その後どうなる?
扉がノックされる。
「ユーリ?あの…ご飯を持ってきたんですけど…」
魔王の声だ。珍しく泣きそうな震え声。
「いらないから」
「…昨日も、食べてないじゃないですか」
「俺はエメが、あの3人の殺害を謝罪して、きちんと埋葬しない限りは何もしてもらう気にはなれない」
扉がミシリ、と歪む。
「ふざけないでくださいよ!部屋に閉じこもって、過ぎたことをネチネチ言って!」
「過ぎたこと!?何様だよ!俺も彼らも、同じ人間なんだぞ!」
「ユーリ、何度言えばわかるんですか?ああしなければ、殺されたんですよ!」
今でも目を閉じたら思い出す。
死体の散乱した廊下。
無造作に投げ捨てられるバラバラ死体。
「疲れましたね」と笑いかける魔王。
「殺されるかもしれないけど、やり方があっただろ!なんですぐに殺したんだよ…」
扉の外で、かちゃん、と音がした。
「ご飯、置いておきます、食べてくださいよ?もう3食も抜いて、死んでしまっては私は…」
「もう、いいから、あんな死体見て食えるわけないだろ」
「…拗ねたユーリは、あんまり好きじゃないです」
あくまで自分の好き嫌いに判断を委ねる。
その物言いに、ついに俺の中で何かが切れた。
「どうせエメなら、俺だって簡単に殺せるだろ?嫌いならさっさと殺せばいいじゃないか!」
ガンッ!と扉が叩かれる。
「ユーリ、その冗談は、笑えませんよ」
「…死んだって、笑って捨てるだろ?あの三人みたいに」
「やめて…」
「俺も死んでいいと思ってるから、あんなことを」
「もうやめてください!」
魔王が涙声で叫ぶ。
そして、しばらく二人とも黙っていた。
「開けてください」
「嫌だ」
「開けなくても、私ならこじ開けられます」
「それをしたなら俺は自殺する」
「…ユーリ、顔を見せてくださいよ、ユーリのいない毎日なんて私にとっては」
「うるさい!謝れよ!あの三人に!そうやって好き勝手するエメのせいで命を落とした、あの三人に!」
「全てユーリのためです!あの女たちだって、私が呪印を付けなければついて行ったんじゃないですか!?」
「そんなわけッ…!待て、呪印?」
「…隠しても仕方ないから言います、ユーリに呪印を付けました、私が望めばいつでも連絡を取り、位置が分かり、行動を制限できる、首輪の呪印を」
「…エメ!何を勝手に!」
「勝手なのはユーリでしょう!?他の女と話したり告白されたり、見るだけで腹わたが煮えくり返るような思いをしたんですよ!」
「そうやって独占なんかするのは」
「間違ってません!愛するユーリを誰にも渡さない、殺させはしません、そのための呪印です!」
「もう嫌だ!俺はお前の束縛なんかうんざりなんだよ!愛って大義名分を振りかざして暴れて!」
がちゃん!と音が聞こえた。
何かが割れるような音。
恐らく食事の乗った盆を壁だか床に叩きつけたのだろう。
「開けます、離れてください」
「嫌だ、何かしたら俺はここで首を切る」
「許しません、例え黒魔術を使ってでも蘇らせます」
特殊合金の扉が、ミシミシと音立てて軋む。
俺は、勇者の剣を手に取る。
バキン!と扉が割れる。
「ユーリ、剣から手を離して」
魔王だ。
寝不足なのか、泣きすぎなのか、目は真っ赤に腫れていて、ふらふらしている。
「嫌だ、近づくな」
首に剣を当てる。
もしも、魔王がこちらに無理やり来るならば、本当に首を掻っ切るつもりだった。
魔王は、足を止めない。
「ユーリ、馬鹿な真似はやめてください」
「うるさい」
「剣を置いてください」
「うるさい!」
「…首輪の呪印を、使いますよ」
魔王の手から細く、赤い魔力の糸が伸びて俺の首に繋がる。
「やめろ、そんなことしても、無駄だ」
しかし、段々と剣を持つ手から力が抜けるのは分かった。
このままでは、魔王の思うつぼだ。
やるしかない。
「…もう、限界だよ」
「こっちのセリフです」
「時間切れだ、エメ」
そして俺は、全力で剣を引く。
魔王は呪印から感じたのか、首輪のリードを引く。
「ユーリ!」
熱い感覚が首を襲う。
もう間に合わない。
俺の意識はそこで途切れる。
今まで殺した魔物も、みんなこう思ったのだろうか。
生きたかった、と。
勇者…まさかの死亡…?
今更ヤンデレっぽくなった魔王。
勇者を失った魔王は、どうするのだろう。