痛い目に合わされるそうですが…?
「私、あの女とは違って、性欲はそんなに強くはないけど、あなただったら、いくらでも食べられるよ」
何かを準備して、縛られた俺に声をかける。
何が起きているのか。
昨日ニコラに挑発と反抗しまくった結果、痛い目、とやらに遭わされるらしい。
「おい、やるならさっさとしろ」
「怒らないで、もう準備できたから」
ニコラがゆっくりと長身をこちらへ運んでくる。
手には注射器。
中には何かの液体がたっぷり入っている。
「…何だよ、それ」
「ん…、自白剤、みたいな、心を曝け出させるお薬、ちょっと魔力で改良した、けど」
自白剤。
その言葉に身体が震える。
「それを打ったって、俺はエメ一筋だぞ」
「何かを自白させるわけじゃない、あなたの深層に、私を刷り込むだけだから」
腕に針が刺さって、たっぷりと注射される。
「おやすみ」
「誰が…眠るか…」
しばらく後、俺の意識は段々と薄れる。
目の前がボヤけ、頭が痛くなる。
喉が乾く。
そんなことより、眠い。
いいや、怖い。
感情すらもよく分からなくなり、俺は、人形になった。
「ユーリィ?聞こえるかな?」
「…?なんだ、ニコラか、エメかと思った…」
魔王に会いたい。
意識はピンボケしたようなものだが、それでも魔王に会いたい、その気持ちは残っていた。
「…」
胸が蹴られる。
それも、息ができなくなるほどの強さで。
「ごぼッ…!げほっ、がはッ!」
「あの女の名前を、出すな、わかった?」
「ニコラの言うことを聞く必要がどこに…」
顔を殴られる。
これもかなりの強さで。
「ぐっ…!?」
「あなたの名前は?」
「ゆ、ユーリィ・グレイ、昔は勇者って言われてたけど、今はエメの夫で」
首を絞められる。
「学習、しないね…?」
「かッ…はっ…ぐ、るし…イっ…」
このままでは死ぬ。
が、俺の意思に反して、体は鉛のようだ。
「…あなたの、想い人を聞かれたなら、エメとは答えないと誓えるかな?」
「わッ、が…った…からっ…!」
手が離される。
「よしよし、よく言えました」
頭をなでられた。俺はいいことをしたのか?
「私もね、こんなことしたくないの」
「…じゃあ、しなきゃいいだろ」
「生意気だね…でも、それでもあの女のことを言わなくなれば、私はそれで満足できる、今のところは」
「…ニコラ、悪いけど、エメのことは忘れない」
つい、口が滑った。
さっき誓ったのは嘘だ。こう言わなければ殺されてしまうから。
だから俺は、魔王のことを心にいつも留めようと、ただ思っていただけなのに、自白剤のせいだ。
「あのね、あなた、まだ私が何を望んでいるか分からないかな?」
余計なことは言わない。
そう思っているのに。
「エメのこと、忘れろってんだろ?できるわけない」
その言葉に、ニコラは。
「…チッ」
心底憎々しそうに、舌打ちした。
そして、次に気づいた時。
俺はただひたすら謝っていた。
「ごめんなさい…殴らないでください…もう言いません…」
「…ホントにわかってるのかな?」
体がズキズキ痛む。
殴られ、蹴られしたのだろう。
「もう、彼女の話はしません…お願いします」
怖い。
さっきまであんなに反抗していたのに、それが俺の中で打って変わって、恐怖に変わった。
そして、抱きしめられる。
柔らかい胸に顔を埋める。
「それでこそ、あなた、あなたには私しか救いはいないよ?外に出られない、ここであなたが私を拒絶したら、傷が増えるだけだよ?わかった?」
「ごめんなさい…これからはニコラだけを見てます…」
こんなの嘘だ。
けれど、口に出ない。
出せない。
自白剤が切れたのか。
それとも、もしも、本当に心を屈服させられてしまったなら。
もしそうなら、どうやって生きていけばいい?
「あなたには、私しかいない、私を頼れば、どんな物でもプレゼントしてあげるから」
蕩けた顔で、唇が近づく。
キスを求められる。
それが拒絶できない。
そして、その日、初めて俺はニコラとキスをした。
不思議と、安心感が湧いていた。
「いい子…」
何回も唇を甘噛みされ、ベッドの上で、もつれる男女。
先ほどからキスしかしていない。
けれど、気持ちがいい。
ニコラがキスを求めるたび、俺は使命感にかられる。
恐怖からか、それとも…?
「私だけ、ずっと頼ればいいんだよ…?愛を、無限の愛を君にあげるからさ…」
洗脳…。
魔王早く助けに来ないと、廃人になってしまう…(廃人にするつもりないけど)。