ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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ウルスラ回です。
彼女はいかにしてここまできたのか…。


メイドの経歴

400年前(10歳)

「ウルスラ、こちらにおいで」

「何ですか?お母様」

「今日も魔法の練習をしますよ」

「…お母様、もう私の友達は誰も魔法の練習なんてしていませんよ」

「いいえ、魔法は貴族の嗜みです、前も話したでしょう?私たちのご先祖様は貴族だったのです」

「けれど、今はただのダークエルフの一族ですし、役に立つこともないのではないですか?」

「貴族は、たとえ今は違うとしても、剣術、魔法、礼儀、作法、この4つはマスターしておかねばなりません」

「…」

「さ、魔法の練習です、返事は?」

「…はい」

 

350年前(60歳)

「…あなたは、剣術も礼儀作法もとても美しいし、魔力の質も素晴らしいものなのに、魔法だけは上達しませんね」

「…ごめんなさい」

「お茶を飲む仕草のように丁寧に魔力を束ねればよいのです、もう一度」

「はい」

「出だしは完璧です、ただ、恐らくその青い魔力は何か特別なのでしょう」

「特別、ですか?」

「ええ、その魔力はとても濃縮されているのです、それを還元して扱う過程で何か問題が起きているのです」

「魔力が、濃縮?」

「私の魔力を見てください、薄い水色でしょう?」

「はい」

「これのとても濃い青色を持ったあなたは、魔力の扱い方さえ覚えれば人よりずっと強力な魔法を使うことができるでしょう」

「でも、もう自信が…ありません」

「大丈夫、反復練習が大切なんです、さあもう一度、残像の魔法から復習しますよ」

「…はい」

 

330年前(80歳)

「今日は少し魔法のノリがいいようですね、これならもうすぐ使えるようになるでしょう」

「はい!」

「少しずつですが、成長しています」

「あ、お母様、どなたかいらっしゃいました」

「…?本当ですね、今日は誰も予定は無かったはずですが…少し出てきます、練習しておいてください」

「はい」

「どなたですか…!?ま、待ちなさい!家に入らないで!あなた達は何者ですか!?」

「黙れ、この辺りで黒魔法の再興を狙うダークエルフがいると聞いたんだ、というわけであんたを、殺す」

「お母様?」

「おい、娘がいるぞ、あいつも殺せ!」

「ウルスラ!逃げなさい!」

「お、お母様…その血、は…!?」

「早く、逃げなさい!こんな薄汚れたメイジ共に捕まるなら、一人でも生き抜くのです!」

「お母様はどうするのですか!?」

「私は…」

「うるさい、騒がれたら困るんだよ」

「ぐッ…!」

「お母様!」

「悪く思うな、お嬢ちゃん、俺たち魔術研究族のメンツが潰れる前に、早めに始末しないといけないんだ」

「痛っ…!やめてください!」

「ウルスラ!逃げて!」

「さっさと、死ね!」

「お母様…!今、助けますから!」

「ウルスラ、張り合う必要は…!?」

「っ!?なんだ、青い魔力!?」

「う、嘘だろ、ダリンの貴族でもあるまいし」

「退却だ!どのみちこのダークエルフは死ぬ!」

「逃がさない!お母様に、手を出したら許しません!」

「な…、何だ?体が…無くなる?溶けてるのか!?」

「魔力に呑まれる!助けて…くれ!誰か!」

「うるさい!消えろッ!」

「誰…か…助け…」

「ウルスラ…」

「お母様!今、治癒魔法を…」

「無駄です、あなたの魔力は何かを生み出すことには長けていませんから」

「どういうことですか?」

「あなたの魔力で、さきほどの二人は溶けました、あなたの力は消滅させることが本来の力なのです、貴族の魔力を色濃く受け継いだ、その魔力は」

「ですが…お母様が…!」

「どのみちこの先長くはないのです」

「嫌です!まだ…まだ!」

「静かに、いいですか?ここからあなたは一人です」

「そんなの…」

「一人で、何かやりたいことを見つけ、一つのことを大切にする、それが一番重要です」

「…」

「それと、その血を絶やさないこと、です」

「私は、ほとんど男性と関わったことはないんですよ?」

「私が居なくとも、それくらいは学ぶものです、いいですね?」

「ですが」

「返事は?」

「…はい」

「いい子です、それでこそ貴族…の末裔…です」

「お母様?」

「あなたは、私の自慢の娘です、ありがとう…」

「お母様…!お母様!返事してください!お母様!」

 

300年前(110歳)

「ねえ、そこのあなた」

「…?私ですか?」

「ええ、昨日からこの辺りに座り込んでて、気になったものだから」

「ご迷惑でした、か?」

「いいえ、その格好からして、ダークエルフでしょう?なぜ村から離れた魔王城の方へ来たの?」

「少し、職を失いまして、放浪しているところです」

「…ふむ、いい働き先を知ってるわ♪」

「何処ですか?」

「ここ、よ♪」

「え?」

「私の娘の教育係として、メイドになってもらうわ、貴族の嗜み4つをご存知?」

「剣術、礼儀、作法、魔法ですか?」

「育ちがいいのね♪尚更気に入ったわ、さ、来なさい♪」

「…はい!」

 

現在

「エレナ!剣の振りが弱い!」

「す、すみません!」

「今日はここまで、私の部屋を片付けてください」

「また本とか溜め込んでるんですか?」

「何か問題でも?」

「まお…エメラル様からの休暇許可もおりているなら男の人探しに旅に出たらいいじゃないですか」

「…話せないんです」

「ゆうし…ユーリィ様とは普通に話せるのにですか?」

「ユーリィ様は、ご主人様ですから…」

「なら、ユーリィ様に直接男嫌いの治療を手助けしてくれるように言ってきます!」

「ひ、必要ないです!掃除してください!」

「でも」

「返事はなんですか?」

「…はい」

 

貴族の嗜みは、きちんとできました。お母様の教えてくださった通りに、貴族の誇りを胸に、生きています。

けれど、一つだけ、できていないこと。

男の人と話すのにも苦労してしまいます。

お母様、お父様はどんな人だったのですか?あの忙しい日々では聞けませんでしたが、お父様のことを何回も考えました。

お父様がいたなら、男の人が苦手なのも克服できたかもしれない、と思ってしまいます。

ずっと後になるかもしれませんが、天国でお話聞かせてください。

私は今、とても楽しいです。お母様のおかげです。

本当に、ありがとうございます。




ウルスラも中々辛い日々を過ごしたのですねー。
さて、次は誰の経歴を書こうかな…。

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