戦争はどうなったのか?
夢を見た。
ネミルと、ヘイジと、ハルカと、そして俺の四人でキャンプしていた時の思い出の夢だ。
「…いよいよ魔王に近づいてきたでござるな」
「ん?ヘイジ、もしかして緊張してんの?元から魔王には近づいて来たじゃない」
「わかりますよ、私も」
「みんな心配性ねー…勇者はどうなの?」
「俺?」
「リーダーなんだから、駆け抜ける作戦もあんたが考えたし」
「そう、だな…」
俺は、これが夢だと分かっている。だから、一つだけ試してみた。
「魔物と人の、共存ができたらいいよな」
そう言うと、みんなは驚いた顔をした。やがて、悲しそうに微笑み、みんな、おれの元から離れて行った。
そして夢が覚めた。
胸が痛い。
どうやら魔王の部屋のベッドのようだ。
ふと胸を見る。包帯が巻いてあり、上半身を起こしただけで激痛が走った。かなり深い傷だったのだろうか。
がちゃり、と扉が開く音がした。
「…ユーリ?」
「あ、魔王、おはy」
言い切る前に、魔王は駆け寄って来て、抱きしめられた。
「ユーリ!なんで、もっと早く目を覚まさなかったんですか!」
「…ご、ごめん」
俯いて謝る。が、胸ぐらを掴まれ、魔王の顔を見せられる。
「謝って何になるんですか!?もう少し傷が深ければ、内臓に達していたかもしれないんですよ!」
そんな乱暴にされたらかなり痛い。けど言えない。
魔王は涙を目にいっぱい溜めて、今にも溢れそうだった。
「ほ、本当にごめん、魔王」
震える手が、俺の服を離した。
「…なんで、すぐに指輪を使わなかったんですか」
本当のことを言えば、魔王はきっと「エレナ・ヴァイシュ」と名乗った女騎士を殺しに行く。
それどころか人間自体を滅ぼすかもしれない。
「その、不意打ちで、刺されて」
「壁を背にして不意打ち、ですか?」
「…眠ってたんだよ」
「けれど、意識を失うまでの時間に救援信号くらい送れたはずです」
ダメだ。誤魔化せそうにはない。
「…ごめんな」
魔王はじっと俺を見る。とても暗い目だ。これまで見たこともないほどに。目から、ついに涙が溢れる。
「ユーリ、あなたに、何かあったら私は…!」
「…ごめんな、本当にごめん」
ひとしきり俺の腕の中で泣いた後、魔王は俺を強く掴んで、言った。
「ユーリ、やはりあなたは外に出してはいけない人です」
「…え?」
「ここで、私とずっと暮らしましょう?それがお互いのためです」
嫌だ。そう言って逃してもらえるとはとても思えない。
「嫌だ、俺は外に出たい」
そう言った瞬間、頰を叩かれた。
「ユーリ!どこまで私を苦しませたら気が済むんですか!?」
苦しませる。そんなこと、考えたこともなかった。
「俺は、別に…」
「こんなに愛してるのに、なんで死のうとするんですか!ずっとあなたを安全な場で愛でたい、それだけのこともいけないんですか!?」
「…」
「黙ってないで、何か言ったらどうですか…?」
重い空気だ。
しばらく見つめ合い、両方が俯く。
その時、扉が開く。
「…お兄ちゃん、やほー」
マリンちゃんだ。小さな羽と尻尾が生えている。成長…?
「マリン、何の用ですか?」
「…お姉ちゃん、そうやって突っ走るからお兄ちゃんは焦るんだよ」
「どういう意味ですか?」
「…はぁ、お兄ちゃんを手中に収めるなんて、無理だよ」
「そんなことッ!」
「…お姉ちゃんが自分の思い通りになるようなお婿さんを望んでるなら、きっとお兄ちゃんは運命の人じゃないよ」
「何が言いたいんですか?」
「…お姉ちゃん、もうちょっと、愛し方考えた方がいいよ」
そう言い残し、マリンちゃんは出て行った。
そしてまた、沈黙。
「ご飯、作ってきますね」
「…ごめんな」
「謝らないでください」
すたすたと出て行く。
自分の情けなさが恥ずかしい。なぜもっと魔王に、安心させられるようなことが言えないのか。
「ん…」
いつの間にか眠っていたらしい。
魔王が部屋を出てもう4時間経って、すっかり夜だ。
もしかして、俺が寝ているのを見て起こさずにいてくれたのかもしれない。
「腹減ったな…」
痛みを堪えてゆっくり外に歩く。
廊下に人の気配はない。
ウルスラはいるのだろうか。
食堂から、二人の声がした。
「ユーリ…ユーリが死んじゃうかと思って…」
「…お姉ちゃん、何回その話するの?」
「それだけのことだからです…」
どうやら酒を飲んだ魔王がマリンちゃんにクダを巻いているようだ。
「…お姉ちゃん、もう寝よ、ね?」
「ユーリが寝てる間にいなくなったら、どうするんですかぁ!?」
真っ赤な顔で喚いてはごろごろとしている。
ラチがあかないので食堂に入る。
「ま、魔王、その、ごめn」
「ユーリ!」
ぱっと飛びつかれる。
マリンちゃんがやっと解放されたと言わんばかりにため息をつく。
「マリンちゃん、ごめんな」
「…お兄ちゃん、気をつけてね」
「え?」
「酒に酔ったお姉ちゃん、手が付けられないから」
それだけ言い残してマリンちゃんはとたとた自分の部屋に帰って行った。なんだ?
その時、背後から声が。
「既成事実、作ったらユーリと一緒にいられるって、薄い本に書いてありました♪」
ゆっくりと、俺の身体に手が回される。
「寂しかった分、穴埋めしましょうね!」
酒のおかげで魔王は少し元気になった。代償は大きいけど。
あと、ウルスラはぐっすり眠れたそうだ。
そして次の日、食堂にこびりついた謎の汚れのシミ抜きにとても苦労したらしい。
やっぱり入ってくるエ□。
そんなこんなで魔界大戦ひとまず終了?
次回で調印の取り決めとかを説明するつもりです。