ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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魔王を庇ってTC06の愛の自爆を受けた勇者。
果たして…?


歯車の心(その後)

その日の魔王城はいつになく賑やかだった。

と言っても、いつものような城の中の騒乱ではない。

むしろ城内は静まり返っていた。

 

勇者と魔王の寝ている部屋の前で、死神、魔王の妹、魔王の母、そのメイドは一晩中言葉も交わすことなく待っている。

 

二人が目覚めるその時を。

 

「…皆さん、応急処置は終わりました」

扉が開いて、中で二人に約5時間もの間治療を施していたクインが出てくる。

「…お兄ちゃんとお姉ちゃんは?意識は戻ったの?」

「エメちゃん…それにユーリィ君は?容体が安定したら声をかける…そう言ったよね」

「二人とも大切な私の子供なの、助かったわよね…?」

「…」

全員が詰め寄って問いかける中、落ち着いた調子で言葉を放つ。

 

「全員落ち着いて聞いてください、峠は越えましたが二人とも依然として意識は戻りません」

 

少し緊張が緩む。

が、次の一言で全員の顔は青ざめることになる。

 

「ことにユーリィさんは…もしかすると意識が戻らないこともあり得るかもしれません…」

 

 

 

その頃、魔王城の門前に大量の人々が押し寄せていた。

「勇者様は!勇者様はどうなったんですか!?」

「ハルカ!やめなさい!危ないわよ!」

「お嬢さん、悪いがここは誰も通せないんだよ、リザードマンにケンカ売ってその華奢な体傷つく前に帰りな」

「おい、アタシはユーリィに精液をもらったサキュバス盗賊団の団長だ、中に入れてくれ」

「モテてるのは知ってたけど不倫してたのか…魔王様を差し置いてガッツあるな…」

「あら?この額じゃ足りませんこと?なら100万ドレンお支払いしますわ、なんなら系列会社の接待…」

「要りません、いかにミラ=ワイル様でもお通しすることはできないのです」

「僕はヴァール国の国王です!中に入れてください!名前を伝えてくれたら分かってもらえますから!」

「ダメだね、帰んなよ」

「ウホッ♂俺のガチムチボディを見てくれ♂」

「誰がそんなもの見るk…いい身体してるじゃないの♪」

 

勇者とこれまで関わってきた人々が大挙して魔王城に押し寄せてきたのだ。

理由は一つ。

勇者が大怪我を負った、という話が流れてしまったから。

 

 

TC06の自爆は周囲2kmほどに小さなクレーターを残すほどの威力だった。

魔王の咄嗟の魔法により、魔王と勇者にそこまでのダメージはいっていない。

 

しかし即席の防御魔法では防ぎきれない爆風は、勇者と魔王を軽々と吹き飛ばした。

結果、勇者は背中に大火傷、頭や肩、足などを強く打って骨折箇所も多く見られた。

魔王は勇者ほどではないが、そこそこの範囲の火傷を負ってさらにTC06の歯のような鋭い破片がいくつも深く刺さっていた。

サイズが小さく数が多いだけに止血が素早くできず、出血多量の事態に陥った。

 

 

「…しっかし、これだけの人々をただ一人の力で集結させるユーリィ様ってのは…すげぇな」

まだまだ群衆に収まる気配はなかった。

 

 

 

「まず一つ…お二方は魔力酷使によるものか魔力循環に影響が出ています、特にユーリィさんが顕著です」

 

魔力は生き物にとって無くてはならないものだ。

血と同じく、魔力が0に近づくにつれてその生物は死に近づく。

よく食べてよく眠れば回復するが、重大な怪我を負った二人の体に魔力枯渇は笑えないものだ。

 

魔力を消耗する薬を注入され続けた勇者。

暗黒魔法の使用、及び急ぎで魔法を使い続けた魔王。

どちらも魔力が少ないのは当然だ。

 

「次に、ユーリィさんはそういった怪我に加えて頭を強く打ち付けてしまったようです、まだどうなるかは分かりませんが…」

そこで彼女の顔は一層真剣なものになる。

 

 

「二度と目を覚まさない…その覚悟もしておいた方がいいかもしれません」

 

 

死神が摑みかかる。

「ふざけるな…ユーリ君を助けてくれるんじゃなかったの?何でもするし、何でも調達する…だから助けろ」

「…」

「何とか言ったらどうなの…ユーリ君が一大事なんだよ?」

衣服がミリミリと破れそうになるほどに胸ぐらを掴み、睨みつける剣幕に対して、嫌味なほどに落ち着いて答える。

「力技でどうこうできる話ではないでしょう?」

「……ッ」

突き飛ばそうとする手をウルスラが制止する。

「アシン様、ここはこの女に八つ当たりしてもどうにもならないのは本当です」

死神はクインを離した。

震える手で顔を覆う。

「エメちゃんの意識が戻っても…そんな残酷なこと言われたら、辛いに決まってるよ」

壁に頭をもたれて苦しそうにすすり泣く死神。

 

痛々しいその様を見て、誰もが声は出せなかった。

数十分後、泣き続ける死神の肩に手を置いてマリンが声をあげた。

 

「…みんな、とにかく一度落ち着こう?お兄ちゃんの意識は戻らないって断定されたわけでもないし、詳しいことが分かるまで希望は捨てないでおこうよ…」

「…娘の意識が戻ってから押さえつけるのが大変そうね」

 

 

 

「ー起demwーダーリnの存在が確nnできまsんー」

「ー位置情報確nnー機たiの修正を行いますー所要時knは約1年ほどと推測されまsー」

「ー機体修正開始ー待っていてくださiダーリnー」

 

 

「…アンタ、誰だ?アタシは信用できる筋からしか仕事は受けねえのは知ってるだろ」

「ふふ、そう…でもね、貴女が望む物は私がなんでも報酬としてプレゼントしてあげるわ」

「…ウチら暗殺業は高くつく、30万ドレンは支払ってもらわないと一見さんの依頼は断る」

「暗殺ではないのよ、ただ貴女には私の護衛を務めてほしいだけのお話」

「…は?舐めてんなら帰れ、アタシは」

「ここに500万ドレンあります、これでいかが?」

「…?お前、カバンも何も持たずに…懐中時計しか持ってないだろ?その金どこから…どうやって」

「やるのか、やらないのか…どっち?」

「…やります」

「決まりね」




目の覚めない二人。
そこに忍び寄る黒い影がふたつ…次回ニコラ再来編にしようかと思っております。
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