ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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勇者に恋した死神は、ついに心を打ち明けます。
しかし…?


勇者の留守番(その5)

「どう…おいしい?」

「うん、ありがとな」

一つの食器での食事ももう慣れっこだ。

あーん、には中々馴染めないけど。

俺の怪我はほぼ治った。かすり傷なんかはまだあるが、もう一人で杖なしでも歩けるほどだ。

「あの…今日、少しお話がある」

やや俯いて、アシンさんはそう言った。

「話?」

「うん…あ、後でいいけど」

逃げるように食器を片してしまった。

なにか悪いものでも食べたのだろうか。

 

「じゃ…2時間もしたら帰ってくるから」

アシンさんは獣の頭骨の帽子を被り、黒いローブに身を包み、赤い大きな鎌を担いだ死神の正装になっている。

さすがにこの格好をするとかなり威圧感がある。

今日は仕事らしい。

溜まった死亡報告の処理をしなくてはならないらしいが、2時間程度で終わるのだろうか。

俺も死んだら彼女に雑に処理される運命なのだろう。

「気をつけてください」

「君もね…また怪我されたらたまらない」

「あはは、大丈夫ですよ、じゃあ行ってらっしゃい」

「行ってきます…これ、夫婦みたい」

「エメっていう可愛い奥さんがいるんで間に合ってます」

扉を閉めると、地面が裂けるような音が聞こえた。

気のせいだろう。

そういうことにしておこう。

アシンさんが不機嫌になると、中々に厄介だ。

 

アシンさんは行ってしまった。

一人になるとやることがない。

「剣の素振り…いや、そもそもこっち来て練習なんかしてなかった気がする…」

剣を探す。

どこに置いたかも忘れるとは、俺も中々に不真面目だ。

というか、今剣の練習をしても傷が痛むだけだろう。

やめた。床に寝転ぶ。

 

この部屋は前にも思ったが殺風景だ。

タンスも一つしかなく、収納も多くはない。

ちょっとした好奇心が湧いた。

「どれどれ…アシンさんの洋服チェック!」

タンスを開ける。

下着泥棒になった気分だ。

盗むまではやってること同じだし。

「なんか、見事に全部喪服みたいだな…」

アシンさんは黒が好きなのか、職業柄黒が大切な色なのか下着も上着も全て黒く、少しだけ入ったラインや模様が個々の特徴だった。

「うーん…つまらん」

10分しか時間が潰せなかった。

と、俺は見つけた。

下着に埋もれて、一冊のノートが隠されていた。

「なんだ、これ…?」

取り出すと、それは珍しく白いもの。

確かに黒ければ字が書けないが。

「…ちょっとくらい、いいよな?」

好奇心だもの。

アシンさんもきっと許してくれるだろう。

 

ぺらぺらとページをめくる。

献立、今日あったこと、俺の反応、可愛い、メモ、色んなことが書いてある。

「…俺はペット感覚なのか?」

可愛い、可愛いとたくさん書いてあり、中には俺の寝顔のスケッチまであった。

「寝ている間に唾液…しかもあのフォークも確信犯なのか…」

意外と変態なのかも。

俺をおちょくってかなり楽しそうだ。

 

そして、ノートを閉じようとしたその時。

 

俺は、笑って見過ごせない一文を見つけてしまった。

そのときノートを閉じていれば、後悔することもなかっただろうに。

 

 

エメちゃんには申し訳ないけど、もう少しだけ、彼の体と心を私に楽しませてほしい。

 

 

「…なんだ、これ」

彼女は、確かに俺といて楽しそうだった。

「エメちゃんには申し訳ないって…そういうことか?」

嫌な予感がする。

帰ってくる前にノートを閉じよう。

そう思ったのに、手はどんどんページをめくる。

そして、昨日から間隔をかなり開けた最後のページを見て、俺は固まった。

 

 

ユーリ君を私のものにしたい

でもユーリ君は私の友達のもの

ダメだ

奪うなんてよくない

でも奪わないと離れて行っちゃう

いっそ魂を削り取って私なしで生きられない廃人にしてもいいけど、それでは彼とは言えない

彼が悪い

私は彼といるだけで幸せになれた

エメちゃんと彼が話しているのを見て不幸になった

渡さない

ユーリ君は一生、私のもの

もちろん死んでも魂を吹き込んで、もう一度蘇らせる

死んでも絶対呼び戻す

彼ならわかってくれる

土石流から命をかけて守ってくれた

あれは私に命を捧げるってことだよ

好きな人生を歩めって言われたんだから、仕方ないよね

愛してる

好き

手も足も顔も髪も魂も内臓も全部好き

可愛いよ

エメちゃんはずるい

彼を連れて火山の奥に逃げたい

一生心も体も繋がっていたい

顔を赤らめる彼を眺めたい

彼から好きって言ってほしい

ずるいよ

彼を独り占めなんて

あなたは私だけのもの

そんな顔をしてるから悪い

そんな性格をしてるから悪い

惚れさせた君のせい

大好き

何もかも包みたい

手に入れる

愛を伝えたらわかってくれる

無理にでも分からせる

そうするべき

こんな仕事の私に恋を覚えさせた君が悪い

帰さない

逃がさない

触れさせない

私色に染めて一つになろう

エメちゃんには悪いけど、仕方ない

ごめんなさい

愛してる

 

 

嫉妬した時の魔王と同じものを、そのノートの書きなぐりの言葉から感じ取った。

「なんだ…これ…」

ノートが手から落ちる。

床に広がったノートは、やはり俺への愛が書かれていた。

俺は後ずさる。

「逃げないと…エメ…今すぐ行く…!」

逃げよう。

そう決意した時。

 

ガキン、と背後で硬い金属が床に当たった音がした。

 

「逃げる…?」

俺の頰を、冷たい手がそっと撫でる。

「生きている者は私たちだけの…この死の大地から逃げる?」

こつ、こつ、と足音が近づく。

肩に誰かの顎が乗る。

耳に、熱い息が吹きかけられる。

「ダメだよ…もうあなたは私のもの」

 

体が一気に力を失う。

魂を掴まれたのだろうか。

「ア…シ…」

名前が呼べない。

俺の目に映るのは、突き立てられた赤い鎌。

そして、上品に笑う、目の赤い、俺のよく知る死神だった。

「ノート…見ちゃったね」

「そ、れ…」

俺の前にしゃがみこむ。

優しくキスされる。

「エメちゃんには本当に悪いと思ってるんだよ?」

「…」

彼女が俺の髪を撫でる。

「仕方ないよ、恋したんだもん」

俺の意識が途絶えるまで彼女は俺を撫で、楽しそうに微笑んでいた。

 

 

アシンの日記

 

手に入れた。

ユーリ君はすやすや寝ている。

これから、ラブラブの暮らしができると思うと楽しくて仕方がない。

可愛い。

エメちゃんに渡さない。

もう私だけの夫。

ハグもした、キスもした。

これだけ愛情を伝えれば、彼はきっと私の方を向いてくれる。

伝わらないなら、エメちゃんのことを忘れさせたらいいだけのこと。

神様でも子供ってできるのかな。

彼の体を貪りたい。

あんなに可愛いのが悪いよ。

まあ、ユーリ君との関係が邪魔されるなら、子供なんていらないけどね。




ついに爆発…。
日記を見るのはヤンデレにおいて御法度中の御法度ですね。
一歩間違えば死のこの局面で、勇者はどうするのだろう…?
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