ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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吸血鬼に身請け(?)された勇者。
その魔の手はじりじりと…。


魔王の仕事

「ごちそうさま」

魔王がフォークを置く。

今日も美味しい夕食だった。

「ユーリ、今日はどうします?どこかホテルとかお出かけしますか?お家でゆっくりシたいですか?」

「あのな、エメ、仕事とかないのか?」

ウルスラが渋い顔から、少し目が光る。

「ユーリィ様もこうおっしゃっていますし、さあ、お仕事の時間にいたしm」

「嫌です!」

「…ですが」

「明日やりますから!絶対!」

「昨日も一昨日も聞きました」

机に突っ伏して駄々をこねる魔王。

こんな魔王をこの前まで俺は倒そうとしていたのか…。

「エメはどれくらい仕事してないんだ?」

ウルスラが書類をぱらぱらめくる。

「量はそれほどではありませんが…この前の貴族会議からですね」

ぞくり、と、あの吸血鬼に見つめられた時の感覚が蘇った。

「なぁ、なんで貴族会議から働かなくなったんだ?」

そう言うと、魔王は少し真剣な顔になった。

「ワイル家です」

「え?」

「ワイル家がユーリを愛玩奴隷にしたいと言っている、なんて噂があるんですよ」

冷や汗が頰をつたう。

本気なのだろうか。

「な、なんだ、それ」

「吸血鬼の愛玩奴隷なんてろくなものではありません」

「ああ、らしいな…」

「だから私はユーリと離れたくないんです!」

ばふっ、としがみついてくる。

しかし、俺は魔王の好意を素直に受け取れない。

ミラ=ワイルと名乗ったあの女の言葉。

 

「魔王家の周囲企業を買収して、あなたをこちらに渡らざるを得ないようにするだけのお話ですから」

 

魔王家と同じくらいの財力をもつ彼女なら、あるいはやりかねないかもしれない。

そして魔王が俺にうつつを抜かしていたなら、思う壺だ。

「…っ」

歯噛みしていると、魔王が顔を覗き込んできた。

「顔色が悪いですが…ユーリ?」

「…ちょっと、気分が悪いんだ、部屋にいるな」

よほど切羽詰まった顔をしていたらしい。

「エメは、仕事終わってから相手してやるからな?」

魔王もなんだか浮かない顔だ。

「ユーリ?私が愛玩奴隷なんて言ったからですか?大丈夫ですよね?ね?」

おろおろしている。

「ウルスラ、エメを頼んだ」

俺は心なしかふらふらして、部屋に戻った。

 

目が覚めたのは深夜だった。

随分深く眠ってしまったらしい。

扉の外側に、ウルスラらしい綺麗な字のメモが貼ってある。

 

おはようございます。お夕食を召し上がりたいのであれば、エメラル様のお部屋か、私のお部屋におりますので、お声かけください。

 

あまり食欲はなかった。

幽霊でも出てきそうな、長い廊下を歩いていると光が漏れる部屋が一つあった。

「…エメ?」

ノックする。

「ウルスラですか?もう寝なさいと言ったでしょう?」

「ユーリィだけど…」

「すんすん、確かにこの匂いは…どうぞ」

扉越しに匂いがわかるのだろうか。

「…ずっと仕事してたのか?」

魔王の机には、大量の紙束があった。

溜めていたとはいえ、これほどハードな量があるはずはない。

「ユーリは気にしないでいいんですよ?サボっていたからか、なんだか買収うんぬんで揉めてるだけですし」

買収。

ワイル家と、関わりがあるワード。

「なぁ、それ、どこに買収されそうなんだ?」

そう聞くと、ぎくりと魔王は手を止めた。

「何度も言いますけど、魔王家の話ですよ?ユーリが気にすることではありません」

引きつった笑み。

恐らく、俺の読みは当たっている。

しかしそれを隠そうとするのは、俺への優しさか、それとも強がりからか。

「何件買収された?」

「…」

目を伏せる魔王から、書類を奪う。

「25件…」

「まだ魔王家には6000件も会社があります、それくらい潰れたってユーリは…」

「…エメ、俺のせいで魔王家が食い潰されてどうなるんだよ」

「だから、ワイル家なんかではないんです!」

「…俺はワイル家なんて一言も言ってないぞ?」

「あっ…」

ドジだ。

「俺が話してくる、エメが気に病むことじゃない」

「私は魔王以前にあなたの妻です!夫を守れない妻なんて、情けないことこの上ないでしょう!?」

「魔王は色んな人の命を背負っているんだ!それに、飽きたらきっと俺は捨てられる、そしたらここに帰ってくるから」

「許しません、貴族会議で他の女がユーリに触れるだけで、気が狂うほど辛かったのに、なぜ吸血鬼ごときにユーリの身柄を…」

魔王の物言いに、腹が立った。

「エメに許してもらう筋合いはない!」

声を荒らげたためか、魔王は一瞬怯んだ。

「っ…!」

「…ごめん」

「ダメです…ユーリがいないなら…私は…」

抱きしめられる。手を回し、抱きしめ返す。

「…飽きるまでの辛抱なんだ」

「嫌です、それだけは嫌なんです、ユーリは私のものなんです」

ミシミシと抱きしめる力が強くなる。

骨が折れそうなので早々に離れた。

「俺も一人の人間なんだ、悪いけど、今回ばかりはエメの言うことは聞けない」

すると魔王は、魔力球を撃ってきた。

間一髪でかわす。

「…エメ?なにを…?」

 

「ユーリを行かせはしません、絶対に、拘束してでも、私の手元に置いておきます」

 

「物じゃないんだ、俺は」

「結婚した時点で、ユーリの身柄も心も何もかも私のものです」

にじり寄ってくる。

後ずさりする。

このままでは、捕らえられる。

そして魔王家は破滅。

それだけは避けなければいけない。

ウルスラのために。

マリンちゃんのために。

魔界の人々のために。

 

そして何より。

俺の妻のために。

 

「ごめんな、帰ってきたら、本当に気の済むまで殴ってもいい」

 

世界は緑色の魔力に包まれた。

時を止めて、俺は走る。

部屋で荷造りする。

鞄に、剣、盾、鎧、衣服、魔王との結婚指輪を詰め、それを担ぐ。

すると、ずきん、と頭痛がした。

ニコラの声が、聞こえた気がした。

「本当にいいの?彼女を置いて行って」

「…構わない、きっと帰って来れるさ」

「あなたは、惚れた女の怖さをきちんと感じた方がいいわよ?」

「余計なお世話だ」

「まあ、私が殴っても蹴っても言うことを聞かなかったあなただものね」

「ああ、今回もうまく切り抜けるさ」

「…あなたの妻も、つくづく不幸ね、惚れられやすくて、しかも優しい夫なんて」

「…」

「死にそうになったら、力を貸すわよ?あなたと私とは二心同体なんだから」

「頼もしいけど、あんまり出て来ないでくれよ」

「わかってますとも」

緑色の魔力が俺の体に収束する。

 

時は動き出した。

すると、窓に女が腰掛けていた。

ミラ=ワイルだ。

「奴隷さん?準備はいい?」

「…ああ」

「お返事は、はい、ご主人様、だけですわよ?」

俺を担いで、大きく翼を広げた。

後ろで、声が聞こえる。

「ミラ=ワイル…夫は必ず取り返します」

嫌味っぽく笑ったミラは、手をお上品に振った。

「御機嫌よう?魔王様」

「…やっぱり、ここで死ね」

魔王城の部屋が、一つ消し飛んだ。

俺は吸血鬼に掴まれながら、その炎と、佇む魔王の哀しそうな瞳を見つめていた。




連れさらわれた勇者…。
もっと魔王のいちゃらぶ回書いておけばよかったかも?
これ終わったら書きますので、許してちょんまげ。
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