Fate/lewd dream [Midsummer night] 作:秋乃落葉
邪剣『夜』を構えた田所は、女との間合いを図るべくジリジリと距離を調整していく。女は依然として気にする素振りを見せず、元より細めがちな目を一層細めて気味の悪い笑みを張り付かせている。
「くそ・・・ッ!舐めてんじゃねえぞ・・・!」
意を決して剣を振りかぶり、斬りかかる。これを最低限の動きのみで交わした女は、懐から何かを取り出すような素振りを見せた。剣撃を避けられた田所は返す刀で横薙ぎに切りつけにかかるが、これを強い力で弾かれ、逆に体勢を崩しかけてしまう。
剣を弾いたのは女の持つ包丁だった。何の変哲も無い、ただの包丁である。
「ふーん、そんなもんか。がっかりだよ」
女はよろめいた田所にミドルキックを叩き込んだ。とっさに防御の姿勢を取ったがほとんど意味をなさず、そのまま横に吹き飛ばされる。
「ンアッー!」
こいつ、本当に人間か・・・!?そう思わざるをえないほどに、驚異的な力だった。弁解するわけではないが、田所とて弱いわけではない。迫真空手は極めて実戦的な武術である。他の格闘技を体得する者に対しても遅れをとるつもりはないが、そんな腕前云々の話ですらない、もっと圧倒的な力の差を感じていた。
地面を転がり、うつ伏せに倒れた田所はすぐに起き上がろうとしたが、女に背中を踏み込まれ、身動きが取れない。
「せめて死ぬ前に楽しませてくれるよな?ふふっ、どう甚振られたい?体の端から細切れにするか、生きたまま捌いてみるか・・・ん?」
女がしばし無言になり、周囲を見渡す。そしてくくっ、と短く笑い声を上げた後、
「悪いな。遊んでいられなくなったみたいだ」
と言い放ち、直後に背中から腹部にかけて包丁を突き立てた。鋭い痛みが体を駆け抜け、口に血の味が滲んでくる。
「じゃあお兄さん、生きてたらまた遊ぼうぜ。今はあっちと遊んだほうが、ずっと楽しそうだ。・・・アッハハ!待ってくれ―!アリスゥー!」
女が狂気的な笑いを上げながら、どこかへと去っていくようだ。追いかけてやりたいが、最早体に力が入らない。意識もだんだんと薄れていく。三浦と木村は無事逃げ切れただろうか、願わくば、助けを呼んでくれていれば、そんなことを思いながら。
「畜生・・・死にたくねえ・・・。生きてえな・・・」
一度暗闇に飲まれた意識が、再び現世へと引き戻されつつある。感覚が徐々に戻り、背中に多少の痛み。どこか知らない場所のベットに寝かされているようだ。
「クォクォア・・・?」
「お、目ぇ覚ましたみたいだね」
田所の声に反応して、隣の部屋から男が入ってきた。茶髪でロン毛、見るからに遊んでそうな男だ。
「えーと、貴方が俺を助けてくれたんですかね・・・?」
「まあね。ここに担ぎ込まれたから治療したってだけだから俺に感謝しなくてもいいよ」
確かに見る限り傷は綺麗に処置されている。その言葉はおそらく本当だろう。
「俺は豪ってんだ。ここの教会の神父やってんだよね」
「神父っすか・・・?」
「そうそう、よく聖職者には見えないって言われるけどね」
豪と名乗る男は、田所を興味深そうにまじまじとみている。
「ふーん・・・いい体してんねえ!兄ちゃん、魔術師だろ?」
「!?なぜそれを・・・」
「まあまあ、そう焦んないで!俺もさ、一緒なんだよね」
どうやら豪も魔術師のようで、事の経緯を説明してくれた。とある人物によってここに運び込まれた田所を、魔術によって治療してくれたらしい。この教会は魔術師に対しての支援等を行っているようで、田所の体力を見越して早めに回復できるよう手をつくしてくれたようだ。
「そうだったんすね・・・。豪さん、ありがとうございました。でも、一体誰が俺を?そもそもあの通り魔の女は・・・」
「うーん、それなんだけどさ、今の田所くんに教えることは出来ないんだよね」
「え、な、なんでっすか!?」
「それも教えられない」
豪はもったいぶるかのように口を噤み、詳細について教えてくれない。しかしその表情は重いわけではなく、どことなく不敵な笑みを湛えているようで、その真意が読み取れない。そのまま少しの間お互いに向き合い、無言が続く。その沈黙に耐えかねて、田所が口を開いた。
「・・・豪さん、俺じゃ力不足なこともわかってます。でもあんな危険なやつが下北で暴れてると思うと、もう一度身内が襲われたらと思うとじっとはしていられないんです!お願いします、あの女のことを教えてください!」
頭を下げる田所を見て、豪は逆に満足げな面持ちで頷いた。
「じゃあさ、田所くんにあの女を倒す力を与えられる儀式があんだけど、やってみる?」
思わぬ提案だった。この豪という神父が何者かだとか、そもそも信用できる人物なのかとか、確認すべき点はたくさんあったのだが、このときは、本当にそんなことができるのかということが一番重要だと思ってしまった。
「そ、そんなことができるんすか!?」
「すげーよ、簡単だから!パパパッとやって、終わり!あ、だけどさあ・・・」
じらすように言葉をためる豪に、思わず生唾を飲んで続きを待った。
「この戦いを、途中で投げ出すってことは、絶対やめてほしいんだよね。田所くんが勝つのであれ、負けるのであれ、最後まで戦ってほしいんだけど。それでもいいかな?」
「もちろんですよ、俺はこれ以上被害を増やさないためにもあの女を倒すって決めたんです。だから、俺にその力をください・・・!」
田所の言葉に豪は深く頷き、手を一度パンッと打ち鳴らして、彼が入ってきた扉を開いた。
「よしじゃあ決まり!早速はじめようか、もう立てるかな?」
「はい!お願いします!」
ベッドから起き上がり、立ち上がった。軽く痛みはあるものの、行動するのに支障はなさそうだ。豪に感謝し、示された扉を抜けて大きな部屋へ出た。
扉の向こうは、聖堂のようだった。教会らしく、十字架やら宗教画やらが飾られているが、あいにく宗教に詳しくないので宗派はわからない。その聖堂の十字架の前に、魔法陣が描かれているのがわかった。
「さあ、この魔法陣手をかざしてみてよ」
豪に言われるがまま、魔法陣に手をのばす。何が起こるんだ、と思うやいなや魔法陣が光りだし、聖堂内を照らす。眩しさに思わず目を瞑り、まぶた越しにそれが収まるのを待った。やがて収まっていくのがわかると、ゆっくりと目を開いた。すると、そこには人影が。
「・・・あー、えーと、あんたが私のマスターか?」
これは、どういうことなのだ。突如魔法陣から女が現れ、よくわからぬことを言っている。
「マスター?豪さん、これは一体どういう・・・!?」
田所が視線を向けた時には、もう豪はどこにもいなかった。そこには、田所と、彼をマスターと呼ぶ謎の女の二人のみが残されたのであった。
「・・・あ、れうさんっすか?こんちゃーす。実はいいの若い魔術師見つけちゃったんすよ。・・・そうそう、後は任せっからさ、うん、はい、じゃあヨロシクゥ!」
携帯電話の通話を切り、ふと後ろを振り返った。そこには彼の教会が静かに横たわっている。その長髪を夜風になびかせ、もう一度不敵な笑みを浮かべてから、教会を背に、立ち去っていった。
実質今回までがプロローグです。
次回からはもっと話を展開させるようにするので目を通してくれたホモの兄ちゃんは是非次回も見てくれよな~、頼むよ~!