しかし今回は…?
ダークエルフ本陣
仮眠室にて
「ぅあ…?」
股間が痛い。あ、これはヤられたな。
すぐ気づくのも感覚ズレてるなあとは思う。
「ユーリ、起きましたか♪」
魔王はツヤツヤでめちゃ嬉しそう。
…待てよ。なんだこの夫婦の朝みたいな光景。
「あのさ、ここ、戦場だよね?」
「そうですけど、人間雑魚過ぎますし」
戦わないと。
あれ?体が動かない。というより、動けない。
「おい!魔王!なんだこの手錠!?」
「ご飯できました!あ、それ、ユーリがコソ泥に連れて行かれたら困るので付けました」
「…」
どうやら外す気は無いようだ。
まだ戦争中なのに、戦場で戦わないのはさすがに申し訳ない。
魔王が楽しそうに近づいてくる。
「精力満タンになるザクリの実も入れましたよ、はい、あーん♪」
ずいとご飯を近づけてくる。たぶん米と炊き込んだのだろうが、ザクリの実とかいうもののせいで、米がどす黒くなっている。
言っては悪いが、まずそう。
「い、いや、食欲ないかr」
「あーん」
どうしても食べさせたいらしい。
「…」
恥ずかしいので迷う素振りを見せていると、魔王は自分で食べてしまった。うん。食べなくて済んだ。と、思ったら。
「ユーリぃ、あーんしてくだひゃい…」
「ま、魔王!?」
キスしてきた。ただのキスじゃない。キスしたまま魔王の口で噛んだ米を流し込まれ、俺の口の中の米を舌でかき集め、また噛む。飲み込むまでずっとしていた。
辺りにぐちゅぐちゅと水音が鳴り出したので最早おかゆのそれを飲み込む。
「ぷはっ!はぁ、はぁ…」
「ユーリ、美味しかったですか?」
「味なんか分かるわけないだろ!」
「じゃあもう一回♪」
それは困る。
「お、美味しかったよ!うん!さすが魔王の手作り!」
「そうですか!じゃあもう一回!」
避けられないやつですね。ハイ。
スープを魔王の口と俺の口で移し合いしていると、ウルスラが血相変えて飛び込んできた。
「エメラルさ…ま……」
蕩けた顔の魔王は俺の口にスープを流し込むと、ウルスラの方を向いた。
「んぷっ…ウルスラ、どうしました?」
「…お邪魔ですけど人間側から降伏状が届きました」
「やった!私とユーリの愛の力で勝ちました!」
「それで、開戦したハザラの街にて降伏調印式を開く、と」
魔王はしばし考えた様子だった。あまりにあっけないからか。
「ふぅむ…降伏調印式でユーリに口移ししてたらダメですk」
「ダメです」
全然戦争のこと考えてなかった。
「ユーリはここで休んでいてくださいね」
「俺も行く…」
「今ユーリィ様が出ても、話が面倒になるだけですので」
「…」
置いてかれた。
手錠そのままだし!
やることもないので眠ろうと目を閉じる。
「だ、誰か!いるなら助けてくれ!」
ドタバタとした音が聞こえる。そして女性の声も。
ダークエルフではないことは確か。もうこの本陣は畳むとウルスラが言っていた。
そして、俺の寝る部屋の扉が開く。
「あんた…は…?」
そこには女騎士が立っていた。
鎧もボロボロ。ブーツも焦げた跡があり、剣も差していない。そして身体は傷だらけ。まさに落ち武者、といったところだ。
「勇者ユーリィ・グレイ…?」
「その鎧は…王宮騎士か?」
俺の顔を見たとたん、後ろに下がろうとしてコケた。
「…この辺りはまだ魔物が多いから、ここで休んでいた方がいい」
「ふざけるな、あんたは裏切り者だと上官も仰っていた」
「治療くらいはする」
手を伸ばし、腕に触れた。さっと引っ込められる。
「殺すなら、辱める前にさっさと殺せ!」
「そんなつもりじゃない、俺は本当に治したいだけだ」
こちらを睨んでいる。しかし、出て行かないあたり表に出る恐怖心とそれだけの傷があることは分かる。
「…触るぞ」
少し触れ、治癒魔法を使う。
女騎士は少し驚いたようだが、動かないのか動きたくないのか、じっとしていた。
「あんた、人間を裏切ったんだろ?」
女騎士が俯いたまま口を開く。
「そう…なるかな」
「曖昧な返事だな」
「俺は共存社会を築きたいと思って、それを始めやすいのが魔族サイドからだったってことだ」
「魔王と結ばれるためにこちらへ来たって噂もあるぞ」
「それは、違うな」
鎧の内側の傷を見る。
そこで俺は気づいた。自然に戦ってできるような傷ではないと。
「…この、傷」
「そうだな、王宮から再三にわたって勧告、来てたろ?」
「…!」
「私としても馬鹿正直で素直過ぎるあんたを殺したくなんてない」
ゆっくりと、ナイフを懐から取り出す。
「なら、殺さないでいいだろ」
「そうはいかない、上官…いや、お上からの命令なのさ、降伏調印式に乗じてのあんたの暗殺は」
「…」
「武装してりゃ、私が瀕死にされて大人しく帰れたかもしれないと思ったが、その手錠、あの魔王にでも付けられたか?」
「やめてくれ、いがみ合う魔族と人間に未来はない、その架け橋になる俺が居なくなれば、もう二度とこの望みが叶うチャンスは無くなるんだ!」
「…命令、なのさ」
女騎士は俺の胸にナイフを突き刺す。熱く、鋭い痛みが頭を突き抜けるような感覚を覚える。
俺は、指輪を使わなかった。調印式の邪魔はしたくない。何より、俺にナイフを向けたこの女騎士を、魔王は殺すだろう。
それは嫌だ。俺を守るために、なぜ人間が死なないといけないのか。暗くなる意識に、女騎士の声が響く。
「…ごめん、私も、あんたは刺したくなかった」
仕方がない、その言葉も出てこない。
「私の名前は、エレナ・ヴァイシュ、いつでも呪いに来いよ、な」
「ま…おう…ごめ…ん…な…」
それだけ言って、俺の意識は闇に落ちた。
ユーリィ死の危険!?
魔族ではなく人間側が卑怯な作戦に出ましたね。
ひとまずここで大戦は終わり…?