ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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奪還開始です。

え?投稿久々?ヤダナア ソンナワケナイヨ。


歯車の心(その4)

「ふぇぇ…何するんですかぁ…?」

「恐らくこの施設は建物の造りからして堅固なものになっている…貴女の怪しげな道具でシャッターを吹き飛ばす」

私はユーリ君の囚われているであろう建物の前で、(偽)ロリ女の服をまさぐっていた。

 

ユーリ君がいると見られる王立機械研究所の廃墟は、私の魔法で吹き飛ばしても構わない。

しかし、そうなると周辺が焼け野原になってしまう。

私は小さな魔法の勘など忘れた。

何かを滅ぼす程度のコントロールに慣れるのも考えものではある。

 

まあ、とりあえずそんな訳でロリ女の怪しげな道具ならば回路次第ではここを、最小限の力で吹き飛ばすことができると見て探っている。

 

「ありましたね…え?この袋は…なに?」

「あっ、それは私のお菓子ですよう、くさやチョコレートは私の大好物なのです」

「お菓子…この一大事に、お菓子」

「ふええ…お顔怖いです、それあげますから機嫌直してくださいぃ」

むしゃくしゃしながら包装を解いて口に放り込む。

 

芳醇な香りと強烈なくさやの旨み#/#@☆/&

 

「え?ちょ、ちょっと死神さん!?なんで倒れちゃうんですかぁ…独りぼっち怖いですよぉ…目覚めに効果てき面の、大好物ハバネロフリスクでもあげましょう…」

 

 

 

「ー尋問ーダーリンの最も愛すべき女性は誰ですかー」

「……エメ…」

「ー不正解ー学習機能改善のために薬はお預けですー」

「…そんなもの、いらない」

「ー不可解な因子を検出ー薬が必要ない理由の説明をしなさいー」

「俺は教えてもらったさ、その薬を使うと魔力が無くなっていくことを…」

俺は脱走した後にTC06に捕らえられ、薬を目の前にちらつかせられながら尋問を受けていた。

しかしその薬は、投与するごとに魔力が減るとニコラが言っていたものだ。

このままそれを投与され続けると、ニコラを縛る魔力は消え、恐らくニコラが俺の中から出てきてしまう。

 

魔王を殺すことに何の抵抗も持たなかったニコラを、俺の中から出すのは何としても避けなくてはいけない。

 

体は欲しがっているが、やはりあの薬を受け入れるわけにはいかないのだ。

 

「ー嫉妬ーもう一度薬による調教を開始しますーダーリンの許可は必要ありませんー」

 

そう言うなり、TC06は自らの体内から真っ白に白濁した液体の入った注射器を取り出した。

これまでは半透明の白っぽい液体だったというのに。

 

「ま、待て、TC06、止まれ」

「ー拒否ーダーリンの命令は受け入れませんー」

腕を掴んで注射器の針が近づく。

「やめ…!」

 

 

次の瞬間、俺はひさびさに陽の光を浴びることになる。

 

 

嵐だった。

真っ黒な力が研究所の壁を、天井を、床を引きちぎり、爆発四散させている。

 

「ー緊急防衛策行使ーアトミックバリア及び電子砲を用意しますー」

 

TC06の手から、飛来する瓦礫や吹きすさぶ黒い風から俺と自分を守るための赤いバリアが張られる。

 

間も無くして嵐は止む。

だが、襲撃は終わらない。

 

「死ねぇッ!」

目にも留まらぬ早さでTC06の頭部のバリアを蹴りつけた影が一つ。

 

魔王だった。

 

「エメ!?」

「今助けてあげますからね…ユーリっ!」

 

「ー迎撃ー掃射しますー」

と、TC06は呟いた。

腕を上げ、赤い目で魔王を見据え、そして。

「エメ!何かに隠れて伏せろ!」

「っ!?」

耳を突き破るような銃声。

軌道を外そうと腕を蹴りあげようとしたが、TC06は左腕の圧倒的な膂力で以って俺を押さえ込んでいて、全く動けない。

 

「ーHITを確認ー弾倉を変えますー」

ガコンッ!と弾の入っていた黒い塊を捨てる。

魔王が咄嗟に身を隠した瓦礫の屑からは、肩の白い肌が傷ついているのが見えた。

恐らく魔法で咄嗟に防御陣を組み立てたが、直撃してしまったのだろう。

それでもこの距離でミンチにされなかったのは、単純な魔王の魔法の完成度の賜物だ。

 

「ー第二波ー掃射開始ー」

TC06がもう一度腕を魔王に向ける。

「エメ!来るぞ!」

「ッ!喰らえっ!」

真っ黒な球が瓦礫の壁影から飛び出した。

こちらに直進したソレはバリアに突き刺さった後に、バリアが砕けるのと同時に散る。

「ー損傷軽微ーバリアの破壊を確認ー再構築を最優先としますー」

その言葉を知ってか知らずか、魔王は遮蔽物から飛び出して魔力による青白い剣をぶん投げた。

 

狙うは。

「俺!?」

 

「ー庇護ーダーリンに危険が迫っていますー」

 

魔王の剣をTC06が左腕でガードするのと、TC06の右腕から放たれた銃弾から魔王が身を隠すのはほぼ同時だった。

 

目の前で火花を散らすTC06の腕。

左腕から解放された俺は迷わず叫んだ。

 

「ニコラ!」

辺りが緑色に煌めく。

 

「…はぁ、最後まで私頼りなのね」

「悪いな、でも今は武器が無いんだよ、素手でTC06を破壊しなきゃいけない」

時を止めた瞬間に目の前に出てきたニコラ。

その顔はやけに清々しいものに見えた。

 

「ま、最後くらい好きにするといいわ」

「え?」

「あら?自覚無かったの?私はあなたから、もう自由に離れられるんだけれど?」

「…待て、俺の魔力はもう無いってことか?」

「ええ、でも時間が経てば魔力は回復するわよ、ただ…あの時はたまたま感情の昂りと魔力の発現が重なっただけ…」

「…」

言葉を止めたニコラは俺の元に歩み寄り、金色の時計が付いたネックレスを俺の首にかけた。

そのまま耳元で妖しく囁く。

「この金時計を貴方にあげる、このカウントが0になった時、あなたをまた奪いに来るわ」

「他言無用か?」

「誰に話したって構わないけれど、誰にも私は止められない」

「ずいぶんな自信だな」

 

「ええ、あと5分だけ時間をあげる、それが終わればもう時は止められない、いいわね?」

 

また俺を攫いに来ると言うのなら、このまま無視するのは得策とは言えないだろう。

 

しかし。

今は魔王を助けるのが最優先事項だ。

「ああ…これまでありがとな」

皮肉たっぷりに笑ってやると、ニコラはなぜか頰を赤らめて俯いた。

まさか純粋な感謝に聞こえたのか。

「……お礼はまた今度、たっぷり頂くわ、それじゃ」

 

そのままニコラは大人っぽく笑って、そして。

 

消えた。

 

「っ…こんなもんで、いいか…」

TC06の腕を、魔力を込めた渾身の力で捻じ曲げた。

マトモに弾は撃てないだろう。

緑色の幕が薄れる。

 

 

「ー射出不可ー戦闘続行不可能ー」

腕をぶるぶると震わせた後にうなだれるTC06。

「…?ユーリ?無事ですか…?」

「エメ……ただいま」

ゆっくりと魔王の方へ歩く。

魔王が俺を抱きしめようとこちらへ駆け寄ってくる。

 

「ー嫉妬ー嫉妬ー嫉妬ー嫉妬ー嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬ー」

 

後ろから声が聞こえる。

バタバタとTC06が震える音も。

 

「ー殺害ー私のモノにならないダーリンに存在価値などありませんー殺害を実行しますー」

 

「ユーリ!後ろッ!」

「ー自爆ー共に死にましょうーダーリンー」

 

「ニコ…」

ニコラはもういない。

自分の情けなさに笑えてくる。

 

 

背中が熱い。

いいや、冷たい?

 

分からない。

 

分からないままに、俺はエメを庇って抱きしめた。

 

 

その後、俺の意識は闇に堕ちる。




TC06たんの自爆とニコラの離脱。
色々と失った勇者はどうなってしまうのか?
次回で歯車編は最終回です。
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