ヤンデレ魔王に追い回される日々   作:パ〜ム油

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騎士の襲撃を退けてついにお墓まいりに。
もう一悶着ありそうな予感…?


実家挨拶(その7)

「…ここがお墓ですか」

「ああ、グレイ家の墓だよ」

街に入るのはやはり勇気が出ないので、人通りの少ないところを通って町外れの墓地までやってきた。

「ユーリ?」

「ああ、お花お供えしないとな」

途中買ってきた花を供え、手を合わせる。

思えば、本当に帰ってくるのは久しぶりだ。

目を閉じたら思い出す。

弱々しく笑う母親も。

強さを教えてくれた父親も。

「…ユーリ」

古い思い出にふけっていたら、魔王の声が聞こえた。

「ああ、ごめん、あんまり長居も」

目を開けると、不意に魔王に顔を柔らかい両手の平で包み込まれた。

「寂しいんですか?」

その時、俺は初めて気づいた。

「…」

 

自分が涙を流していたことに。

 

「は、はは、なに泣いてんだろ、俺」

「ユーリはまだ、一人で悲しみを受け止められるほど大人ではないんです」

「違う、俺はもう甘えたり…」

言葉と裏腹に止まらない涙。

自分でも理解も制御もできなかった。

「寄り添うことと甘えることは違います」

魔王に顔をまっすぐに見られ、拭うこともせずに涙を流し続ける。

「ユーリはまだ、完璧な大人じゃありません、お墓まいりで泣いて、なにが悪いんですか?」

「俺はもう大人だ、勇者として認められて、仲間たちとエメを倒しに行って、もうじき16になる!」

「歳ではありません、もっと大事なもの、それがユーリの成長を遅くさせてしまっているのです」

落ち着いた調子で俺を宥める魔王につい声を荒らげる。

「大事なものって、なんだよ!」

すると、優しい抱擁で俺は魔王に包み込まれた。

「人と寄り添って、人に甘える、子供の頃には当たり前のように皆がしていることです」

「エメ…でも、俺は…」

「強がったままの姿なんてご両親もきっとお見通しです、なら、私に甘える、ということを受け入れて、きちんと成長するべきですよ」

「っ…ご、めん…エメ…」

「謝ることではありません、近しい人の死は辛い、当たり前じゃないですか」

それから数分、俺は魔王を抱きしめて泣き通しだった。

 

「…ありがとな、エメ」

「頼れるところをきちんとお義母さんに見せないとですからね!」

さっきから態度が急変しているが、まさか。

「エメ、俺の両親見えたり、するのか?」

すると魔王は弾けたように笑って、答えた。

「そんなわけないでしょう?アシちゃんでもあるまいし!」

「はは、だよな」

「そろそろ行きましょうか、あまり長居も、人に見つかるかもしれませんし」

「ああ、じゃあ帰るかな」

「はい!」

手を繋いで、魔王と帰路についた。

 

墓場からの帰り道、魔王が急に足を止めた。

「あ、ユーリ!」

「ん?」

「忘れ物をしたみたいなので先に行っておいてください」

「大丈夫か?俺もついて行った方が…」

「いえいえ、5分程度で追いつきますから」

「…ん」

魔王はそそくさと元来た道を走っていった。

 

10分後

にこにこしながら魔王は帰ってきた。

「おかえり」

「待っててくれたんですか?先に行ってもよかったんですよ?」

「気にするなよ、帰りはちょっと村の様子も見ながら帰りたいし」

すると魔王は目をぱちぱちと瞬かせ。

「え…?大丈夫なんですか?」

「様子を見るだけだ」

俺には少し、気がかりなことがあった。

村の前で戦った騎士たち。

騎士というのは、ヘイジのような優しい者ばかりとは限らない。

むしろプライドの高い貴族出の者が大半だ。

ヘイジが俺のパーティに入ったのも、魔王討伐という無謀にも思える行為に貴族出身騎士は怖気付き、農民から叩き上げでやってきたヘイジを推薦したからに他ならない。

それほどプライドの高い騎士たちが、あそこまでやられて黙っているはずがない。

「どうしても確認したいことがある」

「…私も行っていいですか?」

「ああ、バラバラだと危険だしな」

 

バレると村人に騒がれるかもしれないので、旅人のフリをして頭巾をかぶる。

魔王はそのままの格好だ。

どうせ魔王の顔なんてほぼ知っている者はいない。

「ユーr、こほん、どこに向かうんですか?」

「この村にはほぼ娯楽施設もないし、いるとするなら宿屋か酒場か飯屋くらいのものだと思う」

酒場の戸を押す。

と、威勢の良い声が店内に響いていた。

「さっさと酒出せ!マズいくせに準備が遅すぎんだよ!」

「す、すみませんお客様」

カウンターに足を乗せ、ガンガンと蹴りつける男が三人。

マスターは恐怖からか脂汗を浮かべてぺこぺこと頭を下げている。

こんなにガラの悪い者は、この村社会で住人としていられるわけがない。

「…」

呆気に取られた魔王に小さな声で耳打ちする。

「間違いない、無事だった騎士たちだ」

イスの足下には剣と鉄砲が置いてある。

「俺が行くから、エメは隠れて待ってろ」

そう言うと若干肩を落とした。

「…はい」

エメが店から出て行ったのを確認して、騎士の一人の肩に手を置く。

「アンタら、マナー違反が過ぎるぞ」

酔いのまわった赤い顔で男が振り向く。

「…あ?」

「あんまり悪い態度を取ったら、騎士どころか王国自体が反感を買うだけだ」

すると隣の席に座っていた男が俺の手を肩から取って言った。

「はは、こんな小さな村の田舎者にどう思われようが、俺らはどうだっていいんだよ、なんせ俺らは貴族だぜ?」

胸が怒りで熱くなるのを感じた。

「口で言って分からないなら、体で覚えさせるぞ」

「三人相手にか?面白ぇ、やってやるよ」

マスターが何とも言えない顔でこちらを見ている。

「表に出ろ、どっちが正しいか分からせてやる」

「へっ、負けたらどうなるかわかってるよな?」

「好きにしろ」

 

外に出ると、男はいきなり剣を抜いた。

三人相手なら拳で叩きのめせるが、剣での乱戦にはあまり自信はなかった。

剣を使えば、殺してしまうかもしれない。

「っ!卑怯だぞ」

「アンタも剣あるだろ?そら、抜けよ」

「…」

剣を抜き、睨み合う。

いつの間にやら人がヒソヒソ話しながら野次馬していた。

「さて、行くぜ、騎士の剣技を見せてやるよ!」

騎士の剣技とはいうものの、山賊となんら変わらない下品な剣の扱い方。

酔いも相まって、捨て身としか思えない攻撃だった。

「…そんなものかよ!」

剣をさばき、蹴り倒す。

「ッ!手前っ!」

二人目は腰だめに突いてきたが、なんせ伸ばすタイミングが全くもってズレていたので、足を少し切り、体勢を崩したところに拳を入れたら気絶した。

「…?」

もう一人がいない。

すると、いつの間にかさらに増えていた野次馬から悲鳴が聞こえた。

人が慌てて逃げ出している。

「勇者様!助けてください!」

「うるさい!アイツが来たらガキは死ぬぞ!」

残りの一人は、5、6歳程度の子供のこめかみに鉄砲を当ててこちらを睨みつけていた。

子供は引きつった顔で震えている。

「おい!剣を置け!」

「わ、分かったからその子を離してくれ」

鉄砲相手に数m離れた間合いでは太刀打ちできない。

「さっさとしないと、こいつの頭吹き飛ばすぞ!」

剣を地面に捨てる。

男はニヤニヤと笑い、こちらに数歩近づいた。

そして子供を、母親と見られる女性の方へ押した。

「おら!騎士に逆らった罰だ!」

 

ズダンッ!

 

「あっ…ぐぅ…!?」

お腹が熱い。

膝をついて倒れる。

女性と、野次馬の悲鳴が聞こえる。

「へ…ざまぁ見やがれ…ぇ…!?」

すると男の方から水っぽい音が聞こえた。

 

目を向けると、男の足が破裂していた。

 

文字通り、足から血を吐き散らして破裂。

肉片が周囲に散った。

「ぎゃああああ!」

「うるさいですね、ユーリに傷を付けて、その上耳障りな声まで撒き散らす害悪が…」

男の頭上に白い光が瞬き、次の瞬間、上空数十mほどまで男は吹き飛ばされる。

「ひッ!?ひあああああああああああああ!」

そのまま男は地面に叩きつけられ、動かなくなった。

そしてそれを行なった本人。

魔王が駆け寄ってきた。

「ユーリ!ごめんなさい、本当にごめんなさい、私がもっと早くに助けていたら…ッ!」

「エメ、俺の傷はまた後でいいから、早く逃げよう、ここにいたら正体がバレ」

言いかけたところに、老人の声がした。

「ユーリィ、何を隠しておる?帰ってきたなら顔くらい見せぬか!」

「「…え?」」

俺を取り巻いていたほぼ全員の村人が、苦笑いして俺を見ていた。

そして全員が言う。

「「「「勇者様、おかえりなさい!」」」」

 

 

魔王が忘れ物を取りに行った10分間、墓場からは楽しそうな会話が聞こえたという。

「あなたみたいな人に息子を貰っていただけて、私たちは本当に幸せです、ね?あなた?」

「ああ、綺麗な人で幸せだな、ユーリィ!」

「あらあら?私を差し置いて綺麗な人?確かに歳は取りましたけど、それはあんまりじゃないかしらねぇ?」

「う、うむぅ、すまん、母さん…」

「あ、あははは…仲睦まじい御両親ですね…」

「にしても、本当に私たちが見えるのね」

「ああ、驚いたな」

「魔の王ですからね、でも、本当に私とユーリの仲を認めてくれるんですか?」

「何度も言わせるな、俺たちが口を出すことじゃない、本人たちの好きにすればいいさ」

「それにね、あの子にはあなたみたいなガッツのある子が相手じゃないと、腑抜けになっちゃうから…」

「大丈夫です、きっと、いえ絶対に幸せにします」

「それはユーリィの言うべき言葉なんだけどねぇ…」

「そろそろ時間ではないか?気をつけて帰るんだぞ」

「はい、またすぐに来ます」

「たまにでいいわよ、たまに」

「いつでも待っている、とユーリィに伝えてくれ」

「あなた、話せることが秘密なんだから伝えるもなにもないでしょう?本当に帰りは気をつけてね?」

「はい、それでは失礼します!」

 

「いい子だったじゃないか」

「そうね、きっと幸せになるわ」

「子供のうちに放り出してしまったが、元気でやっててよかったよ」

「本当に、ね…」

二人の笑い声は少しずつ薄れ、やがて消えたという。




お墓まいりは終わりましたが、やはりまだ続くいらない要素かもしれない故郷編。
書いてたらノっちまいました。すみません。
勇者の母親もヤンデレっぽかったですな。
希望があれば両親の馴れ初めも書きたかったり(ry。
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