17話 君だけの正義の味方/atraxia
「I am the bone of my sword.」
フードの少年がジリジリと迫る。
「此れは全ての疵、全ての怨恨を癒やす我等が故郷。」
此処に有る、円卓の盾
「この盾には浄化の力があります。取り敢えず此れでシムラの蟲は体内から消滅したでしょう。」
「立てるかい?お嬢さん」
コトミネが手を伸ばそうとした途端、横槍が入った。
言葉のあやではなく、物理的な槍である。
「その子から離れろ神父。それともう1人いたオオカミの子は何処だ!」
そこには幻術に嵌めたはずの変な髪色の男、ユウサクと圧倒的ブスのひよこ頭が立っていた。
「キャスターの幻術から抜けてきたか。どんな手を使った?」
「このひよこの縫いぐるみの裏地には仕込みがしてあってな。そこには隠しナイフや仮死薬、軽いクスリも入ってる。」
「俺のインストールでひよこ頭の脳内に侵入してクスリを噛ませたってワケさ」
「抵抗はしないで頂戴、コトミネシロウ、既に貴方は包囲されているわ」
木陰に潜んでいたのか遠坂凛も現れた。
「抵抗はしないさ。すればお前たちは死ぬからな。」
コトミネシロウはこの場にいる全員を舐め回すように一瞥し、無抵抗の姿勢を取る。
「舐めてんのかテメェ...」
「オレを捕まえて情報を吐かせるつもりだろう?レジスタンスのマスター達よ。生憎だがオレは一から十まで喋るよ。」
「「「!?」」」
一同全員驚愕している。当然だ。目の前の敵がすんなりと要望を飲むどころかそれ以上のことをしている。
「何か裏があるんだろ?」
「あるとも。だが今は協力してほしい。だから私も協力してあげましょう。」
「取り敢えずは何か落ち着ける場所に移動しませんか。いつ財閥の使い魔が殺しにくるか分かりませんよ。」
「なら私の宝具が最適でしょう。」
霊体化していたのか、はたまた幻術なのか分からないが、財閥のキャスターがふらっと現れた。
「キャスター、お願いですから喰べないでくださいね?この人たちは」
「ふふふ、どうかしら私の幻術に抵抗したそこの2人とか喰べ甲斐があって良さそうなのだけれどね、まあマスターの命令なら勘弁してあげないこともないかしら?」
コトミネシロウが令呪の使用も考慮したのか右手の甲をチラッと確認したのを垣間見て、ユウサクは察した。
あのキャスターはマジで殺る気だったんだと。
「一応注意しておきましたが、本当に気をつけてください。キャスターの攻撃は対魔力すらブチ抜きますから。」
キャスターは両手を広げ、詠唱の態勢に入った。
「逆光する星の光、堕ちた精霊、虚の楽園は此処に有り、咎人のみが、此処に辿り着く。第1宝具展開。」
黒い閃光が森を包む。瞬きを二つ程すれば、そこは暗くて陰気な森などではなく、青い花弁が舞う花園が広がっていた。
「なんだここ...?」
「おー!皆も来ておったか!」
布都が此方に向かって手を振っている。
「布都ちゃん...無事だったか...」
「我は無事だったが、アサシンは...」
なんでもアサシンは敵に霊核を撃ち抜かれてから死んでるみたいに目を覚まさないのだという。
「取り敢えず人数確認だが...俺と凛と桜、ひよこブスと布都ちゃん...5人か...レジスタンスは」
「おやおや私を数え忘れてますよ」
胡散臭い笑顔でコトミネシロウが茶々を入れる。
「悪いがお前みたいなエセ神父は信用に値しないんでな、冗談でも信頼はないと思え。」
「また随分と嫌われましたね私は。まあいいでしょうそんな事はどうでも。君たちの疑問を一つずつ、かいつまんで話して行きましょう。」
「まずオオカミ、もといホムンクルス・ブランクは何処に行ったか?ですが、知りません。いつのまにか消えてました。回収できたのはキリンのホムンクルス・ブランクのみです。」
「次に、シンジ・トオサカおよびシンジ・マキリをなぜ回収しなかったか?これは彼が裏切り者だからです。レジスタンスに対してのね。」
「アイツが裏切り者って何の根拠があって...」
「壁にちょくちょく視察に行っていたのをご存知でしょう?彼は連絡係だったんです。」
「...ッ」
ユウサクは煮え切らないという感じで歯軋りをした。シンジが裏切り者。と言う事実を受け止めるにはまだ心の準備が済んでいなかったのもあるかもしれない。
「私からも質問いいかしら?」
「構いませんよ。」
「衛宮士郎、言峰綺礼この2人の人物に心当たりはあるかしら?」
「いえ、私は全く初めて聞く名前です。」
「...ならいいわよ。」
「煮え切らないと言う感じですね。まあいいでしょう。」
「あっボクからもしつもーん!」
珍しくアストルフォが名乗り出た。大丈夫だろうか。変な質問はしないだろうか。年収はどのくらいですか?とかアホな質問はしないだろうか。
「キミの目的を教えてよ!」
「目的...?ふむ。目的か。まあ話しておく必要はあるか。」
「最終的な目的は火星にある大聖杯の解体、目先の目標はシムラを殺害する事です。」
「大聖杯の解体...そんなことできるんですか?」
桜が怪訝そうに聞いたのを不機嫌そうにシロウは返した。
「通常の聖杯戦争の既存のルールでは不可能でした。なぜならば大聖杯はある程度英霊の魂を器に捧げなければそもそも顕現しないからです。しかし、火星の大聖杯はもう既に顕現しています。」
「そう。銀髪の少女を依り代にしてね。」
「銀ちゃんさんが...聖杯の器...」
「一つ疑問なんだが、手順が逆じゃないか?大聖杯を解体してから、シムラを倒す方が良いんじゃないか?」
「さすが名探偵ホームズですね。鋭い。だがダメなんです。シムラが先です。」
ホームズがパイプを口にしたまま目を丸くする。
「今の大聖杯はモノじゃない。最初に解体しようとすると、返り討ちにあうか、シムラが邪魔してきます。安定を取る意味でもシムラが先です。」
「しつもーん!シムラの目的は?」
「彼の目的か...それは私も知り得ませんでした。が、奴は聖杯の万能の願望器としての力を欲しています。これは確実です。繰り返す生物実験とホムンクルス・ブランクの増刷も意味がないわけじゃないはず。」
「目的は分かった。で、次俺たちは何すれば良い?」
「そうですね。先ずは静観が賢いと思われます。」
「「「は?」」」
「ははは...怒んないでください...真剣に言ってるんですよ?これでも」
「財閥内の派閥戦争が始まるから、かい?」
「おお、流石ですねミスターホームズ。」
「ま、しばらくは我々も力を貯めましょう。キャスターは恐ろしいほど強いとは言え、財閥が集めた選りすぐりの英霊複数相手では些か不利ですから。」
「ところで、B_RAVEとやらに私は乗せてもらえるのでしょうか?」
「ロープで羽に縛り付けるくらいなら出来るわよ」
「手厳しい」
凛からの厳しい対応におどけてみせる。
「じゃあ暫くは各自、体を休ませて頂戴。私と桜はアサシンの治療よ。」
「...はい。」
「おーい!アサシーン!仮面剥がすぞー!起きろー!」
桜は兄の裏切りを知り、どんな気持ちなのか、
底知れない絶望、失望、そういうものだろうか。いや詮索するべきじゃないか。
にしてもムカつくぜ。あのエセ神父...
あの全てを見下したような目が気に入らねえ...
なんだこの台詞...オレはすぐやられるヤンキーかっつーの...
「で、さっきから私にガンを飛ばしてる変な髪色のお前、ちょっとこっちに来い。」
あ、バレてたか
シロウはユウサクの顔に近づき、こう囁いた。
「どっちが上か分からせてやるよ。」
「上等。テメーみたいなお高く止まったクソッタレにはお仕置きが必要みたいだからな。」
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「さて、ここなら女性陣にも見えないし、ある程度は2人きりかな?まあキャスターには見えてるだろうけど。」
「丁度いい、遠慮なくぶっ飛ばせるな。」
その台詞を聞いて、シロウは腕を後ろに組み直し、不敵に笑った。
「やってみなさいよ。ほら早く。」
猪突猛進、その言葉を思わせるほどにユウサクは真っ直ぐにシロウに向かって走った。
「
ユウサクは影読で鉄パイプを読み込み、構成した。
「オラッッッッ!!!」
鬱憤全てを鉄パイプに込め、シロウに向けて乱雑に振り回す。
しかしシロウはこれをいとも簡単に避けた。
「なるほど、さっきの槍もこれで作ったか。構成スピード、硬さ、共にまだまだ。だが、投影の才能はあるな。 」
「偉そうにペラペラ喋ってんじゃねえッッ!!!!」
「だが、弱い。」
シロウは鉄パイプを左手で引き寄せ、手の空いている右手の裏拳でユウサクの顔面を叩いた。
「あッ...イっでぇ...」
「なぜオレがお前を呼びつけたか分かるか?お前がレジスタンスでは1番弱いからだ。」
「ンダとぉ...」
これで鼻血を抑えろと言わんばかりにハンカチを乱暴に投げ、シロウは話を続けた。
「だが、お前は強くなれる。オレがお前の師匠になってやるよ。」
「断る。」
「やめておいた方がいいと思いますよ。負けた悔しさで断るのは。それに、」
「
「あるけど、お前に教えられるのは嫌だ。」
「強情ですねえ。私以外に教えられる人はいませんよ。」
「うるせえほっとけ」
ユウサクは鼻血を乱暴に拭き取ると、フラフラと何処かに歩いて行った。
「やっぱり面白いなぁ...彼は...」
「男の子のプライドはね、崇高で脆いの。あんま刺激しちゃダメよ。シロちゃん」
「やっぱり霊体化してたのかい?キャスター」
「盛りの若い男の子の喧嘩なんてなかなか見れるものじゃないもの。見ときたいじゃない。それに、」
「それに?」
「あの子は強くなるわ。もしかしたらシロちゃんよりも。だから見張っておかなきゃ。彼は」
幼いし少女の見た目には似つかわしくないほどの圧倒的な殺意。
やはり彼女も戦乙女なのかもな。そんなことを思った。
「さて...君はどう思う?衛宮士郎?銀色の乙女はこれからどう動くと思う?」
当然応えるべくもなく唯、葵い花が風に揺られるだけであった。
「そうか...やはり時間はそう残されてないのか...」
「シロウ...やはり貴方は...」
モルガンは怒っているのか、心配してるのか分からないほどの涙目で此方を見つめる。
きっと、どっちでもないんだろうけど。
「大丈夫、君は聖杯の力を使って願いを叶える。オレは世界を救う。それでいい。それが辿るべき結末さ。」
似つかわしくないほどの晴れやかな笑顔はモルガンの気分を一艘、不安にさせた。
「そのオレってのはどっちなのよ。」
「はは、どっちだろうな。」
私に向けてるこの晴れやかな笑顔が、アイツにも、日々注がれていた。そう思うだけでモルガンは虫酸が走るのだった。
嫉妬、憎悪、そういう感情がこの霊基に馴染んでしまう。その事すらモルガンには憎たらしかった。
「どうかしましたか?」
「気分が悪いだけよ。」
そう言うと、霊体化して消えてしまった。
誰もいない花園にコトミネシロウはそっと話しかけた。
「衛宮士郎。後少しだけ待ってくれないか。この篝火の命でもオレはやらなきゃいけないことがある。救わなきゃいけないものがある。だからもう少しだけ力を借りるぞ。」
拳をぐっと握りしめ、明後日の方向へと歩く。
__________空の大地、砕けた歯車。
瞼を閉じ、見えたのはそういうモノであった。
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「頼む...殺さないでくれェ...!」
__________殺した。
「ヒィ...嫌だ...来るなぁ!こっちに来るな化け物ォ!」
_________殺した。
「ウぅ...!イダイ...!ウデが!ウデがァ...!」
__________殺した。
「頼む。取引だ。聖杯の摘出はしないし、もう身体に手を加えたりなんてしないだから俺だけこ」
__________殺した。
全ての悪たるこの私の善の証明の為に人は私の悪逆によって鏖殺されなければならない。
__________何より。どうせ元の位置に返ってしまうのだ。幾ら殺しても変わりはしない。
私の危機に駆け付けた騎士は此方を静かに見つめている。
怯えるでもなく。卑下するでもない。私の純粋な観察とも取れてしまうくらいにはその瞳孔に揺ぎは見られない。
__________するり。と視点が変わった。
いや違うな。痛みなど感じぬこの身では全く気がつかなかったが、瞬きの間に首を落とされたらしい。
「暫く表に出るな。お前の出番はまだ早いだろうイリヤスフィール。」
大人しく言う事を聞いてやる事にする。
瞼を閉じ、深層意識の更に奥深い、「虚数の海」に潜り込む。
なんてことはない。何れは会えるのだから。
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斬り落とした首を拾い上げ、接合しながら膝枕で幼いマスターを寝かせた。
綺麗な銀髪に、美しい線を描く輪郭、彼がこの娘を愛した理由も分かる。
反転したこの身でも憶えている。
灼けた街の中に立つ大きな背中。
二本の剣。
死に際の彼の言葉。
魂に刻まれた記憶を大事にしまっておくなんて私らしくもない。
「セイバー...オレの最後の家族を...守って欲しい。」
シロウ...貴方は今何処に...
行方も分からぬ彼に想いを馳せるなんて、まるで私は少女みたいだな。
自分で思って、自分で恥ずかしくなってしまった。
「Arther...arrrr...Britai...kin...」
__________北東6000m先から敵の気配。
マスターの過剰な魔力供給により、セイバーの直感はより洗練されている。
気配遮断を持つアサシンを除けば、未来視レベルの直感を持つセイバーに近付く敵は先手を取る事は不可能である。
__________そう。例外を除けば。
(速い...かなり巨大な魔力が物凄いスピードで此方に向かってくる。何だこれは...?サーヴァントの反応に近いが...?)
セイバーはエクスカリバーを構え、迎え撃つ姿勢を整える。
(マスターが動けない以上は全力で守る事に徹するべきだが...守るのは得意ではない。だが、先に叩き潰せば話しは別か。)
上空に魔力源の正体である紅星が煌めいた。 流星は確実に此方を向いている。
(ならば、魔力源が地上に降下する前に撃ち墜とす。)
「卑王鉄鎚。__________極光は反転する。」
銀髪の少女から供給された至高の魔力はセイバーの魔力ソースとして存分に力を発揮し、星に鍛えられた最強の剣[約束された勝利の剣]に更に磨きをかける。
[オルタ]であるが故に得ることが出来た最高ランクの魔力放出は、地面を抉り、砂塵の大竜巻を起こす。
「__________光を飲め。潰えよ。」
人間大砲。その言葉を思わせる程に、極太の光の直線がアーチを描く。
俄然、光の先にいた紅星にそれは直撃した。
「Arrrrrrrrrrr!!!!!」
何もかもを焼き切るほどの熱量。直撃さえすれば神さえ殺す。それほどの自信があったのだが、
紅い鎧の騎士はそれをものともしなかったかの様に、此方へ淡々と向かって来る。
「成る程な。」
セイバーは紅い鎧の右下腹部から右脚にかけてのの焦げ跡を見逃さなかった。
紅の騎士は約束された勝利の剣の着弾直前に身体を捻ることで、被弾を回避、そのコンマ数秒後に、自らの魔力放出のジェット噴射で後退し、完全に回避したというわけだ。
「貴様。何の用だ。我が星の閃光を見切るほどの達人であるにも関わらず、全く殺気を感じぬぞ。まさか口説きに来たというわけでもあるまいな?」
「Arther...Arther...」
「狂化で口も利けないか。面倒だな。」
__________このまま叩き潰すか。そう考え、剣を構えた直後に直感スキルがまた発動した。
(この紅い鎧の騎士より強い魔力...!何だこれは...!狼に乗った騎士か...!?)
闇夜を狼と共に駆ける黒い騎士が此方一直線に向かって来た。
「マスター。例のセイバーと、シムラのとこのバーサーカーを確認いたしました。これより戦闘に入ります。」
(2対1か...マスターを守りながらでは些か不利か...!)
そう思った途端、紅い鎧の騎士が黒騎士に向かって駆け出した。
「裏切りか...構わない。2人とも此処で私が排除し、聖杯は回収する。」
「Urrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!ワガオウヲ...マモル...!コノシュヤリハ...!」
紅い兜が剥がれ、狂戦士の失われた理性が徐々に戻っていくのをセイバーは感じた。
__________もうこの男は既に狂戦士などではなく。
「我が王が為の栄光を取り戻せ!我が朱槍よォォォ!!!!!!」
「円卓の騎士...パーシヴァルか...!」
fin.