14話 少年タクル
少年タクルは小さな村に住む少年であった。
よく食べ、遊び、よく学ぶ、何処にでもいる普通の少年である。
「お母さん!!今日も先生のとこに遊びに行ってくる!!!」
「ハサン様に呉々も迷惑かけたらダメですからねー!!」
「はいはい!わかってまーす!」
村を抜けた街には、暗殺教団が管理している廟が存在した。
通称「アズライール廟」と呼ばれる廟である。
タクルは其処に毎日足蹴なく通った。
「先生!遊びに来たぜ!」
「おや、タクル殿...来ていましたか。」
割れた骸の仮面に、黒いマントを着た男は正しく教団の主ハサン・サッバーハその人である。
「先生!!今日も聞かせてくれよ!!獅子心王と一緒に悪い奴らを退治した話を!!!」
「ハハハ...タクル殿...これはもう話すのは4回目ですぞ?」
ハサンが仮面越しでも自嘲気味に笑うのが感じ取れた。
だが少年の瞳の輝きは収まることはない。
「何度聞いてもワクワクするんだ!!獅子心王のエクスカリバーの話と先生のザバーニーヤの話は!!!」
「むぅ...そのような麗しい目で見られては仕方ありますまい。では話しましょう。」
獅子心王ことリチャード1世はペルシアの暗殺教団と協力し蛮族を押し返したことがあった。
その武勇は村では伝説として語られ、子供たちの中では人気の話であったのだ。
タクルはハサンの武勇伝に心を踊らされた。
擽られた少年心はいつしか夢へと変わり、少年はハサンのような暗殺者を志した。
ナイフ投擲、摺足の訓練、なんだってやった。
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ある朝。ハサンは何者かに殺害された。
脳味噌がぐちゃぐちゃに破壊された死体を村の門番が発見したのが最初のハサンの死の目撃者であったという。
村人は英雄の死を嘆き、悲しんだ。
無論タクルも例に漏れない。
タクルが英雄の死を実感したのは家に届けられた割れた骸の仮面の重みを自分の細い腕で感じとってからであった。
タクルは泣いた。
心から泣いた。
尊敬する恩師はこれからいない。
これから自分とは遊んではくれない。
武勇伝だって教えてくれない。
これからは自分が学んでいかなくちゃならない。
それらを仮面の重みと同時に感じ取った。
タクルは山に篭り修業を積むことにした。
亡き恩師に一歩でも近づくこと。
歴代ハサンの資格である極技「ザバーニーヤ」を取得すること。
これが目標だった。
必死に只管にただ修業を積んだ。
だが悲しいかな。才能とは時に残酷である。
タクルはハサンにはなれなかった。ならなかった。
「先生」には届かなかった。というわけではなく、
「ザバーニーヤ」を取得することができなかったのである。
歴代山の翁の極技「ザバーニーヤ」は個人の特徴を最大限に活かした秘伝の技、
タクルにはそれがなかった。
人智を超えた技は並の修行では取得不可能であった。
それを悟ったタクルは母親に修行は徒労に終わった。と伝えた。
怒鳴られるだろうか?泣かれるだろうか?そンなことを考えていたが
「おかえりなさいタクル。」
母の抱擁は何よりも暖かった。
決めた。これからの人生は家族のために尽くそう。
19になったタクルは農家として家族のために粉骨砕身尽くした。
ある日の夜。
「タクル。お父さんから話があるからー!」
21歳の誕生日。父から見合いの話があった。
同業者の娘を紹介してくれるらしい。
タクルは二つ返事で了承した。
子孫を残すことが家族の為になるという唯1つの意思が有ったからだ。
見合いに来た娘はそばかすが似合う童顔で赤い瞳の女性であった。
「アルルって言います。歳は...15...です...」
「タクルって言います。歳は21です...農家やってます。」
ぎこちない会話から始まった見合いは失敗に終わったと思われたがあるひと言で一転した。
「タクルさんの夢はなんですか?」
夢...オレの夢は...
「夢は...英雄です。英雄に、なること。」
笑われるかな?そう思った。だが、
「...英雄ですか?」
彼女は目を輝かせ、オレを見つめた。
まるで先生に話しを乞うあの少年のように。
オレは目を輝かせ、彼女に話した。
獅子心王と共に十字軍を倒した恩師の事。
恩師を目指して修行したけど徒労に終わった事。
たくさん。たくさん彼女に話した。
結果、見合いは成功した。
後にアルルはタクルの伴侶となり、夫の人生を支える妻となった。
子を産み、育て、幸せな家族の一員となった。
妻が子を産んで四年、娘はプレゼントを欲しがった。
私は木と花で拵えた髪飾りをプレゼントしてやった。
娘は気に入ったのかそれを片時も離す事はなかった。
父親としてこれほど幸せな事はなかった。
これからもこんな幸せが続く。
そんなことを勝手に感じていた。
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畑から帰ったある日、人の気配が消えていた。
いつも賑やかな村であるはすが、これはおかしい。
急いで自分の小屋に帰った。
アルルが血だらけで床に倒れている。
急いで抱き寄せ、栗色の髪を撫でた。
ーーーああ。
ない。
ない。
アルルの紅い瞳が、
ない。
子供達は!?ヤレンは?!サイは!?
陰惨な光景に思わず息を呑んだ。
ーーーテーブルの上に見慣れない影がある。
人の頭が2つ。
それも子供のだ。
何処かで願った。
このテーブルの上にある生首が
自分の子供達のものでないことを祈った。
母親に似た栗色の髪であっても、
オレが誕生日にプレゼントした髪飾りと同じデザインのものを着けていても、
この生首が自分の知らないものであることを祈った。
嗚呼。解る。
理解してしまう。
妻と同様、目が抉られていても、
ーーーこれは間違いなく自分の子供達だ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫ぶ。叫べば、この事実がなくなる。
ーーー或いは夢が覚める。
そんなことを盲信し、力の限り叫ぶ。
だが夢は覚めない。事実は消えない。
「ぐゥッ!!!ウウウルルルァァァ!!!!!!」
果物ナイフで自分の腕を刺す。
ーーー痛み。痛みなら忘れさせてくれる。そう、きっとそうだ。
或いは痛みなら夢はーーー。
翌朝。大量出血で倒れていた所を発見され、避難所と呼ばれる所に寝かされていた。
事情を聞くと、
暗殺教団の力が薄れた村にはモンゴルから来た村領主を名乗る征服者が現れた。
暗殺教団の残党がなんとか均衡を保っていたものの、腕の立つ殺し屋によりその均衡は崩れた。
殺し屋の下っ端である十字軍の残党が見せしめにここの村人を虐殺した。
或いは儀式との噂もある。
ということらしい。
ーーー何もする気が起きなかった。
先生の死はオレを奮起させるものではあったかもしれない。
だが家族は違う。
掛け替えのない。自分の中の一部。
それをあんな形で失う。
オレだけが取り残される。
置き去りにされた事実は俺の心を裂く。
「オイ」
ーーー不快。一瞬でそう感じさせる声がオレを呼んだ。
顔を上げると其処には異様な奴が立っていた。
黒い翼に異様に発達した脚、頭部には羊のツノ?なんだこいつ...
「契約したのアンタだろ、タクルって奴、ほら、契約書読め」
乱暴に渡された紙を気怠く読む。
バシン様との契約...?何のことだ?身に覚えがない。
「人間の魂120匹と、紅い瞳が20セット、オッサンの陰毛、支払いはキッチリ完了してるぜ。ホラ願いをそこに書きな。書けねえんだったら口で言え。俺様が書いてやる。」
「待て、何の話だ?身に覚えがない。」
「だろうな!酔っ払いには解るまい!だがキッチリ契約はしてある。俺様は商売はキッチリしたいもんでね。願いを早く言え。」
待て...タクル。こいつは悪魔だ。正真正銘の悪魔...
しかも俺との契約が済んでる悪魔。
「何でも願いを叶えてくれる」
なら願いは1つ。
「俺の家族を蘇らせろ。」
バシンは7:3にわけた髪を人差し指でなぞり、険しい表情でこちらを見る。
「お客様、確かにそれは可能ですが不可能です。」
「どういうことだ説明しろ!!!!!」
思わず怒鳴る。自分の心臓の音が激しく聞こえるくらいには動悸していた。
「確かに私はお客様の家族を複製した人間を作る事はできます。そう、記憶だって同じ、それは簡単です。」
「ですが、それは貴方の家族ですか?」
「決まってる!!オレの家族...だ...」
「自信なさげですねえ」
悪魔はニヤつきながら再び7:3に分けた前髪を人差し指でなぞり始めた。
「お客様にプランがございます。名付けて☆デビルパワー貸しちゃうぜ★プラン30%コースです。」
「貴方と幸せな時を過ごした家族は蘇りません。ならばどうです?力を得て家族の仇を撃ってみるのは?」
「何より」
「英雄に成れますよ」
家族の仇...英雄...どれも魅力的だが...
「断る。」
悪魔は驚いた顔をした。フンいい気味だ。
「オレは復讐なんてしない。アルルだって子供達だって、オレがそんな事をしたら悲しむはずだからな」
目の前に立つ悪魔にこう言ってみせた。
だが悪魔は笑いを堪え切れないという表情で
「ブッ、はははは!!!!!へへへへれ!!!!!!ほひひひひひ!!!!!!あーは、はぁはぁ...あーやべえこいつ面白え...あっ、お客様面白え...」
爆笑した、爆笑しやがった。
「いや失敬。メッフィーほどは不真面目ではないのですがね私は。」
「貴方はね絶対私の力を借りますよ。借りたくなる。何故なら貴方は」
「英雄になりたいから。」
「ブッフゥ!!!ははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
性悪で最悪な悪魔は姿を消した。霧みたいに。
とりあえず報告だ。
村長にこんな悪魔がいたからエクソシストを派遣してくださいって頼まないと。
そう思いながら廟へ向かった。
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何やら廟で村長が話している。
気配を消しそっと聞き耳を立てた。
「代官どうですかな?儀式は...」
村長のクリィーシャはイングランド王からの派遣のアルナイゼル代官にゴマをすっている。
「全くだな。悪魔バシンは姿を現わすことはない。」
「魔術師から教わった通りの供物はあの村には完備していたはずなのだが...」
供物...?儀式...?
つまり...
...こいつらの「マッチポンプ」ってことか?
ーーー震えた。
怒りで手が震えた。
そのせいかこちらの存在を気づかれた。
ーーーポケットに隠した果物ナイフ
これでアイツらを殺せば。
アイツらの目を抉り取ればオレは、
ーーーいや、アルル達は
そんなことを思案しながら昔訓練した摺足でオレは逃げ出した。
マヌケだ。
臆病者だ。
アルルは今のオレに対してなんて言うだろう?笑うかな?
笑うだろうな。きっと。
木陰で情けなく息を切らす。
同時に涙も出てきた。
なんて情けない奴なんだ。俺は。
「うぅ...ごめんアルル...」
「マヌケだなぁお前」
先ほどの悪魔がオレに話しかける。
「お前の契約者オレじゃなくてイングランドから来た代官らしいぜ」
悪魔は不敵に笑い、妖艶な仕草で7:3の髪を人差し指で撫でる
「その果物ナイフは元は私の妻のものでしてね。それを依代に私はここに代ばれました」
「お客様が契約者で間違いはありませんよ安心してください。」
嬉しいんだか、残念なんだかわからない複雑な気持ちだ。
「して、保留していたプランはお使いになられますか?」
「お前の力を借りるってヤツだろ?」
「おや要点はキッチリ抑えになられているようで。」
不快な笑みでこちらを悪魔が見つめる。
「改めて問いましょう。」
「英雄になりたいですか?」
期待に満ちた目で悪魔はオレを見つめる。
「断る。」
オレは死に切った目で悪魔を睨み付けた。
「オレを悪魔にしろ。バシン」
「契約は履行しました。」
ここに悪魔は生まれた。
オレの中で焦がれた英雄はーーー
きっと死んだ。
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悪魔の力は凄まじかった。
首を素手で引きちぎり、
脚はこの世の何よりも速く、
羽根は鷹のように空を飛ぶ。
この力でオレは覚えている限り殺した。
殺して殺して殺しまくった。
ーーーそして醜く生きた。
凡そ250年の時を自分のくだらない理想ーーー偽の正義の為に費やした。
鬼神の如く強かったハサンの様であるという事と、ハサン・サッバーハの代がすでに終わったいたはずなのに再び山の翁らしき人物が現れたために、オレが「最後のハサン」であるという誤解から
オレは「終焉のハサン」と呼ばれた。
皮肉だ。
オレが目指したハサンはこんなものじゃない。
アルルと語った夢の到達点は
こんなものじゃなかった。
政治的な理由でオレの力を恐れた村人はオレを消すことを選んだが、誰もオレを殺せるものはいなかった。
なぜならオレだって死ぬことは出来ない。
悪魔の30%の力はそれだけ強大だったから。
だがしかし、
256歳の時である。
オレの目の前に大剣を持った骸の仮面の男が現れた。
「ハサン・サッバーハでもない物が我々が忌み名を名乗るとはな。首を出せ贋作。いや贋作ですらない悪魔よ。」
オレは抵抗しなかった。この人なら、
ーーーオレを「殺せる」そう確信したから。
「ーーー晩鐘は汝の名を指し示した。」
ーーー先生。
ーーーオレはアンタにはなれなかったな。
享年256歳。
少年は英雄になれず死んだ。
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ーーーなんじゃこれは...アサシンの過去の記憶...か...
なんじゃここ...花園?
「よくきたわねネズミちゃん達」
セイバーによく似た女性がわしの前に立っている。
...というかこれセイバーじゃね?
〜fin〜