fate/sand rock   作:挨拶番長

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16話 抉りつくす悪意/14番目のサーヴァント

16話   抉り尽くす悪意

 

フードの少年の腕に力が籠る。

黒鍵を構え、ジリジリ、と蟲のコントロール下にある網目助手へと詰め寄っていく。

 

ーーー確信した。コイツに私の初めての助手は殺される。

 

「シムラ氏、ここで観念してください。」

 

  助手に絞められた首を抑え、この状況の打開策を足りない頭で必死に模索する。

 

どうすれば助手を救えるか、この一点のみに考えを振り絞った。

 

そうだ...起源弾...これをあのフードの男に命中さえさせれば...

 

いや、当たらなくとも良い。

 

妨害さえできれば...助手の肉体は救える、もしかしたら元に戻すことだって...!

 

ーーー殺意を悟られぬようそっと弾を込めた。

 

正直「銃を構えて、当てる」という事を実戦で成功させた事は、ない。

 

だが奴との距離は10mもない超至近距離である。

 

素人の私にだって当てられる距離の筈だ。

 

助手はここで終わらせない。素体の私たちがここで終わっていいはずがないんだ。

 

震える両の手を鎮め、引き金に指をかける。

 

 

 

【ダメだよ】

 

【それはダメ】

 

少女の声がした。

 

いや、声がするというよりは脳内に声が「ある」と言った方が正しいのだろうか。

 

…幻聴に決まっている。構ってる暇はない。

 

未だ脳内に谺し続ける声を歯牙にも掛けず、私は少年へと狙いを定める。

 

しかし、引き金はーーー

 

ーーー!動かない...!引き金が固まってる...?

 

いや、違う。「魔術回路ごと」身体が凍っている...!

 

何だこれは...?イヤだ...!今動かなきゃ...網目は...!

 

「I am the bone of my sword.」

 

まずい...!詠唱が始まった...!

 

【ダメだよ】【引き金を引いてはダメ】

 

脳みそに泥を塗り込まれたような不快感が私を襲う。この感触は初めてではない、日常的に普段感じる不快感だな。などという思いが脳裏を掠めたが、この時は何故かうまく形容できなかった。

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね死ね死ね死ね死ね死ね】

 

  気分を害す程の殺意。悪意。

 

 

それは私の肢体が隅々まで黒く塗られてしまう程の質量だった。

 

ーーーいや、比喩ではなく。

 

正しく私の体は黒く塗りつぶされていた。

 

【受けてみて。私が幾年浴び続けたほんの数滴、苦しいでしょう?痛いでしょう?】

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

砕けた、私のこころが。

踏まれた蟻のように、破れ、散った。

 

こころの中に内包していたはずの彼女の記憶が染み渡り、

 

「再生」される。

 

   いらない。いらない。いらない。

 

   こんなものいらない。

 

  ーーーーーーーーーーーー

 

2004年 11月 大神 棗の記憶。

 

秋が終わり、快かった風が冷たい冬の棘に変わり始めた頃。

私はコーヒーショップで一息、仕事の憂いを癒しに来ていた。

 

「時計塔の生物部門の魔術師がホムンクルスの研究に着手...。」

 

「何の面白味もないと思うんだけどなぁ...」

 

  魔術の規範が一般にも広まった現代。

人権問題やその他諸々が批判されているのも事実だがそれに留まっているだけで、魔術師がホムンクルスについて研究するなどという事例はもはや当然の事となっていた。

しかし編集長はそれに当たりをつけろと言う。

 

「やだなぁ仕事ってほんと...」

 

  小慣れた仕草で煙草に火を点ける。

 

  何処かの誰かさんが言うほどこの煙が出る白い棒は美味くはないが、まぁストレス発散にはなる。

そんな軽薄な考えで日々肺を汚染していく。

 

この灰色の煙が、私のつまらない毎日を塗り潰してはくれないだろうか。

 

そんな絵にもならないことを考えながら、副流煙が白いタイルに昇っていくのを死んだ目で見届けた。

 

 

「おっ、お前さんまたここに来てんな。」

 

 いつの間にそこに居たのか背後から赤い革ジャンの男に声をかけられる。

こいつは同僚の場新。ゆるめのパーマに不自然にそこだけ白く染まった右側の前髪、悪魔みたいに尖った耳が特徴的な如何にもな風貌の男だ。

 

「うるさいよっ人がどこで休もうと勝手でしょ!」

 

「ははは、まあそう言いなさんな。俺もちょいと休みたくてねえ」

 

彼はそう言いながら革ジャンを脱ぐと、隣の椅子に掛ける。

 

そして私より幾分か慣れた手つきで彼もまた煙草を取り出した。

 

「それとまあ...行き止まりに突き当たった後輩にちょいと手助けがてら情報提供も兼ねて、な。」

 

「ほうほう。内容によっては奢ってやらんでもないぞ。」

 

「調子の良い奴め…ほらよ、これだ。」

 

場新は1枚のプリントをテーブルに置いた。

 

白紙の1枚はポップな音楽と、洒落た雰囲気のこの店には不釣り合いで、空間から切り取られたような悪目立ちをしているような気がしてならない。

 

 

【生物部門死亡リスト】2002年 4月1日

 

ユウサク・フジキ 死因 自殺

 

グレート・D・ユー 死因 自殺

 

御茶ノ水・ハック・シー 死因 自殺

 

クシャトリス・アンクレイブ 死因 自殺

 

 

 

なんだこりゃ...2年前のエイプリルフールに4人同時に自殺...?何の冗談だ...?

 

 

「また後日にクサナギという研究員が海で溺死している。...な?余りにも不可解だろ?」

 

いつもおちゃらけている場新が冷や汗をかき、ごくり。と唾を飲むという事があまりにも珍しく、反応が少し遅れた。

 

「これ又...闇が深そうな一件だね...」

 

「アシハラ先輩がさ...2年前突然消えただろ...?」

 

朱色の宝石が入った彼のネックレスが振り子のように揺ら揺らと振れる。

 

 

私の心も同時に振れる。

 

 

_________まさか、嘘だ。

 

 

「このヤマにアシハラ先輩が関わってたんだよ...俺は消されたと見てる。何か圧力がかかってんだこの件には。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

場新から告げられた情報量の多さに私のチンケな脳みそは疲れてしまったのか、思考がしばらく停止していた。

 

同時に死亡した複数の研究員と口封じに殺害された先輩。

 

キナ臭い。何か裏がある。そんなことは頭でわかっているのだが、私の脚は一向にソファーから動こうとはしなかった。

 

 

アシハラ先輩とはそんなに仲が良い訳でもなかった。

 

だから、残念ながら先輩の復讐の為に動いてやろう。とかそんな気にもならなかった。

 

 

小刻みにソファーが揺れている。地震だろうか...?

 

 

違う。私が震えている。

 

あまりの動揺から貧乏揺すりをしている事に全く気が付かなかった...。

 

 

「ふふふ...」

 

 

余りの情けなさに自分で笑ってしまった。

 

__________ああ、やっぱり。

 

 

私、本当は行きたいんだ。

 

真実をこの目で見たい。でも死にたくない。

 

 

その二律背反でこの脚は止まっているんだ。

 

 

ふふ、「自己理解」とは何と気持ちの良いものだろうか。

 

なまくらだった私の両脚が嘘のように軽い。

 

私はテーブルの上に置いてあった携帯で、急いで場新にメールで連絡を入れる。

 

 

[昼の件、協力させてください]

 

 

返事はヤケ酒をした次の日の朝に届いた。

 

 

 

それが私の人生最後のメールだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「起きたかね?」

 

 

なんだここ...手術室...?というかなんで身体をベッドに縛りつけられてるんだろう...

 

 

いつのまに、

 

 

__________私の手脚は無くなったんだろう。

 

 

「先ずは挨拶だね。私はシムラ・バッカトーノ。人の王を目指す者だ。そして此方が...」

 

頭が見事にハゲ散らかっている爺さんが手招いている方向には、

 

 

もう1人、全く同じ姿のハゲが立っていた。

 

 

どういう事だ...?

 

 

「初めまして、兄弟。私はシムラ・バッカトーノだ。」

 

 

「オイオイまだ兄弟じゃないぜ。コイツは母胎だ。これから産むのさ。」

 

 

「クシャトリスだっけか?産みすぎて死んだ奴は?」

 

「モルモットの名前なんざなぁ、一々覚えてねーよ。殆ど産み過ぎて死ぬからな。」

 

 

「そうだっけかぁ...?」

 

 

「俺のオリジナル体の癖にテキトーな奴だなお前は。」

 

 

「ハハハ...肉人形の癖によく言うよ。」

 

 

「じゃあ、遺言とかある?ハハハ...恐怖で泣き喚いてらぁ...」

 

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで

 

 

イヤ、

 

 

いや。

 

 

 

 

 

「じゃあ、係員は麻酔と、原液を注入開始。素体の反応が出次第、ブランクホムンクルスの回収に当たってくれ。切開は基本無し。まあ、いつも通りだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

や。

 

 

 

_

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「財閥の敷地に攻めてきたレジスタンスは逃した上に、出所不明の黒い泥に職員とキメラが呑まれ、死体安置所行きと、」

 

 

財閥のマスターの実質的リーダーであるキッス・アンクレットは報告書を提出しにきたレオを執拗に責めた。

 

 

「巫山戯てるのかね?」

 

 

「いえ、巫山戯てません。シロウコトミネとキャスターも行方不明です。」

 

 

キッスはわかりやすい舌打ちをした。

 

 

「なんだそれは...裏切りだとしたら、我々財閥は5席か...」

 

 

「いいえ、6席です。」

 

 

「グレイ氏が14人目のマスターとして、ライダーを従えました。」

 

 

「当主自らがか...?しかし何のために...?」

 

 

「さあ...?気まぐれか...或いは財閥内のくだらない権力闘争を見越してのことかもしれませんよ。」

 

 

「口を慎めレオ。溝鼠の野心が丸聞こえになってしまうからな。」

 

レオは静かにキッスを睨み付けた。

 

 

__________この男は必ず殺す。レオはそう誓った。

 

 

コンコンと二回ノックが入った。

 

 

 

「誰だ?入れ」

 

 

「僭越ながら名を名乗らせていただきます。財閥8人目のマスターシンジ・マキリと申します。」

 

 

キッスはそれを聞いてニタリと笑った。

 

 

「フン。なんだちゃんと7席いるじゃないか。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「当主、ここが安置所です。呉々もアレに飲まれないように。」

 

 

「了解だ。君は下がりたまえ。」

 

 

「は!」

 

 

部下を下げさせ、グレイは黒いアレに呑まれて尚生存した素体(ブランク)を垣間見た。

 

 

コ◯ンの犯人かってレベルに黒いな。それがグレイが最初に感じた感想であった。

 

 

単純な興味からその肉体に人差し指で触れてみる。

 

 

「イだッ!」

 

黒い何かに指が食い破られてしまった。

 

「相当汚染されてるねぇ...しかし、それ故に君は英霊になりうる資格があるのだ。」

 

 

「ヤ...め...え...」

 

 

「ん?なんだね」

 

 

「コ...れイジョウ...フコ...ウニシ...デ...」

 

 

「ンフフーン〜断・固・拒・否」

 

 

「そもそも君は大神でもないだろう?君は大神と同じ記憶を持っていて、同じ身体を持っている、別人じゃないか。」

 

 

そう無慈悲に告げると腑に、手を突っ込んだ。

 

 

「あァァァァァ!!イダイ!!!イダイィッ!」

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。

  降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

  

 「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

               セット

 「―――――Anfang」

 

 「――――――告げる」

 

 「――――告げる。」

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

 誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

 

  されど汝は我が曇りある真実に侵され、嘘の権化とならん。

 

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。」

 

 

「宝具展開。真実を喰らえ、我が八百万の虚構よ(アンサイクロペディア)

 

黒い何かの腑から放たれる光の銀河が安置室を包む。

 

自分の宝具のノイズの黒煙が混ざって無駄に綺麗だ。

 

グレイはシムラからブランクは子宮部分に召喚陣が編んであることを事前に聞いていたので腹を食い破って英霊が出てくるだろうな。という先入観があった。

 

だが予想外なことに、大神は

 

 

「英霊を纏ってしまった。」のだ。

 

 

黒煙から先ほどのまっくろくろすけとは大違いの黒騎士が顕れた。

 

 

「サーヴァントライダー。真名はシグムンド。召喚に応じ参上した。」

 

__________いいねえ。

 

 

「これは利用し甲斐がある...愉しくなってきたヨォ...」

 

 

 

「もっと世界を嘘に染めるために、もっともっともっともっともっと世界を面白くするためにッッッ!!!!」

 

 

「『英雄』になるのだよ...私は」

 

 

 

END

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