そろそろ吸血鬼編も終わりです。
ユーリィ・グレイ
満月。
青白いその月は、俺のタイムリミットを表していた。
「奴隷さん、覚えていますよね?私とのお約束」
ベッドに縛られ、血を望むタイミングで吸われ、ご飯は一口一口、好きだと言わなければ食べられない。
「…何も、覚えていない」
それでも虚勢を張って口ごたえする。
ミラはそんな俺を撫で、冷たい目で言った。
「私と同じ種族になるのです、逃げられはしませんわ」
「願い下げだ…誰が吸血鬼なんかに…」
「儀式準備をします、少し眠っておきなさい」
機嫌を損ねたのか、電気銃を向けられる。
そして。
バズンッ!
ミラ=ワイル
「やっと…やっとあなたは私と同種…!」
私は嬉々として、儀式に必要な金のナイフ、金の皿、マント、絹の布を準備していた。
彼は可愛い顔で眠っている。
「…あなたの血を吸うのも、これで最後になるのでしょうか?奴隷さん」
名残惜しい。
彼の血は、色も味も香りも何もかも文句なしの美味しい血だった。
最後に少しだけ、少しだけ吸おう。
「あ〜ん…」
すると、扉がノックされた。
「…何?儀式をするのだから、入るなと言ったでしょう?」
「ミラ様、急ぎのお手紙が…!」
何やら血相を変えたような声。
不審に思い、扉を開ける。
「なんですか?」
上質な紙に書かれた手紙だった。
ミラ=ワイル様へ
殺す。
ユーリィを返すのなら、半殺し。
よく考えて決めなさい。
止めようなどと愚かなことは考えないよう。
デラルス・エメラルより
「…ふっ」
思わず笑いが溢れる。
震えるような筆跡。
おそらく倒産や合併関係の書類処理に追われて、ずっと文字を書き続けていたのだろう。
あるいは、怒りかもしれないが。
満月の位置はまだ低い。
「私の鎧と武器を用意なさい、それと、全ての兵に召集命令を、今こそ魔王家を潰す時が来ました」
「し、しかし、魔王家と戦争で…勝てる見込みが?」
役に立たない部下。
「使えない部下はいりません、言うことを聞けばよいのです、いいですか?」
電気銃を向ける。
「っ!わ、わかりました…!」
走って行った。
魔王に力は及ばずとも、財力も兵士もこちらの方が上にある。
「…明日から、私が魔王ですか、奴隷さん…いえ、ユーリィも喜んでくれますわ」
電気銃を放り捨てる。
せっかくフルチャージして、奴隷さんと楽しく遊ぶ準備はできていたのに。
「まぁ、あの馬鹿魔王に償ってもらいますわ、痛めつけて叫ぶ声を楽しむ吸血鬼文化は、本当に正しいことですわね」
鎧を着込み、レイピアを持つ。
負ける気はしない。この夜で終わらせてみせる。
デラルス・エメラル
「エメラル様、こちらの書類にハンコを…」
45時間。
私はずっと起きている。
会社の処理に追われることもそうだが、何より心配なのは、ユーリィの指輪の位置が少しだけこちらに向かい、すぐにあのクソ女の根城に戻ってしまったこと。
「…ユーリが帰って来たがってるんです」
ウルスラに何度もそう言った。
ウルスラも精一杯働いてくれている。
「…それは、そうかもしれません、ですがこの仕事を清算しておかないと、ユーリィ様も心配します」
目の下にクマのできた彼女に、私はこれ以上何も言えなかった。
「ウルスラ、寝てください、あとは私が何とかします」
ウルスラはふらふらと頭を揺らして、それでも私に付き添ってくれている。
もうまともな給金を払い続ける保証もないのに。
「できません、私はメイドです」
「メイドなら主人の言うことを聞きなさい」
「メイドだからこそ、主人の手伝いをするのです、そのやせ我慢を見抜くのも私の仕事です」
「ウルスラ、言うことを聞けないなら怒りますよ」
「エメラル様がお休みになるのなら、私も休憩します」
ラチがあかない。
今日こそ、ユーリを取り戻す算段なのに。
マリンが魔力砲を用意、お母さんの号令で魔王家の軍を全員召集、メイド達はこの家を守らせ、クインちゃんは魔力脈をいじって城を攻撃する。
ただ一人、ウルスラは反対していた。
「…ウルスラ、あなたには感謝しています、涙が出そうと言ってもいいくらいに」
「エメラル様?」
「けれど、やはり私は、ウルスラよりもユーリを助けることを選びます、だから、あなたを…!」
手を差し出し、魔力針を胸に打ち込む。
とす、と何の抵抗も無く刺さった。
「…帰ってきて…くだ…さ…」
どさり、と倒れる。
ウルスラを部屋のベッドに運んでやり、私は武具を付けて外に出る。
そこにいた、5万を超える、先代魔王からのコネと繋がりだけで集まった、兵に私は言う。
「今の私は、お金も夫も、何もかもを失いました、それでもこうして集まってくれたこと、それだけでも私はあなたたちのような人々に、感謝します」
辺りに響くのは、揺れる木の音。
誰も何も喋らない。
この演説で、私は勝つ。
全てを取り戻してみせる。
剣を抜き、掲げ、そして叫ぶ。
「我々は魔界を統べる者!それを覆そうという不遜者には、鉄槌を下さねばならない!我々が手を取り合えば、どんな敵も恐るるに足りない!今こそ、我々の力を知らしめるのだ!」
その場の兵の、叫ぶ声を聞いて、私は魔王という仕事の重みを、これまでにないほど強く、有り難く感じた。
ウルスラ・バード
「…エメラル様、やるのですね」
小さな黒い針を服から抜く。
窓の外には、人と明かりが大量にある。
服を脱ぎ去り、青い鎧を露わにする。
「私はメイドです、たとえ死ぬこととなろうとも」
扉を開け、踏み出す。
「ルビル様と出会った時から、私は魔王家と運命を共にする所存ですので」
数歩廊下を進み、赤面。
「なんて、カッコつけ過ぎですかね?」
アシン・ハース
「やるんだね…エメちゃん」
送られて来た手紙を読み、私は山に登っていた。
「できるだけ仕事は増やさないでほしいけど…今回は特別かな?」
赤い鎌を握る。
この術を使うのは何百年振りだろうか。
「ユーリ君、エメちゃん…私もお手伝いさせてもらうよ?」
死の大地。
そこには、死神以外何もないわけではない。
これまで魔界で死んだ、全ての死者の魂が、ゆっくりと動き出していた。
死神から乗り移る許可を得た魂は暖かい肉体を求める。
ぼんやり光る魂は、ただ一直線に吸血鬼の城を目指していた。
「さて、暖かい血の通った体は早い者勝ちですよ…ま、戦争が終われば私が殺し直しますけど」
魔王軍
生者約50000(+死者推定10000000000)
吸血鬼軍
生者約250000
次の次あたりで締めになります!
次はどんなキャラ書こうかなぁ…。