ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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エレナの逃亡の便宜を図ることと引き換えに脱出計画を練る勇者。
果たしてどうなるのか…?


新婚旅行(その9)

牢の中、エレナに毛布と紙と鉛筆をもらった。

「それで、ここから出るのにはどうするつもりだ?」

「まずは魔王の虐殺を止める、そのあとに魔王を呼んでここから出て、さっさと魔界に帰る」

「確かに魔王ほどの者なら破れるかもしれないが…私に魔王をここまで連れて来れるとは思えない」

「ああ、魔王を止めるにはそれ相応の力を持った人が必要になる、その人達に連絡を取るんだ」

怪訝な顔だ。訳がわからないのも無理はない。

騎士生活の中で、魔王に匹敵するのは勇者ただ一人、そう言われてきたのだろう。

俺は交信魔法でウルスラとマリンちゃんに今起きていることを伝え、魔王を止めてもらう。

二人が束になれば流石の魔王も話くらい聞くだろう。

幸い交信魔法に必要な素材は分かっている。ただ、一つ問題があるとすれば、エレナがそれを集められるかどうか。

「必要なものがあるのか?私も何か手伝うが」

「…わかった、大変だろうけどこれを集めてきてくれ」

そう言って紙に素材を書く。

 

・スカート

・女物の下着

・毛皮のコート

・経血

・飴

・育毛剤(薬草、薬品どちらでも)

・羊羹

・短剣

・魚の刺身

・目玉焼き(キジ)

・金属(なんでもいい)40g

・羽毛布団

 

「はい、これ」

紙を渡す。

それを見たエレナは、なんだかとても反応に困る顔で。

「あの、な、性癖にとやかく言うあれじゃないんだが…」

「本当に必要なんです!お願いします!」

そう、材料が特殊なのだ。これを女性に頼んで持ってきてもらうのは非常に気がひける。

「血は分かるけど、このコートとか羽毛布団ってバッチリ防寒用具だろ!牢屋寒いのは分かるけどこんな大事な時に書くな!」

えらくご立腹だ。必要なのに…。

「頼むよ、何も言わずに用意してくれ」

「…待ってろ」

渋々ながらも引き受けてくれたようだ。よかった。

俺に変態のレッテルが貼られたのは悔しいが。

 

?日後

「ほら、エンシ屋の羊羹と、ネジ40gちょっと、これでいいだろ?」

体感的には3日ほどだろうか。全ての素材が集まった。

「ありがとう!これで魔法ができる!」

「な、なあ、本当に性癖じゃないよな?くだらんことをしたら吹っ飛ばすからな?」

エレナは自分の服とかを見て心配そうにしている。俺ってそんなに信用ないのか…。

「離れててくれよ、ガタガタの魔法だから、失敗したらかなり危険かもしれない」

「平気なんだろうな、それ」

「ま、キジの目玉焼きが破れなければ大丈夫だ」

素材を相手に交信魔法を詠唱する。

配置は完璧。魔力コントロールを上手くできれば、すぐに連絡できるはず。

…と、思ったのだが。

どたん、という音に振り返る。

エレナが腰を抜かしていた。

「お、おいお前!何してんだ!」

「え?」

上を見る。そこには謎のワープゲートみたいなものが。

「あー…なんか扉開いたかも」

「早く閉じろ!」

「いや、もしかすると牢屋から出られる可能性も0じゃない」

ワープゲートに近づく。

次の瞬間。

「あわわっ!なんですかこの穴は!」

ぶかぶかの魔女の帽子をかぶった小さな女の子が降ってきて、キジの目玉焼きを思いっきり潰す。

「め、目玉焼きがぁ!」

卵の白身だらけになった、見覚えのあるその女の子は俺の顔を見て、言った。

「わ、私の大人ボディを顕現させて、素っ裸をジロジロ見てきたユーリさんじゃないですかぁ!」

顔を真っ赤にして叫ぶ。

「なんだよそれ!言いがかりだよ!」

まずい。エレナにこれ以上変な誤解をされないためにも、ここできちんと言い訳しておかないと。

「…いや、あのな、勇者だからって、そういうのは…」

手遅れでした。

 

クインちゃん。よりにもよって、クインちゃん(卵の白身付き)と牢屋に突っ込まれた。

「絶望的じゃないか…」

どーんと落ち込んだ俺に、二人は何やらおろおろしている。

仕方がない。面倒だけど事情を話そう。

 

「へー、大変ですねぇ…」

完全に他人事だ。

「いや、クインちゃんも同じような状況だからね?」

「こ、この子が366歳?信じられない…」

「ま、それはある」

そう言ったら、クインちゃんに足を蹴られた。

「もう裸は見せませんからね」

こんなことだから誤解が重なりまくるんだ。

「ここから出たかったのになぁ、クインちゃんじゃ頼りにならない」

そう言うとムッとして。

「ふん、出してあげようと思ったのに、そんな態度ならいいですよーだ」

一応伝説の魔術師だけあって、抜ける術はあるらしい。

「ごめんなさいすみませんでした」

そう言うと仁王立ちして。

「ふふふ、跪くのですっ」

なんか楽しそうだ。能天気にも程がある。

そのやり取りを見ていたエレナはさっさと済ませたいのか、若干苛立ったような口調で。

「で?どうやって出るんだ?」

「銀時計でユーリさんを子供にしたら出られると思いますよ」

牢屋の鉄格子は縦だ。確かに今のクインちゃんより少し、子供に戻れば抜けられないことはないだろうが…。

「さ、銀時計を持つのです!」

不安しかない。俺はここで操作ミスとかで赤ん坊になるのなんてまっぴら御免だ。

「…今失礼なこと考えませんでしたか?」

「な、なにもっ!」

「まぁいいですよ、じゃ、いきまーす」

体が縮む。縮んで縮んで、4歳ほどか。エレナの腰程度の背丈で止まった。

「するっと出られましたね!」

「やれやれ…」

そしてそこから今の年齢に戻る。

「よし、じゃあここからは私が逃亡を先導する」

剣に手を当てる。

「いや、いい、そこまでしてもらわなくても俺が戦うからさ」

「牢屋暮らしでは腕も鈍るだろう」

「わ、私だって国一個くらいまだまだ潰せます!」

一人スケールが違うが、まあいいや。

そんなこんなで脱出はできた。あとは、魔王に会うだけだ。

 

そのころ

ヴァール強制収監所

血の海の中を、一人女が歩く。

「ユーリ…いるなら返事してくださいよ…」

涙が一滴、二滴、どんどん溢れてくる。

「私、ユーリがいないと、我慢できないんです、こんなことをしてしまう私を、嫌ってたっていい、ただ会いたいだけなんです…」

隅っこで震える兵士を、魔法で眠らせる。

「ユーリの言うことは守ってます、歯向かう人しか殺してません、なのに、なんでまだ会えないんですか…?」

その魔王は、石の壁を殴り抜いて、すすり泣きながら去って行った。




まさかのクインちゃん登場!
無事脱出した勇者は、生きていられるのでしょうか(主に魔王の慰めで)。
エレナたんマジ優秀。

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