ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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牢に入れられた勇者。
そこに見知った顔が…?
魔王はどうやって勇者を見つけ出すのでしょうか。


新婚旅行(その8)

「いてて…」

拘束の時の傷が痛む。

あれから5日経った。俺には一ヶ月経っていると言われても納得できるくらい気の遠くなるような時間だ。

俺は暗く、寒く、一人が入るにはだだっ広すぎる牢屋に入れられていた。

魔王はどうしているのか。

どうやら外では俺は今、貴族たちによって裁判にかけられているということになっているらしい。

被告のいない裁判。ろくに俺たちパーティを援助してもくれなかった貴族たちは、恐らく、今回の件を国民に広く知られる前に処分したがっているだろう。

そうでなくとも、魔族の側に付いたと思われている俺は殺した方が早い。

死罪、それしかない。もう望みは絶たれた。

よほど俺が暗い顔をしていたのだろう。女看守が声をかけてきた。

「まだ、その…死罪が決まったわけじゃないじゃないか、な?」

「…ありがとな」

 

エレナ・ヴァイシュ

魔界大戦の最後の最後に、俺を刺した女騎士。

しかし、俺が牢屋にいる間に、看守としての規則を破ってまで話し相手になって、外の情報も、時間も教えてくれた。

彼女は俺を刺したことに罪悪感を持っていた。

そして、王国騎士団の中では唯一俺に傷を負わせた者として、対勇者人員としての信用から、ここの看守を任された。

いわば彼女はこの最悪の状況下で信用できる人間ということだ。

しかし、さすがに彼女もここの鍵は持っていないらしい。恐らく王宮金庫に入っていると言っていた。

どのみち出られはしない。

が、この死ぬほど退屈で、不安な生活をしていられるのも彼女と話すことができるからだ。

俺も、魔王を本当に愛している旨を伝えた。すると呆れ顔でだが、納得してくれたようだ。

 

「なぁ、何かないのか?外の、魔王らしき情報は」

「さぁな、私もここに缶詰めなのさ、一日1時間程度の休憩でやっとこさ情報を手に入れてるってだけだしな」

「ごめんな、俺のせいで」

「仕事だ、それにお前は私のことを気にする余裕も無いだろう」

そして、沈黙。辛い。魔王は、俺の命を盾にした人間に殺されているかもしれない。それだけは、嫌だ。

「魔王…」

「…ずいぶん惚れ込んでるな」

「ああ、この前も話しただろ?力こそあるけど、本当はただの女の子なんだよ、魔族もみんな、人と同じさ」

そう言うと、彼女は少し迷うような仕草を見せた後に、俺の目をまっすぐ見据え、言った。

「あのさ、私でも、魔界に暮らせるか?」

「え?」

牢の重い扉を警戒して近づき、俺に耳打ちしてきた。

「…私は、貴族たちの操り人形としての騎士など望んではいない、叶うならばお前と魔王と共に魔界に亡命したいと思っている」

「…!」

俺の驚いた顔を見ると、ばつが悪そうに下を向き、問いかけてきた。

「どうなんだ?」

「できるさ、俺と魔王が無事でこの国から出られたらな」

「…なら、これまで以上に情報収集を急ぐ、待っていろ」

彼女はその話を聞いてから、とても楽しそうだった。

珍しい人間もいるものだ。と思って気付いた。俺はすっかり人間達から見れば、魔族サイドなのだと。

 

?時間後

声で目が覚める。

「おい、起きろ、おい」

「…ん?」

いつの間にか眠っていた。

俺をエレナがゆすり起こしたのだ。

「なんだ?今何時だ?」

「いいから、これを読め、魔王は生きているぞ」

「…!」

彼女は新聞を丸めて牢の中に入れてくれた。騎士の稽古場で拾ったもののようだ。

そこには、俺の望まなかった展開と、俺の望んだそれとが、両方書いてあった。

 

ネジール社発行新聞「わーるど」

ヴァール暦14年9月17日号

 

謎の連続殺人事件及び連続監獄襲撃事件の被害者150人超える

 

9月に入り、貴族のディーガ家、ベジズン家など、勇者裁判に関わるとみられる貴族邸が襲撃を受けた。

館の使用人は魔法で眠らされたとみられていて、警備兵及び、当主は皆一様に首を乱暴にねじ切られて殺害されていた。

専門家によると、刃物など道具によるものではなく、加害者が純粋に腕力と握力のみに頼って、首を切れるまでねじったようだ。

その犠牲者は80人にのぼると言う。

また、それとほぼ同時期に始まった、同一犯によるものとみられる監獄襲撃事件は、激化する一方だ。

最初に襲撃を受けたグレシン監獄では、牢屋に手を加えた様子は一切無く、中にいた受刑者の供述によれば、反抗した兵士は、光の球で頭を丸ごと燃やされていたそうだ。

そしてシルエットから女と見られる犯人は、その燃える兵士を片手で掴み、ゆっくりと牢屋の中を炎の光で照らして観察していたそうだ。

グレシン監獄、ゼリアス監獄、ナバールデッサ監獄合わせ、78人の兵が犠牲となる凄惨な事件であった。

一部の噂では、これは勇者を解放すべきだという少数派団体によるものではないかという話も囁かれているが、目撃者は一様に「一人で犯行していた」と証言する。

何とも不可解で恐ろしい事件ではあるが、民間人に被害は今のところ出ていない。

犯人の一刻も早い逮捕を期待している。

 

 

読み終えて、しばらくの間俺は何も言えなかった。

魔王が俺を探している。そのために158人もの人々が犠牲となってしまった。

「…どうだ?」

「このままじゃ、騎士も兵隊も全員殺されてしまう、止めないといけない」

「かといって、ここから出る方法はまだないんだぞ?」

「いや、ある、多少危険だし、あんたの協力も得ないといけないし、間抜けな作戦だけどな」

「私は構わないさ、このまま犠牲者が増えるのも忍びない」

「なら、決まりだ、脱出しよう」

 

その晩、激しく後悔することになるのをエレナはまだ知らない。




まさかの魔王覚醒…。
5日間で150人強を殺害するとは恐るべし。
勇者はいかにして脱出するのか…?
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