今回は何を奪われるのでしょう?
「ふあぁ…奴隷さん、おはようございます」
昨日血を吸われ、気絶させられた俺は、意識を取り戻した時にはミラにぬいぐるみのように抱きしめられて、柔らかいベッドにいた。
「…おはようございます、ご主人様」
「いい子いい子、今日もとっっても、可愛いですわ」
キスされ、そのまま体をベッドに押さえつけられる。
「私、普通のご飯も好きですけど、貴方の血は、もっともっともっと美味しくて、朝ごはんは貴方の血にしますわ」
「…」
「寝起きにごめんあそばせ?はむっ…ちゅぅぅぅぅぅぅ…んっく…、ちゅうぅ…」
甘い脱力感。
昨日吸われた時は痛みがあったのに、なぜか今はあまり感じない。
「はぁ…♡美味しい…」
またキスを交わす。
そして、彼女はこう言った。
「今日はお出かけしますわよ、いえ、お仕事、と言った方がいいのかしら?」
楽しそうに微笑む彼女。
恐らく、また俺の何かを「奪う」つもりだろう。
「さあ、今日は貴方の大事な所に行くのですから、めいいっぱいおめかししましょうね」
俺は、城を出る時になっても、やはりあのボロ布のままだった。しかし、彼女の言う「おめかし」である、赤い首輪まで付けられた。
「可愛い犬のようですわ」
しかし、出かけるのは馬車だった。
てっきり後ろに繋がれて、引きずられるのかと思ったが、広い馬車の中に入れてもらえた。
「さ、四つん這いになりなさい?」
「…え?」
「耳が悪いのかしら?四つん這いに、なりなさい」
意図がよくわからないまま、四つん這いになると、彼女はそこに足を乗せた。
「ご主人様…?」
半ば睨むようにミラを見ると、大きな声で笑い出した。
「あはは!可愛い…可愛いですわ、あなたのその反抗的な目、それが力を失う様を…もっと見せてほしい!」
「っ…」
反抗的な態度を取れば取るほど、彼女は興奮している。
しかし、従順なふりをできるほど俺は器用じゃない。
悔しい。
これほど、自分を情けなく思ったことはなかった。
「さあ、そのお顔をもっとよく見せてくださいな」
馬車が発車して、目的地に着くまで、ミラは愉快そうに俺の顔を見ては撫で、キスし、血を吸ってきた。
どれくらい経っただろう。
馬車が止まり、ミラは俺の背中から足を離した。
「行きますわよ、奴隷さん」
首輪を引かれる。
馬車を降りたそこは、見慣れた場所だった。
「魔王城…!」
「今日は買収の件でお話がある、と伺って、ここへ参りましたの、愛玩奴隷の貴方と、ね」
門が開き、城の入り口までの道がある庭を歩いていると、庭を手入れしていたウルスラと目が合った。
「ユーリィ…様…!」
ウルスラは庭仕事の道具を捨てて、信じられないような顔でこちらにゆっくりと歩いてきた。
しかし、ウルスラに冷たい声がかかる。
「そこのダークエルフ、待ちなさい?」
ウルスラはその場でぴたりと立ち止まる。
「…いらっしゃいませ、ミラ=ワイル様、本日は遠いところご足労願って」
仰々しく挨拶を述べるウルスラの言葉を遮り、ミラは笑いかけた。
「私の奴隷に、何か御用?」
「大変失礼ながら、そちらの方は貴女の奴隷ではないように見えますが」
「それは何故かしら?」
「先日より、私のお仕えするエメラル様の夫である、ユーリィ様が失踪しました」
失踪。
そういうことになっているのか。
恐らく、これも公的文書を作り変えたミラの仕業だろう。
「ええ、とても心配ですこと」
「そちらの、ワイル様の奴隷は、ユーリィ様によく似ておられます」
「ハンサムな愛玩奴隷でしょう?褒めてくれて、ありがとう」
「っ…そうでしょう?ユーリィ様、返事を…!」
口を開く。
と、首輪を引かれ、耳元で囁かれる。
「あなたが本当のことを言えば、魔王家の財力はどれだけ削られてしまうのかしら…楽しみですわ♡」
咄嗟のことに、口をつぐむ。
「ユーリィ様…?」
「私は、ただの、ミラ様の…奴隷…です」
言葉を絞り出す。
ウルスラは大きくショックを受けたようだ。
「ユーリィ様…でしょう?ユーリィ様、どうなさったんですか?貴方らしくもない…!」
普段からは考えられないほどに取り乱している。
「魔王家のお二人は、おしどり夫婦だと有名ですよね?」
「…?」
ウルスラは不可解な顔をした。
「ならば、私とのキスも拒むはずですわ」
首輪を引っ張られて無理やりキスされる。
頭をがっちりとホールドされ逃げられない状況で、唾液が混ざり合い、水音が響き渡るような濃厚なキスを。
「んッ…ちゅッ、ぅぅぅ、んっ、は、奴隷?どうですか?私とのキスは嫌ですか?」
ぺろりと舌なめずりをして、問いかけられる。
本当のことなど、言えるはずはなかった。
「…ご主人様にキスして頂き、光栄、です」
俯いて、辛うじてそう答える。
「おわかり?ダークエルフのお嬢さん?」
勝ち誇った顔でウルスラに言う。
ウルスラは、もはや自分ではどうにもならないと踏んだようだ。
「…わかりました、では奴隷の方と共に、エメラル様のいらっしゃる所まで、ご案内します」
何事か詠唱し、手や服に付いた土を魔法で消すと、重い扉を開けて俺たちを中へ入れた。
何か言いたげではあったが、ついに何も言ってはくれなかった。
「ようこそ、魔王城へ」
魔王が部屋にいた。
うっすらと微笑んで、俺たちを迎え入れた。
いつもウルスラが掃除している、広い応接間。
そこに立っていた魔王は、窓から様子を見ていたのか全く動揺を見せなかった。
しかし、一緒にいた俺にはわかった。
魔王が心の内では泣き叫んでいることが。
ミラは反応の無さが少しつまらないのか、俺の首輪を強く引いて、顔を見せた。
「新しい奴隷を買いましたの、人間ですが、中々に可愛らしい顔をしているでしょう?」
「今日は世間話の時間ではないのです、申し訳ないですが、早々にお話を始めましょう」
目だけが笑っていない笑顔で、魔王は何か書類を取り出した。
「現時点で、私のグループ計49社が、そちらのグループに属する会社に合併を余儀なくされていますが、これはどういったことでしょうか?今はそこまで不景気には感じないというのに、どんどん受注先の減る我が社は、何かの陰謀を感じざるを得ません」
「こちらとしても、合併というのは魔王家の財力にマイナスを与える行動として、控えなくてはいけないのは重々承知しています、しかし私どもの一存で、少し発注を減らすという合意に至ってしまい、止めることは敵いませんでしたわ」
極めて政治的な話し合い。
しかしどちらの言葉にも、言い表せないようなトゲを感じた。
まるで、間接的に喧嘩をしているような。
「では、こちらの予算削減を少し緩和するよう、検討してみますわ」
「…また、いらしてください、こちらとしても有意義な話し合いでしたから」
結果、ミラが勝ったというところだろうか。
恐らく彼女は経済的に、攻撃を仕掛け続ける。
しかし、魔王にこれ以上強く言うだけの立場の強さはなかった。
「さ、行きますよ、奴隷」
首輪を持たれ、引っ張られる。
魔王は、そんな俺を、悔しそうに見つめていた。
情けない。
しかし、ここでもできることはある。
たとえ俺が、何を失っても、会社がどれだけ潰れてしまっても、これだけは伝えたかった。
応接間の前で叫ぶ。
「エメ!愛してる!俺は一生、お前だけ愛してるから!」
魔王は、満足気に笑い、俺に手を振った。
「ユーリ!どこにいるか分かりませんが、絶対に帰ってこさせますからね!一生、私の夫はあなただけですよ!」
そして、扉は閉まった。
帰りの馬車、俺は終始噛み付かれていた。
血を吸われ、貧血状態の頭に、絶えずこう囁かれた。
「あなたは、私のもの、私に捨てられたら何も頼ることはできない、あなたが軽はずみな行動をすればするほど周りの人は不幸になる、私のそばで、私だけのものになって、私の言うことだけ聞いていればあなたはそれで幸せ、それが正しい生き方、私だけ…傷つけるのも、愛するのも、何もかも私だけの特権…あなたは…私のもの…」
血を吸われ、貧血の俺が意識を失うのに、そう時間はかからなかった。
また、あの夢を見た。
俺は女から逃げた。
しかし、なぜかその足は、止まってしまった。
女は、少しずつ近づいてきていた。
今回は、プライドを奪われたのかな?
首輪は魔王とのプレイで慣れっこだと思うけ(ry。
あいも変わらずバカップルな二人。
え?バレンタイン特別編?
要望あったら書きますw。