早速連れ去られ…!?
朝ごはんを食べる。
ごく普通の日常で行うことだ。
いただきます、と言う。
これもまた同じ。
時を止められて誘拐される。
これは、ほぼありえない。
ただ、ほぼありえないことに自分が出会わないとは限らない。
俺のように。
「…おはよう、気分は?体調とか、平気?」
思わずスープの入ったスプーンを落とした。
お城でご飯を食べていて、そこから一瞬で外に吹雪の吹きすさぶ、ログハウスに攫われたのなら仕方ないだろう。
しかも、見たことないような美人のお姉さんに至近距離で見つめられていたのなら。
「…あんた、は?」
「怖がらせちゃった、かな、私はニコラ、あなたが大好きな、ただの神様」
落ち着いた調子で答える。
しかし、言っていることはどうかしている。
「エメの言っていた神様?」
「ニコラ、でいい、そ、神様、あなたと一緒に暮らしたくて、時を止めて攫ってきた」
「俺をどうする気だ?」
「私はあなたが好きなの、同棲しようよ」
無表情で、しかし少しだけ口元を緩め、頰を染め、落ち着いた口調で優しく話す。
見た目は20代くらいか。
とにかく、彼女にはとてもよく似合う話し方だ。
魔王の可愛さではない。もっと、美しい、という言い方の方が似合う女性。
魔王と出会う前の俺なら、喜んで受けていただろう。
しかし、今俺の愛する女性は、魔王だけだ。
「…ごめん、ニコラのお願いは聞けないんだ」
すると、少し表情が固くなる。
「聞くとか、聞かないとかじゃないの、あなたはここから出られないから」
「え?」
「外はブリザードだよ、止むことのないブリザード」
確かに窓からは、暗い空に雪がものすごいスピードで流れる様子が見られる。
「監禁でもするつもりか?」
「悪い言い方をするなら、そう」
途端に怒りが湧いてきた。
愛する人と引き離され、自分が好きだから監禁する、それは自分にとって同棲だから構わない。
勝手な言い分だ。
「ふざけるなよ、俺はエメを愛してるんだ」
「ふざけてなんかない…私は神になってから、ずーっと一人ぼっちで愛する人もいなくて、辛かった」
「同情でもしてほしいのか?」
「同情でも構わない、一緒にいて、私の愛を受け止めてくれるなら」
まっすぐ見つめて、言われる。
「…認めない」
そう言うと、ニコラはキッチンの方へ行ってしまった。
紅茶が置かれる。
「欲しいものなら、私が何でも創るし、食べたいものも、したいことも、何だってあげるからね」
後ろから頭を撫でられ、手を回される。
俺は、それを叩いて拒絶した。
「…やめろ」
「…痛い、なんで叩くの?」
「俺はエメが好きで、あんたは眼中に無いからだ」
「手を繋ぐのは?」
「嫌だ」
「ハグ」
「嫌だ」
「キス」
「嫌だ」
「夜の営み」
「嫌だ」
言い終えると、黙って別室へ行ってしまった。
紅茶を飲む。
飲んでしばらくすると、眠くなってきた。
「っ…薬?朝から眠くなる、なんて…」
紅茶に薬を入れられたのだろうか。
しかし、出られない環境で俺を眠らせて何になるのか。
机の上でうとうとしていると、後ろから声をかけられた。
「眠いの?」
「放っておいてくれ」
それだけ絞り出す。
今にも眠りそうな、強烈な眠気だ。
「眠いなら、私のベッドまで運ぶよ」
「必要ない」
しかし、体が動かないばかりに簡単に担がれ、別室のベッドに寝かされる。
「おやすみなさい」
俺の上に覆いかぶさり、髪を撫でている。
俺はそれを見て、しかし眠気のせいで何も言うことはできなかった。
目を覚ますと、何か柔らかい感触があった。
「…?」
隣に目を向ける。
ほんの数cmほどの距離にニコラの顔があった。
「お前っ…!」
抱きしめられているのだ。
ふにふにした感触と、いい香りがふんわり漂ってくる。
「…おはよう」
「離れろ、俺に触るな」
できるだけ強い口調で言う。
しかし、少し厳しい目になっただけだ。
「嫌、私の愛を受け止めてよ」
「俺は嫌だって言ってるだろ?あんたの愛なんてこれっぽっちも欲しくはないんだよ」
「いいよ、何年も暮らせば、きっとあの女より私の方がいいって分かるから」
「…俺は今も、これからもずっとエメを愛してる」
「なら、別に体を交わしてもいいじゃない、愛してるのが変わらないなら、私の自己満足だけ助けてよ」
「嫌だ!離れろよ!」
「…痛い目みないと、分からないかな?」
「望むところだ、そんなの」
「わかった」
ニコラは少し笑った。
その時の、冷たい目を俺は忘れないだろう。
いちゃいちゃにしか見えない勇者とニコラ。
次回はお仕置き?それとも、拷問?
ニコラたんは魔王よりずっと色っぽいけど、ぼんやりしたお姉さんな感じです。