魔王と旧パーティを仲良くさせることはできるのか…?
ワグナ村宿「わぐなぁ」
「ユーリ、私たちを仲良くさせようとする努力はおおいに受け入れますし、構いませんが…」
布団の上に立って、魔王は拳を握りしめてこちらを睨みつけていた。
「なんでッ!寝室まで同じなんですか!」
びっ、と指をさした先には怯えるような、可哀相なような目でこちらを見るネミルとハルカ。我関せずといった様子で窓の外を見るヘイジ。
「まあ待てよ、とりあえず今はお互いの目的から整理していくことが必要だ」
イスに座って魔王を手招きする。
「…ふんっ」
そっぽを向いて、俺の膝に乗ってきた。
「あのね、ユーリィ、私たちも真剣に話すんだからイチャラブはまた後でにしてくれる?」
「俺のせいなのか!?」
「そうです!そんな座り方、不純です!」
「あらあらぁ?賢者サマはこういう体位に関しても賢いものなのですね?」
顔を真っ赤にしたハルカ、げんなりしたネミル、俺にくっついて離れない魔王。
ラチがあかない。
「うるさい!」
「「「…ごめんなさい」」」
「眠るのは当分先になるようでござるな…」
1時間後
「ふーん?実家に帰るんだ?」
「ああ、少しの間お墓まいりも行ってなかったしな」
「ですが…そのためだけにわざわざ人間界に?」
「そのためだけ、ではありません、現に先ほどもサキュバスの盗賊をこらしめてきたところです」
サキュバスという言葉にぞくりと背筋が凍る。
「ユーリ?今なにを考えましたか?」
魔王が振り返って笑いかけてくる。
「えっ!?な、なにも!ほら、三人はなんでこんなところにいるんだよ?」
「…後で公開羞恥調教でもやりましょうか?」
「ごめんなさいやめてください」
「冗談です」
「私たちは、アンタたちが人間界に来たって情報を聞いてね」
「わざわざ先回りしてたのか?」
「忠告する意味も兼ねて、でござる」
ヘイジが重い口を開く。
ネミルたちはその言葉にひどく動揺した。
「ヘイジ!はっきりそんなこと言ったら…!」
「ネミル殿、ハルカ殿、それとない言い回しでユーリィ殿とその婦人を追い返すことはできないと、わかっているのでは?」
「ヘイジ?何言ってるんだ?」
魔王が真剣な顔つきで問いかけた。
「私たちを人間界から追い出す算段だったんですか?」
「追い出す、というのとは違うのでござるが、やはり結果的にはそのようなこととも言えるでござる」
ぽりぽりと頭をかいて、ヘイジはカバンから紙を取り出した。
そこには騎士団の装備改定の旨が書かれていた。
「装備改定?」
「今日の騎士団では、かなりの機械化が進んでいて…」
「ユーリ、全く書いてある言葉がわかりません」
「俺もだ」
「そもそも軍事機密とも言えるような書類だからね、身内に通じたらいいのよ」
「情報を流してるのがバレたらヘイジさんも危なくなるのでは…」
「心配は嬉しいが、それでもやらねばならぬこともあろう」
「けど、生半可な機械ならそれこそネミルとかでも破壊できるだろ?」
「私が弱いみたいな言い方やめて」
「そんなつもりじゃ…」
話をしていると股間がぐりっ、と腰で潰された。
「いででで!?」
「ごめんなさい、腰が滑りました」
魔王が不機嫌そうに言った。
「こほん、話を元に戻そう」
「すみません、うちのユーリが」
「俺じゃn」
「勇者様、少し静かにしてください」
あれ?みんな俺の敵?
「恐ろしい兵器は、まだ開発段階なのでござるが、魔力を無効化するような物だと聞いておるのでござる」
「魔力を無効化…!?」
そこにいた全員が、息を呑んだ。
魔族と人間との違いとして、魔力の最大量や使用効率が挙げられる。
人間は魔族に比べて、魔力をそれほど使いこなせない(俺みたいな才能や特殊な魔女家系を除いて)。
それに比べて魔族は、これまで俺が関わってきたミラ、魔王、ウルスラ、マリンちゃん、やや桁外れの力をもつ者が多いが、やはりそれでも強大な家系の魔族は単体でも国を滅ぼす。
それは魔族独自の魔力操作技術が無ければ不可能とも言える。
だから人間は自分たちの手で、硬い皮膚や鋭い歯を作り出そうとしてきた。
だから魔族は自分たちの手で、肉体を変え感覚を変えて様々な種に増えてきた。
「…どうやって、魔力を使わせないようにするんだ?」
「そうです、確かに魔術で魔術を封じることはできますが、魔族相手に魔術戦を挑む人間はいないでしょう?本当に機械単体でそれを行うんですか?」
「わ、私は魔術できるし」
するとヘイジは立ち上がった。
「拙者は、忠告しに来ただけでござる」
「…?」
「この兵器が投入される前に逃げるのが賢明…そう言いたいのか?」
ヘイジは黙って頷いた。
「拙者としても心苦しい、しかしことは一刻を争うでござるよ」
「もしも」
魔王の冷たい声が響く。
「もしも私たちにその兵器が使われなかったら、その兵器はお蔵入りになるんですか?」
「…いや、恐らく、別の魔族が狙われるでござる」
「なるほど、分かりました、ユーリ?そろそろ寝ましょう?明日の出発は早いですよ」
すると魔王は膝の上から立ち上がり、俺を米俵のように担ぎ上げた。
「エメ、どうする気だ?」
「どうするもこうするも、私たちは魔族の長と勇者の夫婦ですよ?同族がおかしな機械のテスターになるのを黙って見ていろと言うんですか?」
にっこり笑った顔に、少しだけ恐怖を覚えた。
「まさか、研究所を破壊するのか?」
「そんな手間なことしません、相手が仕掛けてくるまで堂々とお墓まいりに行きましょう」
その魔王の笑みは、なんだかとても危なっかしいように感じて、無意識に抱きしめていた。
「え?ゆ、ユーリ?珍しいですね」
「エメ、確かにエメは魔族の長だけど、その前に俺の妻なんだ、心配させるようなことだけはしないでほしい」
すると魔王も手を回して、背中を優しく撫でられた。
「ユーリ、私はユーリと一緒に死ぬまで、ずっとずっと添い遂げますから、約束です」
こうしてお互い10分ほど抱き合っていた。
が。
「あぁもうユーリの匂い嗅いでたら興奮してきました!」
「!?おい待て待て、ネミルたちもいるんだぞ!」
「確かにユーリの可愛い声を聞かれるのは癪ですが、そんなことは些細なことなんです!」
「…耳栓、ある?」
「コーヒーならあるでござるよ」
「淹れましょうか…」
今回は宿屋でほのぼの編でした。
新たな波乱の予感…?