ニコラは暴力型ですから、ある意味一番分かりやすくて恐ろしいですね…。
もしも、勇者がヤンデレサンタに洗脳されていたら
「あなたが一番愛している人は誰?」
幾度となく、エメに聞かれた。
しかし、今は違う。
ニコラは毎日この質問を投げかけてくる。
ニコラがこれを俺に尋ねるということは、俺の体に傷が増えるサインになっている。
増やさない方法もあるにはある。
彼女の愛を受け入れて、こちらから求めたらよいだけの話なのだ。
しかし、魔王を裏切ることはできない。
たとえ死んでも。
「エメを、愛してる」
「まだ諦めてないのかよ…ッ」
胸を蹴られる。
「ぐっ…ぅ!」
「私のものになれ…神の寵愛が欲しくないの…?」
首をギリギリと締められる。
それでも、負けない。
「ほッ…しく…ない…エ…め…がそばに…いれば…」
「…殺したくなるよねェ…君のその言葉…!」
目の中の光が消え、尋常ならざる力で投げ飛ばされる。
俺の体は、飾ってあるモミの木に激突した。
背中が熱い。
枝が刺さる感触を、熱いと感じる。
しかし、叫ぶ元気もない。
体は動かない。
床に伏せて身を守るだけだった。
「…またお薬、注射しよっか?」
ニコラは怒りからか、震える手で注射器を持ち、白い液体をたっぷりとその中に入れていた。
自白剤。
しかし、俺はあれが単なる自白剤には見えなかった。
日に日に自白剤は白さが濃くなっている。
ニコラは、思い通りにいかなければすぐにあれを注入する。
副作用があるあの薬を大量に注入され、俺は半ば二重人格を作り出されたようなものだ。
あれを注射されると、俺の記憶は飛んでいた。
この前正気を取り戻したのは、ベッドの上。
俺たちは交わっていた。
そして俺は、安心しきって体を緩ませていた。
食卓にいた時もあった。
俺はにっこり笑ってニコラのご飯を食べていて、ニコラは口移しを俺に求めていた。
その時、俺は正気を取り戻していたにも関わらず、無意識に口移しした。
きっと彼女に甘やかされることに快感を感じる俺を、俺自身が心から切り離したのだろう。
しかし、その境界はだんだんと滲んできている。
目を閉じたら感じてしまう。
ニコラの笑顔。
ニコラの唇の柔らかさ。
部屋に響く淫靡な音。
白い柔肌と、上気した顔。
ただ俺を求め続けるニコラ。
温もり。
「嫌だ…その注射は…エメを忘れる…」
にじり寄ったニコラは倒れた俺の顎を持ち上げ、キスした。
優しいキスなどではない。
獣のような、獲物を貪るためのキスを。
「んっ…ちゅ…ッじゅるる……んん…ッ」
「んぐッ…ふぅっ…ぅ…」
「ぷはっ…美味しいね、やっぱり」
唇を離す。
そのまま、俺の顔を舐め回している。
甘い香りが鼻をくすぐる。
「やめろ…俺はまだ折れてないぞ…」
「知ってるよ、でも、今はあの女のことを考える貴方も愛おしく感じるの」
俺を抱き寄せ、顔同士が触れ合う数mm前でニコラは笑った。
「分かってくれたのか…?」
「怯えるあなたの顔を見るのは」
キスされて、歯と舌とで口をこじ開けられる。
その口の隙間に、注射器の針が滑り込んだ。
「これで、最後だから」
舌にちくり、と痛みが走った。
最初に注射されたものの20倍の濃度の自白剤がゆっくり体を回る。
最後に見えたのは、魔王の笑顔。
ごめんな。
「ニコラ…痛いよ…」
ニコラにすがりつく。
笑った彼女は頭を撫でてくれた。
「私がすぐに治してあげるからね?」
手を当てると、傷は消えた。
やっぱり優しい。
「ありがとう!ニコラ!」
「可愛いね…あなたは私のものだよ?」
「うん、分かってる」
「よし!いい子いい子!じゃあ記念に…また…あれしよっか?」
「ごめん…この前は急に暴れちゃったりして…」
「いいの、もうあの時みたいにはならないから」
服のボタンを外して、彼女は笑った。
可愛い。
「ニコラ大好き!」
「私もあなたが大好きだよ?」
そのままもつれ込んで、一夜を過ごした。
極冠付近キャンプにて
「エメラル様…!北から超高圧の魔力反応が…!」
「お姉ちゃん…結界は!?」
「結界は意味を持ちません、少なくとも私たちの今の手持ちでは防げないでしょう」
「なら…!」
「彼女はきっと、魔力砲なんかでこのキャンプを丸ごと吹き飛ばしはしないでしょう」
「なんでそんなこと分かるの!?」
「同じだから、ですよ」
世界の時は止まる。
ほんの数秒。
次の瞬間、キャンプの中には4人の女性がいた。
金髪の女性が、口を開く。
「こんばんは、勇者の妻の、ニコr」
三人はそこに、思いっきりの魔法を打ち込んだ。
キャンプが吹き飛ぶ。
氷河が決壊する。
しかし。
「…捨てられて逆上してるの?」
笑って立っているその神に、傷は付いていなかった。
「黙れ、雌豚が」
「口が悪いね?魅力不足を自覚したら?」
魔王は、暗黒魔法を唱えた。
勇者を救った時のものとは違う。
フルパワーで。
「エメラル様!」
「お姉ちゃん!そんなことしたら…!」
その大地は消滅しかかっていた。
しかし、黒い力は霧散する。
ある魔王の血しぶきと共に。
「…時を止めても少しだけ動いた、それだけね」
心底面白くなさそうな顔で、神は言った。
「それじゃ、さよなら?」
極冠の氷の層に、三人の死体が入っている。
一人をのぞいて、みんなそれを知らない。
そしてその神は、今日もまた満ち足りている。
「あなたが一番愛しているのは誰?」
何を当たり前のことを聞いているのだろう。
「ニコラだよ?それ以外に、いる?」
勇者も魔王も、もういない。
BADENDです!
エメラルたんの最期は書かなくてもよかったかと思いましたが、エメラルたんが探さないわけはないし、書かないともやっとしましたので書きました。
うーん…鬱ENDだぁ…。