昔、私はそこにいた。
確かにそこにいたのだ。
魔王の、娘として。
「おいおい!デラルス!俺とデート行こうぜ!」
「…断る」
「あのな、武闘神の息子の俺にデート誘われて断るやつなんざお前くらいのもんだぜ?」
「知らない、あんたは好みじゃない」
「おまけにさ、お前は神でもなんでもない、ただの魔王ってぇポストだろ?許嫁いたって、俺とくっつくのが得だろうに」
「…」
男はいらなかった。
父はいない。
母の愛を受け取らず、逃げた。
だから信用できない。
きっとどこかで、野垂れ死にしたのだろう。
ずっとそう思っていた。
でも。
出会ってしまった。
ユーリと。
昔、私はそこにいた。
確かにそこにいたのだ。
死神の、後継者として。
「よいか…アシンよ…」
「師匠…具合は?」
「遺言、だ、心して聞け」
「師匠…わかりました」
「死神たるもの、いつ如何なる時も仕事に躊躇うな、死神として恥じぬ生き方をしろ、そして、同じ神族達を、友を、恋人を、裏切るな、何千年と生きる孤独を、一人で受け止めはできないのだから」
「はい…ですが、師匠はまだ…!」
「アシン、お前にとっての初仕事だ、私の魂を、アシン…そ、その…手で…たの…む…」
私は生物の命を奪う神。
愛し合う者ができたとして、一緒にいられる時間など一生の長さから見れば無きに等しい。
相手が神族ならば、共に過ごせる。
しかし、神の中でも異端の死神に、誰も見向きはしなかった。
神族会議にも顔を出さず、出す必要すら告げられず、私はずっと一人で生きた。
淡々と仕事をこなし、淡々とした毎日を送る。
ずっとそう思っていた。
でも。
出会ってしまった。
ユーリ君と。
「二人とも、やめてくれ!」
俺はそう叫んだ。
けれど、二人は止まらない。
「死神としてじゃない、一人の女として…エメちゃん、あなたに負けたくない!」
「人の旦那を寝取るところを止めたら逆ギレですか!?くだらないにも程がある!力は問題じゃない!想う力が、いつも私たちを守っているのです!アシちゃん!」
魔王は、渾身の力で魔力球を作り出している。
離れた場所にいる俺のところにも、ぴりぴりした空気が伝わるほどに高濃度の魔力球だ。
アシンさんは、鎌を赤く光らせて構えている。
モヤが出ているところをみると、鎌に溜めた魔力を振り抜いて魔王に当てるつもりだろう。
俺には、何もできない。
言葉は通じず、一方を押さえつけたなら、制御を失った力は俺たちを襲う。
ここからできる行動は一つだけ。
時を止める。
幸い、彼女達の攻撃は全て手の中で制御されている。
発射直前、全てを押し出す瞬間に魔力を空回りさせるなり吸収なりできれば、激突を避けられるだろう。
「いきますよ…」
「死んでも…蘇りはしないからね」
二人が、とても悲しい、凶悪な笑みを浮かべた。
そして、次の瞬間に緑色の魔力が世界を覆った。
即ち。
時が止まった。
「タイミングよし…!」
彼女達はこの一撃に全てを賭けるはずだ。
お互いが、お互いに対して殺すことを躊躇う様子が見て取れた。
これを凌げばよい。
まず、魔王を右に30度ほどずらす。
うまく魔力球ごとずれた。
次に、アシンさんを右に30度ほどずらす。
うまく鎌ごとずれた。
これなら、どちらにも当たることなく吹き飛ぶだろう。
周囲に人はいない。
素晴らしいアイディアだ。
緑色の魔力が薄まる。
次の瞬間。
俺は、二つの魔力の渦に飲まれ、錐揉み回転して宙を舞ったのだった。
魔王とアシンさんは、あらぬ方向へ飛んで行く魔力波と魔力球を眺め、十数m上空に高速回転して吹き飛ばされた俺を見て、見つめ合い、笑った。
何はともあれ。
俺のパーフェクトな策によって、二人は仲直りした。
しかし、俺は知らなかった。
俺の看病争奪戦により、さらにいくつか山が消えてしまうことを。
仲直り!
次回で死神編は締めます。
そして、if的なのを書いて、ネタ切れです。
リクエスト大募集!