エンザ〜♪
ユーリの目が覚めた。
ニコラの雌犬の手から粉薬と共に帰ってきて、それを飲ませること4日目のある朝…ユーリは起き上がった。
「おはよう、エメ」
ユーリの笑い顔は懐かしくて、眩しくて、愛しくて、可愛くて、何より恋しかった。
「ユーリ…っ!」
そのまま1時間…数時間ほどユーリと抱き合っていた。
それにしても…ニコラの雌犬はなぜユーリを助けて私の元へ返す気になったのだろう。
けれどまあ、考えても分かることではない。
今大事なのはユーリがここに元気でいること、それだけ。
「では魔王様の旦那様の復活を祝して………乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
俺が目覚めた数日後、魔王城の中庭は魔族や人間などの活気に満ちて賑わっていた。
魔族の威勢の良い乾杯からスタートした『復活祭』。
魔族の国の重役や、人間の見慣れた顔ぶれもあった。
魔王たちは俺が目覚めたからといって、前のように無理やり体を求めてきたりはしなかった。
ウルスラが言うには「本当に心配していた」そうだ。
心労からか、魔王は少し痩せたような気もする。
「ユーリ、ぼーっとしてますけど体調は大丈夫ですか?」
「…え?ああ、ごめんな…あははは」
「今日は精のつくものもたくさんあります!週末は遠慮なく絞りますから、しっかり食べて体力を戻してくださいね!」
「お手柔らかに…お願いします」
やっぱりあんまり変わっていないかもしれない。
酒を飲んでいると、後ろから誰かが抱きついてきた。
「ユーリ君…よかった…!」
「アシンさん、お久しぶりですね」
「ずっとずっとずっと寂しかったんだよ…目が覚めてくれなかったらどうしようかと…!」
泣き出してしまったアシンさんをなんとか慰める。
するとそこに魔王が。
「アシちゃん、祝いの席ですから抱きつきと涙は慎んでください」
「エメちゃんこそ…不謹慎な発言をしていたように聞こえたけど?」
「あ、あれは仲睦まじい夫婦の会話です!」
「どうだか…ユーリ君もこの前『エメの腰使いは毎晩毎晩発情した狼みたいで参っちまう』って言ってたよ?」
「そ、そんなこと言ってn」
「………ユーリ、あとでお話ししましょうね?」
「ハルカ、ネミルも久しぶり」
「勇者さ……こんにちは、魔王の旦那様」
「…アンタ、すっかり魔族のカリスマね」
ネミルは相変わらずチクチクした物言いだが、ハルカは少し雰囲気が変わったように感じた。
「……なあ二人とも、ここに来てくれたのはなんでだ?まだ俺の意見には賛同してくれてないみたいだけど…」
「私はいつも通りハルカの付き添いよ」
「…っ」
ハルカは俯いて、絞り出すような声で言った。
「…好きだから…です」
「…」
ハルカが想ってくれているのは嬉しい。
けれど、やはり俺はそれに応えることはできない。
「謝るのは間違ってるわよ」
「…ああ、またな、二人とも…パーティを楽しんで」
今はそうとしか言えない。
いつか俺の夢が叶ったら、そうしたらまた一緒に大事な話をしたいと思う。
「ウルスラ、ちょっといいか?」
食器の片付けをしているウルスラに声をかける。
「はい、何でしょうか」
「ヘイジと…ニコラとかは来てないのか?」
「受付で聞く限りではヘイジ様はヴァール国での重要なご用があるとのことです」
「…そうか、分かった」
離れようとした時、ウルスラが俺のポケットに小さく折り畳まれた紙を入れた。
そのまますれ違いざまに耳打ちされる。
「ニコラ様から預かった物です、絶対にエメラル様に悟られないようにお読みください」
「…ありがとう」
ヴァール国の代表やお偉いさんへの挨拶を終え、しばらく話しているとパーティは終わりを迎えた。
「もう一度…復活バンザーイ!」
そして夜が更ける前にみんな帰って行った。
魔王の意向で、魔族も人間を最寄りの街に送り届けるまで付き添うべし、と命令していたため夜道も危険はないだろう。
帰ってゆく人と魔族の一団を城から眺めて、なんだか夢の実現もそう遠くはないように思えてきた。
魔王の元へ行こうとしたときに、ポケットで何かが乾いた音を立てた。
「ああ、ニコラからの…」
俺をここに返しに来た時に一緒に渡されたのだろう。
扉に耳を当てて、魔王の接近に注意してそれを開く。
ユーリィ・グレイ様へ
お元気ですか?
その後の経過はいかがお過ごしでしょう。
私たちは訳あって、しばらくあなたのお見目麗しいお顔を見ることができなくなってしまいそうです。
というのも、私たち『神』が人間界に干渉し過ぎたことに全能神ピウラー様がお怒りでいらっしゃいます。
私は二次神であるゆえたとえ殺されても消されても構わないですが、なにぶんもう二人は『鉄の神』と『薬の神』です。
神が死ねば、その神が司る物質は消失するか、そうでなくとも変調をきたしてしまいます。
よいお返事を期待しております。
お元気で。
ニコラ
「……!」
これは単なる手紙などではなかった。
ニコラは俺に助けを求めているのだ。
助けるしか道はない。
いいや、彼女は俺を救ってこうなってしまったのだ。
助ける以前に、俺がケリをつけなくてはいけないことだ。
と、そこに誰かがノックを。
「ユーリ…♡一緒にお風呂入りませんか♡」
魔王だ。
扉を開けると、そこには素っ裸の魔王が(ハンド)タオルを胸と腰に辛うじて当てただけで立っていた。
「え…」
「隙ありッ!犯し確定っ♡」
お姫様抱っこされてベッドに連れ込まれた拍子に、服から紙がこぼれ出た。
「…?」
魔王がそれを手に取る。
まずいとは思うが、圧倒的腕力で押さえつけられているためにピクリとも動けない。
「…エメ、それは」
「これを読んで、ユーリはどうするつもりなんですか?」
「…」
「どうせまた…あの女を助けに行く、とか言うのでしょう」
魔王は吐き捨てるように言う。
俺は彼女にも大きな迷惑と心労をかけてしまった。
だから、今回ばかりは無理やり行くこともできない。
話をして納得してもらわなくては。
「そうだ、ニコラは俺を助けてくれたんだ、だから今度は俺が助けてやらなくちゃならないんだ」
「ユーリは一度死の危機に直面したのです、そのすぐ後で神世界までの遠い道のりなんて許すわけにはいきません」
「このままじゃ人間界が!」
「ユーリがもし行きたいとしても、ユーリはもう魔王城から出られません」
「…!」
「これは後で言おうと思っていましたが…ユーリはいつも危険に首を突っ込んで、その結果自分が害を被っている」
「……ごめんな、でも」
「だから私は、ユーリをここから出さないことにしました」
「…」
「私はもう…あなたの傷なんて見たくはありません」
俺は特に抵抗はしなかった。
魔王といつもと同じように愛を語り肌を重ねた。
そして、魔王の寝息が聞こえてしばらく経った深夜3時。
少し外に出ようと城の出口へ向かう。
出口の前にはウルスラが座っていた。
「…そこを通してくれ」
「エメラル様の同伴無しでここから出す訳には参りません」
「通してくれ」
「お断りします、お引取りください」
話にならない…そう思って腰に手を当てる。
するとそこには久々に付けた勇者の剣があった。
ゆっくりとそれを抜く。
「これでも、か?」
「……私は、あなたの数倍は生きています」
「さして実力は変わらないはずだ、それにウルスラはエメも怖くて俺に傷を付けることはできないだろう?」
目の前に剣を出して卑怯な言葉でそそのかす。
どちらが悪者か分からない。
「…見くびらないでいただきたいですね」
「なら…死んでもらうぞ?」
「殺意のない剣になんの意味が、力があるのです?」
するとウルスラは不意に剣の刃を掴み、その手からまばゆい青白い光を放った。
刃の先は綺麗に消滅していた。
「…」
「優しすぎるのも考えものですね」
「……出してくれ」
「…そろそろエメラル様もご起床なされます、お帰りになった方がよいかと」
エメラルの寝顔を眺め、そっと撫でる。
彼女を随分と泣かせてきてしまったのかもしれない。
それでも俺はじっとはしていられない。
困った人を助けるのが勇者だから。
ニコラ、パストス、メデンは囚われてしまった模様。
監禁を抜け出て助けに行くことができるのでしょうか?