来年もパ〜ム油と作品をよろしくお願いします!
「おーい…着いたよ」
馬車から出ると、そこには全く生命を感じさせないような光景が広がっていた。
砂利しかない大地。
遠くに見える火山。
あちこちに転がる骨のようなもの。
そして、真っ黒な家。
「…なかなか、特徴的ですね」
「そうなの…死神だから」
別に死神関係ない気がするけど黙っておく。
「さ…入って」
家の中は、見慣れない物がたくさんあった。
赤い鎌。
黒いローブ。
安っぽいベッド。
ろうそく。
1セットだけの食器。
「こ、個性的ですね」
呆気にとられて何も言えない。
とにかく全てにおいて生活感が無い。
「うん…まあ、君はここでしばらく暮らすことになる」
暮らしについて説明を始めた。
「シャワーは…水道通ってないから貯水タンクの持つ10分で一緒に入る」
「いやおかしいです、10分なら5分ずつで割りましょう」
「乙女に…5分でシャワー済ませろ?」
まずい。なんかオーラが黒い。元からか。
「え、えーと、なら俺が3分で」
「家主は私…1分足りとも譲る気はない」
「…」
「食器一セットしかないから…一緒に食べる」
「一緒に食べるってどうやって」
「まず私が食べる…そのあと君」
「あのですね、衛生的によろしくないですよ?」
「私のお口が、汚い?」
またオーラが黒い。
「そ、そういうわけじゃ」
「家主は私」
「…」
「ベッド一つしかないから…一緒に」
「ダメです」
「なんで…ダメなの?」
「俺は男、あなたは女、同じベッドで寝るなんてハレンチなことはいくらなんでも」
「家主は」
「ダメ」
「………」
「うっ…そんな目で見てもダメ」
「家主の言うこと…聞けないなら」
ゆっくり俺に背を向ける。
なかなか強情だ。
「追い出すんですか?」
「ううん…殺す」
赤い鎌がこちらに向けられる。
心なしか彼女の目が怒っているように見える。
「ま、待ってください!俺は床で寝るってだけで!」
「そんな妥協…しない」
にじり寄ってくる。
「わかりました!じゃあ一緒に寝ます!」
なんか勝ち誇った顔をしている。
「家主は私…それでよろしい」
「…」
「ねえ…君は、エメちゃんのこと好きなの?」
アシンさんの食べかけのご飯を食べていると、声をかけてきた。
「え?まあ、好きですね、結婚したわけですし」
「あの子の…どの辺が好き?」
難しい質問だ。
人の可愛さは中々に形容しにくい。
「うーん…素直なところ、とか?」
「ふーん…私にハメ撮り送ってくるような子なのに」
「ぶっ!?」
思わずご飯を吹き出してしまった。
「あ…汚い」
「食事中にそんな話したのは誰です!?」
「もう…そのくらいで動転しないで」
テーブルを拭くアシンさん。
今はローブを脱ぎ、黒いTシャツに身を包んでいる。
こうして見ると、かなり可愛い。
大人しくて無表情だが、感情は言葉や動作の端々から滲み出ていて話しやすい。
「アシンさんって、恋したことないって言ってましたね」
「うん…それが?」
テーブルを拭いた布巾を洗っている。
「いや、こうして見ると可愛いし、何でかなって」
「あのさ…ナンパ?」
「違います!」
「エメちゃんに…言っちゃおっと」
「勘弁してください」
「実を言うと…私は色んな人の命奪ってるわけだし、恋なんてしても仕方がないの」
「それはおかしいですよ」
「おかしい…どの辺が?」
「それは仕事でしょう?あなたは、あなたの生き方を見つけて、人生を楽しむべきです」
「でも…人間が私を見たらみんなお札を貼ったり除霊したりする」
「神様ってもの自体に慣れてませんから、でもこうして過ごす姿は魅力的だと思いますよ、ごちそうさまでした」
食器を片付ける。
「置いておいたら…私がやったのに」
「泊めてもらってるんですから、それくらいは」
「いい子…お風呂入ろっか」
「あの、お風呂って」
「え…一緒に決まってる」
「…」
「…あの」
「気持ちいい…ん?」
「なんでこんなに密着してるんですか?」
「お湯…二人で一緒に浴びた方がいい」
風呂場で、俺たちはシャワーを浴びていた。
俺の要望で先に入って先に出るということを貫き通した。
アシンさんに水着の着用をお願いしたが、持っていないらしい。
全裸の彼女の方を見ないようにしても体を密着されれば魔王より大きい胸元とか細い腰とか当たるわけで。
「ちょっ…!もう少し離れてください!」
「こっち向かないと…背中しかお湯当たってないよ」
向かない理由はアシンさんを見ないようにすること以外にも、まだある。
やっぱり色んな所が密着していれば、俺のような真面目で健全な勇者の体も反応してしまうわけで。
「いいですから!手を回さないで!」
「むむ…何か隠してるの?」
「そんなところです!」
アシンさんは俺より少し背が高いので、抱きつかれるとバレてしまうだろう。
なので、もにゅっ、とした感触がギリギリ伝わるラインで華麗に視線から逸らしている。
もっと胸を感じたいなんて、微塵も思っていない。
と、もにゅっ、が、ぎゅむっ、に変わった。
「こら!近づきすぎ!」
「えー…私寒いよ」
体をこすり合せる。
なんか胸の真ん中にまた別の感触が鮮明に伝わって…。
じゃない!
もう俺のは限界だ!
「も、もう出ます!」
「まだ…3分しか」
「温まりました!」
逃げるように風呂から出た。
「ユーリ?元気ですか?」
「ああ、元気だよ、そっちは?」
「あと少しで中間地点くらいですね、まだ道のりは遠いです」
指輪を通じて、魔王と会話する。
アシンさんがじーっと見ている。
嫌な予感。
「あ、今アシちゃんいます?」
「ああ、変わる」
アシンさんを呼ぶ。
「もしもし…アシンだよ」
「ユーリに手出してませんよね?」
「一緒におふr」
「ごほんッ!」
「ユーリ?今アシちゃん何て言いました?」
「何事もないってさ!」
「…怪しいですね、まあいいです」
「ね…お風呂伝えなくていいの?」
「そろそろ切るな、愛してるぞエメ」
「ユーリ…!私も愛してます!帰ったらラブラブしてから17時間くらいずーっとセッk」
切った。
「離れないで…毛布から出ちゃうよ」
もそもそと俺を引き寄せるアシンさん。
「別にそんなに寒くないです」
「あなたがもし風邪でも引いたら…エメちゃんに何て言ったらいいのかな」
「う…」
お腹に手を回され、抱きしめられる。
「何度も言いますけど、密着が…」
「ふーん…エメちゃんじゃなくても意識しちゃうんだ」
「ぐっ…別にエメを愛してるから、抱きしめられてもなんともないです」
「なら…いい」
背中の圧がさらに加わる。
全く眠れなかった。
アシンの日記
今日、ユーリ君が来た。
かわいい。
なんか恋愛相談みたいのしてくれた。
乙女心をくすぐられた。
エメちゃんの、彼を好きな気持ちがよくわかる。
一緒にお風呂とかご飯とか食べて、二人っていいなと思った。
とにかく反応がウブで可愛らしい。
私を見てもみんなは嫌うだけだった。
でも、彼のおかげで自信がついた。
もうこのまま家にずーっといたらいいのに。
大人でダークなお姉さんアシンたん。
勇者視点物語とアシンの日記の二本立てで、これからしばらくお送りします。
それでは、また年が明けたらお会いしましょう。
今年読んでくださった皆さま、感想を寄せてくださった皆さま、ありがとうございました。
( ^∀^)ノシ