ウルスラ視点です。
メイドというのはともかく忙しい職だ。
そして、メイド長ともなればその生活はかなり過酷なものとなる。
普段私は睡眠4時間ほどの生活を繰り返している。
今朝は違う。
「んん〜…はぁ、かなり眠れましたねぇ…」
時計を見る。
8時まで寝たのは久しぶりだ。
正に、足の踏み場もない部屋に散乱する物をがしゃがしゃ蹴り飛ばして着替えをする。
「よしっ…夕べは喘ぎ声もベッドのぎしぎしも聞こえなかったし、絶好調です!」
こうして、私の人生で最もリラックスした一日が始まった。
「ふぇぇ…」
「…ウルスラ、このご飯、お兄ちゃん達がいないからこんなメニューになってるの?」
「使用人見習いの私でも、これよりはまともな料理出しますよ?」
「私の娘だから適当なのは分かるけど…」
みんながゲンナリして私を見る。
〜本日の朝食〜
パンいろいろ
ジャム
ミルク
オリーブ油
申し訳程度のサラダ
「いただきます」
みんな、最初こそ文句を言っていたが黙々と食べ出す。
エメラル様とユーリィ様がいないから、喘ぎ声も床のシミも獣みたいな声もない。
「はぁ…幸せ…」
食事中にもうっとりしてしまう。
「…ウルスラ、今日なんか気持ち悪い」
「〜♪」
部屋で本を読む。
私は本を買ったはいいが、帰ってきて見ると必要ない気がしてつい床に放っておくのだが。
「今日は読破してやります!」
本を床に並べる。
・ダンスパーティで声をかけてもらえる女の特徴
・サキュバス式!生理を和らげるヨガ
・量子物理学を用いたブラックホール解析
・魔力の効率のよい使い方
・メイドの心構え
・知らないと恥ずかしいマナー集
・女を捕まえるナンパの極意
「…ひどいラインナップですね」
なんでこんなもの買ったのだろうか。
マナーやメイドの心構えは分かる。
ナンパやら量子物理学は私には全くと言っていいほど関係がないものだ。
「…まずはメイドの心構えから読みますか」
本を開く。
メイドは奉仕する職業。たとえご主人が不在でも、仕事に手を抜いてはいけません。
「…」
私の心がズキリと痛む。
「ま、まあ、私は普段から忙しいですし、これは休日とか、そんな捉え方ですね」
何とか自分を誤魔化してページをめくる。
プライベートと仕事はきっちり線を引くこと。半端な仕事はご主人の迷惑としかなりません。
「ああもう!」
一気に本をめくる。
今の私を否定することしか書いていない。
おまけに書いているのは、私がメイド見習いの時に尊敬していたグルァルという人だ。
このままでは休日だというのに、心が疲れる一方だ。
私は立ち上がった。
本を置いてキッチンに向かう。
私だって一流メイドなのだ。
「え…これ、お昼ご飯です?」
「す、すごい…」
「…ウルスラ、頭でも打った?お姉ちゃんの始末のせいでおかしくなったんじゃないの?」
「さすがは私の娘!やればできるじゃない!」
〜本日の昼食〜
パンいろいろ
チーズのパスタ
クラーケンのカルパッチョ
オリーブの実
トマトスープ
ハザラ地方牛のステーキ
白ワイン
ネーナン地方魚のビール煮
「私の本気です」
私だってその気になればこのくらいできるのだ。
「うん!美味しい!」
「でしょう、自信作ですからね」
朝食の粗末さもあいまって、昼食はやたらと豪華に見えるのでした。
「さて…掃除掃除」
城の中全てを掃除するとなると、一週間ほどかかる。
なので廊下の絨毯のゴミやシミ取り、部屋の中のホコリ取り、食卓の拭き掃除など、最低限の掃除を薄く広くやる。
「よし、これで掃除完了ですね」
部屋の掃除を一通り済ませ、扉を開けて外に出る。
そこには、真っ黒な液体がある部屋から吹き出したような跡を作っていた。
「ご、ごめんなさいぃ…」
しょんぼりとした顔でクインちゃんとやらが近づいてくる。
「…掃除、手伝っていただけますよね?」
「わ、私はまだ実験が」
「手伝って、いただけますよね」
「はい…」
というわけで、掃除を始めた。
のだが、全く汚れが取れない。
水拭き、洗剤、クエン酸。
「これ、なにをこぼしたんですか?」
「イモムシを潰した汁とザクリの実とコウモリの血のミックスです」
「…」
「必要だったんです!量子物理学で証明された以外の方法でブラックホールを作るんです!」
「あのですね、ブラックホールができたらこのお城がどうなると思っているのですか?」
すると、さらっと答えた。
「消えますね」
「やめなさい、今すぐ」
「これさえできたら、私の科学者人生に悔いはないんです!」
「あなたは満足かもですが、私たちとしてはたまらないんですよ!」
「むむ…」
量子物理学といえば、あの本があったはず。
「これあげますから、実験はやめなさい」
その本を見るとクインちゃんは目を輝かせて独り言を唱えだした。
「なるほど、このやり方なら魔力で代用して…ここならこの物質を割り入れたならすぐに…」
むふむふ言いながら去っていった。
結局絨毯張り替え、丸洗いを余儀なくされた。
〜本日の夜食〜
なし
「疲れた…」
今日は浮ついて特別なことをしたせいで恐ろしく疲れた。
ジトっとした視線に耐え、ヨガをして肩を痛め、昼食の用意と片付けにゲンナリして、絨毯丸洗いで悪臭騒ぎが起こり。
「…早く帰ってきてください、エメラル様」
いつもは嫌で仕方なかった騒音が、今になると懐かしく恋しく感じてくる。
ベッドで寝返りをうつとメイドの心構えが目に入った。
最後のページに書いてある言葉。それは、今の私に一番心に沁みる言葉だった。
失敗を恐れてはいけません。何か行動を起こそうとして失敗するのは仕方がないです。しかし、それで失敗したのなら、その失敗を活かしなさい。ご主人に感謝しなさい。そうすれば、あなたはまた一歩一流のメイドに近づくでしょう。
「精進します、ユーリィ様、エメラル様」
もう二度と、サボったりしませんから。
サボることのできないウルスラたん。
本の謎ラインナップ…。