ヘイジと会って話すことになるのですが…。
「ありがとうございます!魔王様!」
エルフ達が口々に魔王に礼を言っている。
魔王城付近は山、川、海、平地、色々な場所がある。魔王はその中のだだっ広い平地に家を建てさせ、エルフ達はそこに移り住んだ。
今では俺と魔王はエルフ族の救世主のような扱いだ。
「この辺りは好きにして頂いて構いません、耕すのなら道具は貸しますし、動物もある程度の支援は致します、私も人間達に一刻も早く人間界に皆さんが戻れるよう、尽力します!」
歓声が起こる。
魔王もエルフ達の信頼を得ることができてかなりご満悦のようだ。
「さ、ユーリ、行きましょうか」
一回りエルフに挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。
普通のホロ馬車だ。今日はどうしてもお忍びで行かなければならない場所がある。
「なあ、魔王、本当に付いてくるのか?」
「当たり前です、なにかあったらどうするのですか?」
この前ヘイジからもらった手紙には「返事は無用」と書いてあったが、一応エルフ達を移住させた旨を伝えた。
すると、ヘイジから感謝の言葉と、話し合いたいと書いてある手紙が送られてきた。
それを魔王に言うと「私がユーリを守ります」とか「ユーリはいつも私を置いて行きます」とか言って、わざわざハザラの街まで付いてくるらしい。
否定できないので、大人しく許可した。
がたがた揺れる馬車で、俺たちは互いに寄り添っていた。
「ユーリ、もしそのヘイジ?とか言う男の話が本当なら、また戦争が始まりますよ」
魔王が手を握ってくる。
優しく握り返してやった。
「ヘイジは実直な仲間だ、嘘はつかないさ、それに、たとえ戦争になっても俺はエメから離れない」
「…ずっと、一緒に居られますか?」
「ああ、死ぬまでな」
そこから1時間ほど、俺と魔王は何も喋らず、ただ互いの肌の温もりを感じていた。
ハザラの街
「ユーリ、帰りにちょっとあのお店寄っていいですか?」
「ああいういかがわしいお香屋はダメだ」
「…ケチですね」
「当たり前だろ!?絶対媚薬目当てだろ!」
「そ、そんなわけないでしょう」
市を二人で言い争って歩く。変装中なので、ほぼ確実に正体はバレはしないだろう。
と、立ち止まって魔王が指を指す。
「ユーリ、あそこですか?」
「ああ」
その先にあるのは古びた喫茶店だ。
扉を押し、静かな中に入る。
「…お久しぶりでござるな、ユーリ殿」
ハーピーらしき店員に連れられた席に、いつもと変わらぬ鎧姿のヘイジがいた。
「ああ、ごめんな、遅れて」
「何の、気にしておらぬ、それと、そちらの方は?」
完全に魔王を訝しんでいる。まあ当たり前だが。
「どうも、魔王兼ユーリィ・グレイの妻、デラルス・エメラルです」
その言葉に少し驚いたようだ。
「…お久しぶり、でござる」
「…?会ったことありました?」
一応最初に魔王城に乗り込んだ時、顔は合わせているが、魔王は全く覚えていないようだ。
頼んだ飲み物が届くまでは、終始近辺報告をした。
「お待たせしました、コーヒーと魔界糖芋ケーキです」
ハーピーらしき店員がケーキとコーヒーカップをテーブルに置き、去って行く。
無邪気にケーキを頬張る魔王をよそに、話は始まった。
「まず、人間側の情報を話してよろしいか」
「頼む」
「先日の手紙に書いた、武装強化と教育の改革による徹底的な反魔界体制、着実に効果を発揮しているでござる」
「効果?」
「子供達は剣の稽古に、銃の扱い方、魔物に侵攻された歴史と人類の偉大さ、こういったことばかり教え込まれているのでござる」
「ただ、そうすぐには効果はないだろ?」
「仰る通り、ただ、どちらかといえば、軍隊の方が顕著に権力も軍事力も増し、もうじき魔界制圧隊が組まれるという噂でござる」
「魔界制圧隊?」
「50〜80人で組織される、魔界侵攻のための軍隊でござるな、こやつらは銀の武器を支給され、鉄砲の実践教育など、惜しみない援助を与えられた、いわばエリートの中のエリートでござる」
「でも、50人?80人?精鋭かもしれないが、やけに人数が少なくないか?」
「魔界に大勢で攻め入っても負けるだけ、これは先の大戦で学んだことの一つであると」
「作戦とかは?分かるか?」
「詳しいことはわからぬが、ヴァール王子も直々にその隊に御入隊なさるという噂もあるでござる」
ヴァール王子。まだ年端もいかない子供(13)のはずだ。彼が殺されれば、確かに大戦はすぐに終わるだろう。しかし、恐らく彼は摂政に踊らされているだけだ。
「なぁ、止められないか?」
ヘイジはじっと目を伏せる。彼も俺と同じく、ヴァール王子の身を不憫に思っているのだろう。
「…もう、無理でござる」
隣の魔王も、いつの間にやら真剣な顔つきになっていた。
「なら、こちらから出向きますか?そうすれば簡単に壊滅させられますし…」
「いいや、そんなことをすれば人間界の城下町が戦場になる、そうなれば今度は人間が大勢死んでしまう」
「やはりそちらが迎え撃つ方が、貴族のプライドを砕くためにも有効であろう」
しばしの沈黙。
「勇者殿、手伝えることがあれば言って下され、こちらも情報が入り次第そちらに密告する」
ヘイジが立ち上がった。もう帰るようだ。
「ああ、ごめんな、何も進展がなかった」
席から離れる時、ヘイジは俺に、周りには見えないようにメモを渡してきた。
「…お二方、身辺にはお気をつけを、暗殺者が来ないとも限らぬのでな」
誰かに尾けられていることを警戒しているのだろう。
「ああ、ありがとうな」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、それでは、さらばでござる」
帰りの馬車。
「ユーリ、そのメモは何ですか?」
「今開く」
ユーリィ殿へ
暗殺者派遣の日は近いでござる。これはもう決まったこと。
恐らくネミル殿やハルカ殿が、5、6名から構成される暗殺部隊に紛れて、ユーリィ殿を連れ返そうとしてくるであろう。くれぐれも、お気をつけを。
「…よくできた仲間ですね」
魔王ですらも呆れたような顔をしている。
「はは、だろ?」
いい友を持ったと思う。
「…あのさ」
俺の心を読んだように、魔王が口を開く。
「心配しなくても、ユーリは私が守りますし、怪我を負わせない内は殺しはしません」
「…ありがとう、でも俺は、一人でもいい」
「ダメです、ユーリは、私の夫なんですから、私と一緒に居なくてはいけないんです」
肩を掴まれ、キスされる。いつものキスとは違い、優しいキスだ。
「ごめんな、いつも迷惑かけて」
「構いませんよ、ユーリのための苦労なら、どんな苦痛も受け入れられます」
夕日を浴びてにっこり笑う、可愛らしい妻の顔に、俺はまた惚れ直してしまった気がした。
戦争前かもなのにラブラブの二人。
そしてヘイジは早死にしそうなくらいええ奴や…。