聞き入れてくれるのだろうか…。
ハザラの街前。
ワープゾーンの前に俺は立っていた。
あと1時間で開戦になる。
魔王が後ろから抱きついてきた。
「ユーリ、こんな危険なことはやめませんか?」
「…言っただろ、もう決めた」
「彼らは聞く耳を持たないかもしれませんよ」
「だとしても、止めたいんだ」
「ユーリ、何回も言いますが、やはり二人で逃げましょう?それが一番ですから」
魔王は戦争の日が近づくたび、「逃げる」提案をしてきた。ウルスラ達が手配するルートなら安心だそうだ。
もちろん、ずっと断り続けている。
「家臣とかウルスラとかマリンちゃんとか、魔王は置き去りにできるのか?」
「連れていけば…」
「悪いけど、逃げるなら俺は死んだ方がいい」
魔王は苦しそうな顔で笑う。俺はそれを見て、物言いがキツかったと反省する。ただ、謝罪はしない。謝れば魔王はまた逃げ出そうと提案してくるだろうから。
「ユーリ、お願いです」
「…逃げないからな」
「もしも、命が危険なら、迷わず指輪から救難信号を送ってくださいね?絶対、死んではいけませんから」
「…うん、分かってる」
目をそらす。すると魔王は肩を掴み、顔を近づけてくる。
「嘘はいけません」
「…でも、何万人も戦争で死んだらそれこそ、俺は帰る場所が」
「あなたは元勇者である前に私の夫です」
「…」
「今更取り消せはしません、あなたは私を幸せにすることが、一番の仕事なんです!帰る場所は、私の元です!」
そう言い放ったあと、魔王は俺に、軽いキスをした。
「魔王…」
「戦争前に弱気では、すぐに負けてしまいますよ」
にっこり笑って、優しく抱き締めてくる。ぐらぐらと揺れた俺の心を魔王は、抱き締めて固めようとしてくれている。
けれどやはり、ヘイジとネミルとハルカと、俺は戦えそうにはない。
「…ごめん、魔王」
「謝ることではないです、夫の勇気を奮わせるのも奥さんの仕事ですしね♪」
「魔王は怖くないのか?」
「私一人居れば人間界の半分は破壊できます、私はただただユーリが私の元から居なくならないか、それだけ心配なんです」
「強いな、魔王は」
「私もまだまだ未熟ですけどね、戦争での貸しはベッドの中で返してもらいます」
「…」
戦争よりベッドの中の魔王が恐ろしい。
あと10分で開戦。
魔王は俺から離れた位置に行った。刺激しては危険だから、らしい。
「ユーリィ様」
ウルスラが声をかけてきた。なんかクマすごい。あと若干不機嫌?
「な、なんだ?」
「戦争が終わったら、部屋の配置を変えてください」
「あー…うん」
「それと、エメラル様の口はきちんと塞いでください」
「あの…それって…」
「アンアン聞こえてくるので」
「わ、わかりました…」
なるほど。日に日にウルスラが不機嫌になっていったのはそういうことか。悪いことした。割とマジで。
「エメラル様より、ユーリィ様の護衛を任されました」
「え?別にいらないけど…」
「戦場の真ん中に立っているようなものなのですから、説得できないのならばすぐに諦め退却させるように、とも言われました」
言われてみればウルスラはいつもの鎧と剣ではない、魔力の循環量が多いのだろう。青黒い魔力が揺らめく、どこか恐ろしく、美しい鎧と剣を差していた。
「綺麗だな、その鎧」
「…ユーリィ様、エメラル様にまた擦りむけるまでされたいのd」
「なんで知ってんの!?」
「え…そんなに激しいんですか…?」
引かれた。カマかけたのか。結構のん気だなあ。本当に戦争前なのかってくらいだ。
そこで、重苦しい音が聞こえた。
ワープゾーンの扉が開いたのだ。
俺は彼らが出てきて、前進を始める前に声を上げる。
「ヴァール国の兵士たち!傭兵たち!聞いてくれ!」
全員武器を手にしたまま、戸惑っている。
「あなたたちにだって家族が!恋人がいるだろう!
魔族だって、みんな同じなんだ!
それをむざむざ戦争で、仲を引き裂いて、馬鹿馬鹿しいだろ!?
こんなこと、やめよう!
君たちも魔族とコミュニケーションを取ればわかる!
古くから魔族を崇める風習のあった場所の人々ならばわかるはずだ!彼らも俺らも変わらないことを!
まだやり直せる!剣を引け!
今一度話し合おう!」
その瞬間、ごく小さな光球が空気を裂く音を響かせ飛んできた。
ウルスラが素早く前に出て剣で弾き飛ばす。
「私たちを裏切って、何を言ってるの!?」
ネミルだ。俺たちのパーティの乗り物だった馬車に乗り、こちらに叫んでいる。
「み、みなさん!勇者様はきっと洗脳されただけです!殺さないでください!」
ハルカだ。戦士たちに叫んでいる。
そしてむっつりと前線で黙り込んでいるヘイジ。じっと腕を組み、目を閉じている。
「わかってくれないのなら…!もう止めようがないんだ!」
「ユーリィ様、退却です」
「まだ、終わってない」
「てっぽう、とやらに撃たれては元も子もありません」
「でも…」
「現に彼らはてっぽうの準備を始めました、逃げましょう」
ウルスラが俺の手を握る。そのまま転移魔法を詠唱する。
ネミルが叫び、火球を飛ばしてくる。あの弾速では転移魔法の発動に間に合わないだろう。
やはり俺は、もう勇者じゃないのか。
ウルスラが、小さな声で。
「…理想は素敵だと思いますよ、私は」
俺は、魔族に生まれるべきだったのかもしれない。
その数分後、俺が説得を試みたその場所で、人間と魔族の血生臭い戦いが、始まっていた。
やはり説得できず…。
ウルスラ寝床変えてくれそうでよかったネ!
バトルは初めてだからうまく書けないかも…?(元からうまくない