10話 倚天
1節 暗殺者と騎兵
私のマスターは色々な偽名を持っているのだが、真の名前を知り得ることはなかった。
最側近の中島ですら本名は知ることはないという。
私の現存していたダンダラを使い、召喚したくらいなのだから新撰組にゆかりある人物であることは薄々わかるのだが、いまいち正体がつかめない。
だが不思議と不気味といった感想はなかった。
寧ろこの人といると、不思議な安堵がある。
安心してこの剣を振るえる。
安定した魔力を溜め込んだ今の私ならば一振りで2回、いや3回はあの騎兵を殺し切るだろう。
皇帝特権だかなんだか知らないが2度目はない。
間合いを読む暇もなく叩き斬ってやる。
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酒をチビチビと舐めながら夜の三日月
を肴にライダーは決戦前夜の盃を味わった。
あの体育館で殺しあったアサシン、実は私とは相性が悪い。
暗殺者が持ち得る気配遮断でギリギリまで自分の間合いの射程まで走り込み、間合いを自由に詰めれるようになれば後はアサシンのペースに持ち込まれてしまう。
間合いから逃げようとすれば背後から猛スピードで斬り込まれ、
受けようとすれば、倚天剣のつばごと私を叩き斬るだろう。
_______だが、弱点は確かにある。
それは奴はただの人殺しという事実だ。
奴が剣豪たり得ない理由、セイバーでない理由、
それは奴という英霊の性質に答えが隠されている。
そこを突けばこの曹操に取って造作も無い相手となるだろう。
______ただ問題があるとすれば
2節 策士と呪術師
「ボス、ライダーとそのマスターの位置が確認できました。資料をそちらに転送します。」
仲田コーポレーションビル12階から策士はスナイパーライフルで索敵を行なった。
中国魔術教会当局の情報によれば、六王紫苑という魔術師はパペッターと呼ばれる人形使いである。
あの男は人形を木偶にし、居場所を偽装すると踏んだが今回はそうではないらしい。
窓を閉め切ってこちらの狙撃を警戒したまま一向に動こうとしない。
籠城か...中々に困ったものだ。
アサシンは近距離戦に長けた英霊ではあるがこうも離れて籠られてしまうと我々狙撃班がこうやって呪いの対象にならないよう場所を変えながら狙撃をするしかないのだ。
だがこうやって手をこまねいている間にアサシンを突入させる準備はできている。
この牽制はお互いにとって時間稼ぎ...
本命はお互いのサーヴァントにかかっていると言っても過言ではなかろう。
「ボス、準備が出来ました。アサシンさんもこちらに。」
中島が用意した自家用ヘリが到着した。
パラシュートを付け、突入の準備に入る。
まずは1陣営、我々が落としてみせる。
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東京中に凡ゆる魔術工房を貼り付けた中でもここのビルは1番手を施した最高級の魔術工房だ。
ビルの入り口全域を異界化させ、安易な侵入を防ぎ
屋上には地雷を設置。
ビル全体に魔術コーティングを施し、ロケットランチャーなどの爆弾での破壊対策も完璧...
アサシンのマスターが魔術師でないことは事前情報で確認済みだ...だからおそらく上空から強硬突破で侵入してくるはず。
その間の時間稼ぎでどれだけライダーの魔力を貯めれるか...
ライダーの不利相手であるアサシンさえ倒して仕舞えば後はライダーは無双できる...
ここで倒せば...俺たちの勝ちは大きく近づくんだ...!
頼むぞライダー...
俺に勝利を...!
3節 サムライと魔王
「ボス、屋上にはクレイモアが確認できます。どうしますか?」
「7階の窓に先にアサシンを侵入させる。私は様子を見て後から入ろう。ではアサシン。」
マスターの命を受け、真っ先にヘリから飛び出した。
空を斬るかのように真っ先に、夜へと飛び込む。
7階へ今にも手が届きそうというときに、
アサシンは黒い影を見た。
空中を駆ける馬...それに乗るのは...
「ライダー...!」
物理法則などまるで知らぬという風に、絶影とライダーは真っ先にアサシンへ突進を試みる。
アサシンはすぐさま隣のビルへ移るが、翻した隙を突かれ、絶影の突進でビルへと押し込まれる形となった。
堪らず、逃げようとするが馬から素早く降りたライダーに首を掴まれ、そのまま倚天剣を振り下ろされた。
アサシンはこれを蹴りをライダーの脇腹に叩き込むことで回避し、突入の際に落とした剣を転がりながら回収し空かさず、抜刀の体勢に入った。
ライダーはそれを見ると、距離を取り倚天剣を上方向に掲げるようにして構えた。
「何のつもりだ貴様...私を舐め腐っているのではあるまいな?それとも私の剣を目の前にして諦めたか?」
ライダーはニタリと笑い答えた。
「ククク、アサシンよ、これは賛辞だ。一流の戦士として貴様を直々にこの曹操孟徳が認めたのだ。光栄に思え。そして、」
空へ掲げた倚天剣は瞬く間に光を帯び始めた。
「天を裂く我が斬撃の前にひれ伏すがいい!迸れ!倚天剣!」
ライダーが持つ倚天剣は対軍宝具である。
曹操孟徳が持つ剣の真名を解放することにより、文字通り剣は天を裂く。
裂かれた天は擬似的なワームホールとなり、ワームホールからは光の線となった斬撃が放たれる。
これが倚天剣の正体である。
ビル内にいたことにより宝具が発動したかどうか、宝具がどこからくるのかを知り得ないアサシンは猪突猛進の勢いで斬りかかった。
しゃがみ、踏み込み、斬る。
いつもならば大抵此れで忽ち目の前の人間は血飛沫を上げ死んだ。
だがライダー相手では上手くいくことは当然なかった。
宙の倚天剣から放たれる斬撃はアサシンの右腕を貫き、抜刀の構えの態勢をいとも簡単に崩した。
態勢が崩れたところに素早くライダーは斬りかかるも、アサシンがギリギリのところで躱してしまった。
アサシンは察した。斬りかかる瞬間に見えた光の線。これが自分の抜刀を邪魔しているのだと。
そして間違いなくライダーは手加減をしている。
私と戯れてマスターである六王の時間稼ぎに興じている。
アサシンは腰にさした鞘を捨て、髪留めを外した。
斎藤一の本気、意地。それらを発揮する時は彼女は必ず髪留めを外すのだ。
生前の斎藤一は度重なる粛清である境地に達していた。
其れは剣豪が辿り着く武の極致、一刀の極致などではない。
例えるならば「零」である。
斎藤一という人間は剣を振るう内に一端の人ではなく、ただ人を効率的に殺すための機械として近付きつつあった。
其れは次第に彼女という人間を「剣」という「形」から逸脱。いや廻達と言うべきだろう。
暗殺という道を持って彼女の剣は無念無想の境地にごく近い場所に辿り着いた。
その名も「無形暗殺剣」、彼女が英霊に昇華した後宝具にまでなった彼女の形其の物である。
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ライダーはアサシンの様子が変わったことに一目で察した。
彼女の瞳が濁りはじめたのを見て第一に思い浮かべたのが劉備であった。
この女は極々劉備に似ている。そう思わせる殺気、迫力を放っていた。
______嗚呼、滾る。
戦場での殺し合い、これこそが曹操孟徳という英霊を滾らせる。
機械のように人体の弱点部分を素早く斬り込むアサシンをいなしながら、ライダーは笑った。
嗚呼。愉しい。愉しすぎる。
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ライダーが笑い、口を開いたところさえアサシンは見逃すことはなく、ライダーの顔に向け突きを行った。
肉を刺す独特の感覚。これを刃先で感じることができた為、思わず手応えアリと感じてしまった。
しかし、ライダーは刀を歯で噛むことで白刃取りに成功していたのだ。
刀はライダーの顔を確かに貫通していたものの、歯で刀を抑えられては身動きが取れない。
その隙を突かれアサシンは倚天剣をモロに腹に刺された。
アサシンは堪らず刀を離し後ろに下がってしまった。
ライダーは徐に、顔に刺さったアサシンの刀を抜きゆらりと構えた。
「刀を失って仕舞えばお前はただの猿にすぎんな?アサシンよ。」
アサシンの髪を掴み上げ、ライダーは倚天剣を向けた。
「言い残すことはあるか。サムライ。」
アサシンは髪を引っ張られるまま力無く声を上げた。
「完敗だ...お前は強い...強過ぎた。」
「そうであろう。」
「______だからこそ。」
アサシンが意味深なセリフを言いかけた途端に察したのか、アサシンを放し、振り向き構えた。
______だが、もう既に遅く。
「斬り捨て御免...。」
アサシンのマスターが既にライダーを斬り伏せた後だった。
ライダーはニ、三散歩フラフラと歩いた後、斬られた後を抑え倒れた。
「すみません。マスター...」
「気にすることはない。我々は契約関係にある。それに...」
老人は晴れやかな顔でアサシンの方を向いた。
アサシンは確かに今目視した。
あの日ダンダラを羽織り、戦った隊士たち。
近藤さんの無邪気な顔、
アホの新八。
すきあらば血を吐いてくる馬鹿沖田。
______そして
ずっと私に大きな背中を見せて、ずっと私を信頼してくれた土方さん。
見える。たしかに感じる。なのに。
______肝心の私は、
あの日共に剣を取ることを諦めたんだ。
忘れもしない。私は、私は会津であの日、
剣を置いてしまったんだ。
「アサシンよ。よく聞いておけ。一度しか言わん。ここが貴様の新撰組だ。」
ここが...私の...
違う...私の新撰組は...帰る場所は...もう過ぎ去りし過去となった。
「ごめんなさいマスター...ずっとウソをついてました。私、土方歳三と、新撰組と戦いたいという願いはウソなんです。私の本当の願いは...戦地で粛清され、哀れに死ぬことです。」
裏切り者の私は...自分がやってきたように哀れに粛清されるのが望ましいとずっと感じていた。
ずっと、ずっと、ずっと。
そう、私は戦いに集う英霊でありながら死にたがりの雑魚である。士道不覚悟も良いところだ。
私のマスターは静かに剣を納刀し、此方の話を黙って聞いていた。
腑抜けと怒られるだろうか。
「いいや。それこそウソだろう。何故ならば。」
「お前は私の台詞で少し嬉しそうな顔をしたからだ。」
「えッ!?ええっ!?」
いつのまにかニヤけていたんだろうか。この腑抜け顔は。頬を一生懸命抑え悟られないように抑えるが、それはかえって逆効果だったらしい。、
「帰るぞ。斎藤。」
「ひゃっ、はいっ!」
4節 不穏
「ライダーを令呪で戻してビルごと爆破...手筈通りにやるしかないな...」
六王が時間稼ぎの間に人形に仕掛けた「爆弾」は今にもアサシン達を吹き飛ばそうとしていた。
「悪ィな。天国で大河ドラマはやってくれや。」
カチリ、と嫌な音が背後に刺さる。
ああこの音は聞き慣れた。
拳銃のリロード音だ。
「全く気づかなかったが...誰だ?」
男は答えず、契約書を乱暴に投げた。
契約内容は聖杯戦争の棄権の代わりに妹の解呪を履行する。とのことだった。
身体に合わない魔術刻印のせいで六王はもう歩くことすらままならない状況であった。
誰かに聖杯戦争を代行してもらう。
これは確かに利点があるかのように思えた。
_____だが、
「断る。妹は俺の手で救う。そもそもどこぞの知らない誰かには任せられな_____。」
自分の胸から三つの鉄の牙が生えている。
なんだったか、そうコレは代行者専用礼装黒鍵である。
まさかコイツ...!?言峰神父か!?
黒鍵を引き抜かれ、腹に1発重い拳をもらった途端に意識はもう途絶えていた。
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聖杯戦争に参加してから...途端に体調が悪い。
特にアーチャーが脱落してからは身体の感覚が失われつつあるのを感じていた。
触覚、感覚はまだ生きてはいたが嗅覚、味覚が既に死にかけていた。
食べ物が皆等しく味の無いガムのような感じ。コレがとても応える。もう食事が億劫になり掛けていたが、ユダへの供給をする為には食事を欠かすわけには行かなかった。
そして夢を見るのだ。
その夢は俺が水色の四角い箱のような物になる夢。
夢を見ている時の感覚が現実みを帯びているせいか、一抹の恐怖があった。
馬鹿馬鹿しい、とは一概に一蹴出来ないほどにはもう精神的には追い詰められている。
ユダがこうやって聖母のように身体をピッタリとくっつけ、看取ってくれる事だけが救いであった。
魔力供給の効率的側面でこうしてるのであり決してやましい気持ちはない。
いや本当に。