久しく話していないニコラの夢を見た。
「…ニコラ、夢の中で会うのも久しぶりだな」
憔悴しきった顔のニコラは俺に言った。
「時間がないわ、これだけ伝えに来た」
「え?」
「心配しなくても、あなたがしくじらなければまた会えるわ」
「俺?なんなんだ、俺は何をすればいいんだよ」
ニコラの体がぼろぼろと崩れていく。声も薄く、か弱くなっているのを感じた。
「とに…く…椿…気を…け…」
「ニコラ?おい、ニコラ!?」
夢だと分かっていても、そう叫ばずにはいられなかった。
ヤマト城天守
「…あ?」
目を覚まし、辺りを見渡す。
そこは畳の敷かれた和室ではなかった。
「起きたかの?主様」
「ここは?何なんだ?」
立ち上がろうとする。
が、足を縛られていて、とても動くことなどできそうにない。
「主様、わらわと契りを交わす時がきたのじゃ、誰にも邪魔をさせんよう、天守で行う儀式を…」
見れば俺は全裸、肌に呪印のような文様が刻まれており、その内の一節がかすれていた。
「…なんだ?これ」
「それは会った当初に付けた呪印じゃのう、主様の中の者がおったから、封じさせてもらった」
「ニコラのこと…バレてたのか…?」
「ふ、何にせよわらわには感じた、主様の中の者はとても主様を慕っておるのを」
言うと雪は椿を抜いた。
「この椿に血を捧げるのじゃ、ほんの数滴でよい、さすれば主様は正式にわらわの婿…我が一族の一員となる」
「待てっ!まだ俺は雪の婿になるつもりはないぞ!」
「わらわは鬼ではない、まだ待ってやろう、今日は胸騒ぎもするしのう…何かあるのかもしれぬ」
そう言って呪印に手を加えていく雪。
鞘から少しだけ顔を覗かせた真紅の椿は、こちらを吟味するように見つめているように感じた。
「さて、儀式の時までに気持ちの整理がつけばよいがの、付かなくても血を捧げれば主様はわらわのものじゃ」
「…」
魔王城
「かッぁ…!?」
うめき声を漏らして、黒服に身を包んだ男が倒れる。
「マリン、もう少し手加減ができないの?」
「…ふん、どうせ殺すんだから、内臓を丸ごと吹き飛ばしても同じことでしょ、スパイのくせに弱すぎるし」
「はぁ、お母さん悲しい…」
「服が血で汚れるのですが…」
死体の服を漁る女と、その横で家族の会話に興じる三人。
しかしその黒服の男は血で染まっており、未だガクガクと震える死体であった。
「ありました、感覚からして、この書物を使って転移した模様です」
漁っていた女の手から丸められた紙を受け取る。
「ふうん…随分と古い紙ね」
その巻物を手に取った女が地面にそれを置く。
「さて…ウルスラ、マリン、エメラル、準備はいいかしら?」
「ふ、聞くまでもありませんね」
「…うん」
「私はメイドとして協力する、ただそれだけです」
魔王とその仲間たちの、最恐のパーティが人間界に現れた。
ヤマト城天守
「さぁて…椿に血を捧げましょう」
いよいよ逃げられない。
狂ったような笑みの雪はだんだんと俺に椿を近づける。
「…頼むから…やめてくれ!」
椿の紅い刀身は、無慈悲に俺の肌に触れる。
はずだった。
「…え?」
「!?」
バヂッ!と音立てて、椿は雪の手から吹き飛んだ。
畳の上に転がる。
「…主様、主様の力は封じたはずじゃ!なぜ椿を弾くほどの力を出すことができる!」
「俺にも、分からないんだ!魔術的なことはないもしていない!」
わけがわからない。
そしてさらに。
「ゆ、雪姫様!」
廊下から部下と思しき男の声。
「な、何じゃ!儀式の邪魔をすれば斬ると言っておいたろう!」
「奇襲です!戦闘指揮を…!」
「ええい、そちらで何とかできんのか!?ヤマトの国の小国なぞ一隊で蹴散らせるはずじゃろ!」
「ヤマトの国ではありません!」
着物を脱ぎ去り、身軽になった下着姿でふすまを開ける。
すでに具足は揃っていた。
「どこの水軍じゃ、申せ」
「敵は…ゆぅりぃ様を求めております、賊は判明している限り4人、戦闘能力は非常に高く、民間人の救護までも手が回るか…」
雪は鎧をつけて椿を抜いた。
「この天守だけは守るのじゃ!儀式が終わるまでは何としても!」
「はっ!」
くるりと振り返った彼女の顔は、正に鬼の笑みを呈していた。
「さ、抵抗など打ち砕いてみせよう、主様の力がどこまで持つか見ものじゃのう」
ヤマト城付近12km地点
「…お姉ちゃん、殺したらダメなの?」
「ダメです、気絶か重症にとどめなさい」
「甘い子になったわねぇ…昔は歯向かう人をみんな埋めてたような娘だったのに…」
「もうすぐ着きますね、手応えのない相手で助かりました」
片手で投げ飛ばされた兵士は地面に強く頭を打ち付け、そのまま昏睡した。
「にしても独特で綺麗な花、お城、服装ねぇ、観光で来てみたかったわ」
「あの城の構造からして最上階にユーリがいますね、さっさと行きましょう」
「…お姉ちゃん、あれ」
マリンの指差した先には、城壁の穴から覗く鉄砲の先端。
「あら?あの武器は何かしら?」
数十にも及ぶ銃口が火を吹く。
ルビルは倒れ伏した。
「…え?お母さん?」
「る、ルビル様!?」
「しっかりして下さい!」
次の瞬間、武器庫とみられる蔵が爆発した。
むくりと起き上がる。
「私は死んだんだから、祟りで攻撃してみました♡」
「「「…」」」
「え?何そのピリピリした感じ、え、ちょ、そんな物騒な物お母さんに向けて痛い!痛い!」
一人を剣でつついて盾にしながら、城の中に侵入する三人の敵。
それを見て歯噛みする女が一人。
「はよう血を捧げねばならんというのに…ッ!」
「諦めろ、その刀は俺には刺さらない」
「くッ!我が一族となれ!」
白い火花を散らして剣を弾く体。
無理やり斬りつけさせられる刀。
「なぜじゃ、なぜわらわの物にならん!」
「敵が来ております!逃げましょう!」
「黙れ!貴様一人で逃げるがよい!それ以上喚くなら、この場で切り捨てる!」
その後の結果を嘲笑うように、赤く細い、月が笑っていた。
魔王と雪姫の激突…ムフフ。
次回で〆ます。
リクエストしてくれても…エエンヤデ。