ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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ついに戦いが…?


勇者の留守番(その7)

一瞬だった。

俺は、何が起きているか分からなかった。

タンスが、食器が、ベッドが、日記が、アシンさんの血が、吹き飛んだ。

残ったのは、家の骨組みと俺と、腕に魔法道具の札が突き刺さったアシンさん。

 

そして。

 

「エメ…!」

 

つい数秒前に、アシンさんは上機嫌で日記をしたためていた。

それが終われば、新婚生活が始まると言っていた。

 

俺は諦めていた。

魔王は強いが、しかし神に及ぶ力はない。

願わくば、戦わないで済むように、来ないことを祈っていた。

 

しかし。

 

家の壁を突き破った稲妻がアシンさんの頰を掠め、部屋の中の一切の魔術用具を吹き飛ばした。

次に、アシンさんが戦闘態勢を取る前に、恐らく魔封じの札が、弾丸のごとく速度で、魂の存在する場所である胸を狙って飛んできた。

 

アシンさんはそれを、腕で受け止めた。

血が飛び散る。

 

その動作が、たった数秒で起きたのだ。

 

桁違い。

あまりに次元が吹き飛んでいる。

 

「っ…エメちゃん」

「アシちゃん、最早何も聞きません」

魔王は、恐ろしく冷たく、しかしどこか悲しそうな目でアシンさんを見つめる。

アシンさんは俺の前に立ち塞がる。

「ねえ…恋したんだよ、仕方ないじゃん」

「恋なんて好きにすればいいですが、ユーリは私の夫です」

「お願い…ユーリ君を、ください」

「…くだらない、寝取る言い訳がそれですか」

「どうしても…ダメなら」

空気が重くにこごる。

見ている俺ですらも恐ろしいプレッシャーを感じる。

「望むところです」

 

神と王の戦いが、始まった。

 

 

15年後

魔界出版社地図係編集室

 

「あの…現地調査行ったんですけど…」

「ほう、あそこは15年経ったって人がいないんだから、調査したって変わらないものを」

「い、いえ…妙でして…」

「ん?」

「山が、丸ごとないんです」

「馬鹿言うな、あの辺は風景がどこも似てるから迷ったんだろ」

「写真があります」

「…位置情報は確かに正しいな…なんでこんな切り崩されたようなことになってる?」

「改定しますか?」

「誰もあんなとこ行かん、東西の山が多少分断されてたところで気付くやつもいないさ」

 

 

二人は、睨み合う態勢を崩さなかった。

何も語らずとも通じ合える仲なのだろう。

 

「二人とも、俺はこんなこと、嫌だ」

何としても止めなければ、彼女達は本当に魔界を潰す勢いで戦いだす。

「ユーリ、仕方がないんですよ」

「君は私のもの…札が取れたら真っ先に鎖を引く」

聞く耳をもたない。

「これ以上続けるなら、俺も容赦しないぞ」

凄んで見せたはいいものの、時を止める程度の能力しかない俺に何ができるのか、自分でもわからない。

と、アシンさんが口を開いた。

「なら…こうしましょう?」

魔王が体勢を変え、後ずさる。

 

「二人が力を…真正面からぶつけるのです」

 

勝ち目はない。

神と魔王では、圧倒的に魔力総量が違う。

力をぶつけたなら、魔王は飲まれてしまうだろう。

「魔王、ダメだ勝てな」

そう言おうとした矢先。

 

「いいですよ?」

 

魔王が、笑ってそう言った。

「ただし、ユーリも一緒に戦うのが条件です」

 

え?

俺?

 

「いいよ…その代わり、相談は禁止」

アシンさんが鎌を握り直した。

本気だ。

「っ…魔王」

「ユーリ、考えてください、勇者なら導いてみせてください、ハッピーエンドまで」

 

そして、二人はカウントを始めた。

 

「「3」」

 

どうしよう。

 

「「2」」

 

何も思い浮かばない。

 

「「1」」

 

その日、魔界の山は東西15kmにわたって、切り裂かれた。

 

なぜか、ぴんぴんの魔王と神と、ズタボロの勇者を残して。




さ、引き延ばしに延ばしたアシン編ですが、もう終わりも近いです。
終わったら、これまでコメントでリクエストして下さったものを書いて、その後またもネタ切れが濃厚です。
いつでもリクエストお待ちしてます!
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