」
「ー選択してくださいー私の足を舐めるかーそれができなければ薬はお預けとなりますー」
白いブーツから白い足が出てくる。
機械であるはずのTC06の足は、なぜか全く硬質な感じはしなかった。
「…舐めれば、いいのか?」
「ー肯定ー足を舐めてくださいー人工皮膚の足ではありますが、冷却水による汗がブーツの中で蒸れて感覚中枢に害を与えますー」
ゆっくりと顔を近づけると、かつて魔王の足を舐めた時と同じような匂いがする。
決していい匂いとは言えない。
汗臭くてしょっぱい味を感じながら犬のように舐める。
しばらくじっとしていたTC06は、やがて俺の顔を足で優しく蹴り上げるように上に向けさせた。
「…なんだよ」
「ー報酬ーご褒美ですー舌を出しなさいー」
白い液体が注射器の中に入っている。
いつものように、それを舌に注入してもらえたのならば俺はいつも以上に元気に動ける。
そうすればTC06から逃げ出すこともできるかもしれない。
「…はい」
身体の中を、ゆっくりと覚醒成分が回り始める。
「逃げないと…エメの元に帰らないと…」
薬を投与されて1時間後、俺はTC06が別室にいる隙に、TC06が隠した俺の私物をかき集めていた。
「剣、鎧、鞄、靴…盾に食料、これだけあれば…」
鞄を背負ってトイレに入る。
トイレには小窓があるのは事前に調べておいた。
「今すぐ帰るから…エメ…」
薬が切れ始め、痛む頭を抑えながら俺は一週間ぶりに外の世界へと飛び出した。
「ー起動ー脱出したダーリンを捕らえますー人工生殖器の調整が完了しましたー」
魔王城
「エメラル様、お夕食が出来上がりました」
ウルスラが扉をノックするが、いつもの如く返事はない。
「…エメラル様、これで丸5日もご飯を召し上がっておりません、魔力も使いっぱなしでそのような無茶をされては、いつか身体を壊してしまいます」
すると、目の下にクマを作った魔王がほんの少しだけ扉を開けた。
「あとで食べます、置いておいてください」
「エメラル様、わがままもいい加減に」
「うるさいッ!ユーリを探してるんです!邪魔しないでください!」
「…」
乱暴に扉が閉まる。
メイドは踵を返し、今日も誰にも食べられることはないであろう夕食を保存できるように、食卓へと向かった。
ヴァール国地下
「これは…私も見たことのない機械が大量に積んでありますねー…いつか機会があればじっくり調べたいです」
「あなたの知的探究心なんてどうでもいい…真面目にユーリ君を捜す気がないのなら、殺しても構わないんだよ?」
地下研究所を地図片手に歩き回るアシンとクイン。
しばらく調べてはいるものの、機械自体が見たことがないものもあり、更には非常に複雑な構造で作られている物が多いため、一概に転移装置と断定するのは難しかった。
しかしクインがアシンにいくらそれを伝えても、恋をこじらせた死神は一言一句すらにもキレて返す。
「…はっきり言えば、全てを調べてユーリィさんの転移先を調べるともなれば数十年ほどかかってしまいます」
「は?…死ね、やっぱり貴女に価値はない」
「待ってください、なにも私は、ユーリィさんの今いる場所が調べられないと言ったわけではありません」
「なに…どういうこと?」
「転移装置としての機能のありそうなもの、とりわけ最後にエメラルさんとユーリィさんの別れた部屋の周辺の機械に絞って調べたなら、もっと早く見つかるかもしれないということですー」
「ひぎィ!マリン様っ!もっと激しくしてくださいぃ!」
「私がぁ、こんな下級スライムごときに!性欲で引けを取られてはいけないのよ!」
「ルビルさぁん♡追い詰めましたよぉ♡二人だけで脳みそダラッダラのレズワールドに行きましょうよぉ♡」
「ま、待って?私は男にしか興味はないの、悪いけどそのお誘いはお断り…」
「捕まえたぁ♡今日は8時間くらい脳内こねくり回してあげますからねえ♡」
「ひッ…いや…いやぁぁ!」
「はぁ…はぁ…!このまま走って大通りに出たら、馬車を拾ってハザラの街まで…!」
俺は森の中を走っていた。
薬が切れたせいなのか、ふらついてくる身体を必死に動かしてめちゃくちゃに走った。
しかし、そんな体の限界は近かった。
俺は小さな木の枝に足を引っ掛け、受け身も取れずに地面に倒れた。
「く、くす…薬が…あれば…走れる…エメの元に行ける…のに…」
進むべき道の方へと手を伸ばす。
すると、その先に。
「ー発見ーダーリンを発見しましたーこれよりダーリンの捕獲行動に移りますー」
「い、いやだ…来るな…俺は…エメのもとに…」
しかしTC06は倒れたにじり寄り、そして。
「ー交渉ー薬が欲しくないのですかー私の元に来れば永遠に薬の快楽を与えましょうー」
「く…薬…ほ、ほし…い…」
この時の俺は、もはや思考能力なんて物を持ち合わせてはいなかった。
薬の味だけが頭の中を占める。
「ー提案ー薬を欲するのであれば私に首を差し出しなさいーそうすればダーリンに特濃の薬を差し上げますー」
もはや俺は言葉も失い、魔王の顔だけを思いつつも、体が勝手に動いてしまう。
洗脳されているのは分かっているのに抵抗できない。
する気も起きない。
俺は、首を差し出した。
TC06は勇者の首に、赤く点滅する首輪を取り付けた。
そして優しく抱きしめた後に、放電した。
「あッ…ぎゃ…ッ!?」
「ー捕獲成功ーこれよりダーリンを愛の巣まで持ち帰りますーホルモン、神経操作の首輪による性交渉成功率は80%ー次回より薬の投与を中止してストレスを性欲によって発散させますー以上の過程終了頃には私への依存が始まるでしょうー」
ヤンデレ相手の脱出は失敗するのが当たり前(謎。