1話 裏切り者〜judas〜
コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。
到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。
瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。
このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。
「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」
志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。
「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」
「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」
ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。
いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。
とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。
銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。
「ねえお兄さん」
いつの間に入って来たのか。小学生くらいの子供が俺の後ろに立っていた。
「その銀貨を持って今すぐ逃げたほうがいいよ。」
「...早くお家に帰りなよ。」
俺が冷たく言い返すと、少年は怪訝な顔をしながらじっと俺を睨み付けた。
「おーい!!!何してる!!!早よ来なさい!!!」
「すいません!!!今向かいます!!!」
俺は銀貨をポケットに急いで突っ込み、ウッドデッキへと駆けた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ウッドデッキへと入った瞬間俺の右腕が吹き飛んだ。
余りにも有り得ないことが起きたからか、自分の身体は動こうとも逃げようとせず固まったままパニック状態であった。
動かない俺の身体は次に左脚が欠けた。
地べたへ情けなくこうべを垂れた時に感じたのは「死」だ。
_______そう。痛みより先に俺に届いたのは死への絶望である。
自分の血が亡くなっていくことへの寒気である。
「あァ...!ああ...!」
喉は俺の口から言葉を発す事を良しとせずただ嗚咽のみを漏らし続けた。
幻覚なのか、血濡れたドレスを着た天使が俺の前に立った。
「あァ...うゥ...!」
必死で絞り出したSOSは届かない。それどころか。
___________天使は俺を食べ始めた。
「イダィ...!イダィってば...あァ...!ああ...」
ここまで情けなく泣いたのはいつ以来だろうか。
痛みと絶望が入り混じり、俺はもう揉みくちゃにされた。
骨を食べられ始めたあたりからだろうか。
何もかもが真っ黒になった後、俺は意識を失った。
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コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。
到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。
瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。
このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。
「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」
志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。
「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」
「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」
ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。
いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。
とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。
銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。
「ねえお兄さん」
いつの間に入ってきたんだろう。小学生くらいの銀髪の少年がいつの間にか俺の後ろへ立っていた。
「坊や迷子かい?早くお家へ帰りなよ。」
「________さっき死んだ感想を教えてよ。」
さっき死んだ感想...?さっき死んだ...?
「何言ってるんだい?君」
「血濡れのドレスを着た女の人に身体を食べられた感想を教えてって言ってるんだよ。」
嫌な汗が背中に走った。あの妙にリアルな夢...まさかな。
「おーい!!!!藤木クーン!!!早くー!!!!」
「...はい。すぐ向かいます!!!」
志村に気付かれないように俺は急いで最低限のレポートや資料をカバンに詰めた。
電車の時間...クソ...後20分待たないと出てないな。
俺はウッドデッキには向かわず、エレベーターへ向かいタクシーを探しに向かった。
「...死なないように頑張るんだよ。」
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タクシーに揺られながら我ながら馬鹿げてると感じた。
志村所長に与えられたチャンスを無下にしているのかもしれない。
冷静になって思えば何をやっているんだろうか。
「はぁ...戻ろうかな。よく考えたらばかばかしい。」
そんなことを思った瞬間、タクシーは急に止まった。
どうしたんだろうか。
「すいません。どうかしましたか?」
「いや...幾らアクセルを踏んでも車が動かなくなってしまって...ハハハ...故障ですかな...」
なんともついてないな。そんなことを思いながらゆったりとシートに再度腰掛け直した。
間抜けな俺はそこで気付いたのだ。
決して車が故障しているわけではない。
車をあの夢に出て来た天使が力づくで無理やり止めているのだ。
_______吐き気。痛み。絶望。
あの天使が俺にしたことは夢なんかじゃない。
現実なんだ。現実に俺は死んだんだ。
その事実をこの吐き気が証明している。
無理やりドアから抜け出し、覚束ない足で懸命に逃げ出す。
死にたくない。その一心で懸命に脚を回転させた。が、
「にげないでよ♩」
「ァ__________」
天使の指はいとも簡単に俺の肩を引き裂いた。
「ウゥ...!ぐゥ...!ゥゥゥウ!!!」
俺は芋虫のように地面を這いずり回った。
こうでもしなければ痛みを我慢することができなかった。
「あー!もう!アーチャーはそうやって解剖対象を無碍に扱うー!こらっ!めっ!」
突然現れた不気味な頭蓋骨に運ばれてようかという時に目の前が真っ暗になり、
俺は意識を失った。
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コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。
到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。
瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。
このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。
「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」
志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。
「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」
「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」
ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。
いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。
とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。
銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。
「ねえお兄さん」
いつ研究室に来たのか。銀髪の美少年が俺の後ろに立っていた。
俺は銀髪の美少年を無理やり押し倒し、問い質した。
「答えろ!!!どうすれば俺は助かる!!!俺はどうやったら死なないんだ!!!なぁ!!!!答えろよ!!!」
銀髪の少年は俺の横暴な行為に怒りもせず俺の唇に人差し指を静かにあてた。
「その銀貨が君を助けてくれる。けどその銀貨に助けを求めるならば覚悟したほうがいい。」
「君は世界で最悪の裏切り者になる。」
「良いさ。裏切り者だろうがなんだろうが構わない!!!銀貨に誓ってやるよ!!!」
「...言ったね。銀貨に誓うって。」
銀髪の少年は俺の手を振りほどき、椅子に腰掛けてこう告げた。
「二階の本棚にある緑色のファイルを取ったら三階の四番倉庫に向かって。そうすれば...」
「君の運命は始まりを告げる。」
その言葉を聞くと形振り構わず俺は全力で二階へ向かった。
あの天使が俺を殺す。その事実が俺の背中を尚更後押しした。
即座に緑のファイルを手にした後は全力で階段を掛けた。
三階の四番倉庫っ。三階の四番倉庫っ
_______ついた。四番倉庫...。
急いで入り口を開けようと試みる。が、
________開かない。
そんな...!うそだ。ウソだ。ウソだ...!
「藤木クーン何やってるの♪」
ウソだ...いつの間に...
「串刺しとさァ串刺し、どっちがいい?勿論さァ...」
そうだ...こいつを利用して...!
「串刺しだよねェー!!!!!」
俺を目掛けて全力の魔力放出。これは読んでいた。
俺は咄嗟に伏せることで閉まっていた扉を天使に破壊させた。
「_________良し。これで...!って、え...?」
俺の身体から「腕」が突き抜けている。
「_____遅かったねェ...♪」
「チクショウ...!」
天使の裸足で顔を思い切り踏んづけられる。
「ああ...♪美味しそうだね♪」
お終いか...いや...まだ俺には...
「銀貨」がある。
「まだここじゃ死ねない...何も知らないまま...何も出来ないまま...終わりたくはない...!俺にはまだ...!」
微かな希望...古びた銀貨を力一杯握りしめた。
神でも仏でも何でもいい...!俺を...!
俺を救ってくれ...!
「頂きます♪」
天使が俺を今にも喰らおうかというその時。
異変が起きた。
ツキは赤く染まり、
ソラは黝く蠢く、
雷鳴は激しく轟き、
俺の血はただの「水」になった。
黒い翼の生えた喪服の女性がぼんやりと目に移る。
なんだろう。この人は、
「主よ。アナタの救いの声は私のいる氷獄へと届きました。」
柔らかな指で頰をそっと撫でられた。なんだか安心する。
「後はお任せください。」
その様子を見届けると、
_________俺はまたもや意識を失った。
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コーヒーの匂いで充満した研究室にまた戻った。
ああ。また死んだんだ俺。
もういい。眠ろう。ここで永眠してやる。
そうして瞼を閉じようとするがなんだか妙な感触に今更気付く。
俺が寝ているのはどうやら研究室の硬い机ではなくもっと柔らかいものだ...
なんだこれ...意識がおぼつかないので手探りで周りを手当たり次第触ってみる。
どこを触っても一々柔らかい。なんだこれは...
「お目覚めでしょうか。主よ。」
...どうやら膝枕をしてもらっていたようだ。
しかも喪服の少女に。
「君が...俺を助けたのか?」
「...はい。主の救いの声を聞き届け参上しました。そして私のことは...」
「以後、アヴェンジャーとお呼びください。」
悲哀の混じった眼でアヴェンジャーはそう告げた。
自分がそう名乗ることに何か躊躇いでもあるかのように。
「アヴェンジャー...復讐者...か。」
とても疲れていたせいか、また俺は意識が遠のいていった。
今度は血の海では無く、
女の膝の上で。
END