fate/sand rock   作:挨拶番長

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5話 二律背反による存在証明

5話 二律背反による存在成立

 

???節 「泡沫」

 

ある信者が言った。

 

お前は裏切り者。世界一の裏切り者だ、と。

 

ある売春婦が言った。

 

たった銀貨30枚で主を売った大罪人だ、と。

 

ある処刑人は言った。

 

この槍は主を刺すものではなく、裏切り者を刺すべきであった、と。

 

イスカリオテのユダは言った。

 

復讐しろ、と。

 

イスカリオテのユダは告げた。

 

復讐しろ、と。

 

可哀想なユダは誓った。

 

復讐しろ、と。

 

復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、

 

ずっとずっと「私」じゃない私はこう囁いて来るのだ。

 

復讐しろ、と。

 

「私」はこう答える。

 

誰に?誰に私は復讐するの?

 

裏切り者の「私」に

 

復讐する矛先なんてないでしょう。と、

 

私は言った。

 

主を捨てた人間を殺せ。

 

皆殺しだ。

 

だから、

アポカリプトの夕陽をもう一度。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

俺が今見ているのはアヴェンジャー...いやユダの心の中だ。

 

いや...正確には見ている、と言うよりは呑み込まれた。という方が正しい。

 

事実、気を抜けば自我を失ってしまいそうなほどの悪意が俺の身に押し寄せている。

 

こんなものをずっとこの娘は背負い続けていたって言うのか...!

 

泥のような悪意、いや事実泥か。これを掻き分けていけばあの娘に手が届くんだろうか。

 

掻き分けることは愚か、溺れないことに必死な自分な貧弱さを呪いながら何とか彼女の元へ辿り付こうと、必死に足掻いた。

 

______届く。あと一歩で、

 

_______彼女に触れられる。

 

切り揃えた赤い髪に届こうかと言う瞬間。

 

ユダは槍に刺されて融けてしまった。

 

「ユダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「お目覚めですか。主。」

 

「ハァッ...!はぁはぁ...!」

 

なんだここ...?和室?って、俺の家か...。

 

「ハハっ...なんだ夢だったのか。」

 

「残念ながら夢ではありませんよ。主は私の悪意に喰われかけたのは事実です。」

 

濡れたタオルを絞りながらユダは語った。

 

「私には無辜の咎人という精神汚染スキルの上位スキルがあります。さっきの出来事は主の保持魔力が低いのと、私の暴走が重なり合って起きた現象です。」

 

額に冷たい布を静かに当てられ、幾分か冷静な思考が出来るようになった気がする。

 

「この機会ですしお話しますね。私のお話。」

 

「私、イスカリオテのユダという英霊は二つの側面を同時に持ち合わせています。一つは世界最大の裏切り者の私、もう一つは復讐者としての私です。この二つの側面は矛盾しています。矛盾していることによって、私という英霊は成り立つことが出来ています。ですが、何らかの条件で先程のように均衡が少しでもズレるとああいうことになります。」

 

浜辺で見たユダの獣の姿...アレが...

 

「この均衡のズレは滅多に起こるものではないです。起こるとすれば私に関する関係者、もしくは物品が近くにあるという予兆です。私の見立てではこの聖杯戦争の参加者に...私の咎を知りうるサーヴァントがいます。」

 

ユダの関係者...そうともなればアレか?

 

「イエ...」

 

それを言い切ろうとした途端、俺はアヴェンジャーに口を抑えられた。

 

「あの方の名前を呼んではいけません。それを呼べば私はいよいよ自らでは霊基を制御できない死徒とも獣とも言えない何かに成り果てます。」

 

ユダはアレだ...意外と爆弾だ。まさに爆弾娘、ハハハそんな冗談考えてる場合じゃない。

 

「何にしてもその関係者のサーヴァントは避けるべきだな。ユダの弱点を知っているかもしれない。何か情報が分かればいいんだが...俺の使い魔ではそれらしき奴は見当たらなかった。」

 

「主の使い魔では誰を確認出来ましたか?」

 

「2日前、体育館で戦闘を行ったアーチャーとセイバー。その1日後に事実確認に来たアサシンとライダー。呑気に飯を食ってたキャスター。これだけだ。となると、見当たらないのはバーサーカーとランサーだけだ。このどちらかにユダの関係者がいると見ていいだろう。まあ...参加者は7人だから正確にはランサーか、バーサーカーだが。」

 

「...主よ。お願いがあるのです。」

 

ユダがお願いとは珍しい。

 

「残り1人の参加者...つまり私よ関係者であるサーヴァントとそのマスターを探して欲しい。」

 

聖杯戦争においてむざむざサーヴァントの前に姿をあらわす。本気で聖杯を狙うものならそれは正気とは言えないだろう。

 

だが、

 

俺たちはどうせ死んでしまうらしい。

 

だったら。

 

「ああ。協力しよう。」

 

死ぬ気でユダの願いを叶えてやるまでだ。

 

そう、死ぬ気で俺のサーヴァントの為に尽力すべきなんだろう。

 

「主よ、ありがとうございます...!」

 

この娘が普段見せないくしゃっとした笑顔。

 

前払いの報酬には充分すぎた。

 

「ふふっ...。」

 

「主よ、どうしましたか?」

 

思わず笑みが溢れた。

 

理由は、具体的にはわからないが。

 

俺はこの娘といると何故か、そう。

 

無性に、楽しい。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 「散り桜」

 

「北東方向に制圧射撃!抜刀隊は裏から回って斬り込めェ!」

 

蝦夷国に侵入した政府軍の討伐任務に男は向かっていた。

 

背中を預けたかつての仲間達は、冷たい地面の下で報われぬまま。

 

報われぬままなのだ。

 

「オラァァァァァ!!!!!」

 

斬っても、撃っても、蝦夷の勝ち筋は見えない。

 

男の瞳に写るのは。

 

「ウゥ...!死ね...死ねエエエエエ!!」

 

血だ。

 

これは誰の血だ。

 

仲間か、敵か、あるいは自分か、

 

解らない。

 

それ程に自分はもう血を浴びすぎた。

 

_______ある日、銃弾が俺の歩みを止めた。

 

歩みを止め、地に伏したことで気づいた。

 

ああ、土の味は不味いなと。

 

案外歩みを止めるということも悪くないかもしれないと。

 

______だが、

 

「近藤...さん...。」

 

俺の誠は止まることを知らなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「マスター、貴方の聖杯への託す願いを教えてもらえないでしょうか。」

 

「突然だな。」

 

今朝私が見た夢...これは確実にあの人の夢だ。

 

私のマスターはあの人に関連する人間なのではないか...?そう勘繰っているのだ。

 

「願い、か。そうだな。在り来たりな願いに過ぎんよ。私の願いは寿命を延ばすことだ。」

 

「寿命...ですか。」

 

本当にノーマルな答え返ってきちゃったよ。

 

「アサシンの願いは何だ?」

 

私の願い...それはたった一つだ。

 

それは土方歳三と最後まで戦い続けること。

 

私の剣をあの人の隣で振るい続ける事だ。

 

「かつての仲間と剣を共にする事です。」

 

「かつての仲間...新撰組か。アサシンよ。お前はかつての仲間と剣を共に出来たとして何処を目指すのだ。まさか歴史をなぞるように散るとでも言うまいな。」

 

「新撰組を愚弄しますか...。例え自分のマスターでも其れは考えものですよ。」

 

「お前は自分の美徳、もっと言えば自分の自己満足のためだけに聖杯からかつての仲間を聖杯で叩き起こし、むざむざ死にに行かせるのか?」

 

口より先に、刀が出ていた。

 

マスターは其れを難なく鞘で受け止めた。

 

「私の最終目標を今ここで君に伝えておこう。私は日本を根本から変える為に戦う。その為にはあまりにも私の時間は足りない。故に私は更なる寿命が必要だ。私は目的のためには手段を選ばない何もかもを捨て去る覚悟を決めて今ここにいる。だが貴様はどうだ斎藤一。お前はただ自分の甘ったれた美徳の為に剣を振るう腰抜けだ。だからライダーを仕留め損ねた。違うか?」

剣を静かに納刀した。

「私は、新撰組の為なら泥を被る覚悟を持って闘ってきた。実際に私は新撰組の為なら、あの人の為ならかつての仲間さえ手に掛けた。だが、最期の最期で私はあの人とは戦えなかった。ただ堕落する人生だった。私は、もう一度あの人と戦えるならば、未練の為ならば、生前と同じ覚悟を持って剣を振るえる。私を腑抜けと思うなよ。」

 

マスターは静かに笑った。

 

「...その顔だ。斎藤、その気迫こそがお前の最大の武器なのだ。」

 

マスターは黒服の部下を呼びつけ、大きな箱を部屋に運ばせた。

 

「斎藤、お前に渡したいモノがある。中島よ、丁重に開封しろ。」

 

「はっ。」

 

黒服の中島が大きな箱から取り出したのは一振りの刀であった。

 

「アサシン様、此方がボスからの贈り物に御座います。」

 

「これは...!」

 

「...和泉守兼定。土方歳三史料館からコネを得て極秘に持ち出された本物の遺物だ。」

 

土方さんの愛用の剣...まさかここで出会えるとは。

 

「斎藤...今のお前ならばライダーなど敵では無いだろう。その気迫は全盛期のお前と遜色はない。いやそれ以上だ。」

 

「...斎藤一。これより我が剣は貴方と供に。」

 

「...支度が出来れば直ぐにでも出発だ。六王の魔術工房を突き止めた。そこを破壊しに行くぞ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3節 「悪食」

 

「キャスター。アーチャーが喰らった人間リストの報告を頼むわ。」

 

「はい。予定通りとは全く行かず、想定されていた3日で20人を大幅に超え現在48人の魂を喰らいました。このペースだと100人は軽々と超えます。」

 

シムラはその報告に唖然としたのか。口を開けたままドン引きしていた。

 

「自分のサーヴァントでしょ。何引いてるんですか。」

 

「この被害数だとそろそろ予定通り監督役が動き始める。アーチャーの討伐命令を出し、全員が彼女を狙うだろう。」

 

「そこで我々の勝利が決定するというわけだ。」

 

「完璧な作戦ですねー」

 

キャスターは今回の現界で 回収した骨のコレクションを再整頓しながらテキトーに聞き流していた。

 

「まさかお前、アーチャーが負けるとでも思っちゃってるわけ?」

 

 

「いいえ、勝つでしょう。アーチャーは勝ってしまうからこそ負けるんです。」

 

「何言ってんだ...お前?」

 

「俺もわかんねーですわ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えー、埃くせー教会に集まってくれた使い魔の皆さんこんちゃーす。コトミネルソウだ。今回は御察しの通り暴れ過ぎたアーチャーの討伐命令を下しまーす。全マスターは強制的に休戦し協力してアーチャーを倒してくださいって...使い魔3匹しか来てないんだけど、やる気なさすぎだろ。」

 

蝙蝠、鳩、猫の使い魔が椅子にちょこんを腰掛けているのは何か可愛げのある光景だがこれは聖杯戦争である。

 

「えーと、あ、そうそう討伐できた陣営には追加の令呪をあげちゃいまーす。そんじゃあ、後頼んだわ。」

 

やる気ない討伐命令の宣言はこれにて終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「アーチャーの討伐か...セイバー行く?」

 

燈達はホテルの一室を借り、魔術工房を構えて穴熊に徹していた。

 

「無論だ。無辜の民への甚大なる被害。誉れ高き騎士として見逃すわけには行かないだろう。行くぞマスター」

 

うわぁ...この光の王子様って感じ私にはツライなぁ...

 

元々家系が黒魔術方面に寄ってるともあるからかこの如何にも正義の味方って感じの騎士王様とは居づらい。

 

というか気まずい。そのせいかセイバーの聖杯にかける願いとか全く聞いてない。

 

「アーチャーは新宿に潜伏してるらしい。急ごう。令呪は何としても独占しなきゃ。」

 

このウィザードマインド何とかならないものだろうか。

 

我ながら嫌悪感がヤバイ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

六王家秘密の地下室にて、

 

「アーチャーの討伐命令だそうだぞマスター。行くか?」

 

水晶でまじまじと様子を見て居たライダーとは対象的に、六王はひたすら呪術を練っていた。

 

「なあ...シカトか?」

 

六王はライダーが殺気を放ってようやく気づいた。

 

「ああ、すまんすまん集中してて、さ。もちろん行くさ。漁夫の利を取りにね。」

 

「流石よ...私のマスターはそうでなくては...潜伏のための算段はあるのか?他の参加者とて襲撃は警戒するだろう。」

 

「これだ。」

 

六王はひよこの意匠が凝らされたカッパを2着取り出した。

 

「...何だこれは。」

 

「六王紫苑特注のひよこカッパだ。」

 

「打ち首にしていいか?」

 

「まあまあそう慌てなさんな。このひよこカッパを着てくちばしの部分を押すと...」

 

珍妙なカッパを着ていた馬鹿男は気配すら感じられぬほどに消えた。

 

どこだ...?もしや...!

 

こいつ...!

 

私の股の間の下で透明化することでこの馬鹿男は私の下着を覗き見していたのだ。

 

「馬鹿か?お前本当に馬鹿か?」

 

「ごめんごめん殴らないで!ともかくこれで潜伏の面は完璧だ。後はアーチャーの場所だが...恐らく新宿だ。使い魔の偵察が間違っていなければね。結構可愛い下着してるよねライダー」

 

「最後の一言さえなければお前の首は繋がってたのに...残念だ。」

 

「ごめんごめんごめんごめん!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「使い魔の報告では...アーチャーの魂喰らいが教会の目にとまり、討伐命令が出たそうだ。何とタイミングの悪い...」

 

夏は冬というTシャツを着たアヴェンジャーはかき氷精製機で氷を砕いていた。

 

「無辜の民が無残に死に果てている現状を放っておくわけには行きません。行きましょう主よ。後シロップ取ってください。」

 

かき氷を作らせてみたらこんなにも嬉々とするとは...驚きだ。

 

「俺はハワイアンブルーで頼むよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜新宿にて〜

 

「魔弾は残り7発...うふふ...未だフル装填だ...♪」

 

高層ビルの屋上でアーチャーは敵の待ち構えていた。

 

新宿中に散逸しているキャスターのコレクションが張った結界により、サーヴァントや魔術師が一歩でも近づけばアーチャーが即刻に察知し、万全の状態で飛びかかる。

 

「まだかな〜♪まだかな〜♪」

 

指をピストルの形にしてアーチャーは狙いを定めた。

 

_______微かだが、魔術反応...♪

 

「セイバーみっけ♪」

 

新宿のビルから悪魔は飛び去った。

 

END





次話で構想分の書溜めが終了します。

6話投稿時点で何も思いつかなかったら一旦休載かもです。
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