ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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初のヘイジ視点!
新婚旅行でヤりまくってる間に、人間たちはある計画を立てていました。


新婚旅行(その6)

ベリ村

重苦しい空気。

ネミル殿とハルカ殿が静かに、しかし互いに苛立ちを隠せずにいるような口調で言い争っていた。

「だから、勇者の声だったの、絶対に」

「そんなわけないでしょう?なぜ魔王は勇者様を洗脳して、側に置ける状況を作ったというのに人間界に連れてくる必要があるのですか」

「で、でも確かに、昨日のご飯屋さんで隣の座敷から聞こえたし…」

「勇者様のことを忘れられないのは私たち3人とも同じです、だからこうしてパーティを解散せずにいる、だからといって都合のいい妄想はやめてください」

「妄想じゃ…ない…」

我々3人は勇者殿の捜索、奪還のために世界各地を訪ね、対抗策を練ることにした。それを決めたのはつい先日。

そしてベリ村。明日はここから港町へ向かう予定である。

しかし、ある問題が発生した。

ネミル殿は、昨日、ご飯を食べに入った店の隣の部屋から魔王とみられる女らしき声と、勇者殿のそれとを聞いたと言う。

ハルカ殿は、それを絶対に違うと言い張っている。

論理的に考えて、勇者殿が人間界にまた来る確率は0%に等しい。それに加えて、ネミル殿は我々人間との接触を毛嫌いしていた魔王の存在も主張している。

ありえない。

その一言に尽きる。

けれど、もしも本当ならば、ここで何とかせねば勇者殿を取り戻すチャンスはこの先無きに等しい。

その迷いが、我々の決断を鈍らせていた。

「…ヘイジ、あんた最近黙りこくってるけど、何とか言ったらどうなの?」

ネミル殿がこちらを睨む。

「ヘイジさんに当たってはいけません、素直に心の弱さから生まれた非を認めるべきです」

ハルカ殿は何とか言いくるめて一刻も早く先に進みたいようだ。

二人の気持ちは痛いほど分かる。決断を中々下せないのもわかる。

ならば、年長者である自分がまとめるべきだろう。

「お二人とも、ここは宿屋でござる、あまり声を荒らげてはならぬ」

「仕方ないでしょ?ハルカが信じないのが悪いし」

「ヘイジさん、今は論点が違います、大切なのは」

まるで聞く気がない。

「もしも、勇者殿がいるのなら、変装しなければすぐに正体が露見してしまうであろう」

「そんなことはわかります」

「それも普通の変装では恐らく、魔界と人間界を繋ぐ門で捕らえられるでござる、ということは、魔法なのでは?」

「ですが、変装魔法を使ってまで人間界に来る意味は無いでしょう」

「大事なのは、あの情報が本当かどうか、でござろう」

ネミル殿に意見を求める。しかし、若干俯いて、目を合わせない。

「でも、確かめようがない、魔法の有無を一目で見極められるほど私は経験を積んだわけじゃないし」

そして、またも沈黙。

重い空気に耐えかねたのか、ハルカ殿がある提案をした。

「とりあえず、今からそれぞれ散って探索しましょう、有力な情報が手に入ればなにか考えも浮かぶかもしれません」

 

昼という時間帯も相まって、村の中には多く人がいた。

この中から一人を探し出すのは至難の技。宿に泊まっている夫婦ということを考慮しても、だ。

そして、彼の名「ユーリィ・グレイ」はそう珍しい名ではない。ユーリィもグレイも一般的な名と姓だ。勇者殿も偽名を使うだろう。

自分が色々と考えて歩いている間に、前を見ていなかった。人とぶつかってしまった。

その男性は腰を痛めているようで、ぐらりと体を揺らして壁に手をつく。

「す、すまぬ」

「気にしないで…くれ」

「すまない、もしよければ肩を貸す」

「ありがと…さん」

手を差し出す。その男と目が合う。

青色の目。自分のよく知る目。

今思えば、この時、彼と道でぶつからなければ、永遠に勇者殿と巡り合うことは無かっただろう。

その男は、目が合った瞬間に体を震わせた。

「…っ!」

「…人違いかもしれぬが、お主は」

そこまで言うと、その先を遮るように男は言った。

「さ、先を急ぐ、それでは」

その声は、自分のよく知る声。

「…待たれよ」

止まらない。ふらふらと安定しない足取りで歩いて行く。

ここで止めなければ、手がかりも何も無く終わる。その焦りが、自分を騎士道に反した行為に走らせた。

刀を向ける。

「止まらなければ、斬る」

「…何の用だ、人違いだろ」

後ろを向いたまま、勇者殿の声で話す。

問うべきことは山ほどある。何から聞くか、とりあえず連行するか、考えをまとめていた。

その時だった。

「私のユーリに、何をしてるんですか?」

背後の声。

女の声。

自分は、これまでにないほど緊張していた時間でも、その者の接近に気付けなかった。

「何者、だ」

「答える義理はないですね」

次の瞬間、大きな音と、激しい痛みが腹を襲った。

「ッ!?」

燃える槍のようなものが、稲妻をまとわせて腹を貫いていた。

恐ろしい。ここまでの恐怖は、どの魔物にも感じたことはなかった。

「さて、次はどこに風穴を開けますかね?」

「エメ!やめろ!」

その男、いや、勇者殿が、背後の者と言い争う声が聞こえる。

「ユーリ!しかし!」

「こいつは、俺の…」

そこで、自分の意識は途切れた。

 

もしもあれが本当に勇者殿であるのならば、願わくば無事でいてほしい。彼が生きて、人間界にいるならば狙わぬはずがない。国も、民も、仲間たちも。

その全てに引っ張られ、その全てが争う姿を見た彼は、己の身を引き裂いてしまうだろう。彼は優しい。優しすぎるから。

 

その時自分は何一つ分かっていなかった。そこから始まる悲劇を。




ついに正体がバレた…?
無事に帰れるのだろうか勇者たち!
次の次くらいから新婚旅行のクライマックスが始まります!
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