ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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勇者は逃げるチャンスゲット!
しかし、逃げられるはずもなく…?


奴隷生活(その5)

「はぁ、はぁ…げほっ!」

走り過ぎて、喉から血の味がしたような感じがあった。

咳き込みつつも、なんとか川の水をすくって飲む。

「はっ、はぁ…撒けたよな…」

俺はノンストップで、先ほどの山を駆け下りてもう一つの山の中腹にいた。

川の水に月が光り、きらきら揺らめいている。

コウモリには見つかっただろうか。

しかし、コウモリの影を見はしたが、目の小さい彼らに悟られてはいないだろう。

「…朝はまだ、先か」

東の空は白むことすらなく、黒くそこにあるだけだった。

空を眺めていると、背後から。

ぱたっ、と音がした。

「…!」

体が固まる。

いや、ミラならば容赦無く電気銃を使うはずだ。

「思い込み…思い込みだ…」

自分に言い聞かせて、振り向く。

そこには、ミラではない、しかしそれ以上に厄介な追跡者がいた。

一匹ではない。

俺が振り向くと、先ほど山に入って行った数と同等の、コウモリの群れが騒がしく鳴き始めた。

「…まずい!」

剣を抜いて、周囲を警戒する。

コウモリは吸血するような動きや、戦闘できる風を見せない。

俺をあぶり出すための駒だろう。

「私をお探し?奴隷さん?」

空から迫る声に、コウモリに気を取られた俺は、気づくことすらできなかった。

反射的に横へ飛ぶ。

さっきまで居た場所に、電撃が撃ち込まれた。

バシッ!と火花が散る。

 

残り7発

 

「…随分、卑怯な手を使うな」

「卑怯?違いますわ、奴隷さんがもう夜の3分の1は逃げ切っているものですから、ついゲームに夢中になって…」

口に手を当てて微笑むミラ。

「しかし、もう逃がしはしませんよ?あなたを飼ってあげるのは、私しかいないのですから」

翼を広げて、圧倒的な加速で飛び込んでくる。

「さあ、大人しくしなさい!」

俺はもはや、回避を諦めていた。

「来いよ…ミラ!」

剣を振りかぶる。

狙うは、電気銃。

あれさえ破壊すれば、ハンティングのしようがない。

「食らえっ!」

腰だめに剣を構え、電気銃へ一閃。

ガキッ!と銃口に傷が入り、狙いのそれた電気が俺の肩口に放たれる。

バズンッ!

耳が破裂しそうな音が響く。

 

残り6発

 

もつれ込んだこの姿勢では、俺より体のポテンシャルが高く、かつ飛び道具を扱うミラが圧倒的有利。

しかし、まだ終わらない。

俺はこれを切り札と考えていた。

これを防がれたならば、終わりだと。

その準備を済ませると、ミラがさっと身を引いて、銃口をミラ側に向けた。

 

周囲が緑色に煌めく。

 

「はっ…はっ…」

時が止まった。

ミラは引き金に指をかけ、銃口を自らの方へ向けている。

カウンターの姿勢なのだろうか。

俺はまだ剣を構えたままでいた。

いいや、銃を破壊したいのは山々だが、動けないのだ。

緑色に包まれた世界で、一人の女性が動いていた。

 

「…ニコラ?」

「お久しぶりね♪」

 

上機嫌で、彼女は俺の前に来た。

「なぁ、なんで俺の体は動かないんだ?」

「少し覚悟を確認しに来たのよ」

俺の眼前わずか1cmほど。

お互いの息がかかる距離で、ニコラは言った。

「私とあなたは二心同体なの、だから私はあなたの考えを感じることができる、それによれば…」

「よれば?」

「あなたは、時を止めてもこの女を殺さないつもりでしょう?」

つまらなそうにそう言った。

なんども問われ、考えたこと。

「…話し合えば分かることだろ?殺すほどのことじゃない」

「甘い」

「殺すのが間違ってるんだ」

「違う、あなたは愛の怖さが分からないからそう言えるのよ?」

どこか、俺を哀れむような言い方。

魔王と現に愛し合う俺が、そんなことを言われる筋合いはない。

「愛の怖さってなんだよ?ニコラ、お前が俺に暴力を振るったこと、そんな言葉で誤魔化そうってつもりか?」

乾いた音が響く。

頰を叩かれた。

「あなたは優しさを勘違いしている、あなたのそれは優柔不断にすぎないもので、自己満足のための優しさ」

「俺は…命を奪うのが嫌なんだ、死んだらもう会えない、仲直りできない、そこでお終いなんだぞ!」

「それはヘタレているだけね、くだらない」

すると、周囲の緑色の魔力が薄れはじめた。

「…!ニコラ!?」

「私の力頼りで、そんな優柔不断な言動をするのなら、一度痛い目を見るべきよ」

そして、ニコラは笑った。

とても哀しそうな顔だった。

 

時が動き出す。

 

俺は銃口がこちらを向いていない間に、思いっきり後ろに飛び退く。

「さて…仕留めますかね?」

電気銃をガンマンのごとく軽く扱い、俺に狙いを定める。

あと6発ある。

たとえそれだけあっても、撃つ前に左右に避けることもできるし、射程もそこまで長くはない。

彼女の翼と飛び方から鑑みるに、飛び方は二つ。

真っ直ぐに素早く飛ぶ。

ジグザグと蝶のように飛ぶ。

前者は細かい動きができず、後者は狭い場所は通れず、動きも遅い。

「…来いよ、俺は、まだ捕まらない」

「ふふふ、自信があるから楽しめる、潰した時に周りが見えない!」

河原の石を蹴り、素早くこちらに迫る。

俺は右手に転がりながら避けた。

あの銃の間合いでは、こちらには届かない。

バジッ!と音が響いたのは、俺が森の方へ逃げようと踏み出したその時だった。

「ッあっ…!?」

足に、焼けるような痛みと痺れがある。

「命中…ですわ♡」

また銃口を傾ける。

彼女の手は、電力調整のしぼりにあった。

 

電力…3

 

「…!」

彼女がこれまで使ったのは、最低電力。

それをあのタイミングで3に引き上げた。

内訳がどうなるのかは知らないが、光と距離からして単純に3倍の出力なのだろう。

「まだ…まだ俺は…」

足はぴくりとも動かない。

それでも、這って進む。

「奴隷さん?まだ逃げるんですか?諦めの悪いこと…」

あざけるような声。

しかし、一緒に行くわけにはいかない。

「俺は…エメに会いたい…!」

しゃがみ込むミラの顔が近づき、唇を奪われる。

「奴隷さん?あなたを、来週の夜、吸血鬼にしますわ」

「…え?」

「私の唾液をあなたの体に、満月の日に入れる、そうすればあなたは私と同族…!逃れられないようになる…!」

黒光りする銃口が向けられる。

「それまで、お休みなさい、奴隷さん♡」

 

残り2発

 

ゲームオーバー

 

いつか夢に出てきた女は、俺を捕らえた。

いつまで俺はこの女に抵抗できるだろうか。

ニコラの哀しそうな笑みと、言葉を繰り返し思い出して、それでも俺は、踏ん切りが付かなかった。




捕まってもうた…(´・ω・`)。
吸血鬼編もうちょい続きます。
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