それを見たアシンは…?
「いてて…アシンさん…?」
目を覚ますと、アシンさんがベッドの隣の床で寝ている。
目元に涙の跡。
俺のせいで泣いてしまったのだろうか。
「…ごめんなさい」
痛む体を動かしてベッドから降りて、アシンさんをベッドに抱え上げる。
「おはようユーリ君…目、覚めたんだ」
「起こしちゃいました?ごめんなさ」
謝罪し終える前に、抱きつかれる。
今までよりも、もっと強く。
「痛っ!」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい」
そのままベッドに引きずり込まれる。
傷口が痛む。
顔に胸が当たって気持ちいい。
いやいや、何を考えてるんだ俺。
「アシンさんのせいじゃないですよ、あの時無理やり坂を降りてたらこんなことには…」
「いいえ…連れて行ったのは私」
「まあ、確かにそうですけど、俺を喜ばせようとしてくれてたんでしょう?なら、謝ることじゃないです」
笑いかけると、ぐっと胸を押さえている。
「う…その笑顔はずるい」
「とりあえず、もう動けますし、家事とか手伝います」
「ダメ…寝ておいて」
「でも」
「お願い…エメちゃんに合わせる顔がないよ」
どうも俺は、女の子の懇願に弱いようだ。
「ご飯…栄養たっぷりにしたから」
美味しそうに頬張るアシンさん。
やはり皿もフォークも一つらしい。
「なんかいつもより多めですね」
するとフォークを口の中でもごもごして、ご飯を刺して俺に近づけてきた。
「ん…はい、あーん」
「今舐めませんでした?」
「乙女に…そういう冗談はよくない」
完全に舐めたように見えた。フォーク光ってるし。
が、ここまで言うなら本当に舐めていないのだろう。
気を悪くされると困るのでおとなしく食べる。
「あーん、あの、これ必要ですか?」
「うん…今日から交互に食べようね」
「傷が治ればいつも通りでいいです」
結局交互に食べさせられた。
気のせいか毎回フォークがぬるぬるしてた。
まあ、いつもあんな感じか。
「怪我してるから…体、濡れタオルで拭く」
「それは分かります、分かるんですけど」
腕、首、顔、と濡れタオルで拭いてもらう。
「なんでアシンさんまで下着姿なんですか!?」
アシンさんはショーツとブラだけ着て俺の体を拭いている。
まずい。こんなの続けられたら色々とまずい。
「私も…これ終わったらシャワー入る」
「服着てください!面倒かもしれませんけど!」
「え…面倒なら脱げ?」
「言ってません!痛っ!」
ブラを取ろうとするアシンさんを止めたら、めちゃ痛かった。
「あ…ごめん」
「はぁ…」
胸、脇腹、腰、ぬるいタオルが気持ちいい。
「ズボン…下ろす」
「うう、お願いします」
恥ずかしいことこの上ないが、足も拭いてもらわないといけない。
パンツ一丁をアシンさんに見られるとか、イジられること必須でしかないだろう。
「ついでに…下着も」
「大丈夫です!」
下着に手をかけるアシンさんを懸命に引き剥がす。
「臭ってきたら…どうするの?」
「う…それは…」
「現に今も臭う…かも」
パンツを嗅いでいる。
怪我だらけの男のパンツを嗅ぐ女性。
絵面的に変態以外の何者でもない。
「こら!」
頭を小突く。
「痛い…ぐすっ」
涙目だ。まずい。
泣かれたら面倒くさいであろうことは容易にわかる。
「まあまあ、少し恥ずかしくて…」
「ううう…隙あり」
パンツが一気に下ろされる。
「こらァァァ!」
「おお…ちょっと大きくて可愛い」
触ろうとするのを必死に止め、痛いのを我慢して風呂場にタオルと一緒に放り込んだ。
気のせいか出てくるのが遅かった。
タオルを洗うのに手間取ったのか。
「ユーリ?昨日は寝てたみたいですね」
「ああ、ごめんな、エメが心配でおととい寝不足だったんだ」
アシンさんに頼まれて、俺が土石流に呑まれたことは秘密にしておくことにした。
魔王なら帰ってくるなんて言いだしかねないので、こう伝えておいた方がいいだろう。
「ユーリ…!私もユーリと会いたいです…」
「今どの辺だ?」
「神世界に着きました、明後日には神の国に着くはずです」
「そうか…気をつけてな」
「ええ!そちらも!アシちゃんに気をつけて!」
「エメちゃん…帰ってきたらお話しようね」
「ふふふ、怒らないでください、アシちゃん」
「エメラル様、お食事ができました」
「それじゃ!おやすみなさい!」
「ああ、怪我ないようにな」
ベッドで、なぜかいつも以上に近い。
なんだかんだ心配してくれているのだろうか。
「…ここまでしてもらって、ごめんなさい」
「気にしなくて…いい、なんなら、いつまでもここにいたっていいんだよ?」
「あはは、勘弁してください」
笑ってごまかしたつもりだったが、なぜか頰をつねられた。
「痛っ!」
「勘弁…どういう意味?」
覗き込んでくる目は笑っていない。
「ご、ごめんなさい、冗談です、いいお家だし、アシンさんも魅力的だと思います」
「ふーん…じゃあ、一生居ていいよ」
「考えておきます」
キレるポイントが謎だ。
この殺風景なインテリアがこだわりだったりするのだろうか。
何にせよ、怒らせてしまって悪いことをした。
アシンの日記
ユーリ君が目を覚ました。
怪我をしている彼は私を頼ってくれてとても可愛い。
彼は、昨晩キスしたのに気づいていないみたい。
今日はご飯で唾液を交換した。
お風呂代わりの身体拭きで彼の大切なものを見れた。
しかも匂いも嗅いだ。
汗のいい匂いだった。
でも、エメちゃんと話してる彼は嫌だった。楽しそうに夫婦の会話に興じていて、目の前の私を見てくれない。
今日は寝ている間に唾液を飲ませてあげた。
大切なところも、きちんと拭いてあげた。
ちょっと触りすぎたかな。
起きなくてよかった。
彼が好き。
エメちゃんには申し訳ないけど、もう少しだけ、彼の体と心を私に楽しませてほしい。
終わったら返す。
エメちゃんが帰ってきたら、返さないと。
可愛い私のユーリ君を。
積極的になってきたアシンたん。
積もった想いはいつ爆発してしまうのだろうか…。
勇者の鈍感さもまあ、酷いものですが。