ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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監禁された勇者。
勇者を脳から変えようとするニコラ。
愛する勇者を取り返そうと突き進む魔王。

今全てが集結し…?

思ったより長くなったクリスマス編ですが、もうそろそろ完結となります。


勇者の覚醒(その5)

「んぐッ…ふぅ、はァ…♡」

もうどれだけ経っただろう。

俺はここのところ、毎日洗脳剤漬けにされていた。

 

愛を耳元で、眠る間もなく囁かれる。

手を互いに縛り、離れられないまま一日過ごす。

急に殴られ、蹴られ、半日間暴力を振るわれる。

かと思えば、別人のように愛される。

 

ニコラは俺が疲弊し、何も喋らなくなると、ベッドで俺の体を触り、撫で、嗅ぎ、俺がたまに漏らす声を聞いては満足そうにしていた。

何が目的なのか。

「っ…ニコラ、俺を、どうする気だ」

「やっと、喋ってくれたね」

目元が嬉しそうに細まる。

「目的がわからない、俺を従えても、意味がない、それに愛を受け止めることは、ただ暴力を振るわれて黙っていることとは違うだろ?」

ニコラはやや低いトーンになって答える。

「…で?それがなんd」

 

しかし、途中で、遮られた。

何に?

稲妻だった。

金色の稲妻が、ログハウスを引き裂いてニコラを吹き飛ばしたのだった。

「…なに、が、起きた…?」

呆気に取られている場合ではない。

ただ、慢性的な暴力、精神の摩耗、ニコラへの恐怖から、何も考えられず、動くことなどできなかった。

「ユーリ!いますか!?」

稲妻が飛んできた方に、声が。

それは、俺の愛する人。

「エメ!」

ベッドから降り、着の身着のままでブリザードの中へ駆け出す。

ここから逃げられる。

 

それだけで、俺の足は動き続けるはずだった。

 

手足から伸びた糸が、俺を引かなければ。

「なん…だ…?」

傀儡。

魔王が言っていた。

ニコラは傀儡を通して、気にいる人を見つける、と。

俺は、傀儡にされた。

その名の通り、操り人形のように、いや、もっと乱暴に引きずられる。

「あなた…は…私のもの…」

ニコラは服こそズタズタに裂けていたが、その肌には何一つ傷はついていなかった。

「ユーリ、掌握されてはいけません、その女が利用するのは恐怖、快楽、その二つであなたの精神を蝕み、糸を引きちぎる力さえ奪っているのです!」

「黙れ…くそッ、なんであなたは私から離れる…!また半殺しにされないと分からないかなぁ…ッ!?」

その言葉を聞いた瞬間に、糸にグンッと引かれる。

「ユーリ!私を、信じて!」

魔王が叫ぶ。

それを聞いたニコラは、俺の糸を持ったまま魔王を見つめ、何かを詠唱している。

時を操るのだ。

何をするか分からなくても、されたらまずいということは容易に想像できる。

「エメ!逃げろ!」

が、遅い。

「時空に消えろ!雌豚がァ!」

ニコラが言い放つ。

魔王は、辺りの凍った大地ごと、消えた。

跡形もなく。

「エメ…嘘だろ…?エメ!」

「くく、はははッ!弱ェ!こんなに弱いなら私が魔王やってた方がよっぽどいい!」

ニコラは、俺の元へ来る。

今度こそ、殺される。

 

しかし、今の俺はそれどころではない。

こんな怒りは新鮮だ。

これまで、感じたことがない。

怒りというのは、いいものだ。

 

俺の体に、力を与えてくれるのだから。

 

「エメを、返せよ」

糸が切れる感触が伝わる。

「な、何を、言ってるの?また洗脳しなおさないと」

うるさい。

「暴力で支配して、精神掌握の魔法の弱さ補おうとしたんだろうけど、そんなの弱い!弱すぎるんだよ!俺の、愛に比べたらな!」

「私はっあなたのことがッ!」

もう、ニコラの声など聞きたくなかった。

体から緑色の光が出ている。

怒りに呼応して、勇者の力とやらが覚醒したのだろうか。

この力が悪魔のものでも、天使のものでもどうでもいい。

ただ、エメを助けたい。

「ニコラ!今の俺は、お前なんかよりよっぽど強い!エメを攻撃した、それがお前の落ち度なんだよ!」

ニコラに走り寄る。

距離は5歩ほどはある。

負ける気は、しない。

「時さえ、止めれば!」

手を俺に向ける。

そして、踏み込んだ俺は、その手を掴む。

 

ニコラの手は、ぐにゅりと曲がって、俺の手の中に溶けていった。

 

「「…え?」」

同時に素っ頓狂な声をあげる。

そうしている間にも、俺の手にニコラはどんどん溶けていってしまう。

「なんだ…何が起きてるんだ!?」

「こっちの、セリフだよ…!」

手を離しても体が溶け、空気のように皮膚に入ってゆく。

「ふふ、あははは!」

吸い込まれる内に彼女が笑い出した。

「なにがおかしい!?これもお前の策か!?」

「違うよ、あなたの勇者の力は、私の力よりも強いがために、怒りに便乗して私を飲み込んでしまった」

「なんだよそれ、俺がお前より強いわけ…!」

「ふふ、けれど、あなたと同一化する、あなたの力を肌で感じられる、それだけでいい、これが、これがあなたの力…!」

 

とても綺麗な笑みを浮かべて、彼女は、ニコラは俺の手の中に消えた。

 

まだ仕事は終わっていない。

エメを引きずり出す。完全にどこかへ行く前に。

 

 

魔力痕を探り、力を込める。

たとえ時空の果てに一緒に呑まれたとしても構わない。

 

 

俺たちは、愛し合う夫婦なのだから。

 

 

手の平に力を込めると、ぐにゃぐにゃとあらゆるものが揺れる世界に入る。

自分以外、何かよくわからないものだらけの世界に。

魔王は、ふらふらとうわ言を呟きながらそこを歩いている。

口の形だけでわかった。

「ユーリ」

と、しきりに繰り返していることを。

 

迷いなんて、もうない。

抱きしめる。ずっとこの温もりが欲しかった。

 

 

「ずっと一緒にいよう、愛してる、エメ」

 

 

なんともありふれた言葉。

世界は眩しく光った。

優しい緑色。

 

俺たちは、ずっと一緒だ。

 

もちろん、死ぬまでずーっと。

 

どこかお出かけしてはトラブルに巻き込まれ。

 

女の子を助けてはお仕置きされ。

だけど。

 

「…私もです、ユーリ」

 

この言葉を聞けるなら、なんだっていい。

 

 

 

15m先

テント前

 

緑色の光と、それに包まれて抱き合う二人を見る影がふたつ。

 

「ブラックコーヒー、淹れましょうか」

「…だね」

 

すごすごと、甘々な二人から逃げましたとさ。




クリスマス編はこれにて完結です。
吸い込まれたことについてはまた後日に書きます。

なんか書くの楽しくて止めどころを見つけられない。
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