18話 裏切りのJack・カード
裏への転送プラント地下4階にて、フェルグス・マック・ロイは息絶えようとしていた。
「フーッ!フーッ!フーッ!」
アルスターの戦士特有の鍛えられた精神、
それのみで現界していた。
「頼むから誰か来い...!本当に誰でもいい...!」
コツコツ、と階段をブーツが駆ける音がする。
「きたきたきた!」
「オォォォォォォォイ!!!!!!!俺はここだァァァァァ!!!」
ゆったりとした足取りでコツコツとブーツでリズムを奏でる。
「そんなにデカイ声で叫ばずともわかる。裏の敗者だな?」
赤いマントに黒いコートという出で立ちの男が静かに立つ。
「なんだ、知ってるのか。なら話は早い。裏の聖杯戦争のことをここの奴らに伝えてくれないか?」
「それは聞けない願いだな。」
男は雑に伸びた前髪をゆっくりとした仕草でかき上げながら答えた。
「なんだと...!?」
「そもそも私は別に君を助けるわけに来たわけじゃあない。」
「知っているか?正義の味方はな、正義である必要はないんだ。」
「...!何をゴチャゴチャと抜かしてやがる...」
「__________投影開始。」
干将・莫耶、彼が最も愛用している夫婦剣を投影する。
「悪いがルチフェロなりしサタン様の命令でな。裏の生き残りであり、最後の痕跡である君を消してこいとのことだ。」
「貴様...人王の手下か...!」
「じゃあな。」
音も置き去りにするほどの一閃がフェルグスを貫く。
「カハッ...人王...奴だけは止めねばならぬ...」
漢は事切れる寸前にそう言い残して、漢は無念を負い、消えた。
「私の頼まれた仕事はあと2つか。」
「やれやれ、人間の王様も人使いが荒いものだな。」
無銘の男は夜へ飛び込んだ。
__________誰でもない自分を殺しに。
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「まずは祝杯だよ。マキリくん。」
レオは財閥本部から遠く離れた別荘にて、新たな仲間を迎え入れていた。
「君こそ、というより君はよくやったよ。レオ」
「ははは、ありがとう。でもこれからは戦争になる。気を引き締めて行こう。」
「シムラと当主vs俺たちかな?構図としては」
「纏めるとこうだ。」
シムラ達が持ってる戦力
・バーサーカー
・ライダー
・アサシン
・キメラ・ホムンクルス兵
レオ達の持ってる戦力
・セイバー
・アーチャー
・バーサーカー
・クランカラティン(レオの先鋭執事達)
「サーヴァントの数ではこちらが勝ってるし、分はこちらにある。」
総力戦において、サーヴァントは超常兵器のような活躍を発揮する。
数での分は勝利に直結しやすいのである。
「しかし...裏切っておいてこんなこと言うのもなんだが...これレジスタンス相手はどうするんだ?殺しあった後に相手するわけだろ?」
「そこは心配すんな。坊主。俺1人でレジスタンスは皆殺しにできるぜ。サーヴァント含めてな。」
財閥のセイバー...今回の聖杯戦争において最強と言われたサーヴァント...流石の頼もしさである。
大口を叩いて、実行出来るのがこの男であろう。
「セイバー、慢心はいけません。不滅の聖剣とて、弱点は有ります。」
セイバーはマスターであるレオの忠告を鼻で笑い、いなす。
「フン。弱点はねえよ。強いて言えば弱点がねえのが弱点だ。」
「分かっているならいい。だが本当に気をつけろセイバー。お前は不滅の聖剣に2度も裏切られる事になるぞ。」
「__________。2度目はねえ。」
そう言うとセイバーは霊体化して消えた。
「怖いねえ...そう思わねえか...?シンジ...」
黒い球体が言葉をしゃべった。
無論。これはバーサーカーの真の姿でもある。
「バーサーカー...その姿で喋るのはその...気持ち悪いからやめてくれないか?もっとさ...美少女の姿とかあるだろ...?」
「しょうがないなぁ...ホラ...なってげたよ兄さん...?」
黒い球体は要望通り美少女へと変化した。
流れる様に黒い髪。特徴的なピンクのリボン。正しくそれはシンジの妹である桜そのものであった。
バーサーカーに悪意があったのかは知る由もないが、とにかくシンジは妹の姿を模したソレが気に食わないらしく眼を血走らせて、ブチ切れた。
「おい。バーサーカー...令呪は残り二画ある...十分にお前を自害させることの出来る画数だ。分かるな?」
「分かりませんよ兄さん...それに兄さんは私に自害なんて命令はできないでしょう?」
「それとも私無しでその文字通り腐った魔術回路で勝つのかな?」
生前の桜が決して自分の前では出すことのなかった猫撫で声で、桜の姿をした何かはそう問いかけた。
「令呪の命令は何も自害だけじゃない。強制することなんて幾らでもあるさ」
「__________令呪を持って、バーサーカーに命ずる。僕の妹に変身するのを禁ずる。」
スルスルと紐が解けるように桜の皮が取れていく。
「さて、これで残り1画、後がないよシンジくん。」
黒い球体の姿に戻ったバーサーカーは挑発をやめない。
「勿体無いな。シンジ、少々令呪の使い方が粗いんじゃないか?」
「なに、後々の計画では1画あれば充分だろう?」
レオは切り揃えた金髪の髪を手で弄りながら、チェスの駒を回した。
「それもそうですが。」
「詰めは甘くない方がいいと思います。」
そう言い残すとレオはキングの駒を持ったまま部屋から出て行って行ってしまった。
「ふぅ...」
一人になった解放感からなのか思わずシンジはこう呟いた。
「待っててくれ...凛、桜...2人ともボクが必ず蘇らせてみせる...」
__________孤独な少年の決意は固い。
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「全く酷い状況だ。財閥のマスターは二派に分裂するし、自分のサーヴァントは何処かに走って行っちゃうし...」
シムラはグレイ当主と謎の黒い物質に汚染された財閥敷地を視察にしに来ていた。
「しかし、何故このタイミングで今財閥のマスター達は分裂を...?」
「さぁな...おじさんにゃ若者の心は分からんね。」
シムラは汚染された職員の抉り出された臓物を人差し指でグリグリと押しながら何かを思案した。
「いや、ちょっとわかってきた。」
「どっちなんですかシムラさん。」
「最終目的がわかりやすいのはレオ、キッス、殆ど分からないのが神父だな」
「キッスは火星の裏へ行く為の席取りが目的だろう、対してレオは火星の王になることだ。彼の見え透いた野心から読み取れる。」
「分からないのは神父なんだよねぇ」
医療用ホッチキスで切断された死体の下腹部を繋ぎとめながらシムラは考察をしている。
「奴の行動には一貫性がないしなぁ...うーん...そもそもアイツが何者なのかすらわからん...」
「私にはわかりますぞ。ただのゾンビです。」
「ゾンビ?哲学的ゾンビとかそんな回りくどい話は俺の両耳は受け付けんぞ。」
シムラは修理した死体に魔術コーティングを施し、術式を埋め込んだ。
「よし、これで13匹だな。後17匹だ。」
「死体に術式を埋め込んで、雑兵を作るかァ...」
「何か文句でもあんのか?」
シムラは歯茎から上が吹っ飛んだ死体を一瞥し、こりゃダメだなと言った表情で死体から回れ右をした。
「死体とはその人其の物なんでしょうか?それとも、ただのタンパク質の塊?」
シムラは上半身と下半身が分かたれた女性の死体に歩いていく。
「死んだ時点でもうそりゃ別人だろうな。別人というよりはもうその人本人じゃあない。」
「コトミネシロウは誰なのか改めて突き止める必要がありそうだな。」
「ンフフその必要は有りませんよ。」
「何故だ?」
16人目の死体を仕上げ、
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「これがB_RAVEかぁ...なかなか広いですね。」
レジスタンスの魔術結晶でもある飛行艇に一味は全員帰還して来た。
「...シンジの部屋が空いてるわ。そこを使って頂戴。」
今はいないシンジの部屋の鍵を凛は手渡した。
「ありがとうございます。」
「それにしても素晴らしい。この船自体が宝石魔術の極致とも言えますね。」
「燃費と経費が最悪だけどね。正真正銘全財産ブチまけたわ。」
シロウはシンジの部屋の棚の下に落ちている写真を拾い上げた。
それは顔が黒く塗りつぶされているものの赤髪であることだけがわかる青年、銀髪で赤い眼をした幼い少女、癖っ毛の少年、凛、桜、紫髪をした長身の女性の集合写真だった。
__________オレはこいつらを知っている。
いや。オレというよりはオレの肉体がが、この集合写真に激しく共鳴している。
この共鳴は喜びや、哀しみといったその類の感情ではなく、激しい「困惑」を示している。
衛宮士郎よ。何を困惑しているのだ...?
「はい。御終い。」
キャスターに写真を強引に取り上げられてしまった。
「返してください。キャスター」
「いやよ。」
即答である。
「どうしてですか。」
「貴方の死に近づくからよ」
「...ッ...!いやしかし...!」
「自分が何者か知りたい気持ちもわかるわ。でも忘れないで頂戴。」
「貴方は私のマスターである以前に私の息子なのよ...?もっと自分を大事にして頂戴な。」
「オレの命なんて、もってあと数週間だろ。だったらオレが好きに使おうと勝手だろう。」
「______ッ!」
バチンと右頬に平手が飛んだ。痛い。これが痛みか。心の痛覚という新鮮さは、オレが生きているという実感を与えてくれる。
「冗談でも、そういう事は言っちゃダメ。」
「だって貴方がいなくなったら私はとても哀しいもの。」
濡れたブルーの瞳はしっかりと少年の姿を映す。
彼女の細い肩をそっと抱き寄せ、両腕の中に折れそうなほどに儚い彼女を収めた。
「シロウ...なんで貴方も泣いてるの...?」
掠れた声でそう聞いた彼女の質問には答えないまま、彼はそのまま彼女を押し倒した。
「__________そう。辛いのね。」
彼の白く染まった髪を彼女はそっと指で梳いた後、背中に手を回し、赤児を宥めるようにして背中を撫でた。
夜が更け、彼は彼女をひたすらに貪った。
情欲をただぶつけるという訳ではなく、また子を作るという事でもない。
神様のように曖昧で、彼が持っていて、彼が持っていないものをお互いの凹凸を埋め合わせる事によって、2人が持っていない「愛」を確かめ合った。
無論、そこに「愛」などありはしないと知っていながら、
泣きながら、彼はただ、ただ女を抱き、
また彼女も泣きながら、男を受け容れるのである。
両者はすれ違い、合わさる。その事がとても哀しいことに気付きはしない。
行為を得て、 2人も又、何がが欠落した「ケダモノ」で在ることを虚しさを伴い知るのであった。
fin.