魔王は大変怒って…。
その日、魔界から山が消えた。
朝日の差し込む大地に、青い稲妻が走って魔王城付近の山を消し飛ばしたのだ。
「エメラル様ッ!?」
仕えるメイドことウルスラは、主の部屋に走る。
「…ああ、ウルスラ、おはようございます」
宙に浮いてこちらを見た魔王は、全く笑わずにそう挨拶した。
「エメラル様、何をしているのですか!?今回という今回は、ユーリィ様とケンカしたくらいで山を吹き飛ばした、ではすみませんよ!」
流石のウルスラもカンカンに怒って叫んだ。
しかし、そんなウルスラを見て動じることもなく魔王は言い放った。
「いいえ?そんな些細なことではありません」
すっ、とバルコニーに降り立った魔王は、ある紙を広げてみせた。
「ユーリィが家出…いえ、連れさらわれたと見て、間違いないでしょうね」
そこには。
エメ、ごめん。俺は少し旅に出る。
行き先とかは気にしなくていいから。
その内帰る。
またな。
それを見たメイドは、薄く笑った。
「ああ、そういうことですか」
俺の記憶では、ヤマトの国は遥か遠くだったはずだ。
しかし、それはあくまでハザラの街の門を通れば、の話。
魔王城から出て数km歩いたあと、目の前の俺を誘拐した者は、真っ黒な装束に身を包み、巻物を手に何かを唱えた。
次の瞬間には、小さな港町にいたのだ。
転移魔法でも、世界をまたぐとなれば非常に負荷の大きい術になる。
それをやり遂げた者、即ち俺を攫った者は、一体。
「…どこなんだよ、ここ」
「ヤマトの国の港だ、あのカゴに乗れ」
そこには筋骨隆々の男が二人と、棒のついた箱。
「…え?乗れ?何に?」
「…主、カゴも知らんのか」
するとそいつは呆れた調子で指を指した。
「あのカゴに入れ、と言っている、聞かなければ…」
クナイ?と言うのだろうか。
ヘイジから聞いた暗殺者の武器を向けられて、丸腰(部屋着のまま)の俺は大人しくカゴに入った。
感想としては。
酔った。
「おお、やっと着いたか!わらわは待ちくたびれたぞ!」
カゴに乗って着いた場所、そこは立派な城の庭だった。
と言っても、俺の見てきた城とは違う。
黒い瓦を重ねた屋根、白い壁、重厚な門。
そして何より。
「わらわは主…ゆぅりぃと申したのう、主に嫁ぐ「雪」じゃ!光栄に思うがよい!」
目の前にいる女の子。
見た目からして12歳ほどか。
俺より年下なのは明らかだが、黒い瞳に白い肌、赤に所々薄桃色の花が描かれた着物と、目を引いたのが長細い刀。
「ご苦労じゃったの、もう帰ってよいぞ」
相当ご機嫌な様子で雪は言った。
「…さて、と」
男たちが城から出るのを見て、雪は俺に目を向けた。
「主様、わらわと少しお話といこうかの?」
その目は暗く、色々な感情で淀んでいた。
城の最上階であろう部屋(といっても恐ろしく広く「ふすま」とやらが部屋を仕切っている)で俺は雪と二人きりになった。
二人きりになった瞬間、雪は俺に飛びついてきた。
「主様ッ!」
「ッ!やめろ!」
抱きついてくる彼女を引きはがす。
「ふ、そうじゃな、まだ主様はこの状況を飲み込めていないのであったな」
「俺を攫って、狙いはなんだ!エメか?魔界か?」
「わらわはそんな物に興味はない、ただ一つ…」
襟首を掴まれて恐ろしい力で引き寄せられる。
黒く、吸い込まれそうな瞳はこちらをじっと見据えていた。
「ゆぅりぃ、主様を一目見てみたかったのじゃ」
「…なんで、俺を?」
にたりと笑って手を離す。
彼女の瞳と迫力のせいか、腰に力が入らなかった。
「ふふ、兵二…ヘイジ、といえば分かるかのう?」
「ヘイジ…俺の、仲間か?」
「うむ、兵二がつい先日にヤマトの国に帰ってきてのう、そこで主様の話を聞いたのじゃ!」
あのヘイジが俺を売るような話をするはずがない。
「話って、どんな?」
「自分が今仕えている者は、自分より年下であるのに強大な力を持ち、さらに優しさまでも持ち合わせた者であるとな!」
にははは、と笑う彼女に愛想笑いしながら言う。
「ならもういいだろ?帰してくれ」
「気が変わったのじゃ」
また抱きつかれる。
今度は、なぜか力の入らない体のせいで振りほどくこともできずにいた。
耳元で、甘い囁きが聞こえる。
「主はわらわと結婚するのじゃ、主の望む物は全てある、わらわが相手なら、文句も無かろ?」
聞くだけで頭の半分が痺れたような感覚のする声。
彼女の目も声も、なぜか俺の自由を次々と奪っていく。
そんな彼女の力に抵抗するために、俺はできるだけ冷たい声で言った。
「俺にはエメがいる、アンタと結婚なんて無理だ」
すると彼女は俺から離れて、淀んだ目で笑った。
「ふふ、主様ならばそう言うと思っておったわ」
次の瞬間、強い衝撃と轟音とともに、俺は壁に押し付けられていた。
咳き込むことも許されず、叩きつけられ、襟首を掴まれたままの姿勢で彼女を見る。
「判断を下すのはあくまで主様じゃ、しかし、あまりわらわを怒らせぬ方が良いぞ?」
「わらわは、そう気が長くないのでのう?」
空いた手で刀を抜き、眼前に切っ先を向ける。
「…刺すなら刺せよ、アンタに屈しはしない」
そのまま睨み合う。
と、急に手を離されて、俺は床に尻もちをついた。
「わらわは優しい、だから主様のわがままにも、少しの間なら待ってやろうぞ」
キンッ、と音を立てて鞘に刀を収める。
「忘れるでないぞ?主様の真の嫁は、わらわ、この雪であるということを」
笑う彼女は、何を考えているか全く分からない。
ただ一つ、俺を壁に吊り下げた時の彼女の目は、本気であったということ以外は。
「ふ、長旅で腹が空いたであろ?昼食にしようぞ」
今回のヒロイン登場!
情緒不安定ナルシスト(?)束縛系ヤンデレ!
…キャラぶっ込みすぎて、自分の技量じゃうまく描けないかもですが、どうぞ暖かい目で見守ってください!