ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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ついにシリアス…?


城の異変(前編)

「ユーリ、今日一緒に寝ません?」

「どうせ夜這いに来るだろ…」

「人間の夫婦は寝室を共にするものらしいですよ!」

 

魔王がいつにもましてくっついてくる。最近はトイレに入っても外で音を聞いている始末(この前トイレで襲われた)。

 

「あのな、そんなに依存してたら俺、逃げるぞ?」

「えっ…ゆ、ユーリは私を愛してますよね?愛してるから結婚したんですよね?」

「…これからどうなるかな」

「ごめんなさい!嫌わないでください!」

すがりついてくる。

しかもついでに色々と触られている。

「あーもう!俺は寝るからな!」

「ちょ、ちょっと!ユーリ!今日はシないんですか?5時間くらいシてないからムラムラしてるんですよぅ!」

無視して扉を閉めて、鍵をかける。

「ううう…今なら怒らないから開けてくださいよう」

扉が叩かれる。

次は蹴られる。

人くらいなら殺せるような強さの蹴りだ。

蹴破れない(特殊合金製)と分かったのか、しばらくすると静かになった。

扉も少しへこんでるし。

電気を落として、ベッドに寝転ぶ。

「…トイレ行くか」

 

魔王のいない夜は久しぶりだ。

いたらいたで、腰が砕けそうになるほどヤられるが、いないと中々寂しい…俺は何を考えてるんだ。

トイレの扉を開ける。

 

そこに、見慣れない人間がいた。

 

「…!貴様、ユーリィ・グレイか…?」

「あんたこそ、何者だ?」

真っ黒な装束。男とも女とも付かない声。

暗殺者。

ヘイジの手紙の言葉が脳裏によぎる。

「騒がなければ、殺さない」

「こちとら殺されるのはごめんだ!」

携帯している勇者の剣を抜く。

相手も少し怯んだようだ。

「…」

無言で向こうも短剣を構える。

音を立てないためか、向こうから攻撃はしてこない。

 

妙だ。

これまでの勘からして、戦わない理由は降参するか、騙しているか、援軍などの勝算があるか。

剣を持つ姿勢が崩れないあたり、降参でないのは明らかだ。

そして会話もない。騙してもいないだろう。

ならば。

「暗殺者のチームは5〜6人、だろ?」

「静かにしなければ、殺す」

その目がこちらを睨む。

 

その時。

廊下で何かが破裂するような音が聞こえた。

「…動くな」

こちらに短剣を向けたままゆっくりと扉の外を見る。

その暗殺者は、俺の目の前から消えた。

首から廊下に引きずり出されたのだ。

「ぎッ…ぎゃああああああ!!」

水っぽい音と、先ほどの暗殺者の男(?)の悲鳴が聞こえた。

恐る恐る外に出る。

「ユーリ!怪我は無いですか!?」

魔王が飛びついてくる。とりあえず抱きしめはした。

 

そこに広がる光景に目を奪われて、言葉は返せなかった。

 

内側から破裂したであろう人間の肉片。

喉を突かれ、首に穴の空いた先ほどの暗殺者。

その二人の死体を蹴って廊下の端に寄せるウルスラ。

 

「…え、エメ」

思わず尻餅をついてしまう。

「ユーリ!どこか痛みますか?すぐ治します!」

「ちがう、なんだよ、これ」

「クインちゃんの言っていた暗殺者でしょうね、私たちの愛の巣に入り込む不届き者は、殺されても文句は言えないでしょう?」

死体の手を踵で踏み潰す。

その躊躇いのない動作に、思わず。

「やめてくれ!同じ人間なんだ!」

言ってから気づいた。

彼女たちにとって、俺たちは全く『同じ人間』などではないことを。

「ユーリ、彼らは私たちを殺そうとしたんですよ?」

「でも、こんな酷いやり方…」

思わず目をそらす。

 

こんなことなら、最初からトイレから出て来るべきではなかったのかもしれない。

 

目を背けた時に、俺はウルスラの肩越しに見てしまったのだ。

昔の仲間たちが、こちらに来るのを。

「勇者様…!」

「ハルカ…ネミル…」

ウルスラがゆっくりと振り向く。

魔王は俺の前に立つ。

 

「魔王!やめてくれ!俺の仲間なんだ!」

「仲間?違いますよ、侵入者です、私からユーリを奪おうとする、ただの雌豚」

押しのけようと腕を触った瞬間、静電気のような感覚が走った。

 

圧倒的な魔力。

魔王の体に張り巡らされたおびただしい量の魔力が、俺の指を弾いたのだ。

ウルスラは向かって来る二人に、青い剣を向ける。

「喰らえっ!最大火力!」

「エメラル様!下がってください!」

ネミルの詠唱を聞いて、すぐにわかった。

 

『女神の光』

ネミルが遺跡を探索して見つけた、究極魔法。

その光に呑まれた物は、何もかも消え失せるという、魔王に対しての切り札としての魔法だった。

代償に、それを使えば魔力は激減し、回復するまで一人では歩くことも困難になる。

 

ネミルが叫ぶ。

「浄化せよ!女神の光!」

その太い光線は、ウルスラと魔王を貫くように一直線に飛ぶ。

「ウルスラ、あなたが下がりなさい」

「エメラル様、しかし」

「あなたがここでヘマしては困ります」

魔王はウルスラを優しく光線の軌道から押しのける。

 

 

光は、魔王に当たり、そして。

 

 

「なんですかこれ?お粗末な魔法ですね」

「だから私でも止められると申しましたよ…」

 

消えた。

 

「え…?」

ハルカが固まる。

ネミルは魔力を失い、倒れる。

 

「お気に入りの服が少し焦げちゃいましたよ」

「エメラル様、後で私が修繕しますから」

「でも革も使ってますよ?」

「大丈夫です」

呑気な会話。

ハルカは完全に放心状態だ。

「ハルカ!ネミルを連れて逃げろ!」

俺の言葉で、ハルカはばね仕掛けのようにネミルを抱えて走り出す。

しかし、その道は魔王が小さく何かを詠唱することによって、大きな樹が生えて塞がれる。

「おっと…逃げないでくださいよ」

「ひッ…!」

ハルカは恐怖からか固まっている。

 

その顔は、これまで見た、魔王に襲われた人々と同じだった。

 

「エメ、頼むから、見逃してくれ」

「いくらユーリの頼みでも、ダメです」

「お願いだ、なんでもするから!」

すがりつく。が、優しく引き剥がされる。

「殺しますよ、それが報いというものでしょう?」

「…させないぞ」

俺は転移魔法を詠唱した。

ガタガタの詠唱だ。

だから、どこに飛ぶかわからない。

それしか希望はない。

もちろん海の底に飛ぶ可能性もあるけれど。

 

「エメラル様!ユーリィ様を止め…!」

「…ウルスラ、放っておきなさい」

「ですが…」

「呪印はきちんと付けました」

「呪印…ですか」

 

転移魔法の光が二人を包む中、少しだけ話せた。

「頼む、もうここに来ないでくれ!」

ハルカは最後に何か叫んだ。

それは、呪印を植え付け、満足した魔王を怒らせるのには十分だった。

「私、ずっと、勇者様を愛してました!」

 

そして、消えた。

 

 

「…ごめんな、俺はエメを、愛してる」

誰もいないその空間に呟く。

 

「ユーリ、お話があります」

魔王に囁かれる。

 

話はまだ、終わっていない。




奪回はまたも失敗…。
後編に続きます。
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